スジエビの不思議

私の知っているスジエビの紹介を終えました。第2部「生き物雑記帳,時々脱線」を始めました。

 いつもの散歩道「丘の十字路」で昆虫の生態観察をしていたときのことです。写真を撮るために道路の脇の茂みに身を寄せたとき,どこかに隠れていたニホンアマガエルがピョンと飛び出して,ガガイモの葉にしがみつきました。このカエルは手足の指先に発達した吸盤を持っており,ほぼ垂直の葉に飛びついても,滑り落ちることはほとんどありません。
 一方,ガガイモは蔓植物で,縦にやや細長い心臓(ハート)形をした葉をもっています(カエル・シリーズの話が終わったら,この植物を紹介する予定です)。
 必死にガガイモの葉へしがみつくカエルを見て,とっさに思い浮かんだフレーズが,「貴方の胸(ハート)へ帰る(カエル)」でした。
 面白いので,すぐに写真を撮りました。
ガガイモの葉上のニホンアマガエル

 図:ハート形のガガイモの葉にしがみつくニホンアマガエル。

 そして,私のお気に入りのフォークソング「思い出のグリーン・グラス」(トム・ジョーンズの原曲を,森山良子が1969年にカバーした曲)を口ずさみながら帰宅しました。歌詞を3番,1番の順で紹介してみます。

3番 ♪悲しい夢見て 泣いてた私
      ひとり 都会で 迷ったの
      生まれ故郷に 立ったら
      夢がさめたのよ
      思い出のグリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム♪

1番 ♪汽車から降りたら 小さな駅で
      迎えてくれる ママとパパ
      手を振りながら 呼ぶのは 彼の姿なの
      思い出のグリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム
      帰った私を 迎えてくれるの
      思い出のグリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム♪


 田舎暮らしに飽き,大都会の生活に憧れた彼女は,幼馴染みの彼の手を振り切り,長距離列車に乗りました。
 しかし,華やかで楽しいと思っていた都会生活は長続きしませんでした。
 慌ただしく過ぎ去る日々,職場での人間関係の軋轢(あつれき)・・・・。
 疲れ切った彼女は,ある晩,夢を見ました。
 信じていた友に裏切られるという辛く悲しい夢でした。
 目を覚ますと,枕は涙に濡れていました。
 そんなときに思い起こすのは,爽やかな風が吹き抜ける大草原で,楽しく歌っていたあの頃の自分です。
 「そうだ。やっぱり私の住む場所はここではなかったのだ」。
 朝,久しぶりに両親へ電話し,そのまま彼女は帰郷の列車に飛び乗りました。
 田舎に近づくにつれて彼女の心は次第に明るくなり,そして,そっとつぶやきました。

 「貴方の胸(ハート)へ帰る(カエル)!」

 前回のブログ記事で,ニホンアマガエルの体色の個体差を調べたという話をしましたが,実は,私には秘めたる狙いがありました。黄色のアマガエルと青いアマガエル(どちらも突然変異個体で珍しい)を探すことです。まずは,これらの珍しいカエル発見の新聞記事から紹介しましょう。
 ずいぶん前のことになりますが,旭川市の少し南にある赤平市の山中で全身黄色のアマガエルが見つかりました。専門家の話では「青色の色素が遺伝的に欠けている色彩変異で,青色の個体はたまに報告されるが,黄色の個体は極めて稀」とのことです。
黄色のニホンアマガエル

 図:黄ガエルを赤平で発見(北海道新聞1997年6月18日)。

 当麻(旭川の隣町)の民家で,体が青,黄,緑の斑(まだら)模様になっているアマカエルが見つかりました。専門家の話では,色素が部分的に欠損している突然変異ではないかということです。青色の部分は黄色の色素欠損,黄色の部分は青色の色素欠損,緑色の部分は両方の色素が存在するモザイク個体ということになるのですが,本当にそのような突然変異なのでしょうか?飼育条件を変えて,斑模様が変化するかどうかも調べてみないと,簡単には結論を出せないように思います。
緑・青・黄斑のニホンアマガエル

 図:青,黄,緑の斑模様のアマカエルを当麻で発見(北海道新聞2007年7月3日)。

 旭川市内の西御料近くの田んぼ(我が家からかなり近い)でも青い体のアマガエルが発見されました。旭山動物園の話では,アマガエルがもつ黄,青,黒の色素のうち,黄色がない,つまり,黄色の色素を欠く突然変異の個体だということです。私が散歩道で青いアマガエルを探してみようと本気で思ったのは,この新聞記事がきっかけでした。
青色のニホンアマガエル

