ネット上でも少し話題になっている、

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 10月号 [雑誌]
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2011年 10月号 [雑誌]
クチコミを見る

を先日購入し、
第1特集「リーガルコスト管理の現状報告」(以下「本記事」)
を早速読んでみました。この経済状況の中、リーガルコストは多くの法務関係者の大きな関心ごとですから、旬な企画と言えますが、本記事については依頼者サイドのコスト管理についても弁護士サイドの請求方法についても様々な工夫が見られ、また、ホンネで書いてある印象で、大変興味深い内容でした。やはり、依頼者のこういった請求に関するシビアな話を聞くと、とても刺激になりますね。そこで今回のエントリでは、弁護士報酬、とりわけ本特集でも比較的焦点が当たっていたタイムチャージについて思うところをまとめたいと思います。
1.なぜタイムチャージなのか?

タイムチャージは企業法務における中心的な請求方法であり、2.で後述のようにいくつかの問題点を抱えていますが、それでもなおタイムチャージが採用され続けているのは以下の理由が考えられます。
① 成功報酬制度等の経済的価値に応じた請求方法も考えられるが、企業法務では当該案件ないし当該受任作業の経済的価値の算定が困難又は不可能な場合が少なくない(例えばある行為の適法性に関する法律意見など)。
② 上記のように経済的価値という物差しがない中では、弁護士が作業した分しか請求されない(たいした貢献もせずに取引等が成立したことをもって多額の報酬を請求がされることは無い)という意味では客観的な基準と言える。
③ 取引ものにおいては着金・成功報酬による請求も考えられるが、訴訟と異なり、取引ものにおける弁護士の仕事はある取引の成否に着目して成功報酬を取るような性質のものでは必ずしも無い。すなわち、ときには当該取引を成立させることが依頼者の不利益となることもあり得るわけでその場合には当該取引を止めさせる必要があるため、成功報酬により取引成立へのインセンティブを弁護士に与えることが適切でない場合もあり得る。(※ただし、これは一つの考え方にすぎず、この問題があるからと言ってただちに取引案件における成功報酬を否定するものではありません。2.で後述のタイムチャージの問題点から成功報酬も最近着目されてきているという話も聞いています。)

2.タイムチャージの問題点

(1) 依頼者から見た問題点

本記事でも所々で現れているように、クライアントの立場からタイムチャージに対する批判が少なくないところですが、その原因は以下のようなものがあげられるのではないかと思います(なお、作業内容の摘要(description)をきちんと書いていない、過剰請求である、高い、といった個々の弁護士、法律事務所の運用面の問題は除きます)。

① 稼働時間と弁護士による作業のクオリティとは必ずしも結びついていない
特に依頼事項について専門性の高い弁護士が対応すればすぐに対応でき請求時間がほとんどかからないものも、そうでない弁護士が対応すると時間がかかるうえ、専門性の高い弁護士と比較するとクオリティも下がる可能性があります。この問題に対する対策としては依頼者サイドとしても専門性の高い優秀な弁護士を探して選ぶように努め、弁護士としても自らのレピュテーション上、専門性の欠如等から関与すべきでない案件では他の弁護士を紹介するよう努めるしかないです。もっとも、他方で弁護士もビジネスなわけですからその案件をとりたい、又はその分野を新たに開拓したいと考えれば、リスクを取って手を上げざるを得ない場合もあり(しかもその弁護士の受任後の努力次第でそれが意外にうまくいくことも十分あり得ます)、難しいところです。ちなみに作業のクオリティの優劣とはまた別の問題として、タイムチャージだと弁護士の個人的な仕事の進め方でも違いが出てきます。例えば、簡潔にまとめてあまり時間をかけずに仕事をするタイプの弁護士と、関連する論点を十分詰め切らないと仕事したことにはならないと考えるタイプの弁護士とでは当然後者の方が稼働時間がかかることになります。

② どれだけの稼働時間分の請求がなされるのか予見できない(予見可能性がない)
よくある請求書を見てびっくり、という話ですがこの問題に対する対策としては、事前に見積もりを取って見積もりが超えそうなときは連絡する、キャップを設けるなどが考えられます。なお、同種案件を同一事務所に何度も依頼しているヘビーユーザーの企業ともなるとだいたい請求される稼働時間は予想の範囲内に収まるということも多いようです。

