法務系Advent Calendar 2016(#legalAC)の参加記事です。2013年に法務系ACに初めて参加して以来、3年連続で契約実務のテーマばかり選んできましたが、昨日のkataxさんのエントリーを踏まえ、私も久しぶりにキャリア系の話題で行ってみたいと思います。

というわけで今回のACでは、企業法務系弁護士のキャリアについて、まだまだ自分自身途上にあり、総括できる段階は到底至りませんが、現時点での認識をいくつかのトピックに分けてまとめてみたいと思います。インハウスの社内でのキャリアについてはよくわからないところなので、プライベートプラクティスの弁護士、つまり企業の外にいて、法律事務所に在席している弁護士の話に限定します。

(それにしてもここ数年、同業者の友人知人とたまに会うとこの種の話ばかりになりますね…。)
1.どこで働くか?

ほとんど更新していない当ブログの中で長く読まれているものの一つが、
企業法務系弁護士としての進路について、ある同級生達の会話
という、大手事務所と中規模事務所とでどのような違いがあるのかを中心として、企業法務系弁護士の進路選択をテーマとした対話形式のエントリです(なお、プライベートプラクティスのもうひとつの大きな柱としてグローバルファームがありますがここでは触れていません)。
これは東日本大震災直後の直後、震災とその更に3年前に起きたリーマンショックの傷跡がまだ残る時代に書いたものなので、現在のリーガルインダストリーにおけるマーケット環境はだいぶ変わってはいますが、おそらく構造の基本的なところは変わっていないのではないかと思います。

このエントリは新卒の進路選択に主眼を置いたものですが、このどこで働くかという問題は当然のことながら転職(移籍)の可能性がある以上、弁護士登録後も「しばらくは」続く話でもあります(「いつまでも」続くとそれはそれで問題)。

会社でもそうですが、どこに所属しているかで、どのような依頼者層の、どのような分野・規模の仕事が経験できるかが違ってきますので、所属先はきわめて重要な問題であり続けます。

2.ブルーオーシャンを探すか?レッドオーシャンで戦い続けるか?

企業法務系弁護士も、競合のいない(少ない)ブルーオーシャンの分野の仕事ができるのであれば、それはもちろんそうしたいところです。

しかしながら、現実には以下のような事情から、なかなか難しい。私も含め、多くの弁護士が伝統的なレッドオーシャンと言える分野の仕事をしています。
  • 継続的にマネタイズできるブルーオーシャンの分野を発見することは極めて難しい。メディア露出が多く一見注目されていそうな新分野であっても、実は「ドアノックツール」の域を出ないものも少なくないように感じる。
  • せっかく見つかったブルーオーシャンも、やがては真っ赤に染まり、そして多くはコモディティ化することは歴史が証明するところである。
  • 弁護士業務における新たな案件は多くの場合、これまでの積み重ねを前提として依頼が来るもので、(たとえ情報発信の努力をしても)突拍子もなくこれまでと異なる分野の仕事が来るとは限らない。
それでも、伝統的な分野に軸足を置きつつも、これまでになかった全く新しい分野の開拓に挑戦している弁護士も少なくありません。私の印象では、大手法律事務所の若手パートナーに多いような気がします。テクノロジーの進化や社会・経済情勢の変化の中で、新たな法律問題は絶えず生まれていきます。レッドオーシャンにいても仕方がない、伝統的業務がなくなることはない、と漫然としていては、そのレッドオーシャンにあったかすかなシェアでさえ失ってしまいます。ストレートに「新分野を開拓する」意向がなくても、常にアンテナを張っていかなければならないことは変わりません。

3.インハウスカウンセルとどう差別化するか?

インハウスカウンセルは今後増えることはあっても減ることは考えにくいですから、企業における法律関連業務の内製化はどんどん進行していきます(※インハウスは外注していた業務を内製化することに本来の役割があるのではない、という点は理解していますが、現実問題として内製化は進む、という趣旨です)。 
kataxさんのエントリでも、「契約法務コース」の難しさについて言及されていましたが、それと似た話で、内製化が進むと、プライベートプラクティスでいえば、内製化可能な一般企業法務「だけ」でやっていくのもまた難しいことになります。

やはり、例えば以下のような、内製化できないもの、又は企業内で内製化できないことはないがするべきではないものに強みを持つ以外に、プライベートプラクティスの弁護士として生き残ることは難しいと思います。

☆内製化できないもの
  • 専門性が高いもの
  • 未知かつ難しい法律問題
  • 「専門性」と重複する面が大きいが、他社事例や同種案件経験の厚みが必要なもの
☆内製化できないことはないがするべきではないもの
  • 重要な訴訟など、負ければ(失敗すれば)社内の責任問題に発展しかねないもの
  • 役員責任の問題や、社内対立のある問題など、第三者の立場からの関与が期待されるもの
  • 「経営陣の『一応○○先生(お気に入りの弁護士)のコメントも聞いといて』の一言」(kataxさんのエントリより)があったもの
ご参考:「企業法務案件の内製とアウトソースについて、元同僚達の会話
4年ほど前にも同じようなことを考えたことがあるのを思い出しましたが、あらためて読み返してみても、当時の認識は今もそれほど変わっていません。

なお、かつて、企業法務系弁護士のキャリアとしては、プライベートプラクティス→インハウスという一方向での転身が多く、それは片道切符が多かったように思います。しかし、法曹養成制度改革以降、これまで極めて少なかった新卒インハウスが激増し、そして、インハウス→プライベートプラクティスという従来とは逆の転身も増えてきています。このような流動化が起きると、プライベートプラクティスの知見とインハウスとしての企業内の立場の深い理解の双方を兼ね備えた弁護士も現れてくることになります。

4.どうやって営業(business development)するか?