 図:旭川市内で見つかった青いアマガエル(北海道新聞2011年7月26日)。

 新聞記事では,アマガエルは黄色,青色,黒色という3種類の色素を持つと紹介していますが,正確にいえば,青い色素をもってはいません。では,青い色はどこから来るのでしょうか?
 アマガエルの皮膚には3種類の色素胞(色素顆粒を含む細胞)が層状に並んでいます。一番表面に近い所に黄色色素胞層があり,その下に虹色色素胞の層,一番深い所に黒色(メラニン)色素胞の層があります。虹色色素胞の内部にはグアニンの結晶が規則正しく並んだ構造(反射小板)があり,ここで光の散乱や干渉が起こり,青色に発色するのです。つまり,青い色の色素をもつのではなく,反射によって生じた色(構造色)なのです。この青色と黄色色素がいっしょになれば,体色は緑色に見えます。この基本に,黒色色素胞の変化が加わって,複雑な体色変化が生まれるのです。
 もし突然変異で黄色色素胞がなくなれば,体色は青くなり,決して黄色や緑色になることはありません。また,虹色色素胞がなくなれば,体色は黄色になり,決して青色や緑色にはなりません。
 私が見つけた,最も青いアマガエルは下の写真の通りです。かなり青い色をしていますが,よく見ると,体の一部が緑色です。すなわち,突然変異で黄色色素胞がなくなった訳ではないようです。おそらく,黄色色素胞が強く凝集したため,虹色色素胞の青色が現れているのだろうと思います(色素胞の凝集については,私のブログ記事2017年3月11日を参照してください)。
私が見つけた青色ニホンアマガエル

 図:私が見つけた青い色のニホンアマガエル。

 つまり,アマガエルはこの程度の青さにまでなら変身できるということです。しかし,青いカエルの出現頻度はかなり低く,どのような環境条件がカエルに青い衣装を着させるのかは不明です。


 追記:前回のブログ記事で,背中が黒みがかっているアマガエルの写真を紹介しましたが,その後,もっと黒いアマガエルを見つけましたので,下に紹介します。この日,同じ場所で黒いカエルを2匹も見つけましたが,なぜそんな色をしているのかは不明です。

黒いニホンアマガエル
 図:黒いニホンアマガエル。


 前々回のブログ記事で紹介しましたが,北海道に生息する在来種のカエルはエゾアカガエルとニホンアカガエルの2種のみです。今日の話は,北海道を含め日本全土に広く分布しているニホンアマガエルのことです。
 このカエルに関する私の一番の思い出は,小学生のときに行った夏休みの自由研究です。
 「アマガエルは周囲の色に合わせて体色を変えることができ,これを保護色という」ということを本で読み,実際に確かめて見ようと思ったのです。アマガエルは夕立が来そうな蒸し暑い気配を感じると,一斉に「ゲッ,ゲッ,グェ,グェ」と鳴き出し(アマガエル=雨蛙という名前の由来はここにあります),その辺にたくさん棲んでいるので,自由研究の材料集めには事を欠きません。
 まずは,大きなダンボール箱の中に仕切りを付けて6部屋を用意しました。そして,それぞれの部屋にクレヨンで,黒,白,赤,黄,緑,青の色を塗り,上に目の細かな金網を被せました。もうこれで準備はOKです。さっそくアマガエルを捕まえてきて,各部屋へ1匹づつ入れました。また,虫取り網で捕らえたハエの両翅を切って飛べないようにしてから,生き餌としてカエルの部屋へ入れました。さらに,カエルの皮膚が乾燥しないように,時々霧吹きで湿り気を与えました。
 その先は,体色が何時どのように変化するかを記録するだけです。研究結果をお披露目したいのですが,なにせ60年以上も前のことで,結果をほとんど覚えていません。カエルを入れた次の日にはもう,白い部屋のカエルは灰色に,黒い部屋のカエルはかなり黒くなっていたと思いますが,うろ覚えです。他の色の部屋のカエルの色についてはまったく記憶がありません。
 カエルたちは外へ逃げ出したくて,ピョン,ピョンとジャンプを繰り返し,その度に金網へ鼻先をぶっつけていました。そのうち,鼻先の皮膚が擦れて赤くなってしまいました。もちろん,彼らには,部屋に入れた生き餌を食べる余裕はありませんでした。結局,可哀想になって,何日か後にカエルをぜんぶ庭に放してやりました。これが,いま私が記憶している自由研究のすべてです。