③ 稼働時間がブラックボックスであり不透明である
稼働時間というのは依頼者との会議や電話での発言、契約書やメモランダムといった成果物その他のアウトプットには必ずしも直結していません。例えばある行為について法的に問題ないか結論だけでいいから確認して欲しい、と依頼されたとして、「問題ないと思います」と一言答えるためには、もちろん即答できる場合もありますが、そうでない場合には関連する法令や裁判例、文献等をリサーチして具体的な事案に当てはめる、そしてそれに伴う事務所内部でのディスカッションといった依頼者の側からは目に見えない検討作業が必要で、その検討時間に一定時間(場合によっては数時間)を要します。お客さんからすれば「え?問題ないって一言言うだけでそんなに請求されるの?」と思われるかもしれませんが、これは法的な検討にはある程度時間を必要とせざるを得ないためです。だったらその検討プロセスを示したらいいじゃないか、という話にもなりますが、メールでの報告やメモランダムといった成果物によってその検討プロセスを依頼者向けに整理して作るにはまたそれだけのコストがかかるわけでそれが必要かどうか決めるのはお客さん次第です(まあ、口頭で簡単に説明すれば良いですが)。この問題に対する対策としてはちゃんと作業内容のdescriptionを示して作業内訳を明確にするよう求めることですが、それでも当該作業にどれだけの時間を要するべき性質のものなのかは外部からはわかりにくいですし、弁護士としても検討を始めてみないとわからないことも多いので限界はあります。

④ 小規模案件では割高感がある
案件の経済的インパクトの程度に関わらず、法的な検討には手間はかかるので比較的小さな案件でタイムチャージにするとかなり割高感が生じることがあります。しかも、有効性、適法性の検討など経済的価値にストレートには結びつかない作業も必要になるのでなおさらです。この問題に対する対応としては、3.で後述するディスカウントかより安価な報酬で対応してくれる弁護士にやってもらうしかないかなと思います。(余談ですが以前、一般民事をやっている友人の弁護士と話していて、訴額の小さな案件はペイしないので受けにくいんだよという話を聞いたので、だったらタイムチャージでやってあげたらお互いwin-winになって良いんじゃないか、と言ってみたところ、個人のお客さんはタイムチャージなんて受けれないよ、と言われたことがあります。たしかそんな気もしますが、私自身も昔個人の事件でタイムチャージでやったことありますし、納得感があれば嫌がるお客さんばかりでもない気もします。どんなもんでしょうか。。)

(2) 弁護士から見た問題点

こうして見るとタイムチャージは弁護士にばかりおいしいやり方のように見えますがそうでもありません。弁護士から見てもタイムチャージというのは一応合理的な報酬算定方法だから採用しているにすぎず、弁護士の立場からも以下のような問題はあると思います。

① 仕事の価値が単価と稼働時間でしか反映されない
これにはいくつかの意味があります。
・ 上記(1)①の裏返しで、専門性があり、優秀な弁護士ほど請求が安くなってしまうというジレンマがあります(本記事49頁でも指摘)。能力に応じて時間単価をあげればいいですが日本の弁護士はよほどのビッグネームでない限りあまり大きな傾斜はつけられないのが実態ですし、それも時間単価ですから限界があります。
・ 依頼者の求めるスケジュールに対応するべく、緊急の案件で徹夜で対応しようが、連休をつぶそうが それでも報酬は一緒です。緊急対応による「特別割増料金」を請求する、なんてことも考えられますが、この競争環境が厳しい中ではそんな追加料金を依頼者に求めてられる事務所は少ないんじゃないかと思います。あと、弁護士たるもの、依頼者が困ってるときは24時間年中無休対応すべきなんだ!という発想も強いのではないかと思います。
・ あと、ほとんど作業量が出ないが経済的価値が高い仕事というのはありますが、そういう業務には向きません。例えば相手方や当局などと巧みに交渉して良い条件を勝ち取るなどは、交渉時間はあまりかかりません。あと結構シビアな判断を要する法律意見書の作成なんかも当てはまるんじゃないかと思います。こういった業務はさすがに時間単価だときついので1件いくら(交渉ごとの場合は成功報酬)で決めることも少なくないのではないかと思います。
・ まあ結局、タイムチャージは時間と身を削って 働いた分しか請求できず、少ない時間効率的に働いてドーンと稼ぐビジネスモデルと真逆ですから、性質上あんまりおいしいやり方ではないと思います。

