「対象者が受けたい気持ちになる仕掛けが絶対に必要なのです。それが今は少な過ぎます」―。がん検診受診率向上の取り組みについて、こう語るのは日本医師会の今村聡常任理事。2007年に策定された国の「がん対策推進基本計画」では、がん検診の受診率を「5年以内に、50%以上」とする目標が掲げられているが、08年度に市区町村が実施したがん検診の受診率は、「胃がん」が10.2%、「肺がん」が17.8%、「大腸がん」が16.1%、「子宮がん」が19.4%、「乳がん」が14.7%で、目標値には程遠い。残された約2年でどこまで受診率を上げられるのか、関係者は議論を続けている。
 そんな中、4月に開かれた厚生労働省の「がんに関する普及啓発懇談会」で今村常任理事は、「(受診率向上には)日ごろかかりつけ医として、患者さんあるいは住民の方たちの健康にかかわっている地域の診療所の医師の働き掛けというのが非常に重要だ」と述べ、個別的ながん検診の受診勧奨の促進とそのためのツールの必要性を指摘した。地域でがん検診の受診勧奨を行う医師を支援する新たなツールや、がん保険などを用いた検診受診者へのインセンティブなど、がん検診の受診率向上のためのさまざまなアイデアについて今村常任理事に聞いた。(前原幸恵)

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―がん検診の受診率向上に向け、懇談会では「個別勧奨」の重要性を指摘する声が上がっていました。今村さんが考える「地域の診療所の医師の働き掛け」も、その一環でしょうか。

 はい。慢性的疾病を持ち通院している患者さんの場合、医師がその人の健康管理まで含めて診ている場合があります。例えば、健康診断の時期にその患者さんの受診状況を医師がチェックして、まだ検診を受けていないなら、「受けた方がいいですよ」と説明することができるのではないでしょうか。このとき、地域によって検診のやり方などルールが違いますから、医師は自分の地域でどういうがん検診のやり方をしているかということを把握した上で、より具体的に「ここで、こういう方法で実施しているから受けたらどうか」と受診者に対して提案することが大事だと思います。

■日医ではこの春、かかりつけ医による効果的な受診勧奨を行うためのツール「かかりつけ医のためのがん検診ハンドブック」「20歳からはじめる子宮頸がん検診」「大腸がん検診を受けましょう」(いずれも、09年度厚労省がん検診受診向上指導事業として、がん検診受診向上アドバイザリーパネル委員会が作成)の3点を、会員や都道府県医師会、郡市区医師会などに無料配布した。
 ハンドブックは、がん検診受診勧奨のシナリオなど、勧奨に向けた具体策が盛り込まれた冊子だが、今村常任理事は自身の日常診療の状況も踏まえつつ、「きちんと目を通すのが難しいかな」と語る。

 わたしも含めて、地域で総合的に患者を診る医師は、新型インフルエンザ、予防接種、緩和医療、糖尿病対策など診療・疾病予防にかかわることから、介護保険制度や廃棄物処理など制度に関することまで、ありとあらゆることを熟知しなければなりません。このハンドブックには、実践で役立つ情報は豊富に盛り込まれているのですが、その分忙しい医師には、きちんと目を通してもらえないという弱点も持っています。これはわたしの個人的な考えですが、ハンドブックは情報源として手元に置きつつも、日常診療の中で活用しやすい、例えばカルテなどに、喫煙歴や予防接種、がん検診の実施状況など個別に確認すべき事項が記載されており、簡単にチェックできるような仕組みができるととてもいいと思います。小児科でいう母子手帳のようなものです。それを基に必要な勧奨を行うのなら、医師の負担もそれほど増えず、検診の個別勧奨を医師のルーティンワークに組み込みやすいのではないでしょうか。

―かかりつけ医による個別勧奨のほかに、目標達成に向け何が必要だと思いますか。

 まず、そもそも「50%」という目標値ですが、精度管理をきちんとした上で50%まで受診率を上げることが比較的簡単なものと困難なものがあります。例えば、大腸がん検診と乳がん検診のマンモグラフィーの受診率の目標値を同一に50%というのは無理があると、個人的には思っています。
 大腸がん検診は便潜血反応がプラスかマイナスかというだけですから、選別は非常に簡単で、特定健康診査と同時実施すれば50%を超えることは可能ではないでしょうか。一方、乳がん検診の際のマンモグラフィーの読影などは、画像を撮る機械の問題、撮る技術の問題、撮った画像をどう読み取るかという問題など、結果に影響する要素が検診過程でいろいろ入ってしまう。マンモグラフィーの台数や診療放射線技師の育成まで考慮すると、急激な受診率向上は難しいのではないかと思います。まずは患者負担が少なく、質の担保ができる検診、例えば大腸がん検診の実施率から目標を達成していくというように、検診によって差が出ていいのではないでしょうか。

 また、50%という目標を達成したかどうかを正確に把握するためにも、最も急がれるのは「正確なデータの把握」です。現状では、自治体が実施するがん検診と企業が実施するがん検診のデータのすり合わせが全くないので、検診対象者に対して実際にどの程度実施できているのかという正確なデータはどこにもなく、推計値しかありません。
 ただ、国内では既に企業の健康保険組合など自主的な組織での取り組みも進んでいるため、データを一元化するための制度改革は簡単ではありません。国レベルでも日医の中でもその手法について引き続き、議論していくべきだと思います。

―ここまで制度や医師の取り組みについて伺ってきましたが、受診者である国民が検診にもっと前向きになるために必要なことは何だと思いますか。

 がんを自分のこととしてとらえていない人に、いくらがん検診の重要性を説いても、動機付けとしては非常に弱いと思います。受診率アップには、受診者へのインセンティブが重要です。もちろん、将来がんになるのを防ぐという意味ではインセンティブはあるのですが、わたしは、すぐに目に見える形でのインセンティブとして、民間のがん保険などで、検診をきちんと受けていたら、「がんになったときの給付率が上がる」とか「掛け金が少なくて済む」などの設定をしてはどうかと思っています。自分が生命保険やがん保険に加入するときに明らかに差があれば、絶対それはインセンティブになるはずです。人間を利害、損得だけで動かすのがいいとは思いませんが、対象者が受けたい気持ちになる仕掛けが絶対に必要なのです。それが今は少な過ぎます。ただお題目みたいに「受診率向上」と言っていてもなかなか変わらないなら、一つの突破口としてそういう取り組みも行ってみたら、大きなインパクトになるのではないでしょうか。

―厚労省の懇談会で、「会員に対して、がん検診の重要性を今まで以上に啓発して、取り組みに参加していただくように働き掛けをしていきたいと思っている」と述べられました。日医の役割として、がん検診について今後は、会員への働き掛けも重要だと考えられていますか。

 日医は国の委員会などに参加しています。また、地域の医師会の声を拾うこともできますし、各医師会に意見できる立場でもあります。
 例えば現状では、医師会によって検診実施数の把握状況や検診のやり方、検診後の事業評価や精度管理に関して相当ばらつきがあります。国は、うまくいっている地域の取り組みを取り上げ、モデルにして全国へ広げようと考えますが、でもそれはその地域の人や資源があってこそできていることで、全国どこでもできるわけではないのです。
 わたしたちの役割は、地域医師会でやっていることと、国が求めるものとがうまく合体できるよう双方に働き掛け、その結果できたひな形を会員に提示し、「こういうやり方でやってください」と伝えていくことだと考えています。それができるのは、わたしたちだけではないでしょうか。


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