 私のお気に入りの散歩道の「丘の十字路」付近には水田が広がっており,繁殖期になると,夕暮れの爽やかな風に乗ってアマガエルたちの大合唱が聞こえてきます。散歩道の脇にはフキ,ササ,ガガイモ,オオハンゴンソウなどの植物が茂っており,その葉にはアマガエルたちが陣取って,獲物となる虫が通りかかるのをじっと待っています。
 昔の夏休み自由研究を思い出しながら彼らを観察してみました。多くのカエルは葉の色に似た黄緑色の体色で,「なるほど保護色になっているなぁ」と,納得です。しかし,違う色の個体もそこそこ見つかり,斑(まだら)模様をもつ個体も結構いました。それならば,体色の個体差がどの程度あるのか記録してみようかと思い,いつも携えている小型デジカメで撮影を始めました。いくつかの例を下にお見せします。緑色,黄緑色以外に,青緑,黒,緑に黒斑,灰色に薄茶斑,黄色の筋,緑に黒・黄色斑など,色々な体色の個体が見つかりました。
ニホンアマガエルの体色変異 (1)
ニホンアマガエルの体色変異 (2)

 図:ニホンアマガエルの体色の個体差。 上図は斑模様をもたない個体。下図は斑模様をもつ個体。

 アマカエルの体色は,皮膚の色素細胞を拡張・伸縮させる作用をもつホルモンによって調節されており,周囲の背景,温度,湿度,明るさなどに応じて変化するということになっています(もう少し詳しい話は次回に)。しかし,写真にあるすべてのカエルは,緑色の葉の上に留まっていたにもかかわらず,見てお分かりのように体色は色々で,必ずしも保護色にはなっていないように思われる例もありました。それぞれのカエルが何故そのような体色をしているのかは,本人に訊(き)いてみないと分かりません。

 ニホンアマガエル:脊椎動物亜門・両生綱・カエル目・アマガエル科・アマガエル属に分類され,学名はHyla japonica。北海道から本州,四国,九州まで日本全国に広く分布している。
 体長は2~4.5cmで,雌は雄より一回り大きい。体色は腹側が白色で,背中側が黄緑色だが,体色の個体差がかなり見られる。鼻筋から目,耳にかけて褐色の太い帯が通っている。すべての指(前足に4本,後足に5本)の先端部に丸い吸盤をもつ。この吸盤で枝から枝へ飛び移ったり,垂直に垂れ下がった葉に張りつくこともできる。指の間の水かきはあまり発達していない。繁殖期以外は水辺から離れた草原や森で生活している。冬は地中で冬眠する。
 肉食性で,小さな昆虫類やクモ類を捕食する。死んだものや動かないものは食べない。
 天敵は主に鳥類(サギ,アカショウビンなど)やヘビ(ヤマカガシ,アオダイショウなど)だが,トノサマガエルなど大型のカエルやナマズなどの肉食魚類にも捕食されることもある。
 繁殖期は4~6月。雄には鳴嚢(めいのう)という袋があり,声帯の声を鳴嚢で共鳴させて大きな声を出す。この鳴き声は雌に自分の存在を知らせるもので,「広告音(こうこくおん)」と呼ばれる。雌が近づくと,雄は雌の背中に抱きつき(抱接),水辺で産卵,放精が行われる。受精卵は細い寒天質のひもで数個ずつつながっており,水中植物の茎などに付着する。3日ほどでオタマジャクシが孵化し,約1ヶ月で変態して稚ガエルになる。寿命は数年。


 私が退職する前のことですが,職場の親睦会で登山経験の豊かなM先輩と話す機会がありました。その時,私の山での体験を話したところ,M先輩は開口一番,「山には多数決はない」と言われました。
 その体験とは,大学院生時代に札幌近郊の空沼岳へ早春登山をした時のことです。
 私を含めて三人の大学院生は,両生類の初期発生の研究のために,受精直後のエゾアカガエルの卵を採取しようと空沼岳へ向かいました。山麓の生息地には,目指すカエルの卵塊がたくさん見つかりました。それを採取してすぐ帰ればよかったものを,「せっかくここまで来たのだから頂上まで登ってみよう」という話になりました。一人は「このまま帰ろう」言い,私ともう一人が登山に賛成しました。これが最初の多数決でした。
エゾアカガエルの卵塊