② 見積もりの難しさ
見積もりを出すのはビジネスをしている以上当然!とどうしても思われますがタイムチャージだと実際問題中々難しいのです。本記事でも何カ所かで指摘されていますが、特にM&Aなどの取引ものですと、DDでどんな難しい問題が存在しているのか、それを依頼者の意向や相手方との関係でどう解決していくのか、そして相手方や当局等関係者との交渉の行く末等々、ふたを開けてみないとわからないことがたくさんあり、案件開始当初に稼働時間がどれだけかかりそうか予測して、見積もりを出すことが難しいためです。他方で今は一定の見積もりを示さないと依頼者の理解を得ることは困難なので、なんとか一応の見積もりを出さざるを得ません。保守的に多めに見積もるとコンペティターに案件を持って行かれるリスクがありますし、他方で見積もりが甘くて稼働がオーバーしてしまうと、たとえ見積もり金額が上限であることをコミットせず、状況次第では見積もりを超えた請求となることがある、とあらかじめ依頼者に断っておいたとしても、見積もりを超える請求が事実上難しい場合も少なくないのではないかと思います。

3.弁護士報酬の削減方法と削減する場合の留意点

タイムチャージの問題点について少し整理したところで、次は本記事でも大きなテーマとなっている弁護士報酬の削減について少々振り返ってみたいと思います。

(1) 請求の上限を決め打ちする(キャップをはめる)
これについては特に言えることはないですね。。バジェットが決まっている場合はしょうがないです。ただ、キャップがあるときもできるだけないときと同じレベルで検討できるよう効率的な作業に努めています。

(2) 低コストでやってくれる事務所に頼む
これについても特に言えることはないです…。ただ、(特に上場企業の場合には役員の責任の問題も生じうるので)当該案件の社内における重要性を踏まえた弁護士選びが必要になってくるとは思います。それに報酬がリーズナブルでしかも良い先生はたくさんいらっしゃいると思いますのでうまくそういった弁護士を探すのも法務ご担当者の腕の見せ所かと思います。

(3) 様々な「コスト削減戦術」について
仕事をしていると、あまりコストをかけたくないんだろうな~と推察される依頼者やFAによる種々の働きかけがあります。例えばこんな感じです。
① 会議出席者を絞る
これは当業界にありがちな話として良く出てくる、学習目的で若いアソシエイトをぞろぞろ会議に連れてくる、弁護士と1対1で電話していると思ったら背後でたくさんのアソシエイトが聞いているなんていう事態を避けるためと思います。依頼者の目が厳しいですから人員を過剰に投入しようとする事務所も今時無いのではないかと思いますが、まだまだあるんですかね。ただ、個人的にはチームでやる仕事が多いので、主要メンバー(例えばパートナー、パートナーを補佐して案件を主に取り仕切るシニアアソシエイト、窓口的役割のジュニアアソシエイトの3人構成など)は少なくとも参加させてもらえないと、その後のチーム全体へのフィードバックに手間取るだけならまだいいのですが、その会議で(本来の目的である)十分な協議ができないことがあるので、そういうときは「先生一人で来てください!」と言われてもお願いして増やしてもらうことがあります。
② メールの宛先が直接の担当弁護士のみで、パートナー弁護士がCCに入っていない
これも時間単価の高いパートナーがメールを見ることによってチャージがされることを避ける趣旨で行われる可能性がありますが(もちろん素朴に担当者に送っている意図にすぎない場合もあります)、チームで対応する以上ミスコミュニケーションが生じるし(関係者が多いと誰が宛先から漏れているか気づかないことがあります)、そういうことでできあがりとしての請求額が増えるというのはあまりないと思うので関係者はメールの宛先に含めていただけると助かるかなーと思います。
③ ある取引のうち一部の作業をスポットで依頼
これはバジェットの制約があるのであればやむを得ないですし、会社の法務部が充実していれば自社対応が難しい一部の業務だけをアウトソースすれば十分な場合も少なくないと思います。もっとも、作業内容によっては全体感が見えないと適切にアドバイスできないことがありますので、その場合には取引の背景や作業の位置づけを、関連する資料を見せていただきながらご説明を聞く機会をいただく必要が出てきます。
④ (チーム人数を絞るよう要請する)
「戦術」としては十分あり得そうだなと思ったのですが、個人的に聞いたことがないので丸かっこに入れています。法律事務所側が、取引規模や重要性に鑑みて過剰人員であったり、専門による役割分担といった合理的理由無く何重ものパートナーレビューが入っていたりするような不合理な人員構成にしてくる可能性はあると思いますが、他方で、(i)時間的な制約から大きな作業は複数人で手分けして作業する必要がある、(ii)専門性が異なる弁護士が複数人関与する必要がある場合もあるので、依頼者としては弁護士のチーム構成に疑問を持たれたらその必要性について説明を求めるのがよいと思います。
⑤ (ものすごく急がせる・・・)
これも自分の周りで実際にあった話ではないので丸かっこを付けています。タイムチャージにおけるコスト削減の「裏技」としては、少し考えれば誰でも気づくことではありますが、弁護士をものすごく急がせることですね。。その分稼働時間が減りますから。超緊急案件ということにして、その日の夕方依頼して明朝までに提出して下さい、とか。。ただ、いったい何のために弁護士に頼んでいるのかというそもそもの問題を考えると、これは絶対におすすめできません。無用に急げばきちんと検討する時間もないしミスが生じやすく(弁護士にマルプラを責めたところで本来の目的は達成されないですよね)、時間的制約が厳しい場合にはいずれにせよ弁護士サイドとしても成果物に「時間がなかったのでこの点について検討が不十分である」などの一定の留保をつけざるを得ません。マンパワーの限界からそもそも受任できないこともあります。サービス業ではありますが、やはり相互の信頼関係で成り立っていきたいので適切なスケジュール感で進めたいところです。なお、実際の取引の現場ではいずれにせよタイトスケジュールで進めることが求められることが多く、その必要性はこちらで見ていてもよく理解できるので、弁護士報酬を削るために無理に急がされているな、と感じた経験は個人的には一度もありません。