プライベートプラクティスでは当然のことながら社内外(所内外)の人材市場だけではなく、リーガルインダストリーというもっと大きなマーケットにさらされているので、この視点は不可欠です。
「でも営業はキャリアの話と直接関係ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、プライベートプラクティスで生きていく限り、ごく一部の例外を除いて、顧客、案件獲得活動と無縁でいることは困難で、どんな依頼者を持っているのか、どれだけ売り上げがあるのかが、組織内外におけるキャリア評価の重要な要素となるため、キャリアの一問題に位置づけられるべきと思います。

ただ、自分の話でいうと開業してはや3年、大変お恥ずかしながらいまだに営業活動をどのようにしたらいいのか、まだ見えてこない(因果関係を詰められていない)ところではあります。少なくとも、例えば以下のような各要素での総力戦ということになろうかと思います。
  • 専門性
  • フィー水準
  • ネットワークの強固さ(※)
  • 同種案件のトラックレコード
  • 能力(純粋な実務能力+コミュニケーション能力)
  • 使いやすさ(アウトプットの見せ方だったり、フットワークの良さなど)
  • 相性
  • 露出(ネットワーキング及び情報発信)
(※)ネットワークの強固さとは、弁護士と紹介者との間、紹介者と潜在的依頼者との間が、それぞれにつながりが強固だと、依頼者に需要さえあればほぼ確実に受任に結びつくのに対して、つながりが希薄だと、せっかくご紹介があっても、あっさり他に行ってしまうことがある(もちろん別の要因から他に行くこともありえますが)という趣旨です。情報発信などももちろん大切ですが、個人的にはこのような強固な関係性構築を目指すことが営業活動で最も重要であると思います。

なお、上記でいえば相性に近いですが、弁護士のキャラクタータイプも影響が大きい気がしています。
分野などわかりやすい要素だけではなく、弁護士はタイプごとに使い分けられることがあるのでは、ということに関連して、以前
ビジネスロイヤー座標軸
という記事を書いてみたことがあります。自分のアイデンティティはもちろん自分で決めることですが、マーケットが決めている面もあります。その中で、今期待されている自分の立ち位置はどこなのかということを考えることも重要なような気がしています。

5.今いる場所に残るか?それとも…

1のどこで働くか、ということとほぼ同じですが、視点が違うつもりなので項目を分けました。
今いる組織でパートナートラックに残れるのか、残れるとしてそれは自分にとって最善なのか、残れない又は残らないのであれば、次はどのように生きていくのか。この問題は事務所属性でそれぞれで異なるので一概にいえません。例えば以下のような二つのパターンが考えられます。
  • 組織そのものに競争力がある場合:仕事は潤沢にあるが、所内競争が極めて厳しい。そこで確立した地位の確保を目指して走り続けるのか、それともその激しい内部競争から離れた方がよいのか。
  • 組織そのものに競争力がない、又は失われる可能性が高い場合:所内競争はそれほど厳しくなく、今後も自己の内部における立場は当面安泰である。しかし、今いる組織自体はこのままでは沈む可能性があるので、色々な意味で(辞めるという意味に限らず)外に飛び出していく必要がある。
6.中長期のキャリアをどう考えるか?

弁護士は生涯プレイングマネージャーです。(定年制を設けている事務所もありますが少なくとも弁護士としては)定年もありません。しかし、企業法務の仕事は常に情報のアップデイトを迫られ、しかも短い納期でまとまった仕事を仕上げるような力仕事も少なくありません。そうすると、歳を重ねていったときに、経験はたしかに積み上がるものの、だんだん今までのように働けなくなっていきます。そのようなときは誰でも必ずやってきますが、そのときを見据えてどのようなキャリアを目指すのかという問題があります。
  • 中堅・若手弁護士層を厚くして体制を固める、又はすでにある強固な体制の中で強固な立場を築く。
  • いわゆる「大先生」となって顧問先企業にとってのご意見番的存在になる。
  • 自営業である以上、自由に生きることを重視して、先細ることを受け入れる。
例えば以上のような選択肢が考えられますが、どれもそれぞれに難しさがあります(3つ目の「割り切り」もまた非常に難しい!)。プライベートプラクティスを選択して、企業に属しないことを受け入れた以上、「老後」の生き方もまた、キャリア形成の一つとして悩ましい問題です。

7.最後に

本当は、皆様のコメントを聞いてみたかった別のコーポレート系のテーマを考えていたのですが、昨日の#legalACハッシュタグの様子を見て、やはり自分にとっても関心の高いキャリアプランをテーマとすることに方針転換しました。どこにいても緊張感を緩めることはできませんね。こういった問題を年末あらためて見つめ直して、また来年につなげていきたいものです。

法務系AC、明日はdtkさんです!