 図:エゾアカガエルの卵塊(引用:http://tiotrinitatis.com/hunter/garlic_apr17)。

 三人とも登山の経験に乏しく,もちろん,予備の食糧など持っていませんでした。山道を少し登り始めたところで,積雪のために道はまったく分からなくなってしまいました。そのうちに一人が言い出しました。「道が分からないまま登るのは危険だ。引き返そう」と。しかし,私は言いました。「道筋の木には赤いテープが付いているじゃないか。これを辿って行けば大丈夫だ」。もう一人もこれに賛成してそのまま登ることになりました。これが第二の多数決でした。
 長い時間をかけてやっと頂上に辿り着きました。天気にも恵まれ,山頂からの眺めは壮大でした。三人とも「登山したことは正解だったな」と言い合って喜びました。山頂での簡単な昼食後,さて下山ということになって一人が言い出しました。「まだ時間もたっぷりあるし,雪渓滑りを楽しみながら帰ろう。赤いテープの道から外れないようにすれば大丈夫だろう」。私はこの案に賛成し,もう一人はそのまま下山しようと言いました。これが第三の多数決でした。
 みんなビニール袋を持っていたので,それを尻に敷いて滑り出しました。その快感に胸を躍らせて,次から次へと急な斜面に挑戦して行きました。ふと気が付くと,道標の赤いテープはもはやどこにも見当たりませんでした。空を見上げると,いつの間にか天候が変わり,空には暗雲が垂れ籠め,霧も出始めていました。三人は急に不安になり出しました。「どうしよう」,「また登り直して元の道に出よう」,「もう一度登り切る体力がない」,「確か道は右の方向だったと思う。そちらへ下山しよう」,と彼らは言いました。「いや,左の方角じゃないか」と私は言いましたが,結局,右の方向に下山しようということになりました。これが第四の多数決でした。
雪の空沼岳 (1)
雪の空沼岳 (2)

 図:上下とも雪の空沼岳(引用:https://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=95http://satoshin.web.fc2.com/ski/text/routes/soranuma.htm)。

 しかし,私の感覚は「どうしても左だ」と言って,多数決に抗(あらが)いました。そこで私は提案しました。「左の少し向こうに小高い稜線がある。あの上に登ってみて,見覚えのあるものがみつからなかったら二人の意見に従おう。30分間待ってくれ」。私は稜線に登って周囲を見渡して,「あっ」と思いました。夏山登山したときに一度見た山小屋が見えたのです。私は心の中で叫びました。「そら見ろ,私が正しかった。我々は助かった。凍死せずに済んだ」。私は転げるように稜線を駆け下り,彼らの元へと走りました。二人は私の報告を聞いてもまだ信じられないという顔をしていました。第四の多数決は崩れ去ったのです。
 私は今,この春山での体験を自然科学に置き換えて考えています。自然科学の事象は,多数の人がそうだと言うから正しいとは限りません。こう書くと,誰もが「当然じゃないか」と言うかもしれません。しかし,時として,知らず知らずのうちに自然科学の中に多数決の論理を持ち込んでいることがありはすまいか。
 私は,M先輩の言われた「山には多数決はない」という言葉を,「自然科学には多数決はない」と置き換えて座右の戒めとしています。 


 秋も深まってきた10月11日,紅葉狩りとキノコ狩りを兼ねて近郊の里山に登りました。途中の小さな沼の脇を通ったときのことです。ガサゴソと落ち葉をかき分けて,エゾアカガエルが出てきました。越冬場所を捜しているように見えました。かなり疲れているようで,私が近づいても,飛び跳ねて逃げる元気もありませんでした。
 カメラのレンズを向けながらよく見ると,後肢の付け根付近に何匹も蛭(ヒル)が吸い付いていました。身体のこの位置に吸い付かれたら,カエルも手足を使って掻き落とすことができません。ヒルはこのままカエルといっしょに越冬するつもりのようです。カエルの元気がなかったのは,ヒルに体液を吸われたせいもあるかもしれません。
ヒルに吸い付かれたエゾアカガエル