(4)作業のスコープを限定する
やはり、もし予算の制約があるのであれば、必要に応じて上記のキャップを設けると共に、合理的な作業範囲の限定を依頼者・弁護士協議の上で行うのが一番だと思います。例えば、DDであればスコープを大幅に重要な事項に限定する、レポートは要旨だけの簡易な内容にとどめ、あとは口頭でのフォローのみとするといったかたちで時間のかかるアウトプットの量を抑える、契約のドキュメンテーションであれば1からドラフトを頼むのでなくて一次的には会社の方で作成して弁護士にはレビューを依頼する(ただ、M&Aの契約等専門性を要求される契約では1から頼むしかない場合がほとんどだと思いますが)などなど色々考えられます。弁護士が提案する作業のスコープの限定は、予算が限定されているからこれしかできません、と一方的に言い放つのではなく、依頼者がどんなことを気にしているのかを聞き出して、柔軟かつ合理的に設定する必要があります(その後も状況の変化に応じて適宜見直し)。

4.最後に本記事への感想など
・ 本記事のうち「弁護士が語る請求側の事情と実態」(36頁~)は、大手事務所(顧問契約は必要か要検討。迅速に専門的アドバイスできる総合法律事務所に頼んだ方が良いのでは)、外資事務所(時間単価は高くても人数を抑えればリーズナブルなところに収まる)、中規模事務所(日常案件は中規模に任せコストを削減している企業少なくない)、と三者三様で面白かったですね。
・ 「弁護士費用をどう管理するか-各社の取組例」ではいくつかの企業の法務ご担当者からコメントが寄せられていますが、自社業務をあらためて理解してもらわなければならないなどの理由から、つきあう弁護士を広げることについては消極的な企業(又は付き合う弁護士をより絞り込んでいきたい企業)が多いのが意外でした。ただ、これらの企業は相当の「弁護士ヘビーユーザー」という印象ですね。逆に「うちにはほとんど相談してない(でもたまに社長に聞いてこいと言われたので相談してもお告げ的な答えが返ってくる)社長の同級生の高齢の顧問弁護士がいるけど、ちょっとこの先生だけじゃ頼りない。もっとリーズナブルでフットワークの良い弁護士はいないのか」といった悩みを持っている会社も少なくないと思いますのでそういった会社のご担当者は、より弁護士ポートフォリオを広げていく方向で尽力されるのかなとは思いました。
・ 特集巻頭の西田章先生の「リーガルサービスの価格は下落しているのか」(32頁)、いつも西田先生の記事はトレンドを的確・リアルに捉えているなと感じました(海外進出案件についてのコメントなど)。 
・ ほかに客観的・合理的な価格設定の方法が見つからない現状、タイムチャージという請求方式はひとまず続いていくんだろうと思います。タイムチャージは必要悪、というと少し言い過ぎではないかと思いますが、今日まとめたとおり弊害もあるのも確かです。月並みですが、今回の記事を読んで、弁護士の側も、見積もりの明示、作業範囲の明確化、請求の際の作業内訳の具体的な記載等、適正で、依頼者により信頼され、納得感を持ってもらえる運用を目指さないといけないな、と思いを新たにしました。