 図:ヒルに吸い付かれたエゾアカガエル。


 翌年の春早く,フキノトウの採取をかねて同じ場所を訪れました。まだ残雪の多い沼の冷たい水の中には,エゾアカガエルの卵塊がたくさん見られました。ふと,脇の小道に目を移すと,道の真ん中に1匹のエゾアカガエルがうずくまっていました。産卵を終えた直後のカエルのようです。私が近寄っても,まったく動きません。「こんな所にいたら,鳥に食われるぞ」と,私は手を伸ばしてカエルを掴まえ,水辺に戻そうとしました。カエルはグェ~~~と苦しげな声を一言発したまま,私の手の中で,もがくことさえできませんでした。もう半死半生の状態です。
 抱接・産卵という種族をつなぐ営みはこんなにも大変なことなのかと,改めて思いました。カエルを水辺にそっと置きましたが,ほとんど動きませんでした。このまま命を終えるのでしょうか・・・。
水辺で動けないエゾアカガエル

 図:水辺で動けないエゾアカガエル。

 エゾアカガエルは,脊椎動物亜門・両生綱・カエル目(無尾目)・アカガエル科・アカガエル属に分類されます。
 両生綱の“両生”は,水生+陸生,すなわち,水と陸の両方で生活するという意味です。両生類は,進化の過程で魚類から分岐した生物群で,陸上適応の途上に留まっていると考えられます。両生類の一部は完全に陸上適応して爬虫類となり,さらに鳥類や哺乳類に進化しました。
 魚類の雌は水中で産卵し,雄は水中に精子を放出し,精子は水中を游いで卵子に到達し,受精が起こります。しかし,陸上適応すると,卵子と精子の出会いを仲介する水がありません。そこで,両生類は,繁殖のときだけ水に戻り,その中で卵子と精子を放出して受精させます。
 では,完全に陸上適応した生物では卵子と精子の出会いはどう保証されるのでしょうか。これらの生物は,精子を雌の体内へ直接送り込み,精子は雌の体液中を游いで卵子に到達するという仕組みを発達させました。雄のもつペニスは精子を雌の体内へ送り込むための装置なのです。したがって,カエルの雄はペニスを持っていませんが,爬虫類~哺乳類の雄はペニスを持っています。受精様式との関連で言えば,ペニスをもたない魚類や両生類は「体外受精」,ペニスをもつ爬虫類~哺乳類は「体内受精」を行うということになります。両生類の雄はペニスを持たないので,その繁殖体勢は「交尾」と言わず,「抱接」と言います。
 人間の場合,精子はペニスを通って女性の膣内に出され,子宮の中を游いで進み,輸卵管内の卵子へ到達して受精が起こります。すなわち,子宮は精子にとって“母なる湖”といえましょう。そして受精後,子宮は“ゆりかご”になって,胚(胎児)の成長を支えます。
 かつて,エゾアカガエルはヨーロッパアカガエル(Rana temporaia)の1亜種と考えられていました。しかし,京都大学の松井正文助教授(動物系統分類学)はエゾアカガエルを中国に生息するチュウゴクアカガエル,沿海州に生息するチョウセンヤマアカガエルなどと詳しく比較し,別種であることを明らかにしました。その研究成果は日本爬虫両生類学会誌に論文発表され(1991年),エゾアカカエルに新しい学名「Rana pirica(ラナ・ピリカ)」が与えられました。「ピリカ」はアイヌ語で「美しい」という意味です。そう言えば,道東に生息する絶滅危惧種の海鳥「エトピリカ」(くちばしが橙色で大きい)も,アイヌ語で「くちばしが美しい鳥」という意味ですね。
エゾアカガエルの学名

 図:エゾアカガエルの正式学名が「ラナ・ピリカ」に決定(北海道新聞1992年1月20日)。

 エゾアカガエルは北海道とその周辺の島(利尻島,礼文島,奥尻島,国後島,択捉島,色丹島,サハリン)に分布している。北海道に生息する在来種のカエルは,本種とニホンアマガエルの2種のみである。
 体長は雄46-55mm,雌54-72mmと,雌が大きい。体色は黒褐色から赤茶色。四肢はやや短く,指の間には水かきが発達している。
 平地,湿地,森林と生息環境は様々で,高山帯にも棲む。肉食性で,昆虫類,クモ,土壌動物などを食べている。冬期には水底で冬眠する。
 繁殖期は4~5月(高地では7月)。雄は左右1対の鳴嚢をもち,「キュアロ,キュアロ」と,鳥にも似た澄んだ声で鳴く。池や湿地などの浅い水域や水たまりに産卵し,卵の直径は1.7~2.3mmほど。卵塊は扁平な球状で,卵数は700~1100個と多い。
エゾアカガエルの交尾と卵塊

 図:抱接中のエゾアカガエルと卵塊(引用:http://www.town.kushiro.lg.jp/kankou/html/zukan/mizube/index.html)。


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