今から72年前の1945年5月、ナチス・ドイツは連合軍に無条件降伏した。その前月末にアドルフ・ヒトラーは自殺した。今回はこのヒトラーを取り上げたいと思う。
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ヒトラーに関する誤解

ヒトラーは、その著書「我が闘争」で、「自分は若い頃から、根っからの反ユダヤ主義者、反共産主義であった」といった趣旨のことを述べている。しかし、これは事実ではないようである。

青年期、ヒトラーはウィーンで暮らしていた。この当時の彼の夢は、「画家」になることであった(結局美術学校受験に失敗したが)。

この時、ヒトラーが熱烈に恋した女性はユダヤ人であった(しかし、シャイではにかみ屋のヒトラーは彼女に、告白どころか、声すらかけることができなかったのだが)。

映画「アドルフの画集」では、画家志望の青年ヒトラーと、ユダヤ人画商との交流の物語が描かれている。ストーリーはフィクションだが、ヒトラーが若いころからの反ユダヤ主義者でなかった点は事実と言えるだろう

映画「アドルフの画集」日本版劇場予告

 

また反共主義についてだが、彼は第一次世界大戦後、一時、共産主義グループの活動に参加していたという記録が残っている。恐らくは、戦後ドイツの政治的、経済的混乱と様々な政治グループ間の闘争の中で、次第に反ユダヤ、反共産主義へと傾いていったというのが、真相ではないかと思われる。

 

権力への階段と相次ぐ暗殺未遂

その後、ヒトラーが当時党員30人にも満たない弱小政党「国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス党)」に入党し、そこで「演説」という天賦の才能を開花させて、有力政党にのし上げたのは、有名な話である。

ミュンヘン一揆や投獄といった、挫折を経つつもついに1933年、ナチスは政権与党となり、ヒトラーは首相に選出された。

その後、ヒトラーとナチス党は急速に権力を強化していった。そのヒトラーをドイツにとっての脅威と感じた人々も少なからずいた。そのような人々による、ヒトラー暗殺の試みは何度もなされた(記録に残っているものだけで、暗殺計画は40以上にのぼると言われている)。

初期の暗殺未遂で最も有名な事例は、1939年11月に行われた、ミュンヘン・ビヤホールでの爆殺計画であろう。ミュンヘンビヤホールで演説中のヒトラーを爆殺するという試みであったが、ヒトラーが予定より早く演説を終えて会場を去った後、ビヤホールに仕掛けられた時限爆弾が爆発、ヒトラーは難を逃れた。ちなみにこの暗殺計画は、たった1人のドイツ人の家具職人によって行われたことに、ナチス関係者は驚いたという。映画「ヒトラー暗殺、13分の誤算」はこの史実を描いた作品である。

映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』予告編  

最後にして最も成功しかけたヒトラー暗殺計画は、1944年7月に行われた、ヒトラー爆殺計画だった。これは首謀者のシュタウフェンベルク大佐が、ヒトラーが出席する作戦会議の会議室に時限爆弾を仕込んだ鞄を持ち込み、爆殺するという計画であった。爆弾は爆発したものの、ヒトラーは奇跡的に軽症を負ったに過ぎなかった(その後、シュタウフェンベルク大佐他、関係者及び容疑者数千名が処刑された)。

映画「ワルキューレ」この史実を描いた作品である。

映画『ワルキューレ』 予告編

 

ヒトラーは生きている?

結局ヒトラーは、翌年の4月にソ連軍に包囲されたベルリンの総統地下壕で、結婚したばかりの妻のエヴァ・ブラウンと自殺した。このヒトラーの最後の日々を描いたのが、映画「ヒトラー・最期の12日間」である

映画 『ヒトラー 〜最期の12日間〜』  日本語予告編

しかしヒトラーの死体は発見されなかった。そのため戦後長い間、「ヒトラーは生きている」という”ヒトラー生存説”が世界中で、広く語られるようになった。

私が子供のころに読んだ本には、「ヒトラーはベルリン陥落直前に、Uボート(潜水艦)で南米に脱出し、アマゾンの密林に秘密基地を作り、ナチス帝国の再建を目指している」、あるいは「ヒトラーは南極大陸に秘密基地を作り、そこから正体不明の飛行物体を世界中に飛ばしている。つまりUFOは、ナチスの秘密兵器なのである」などといった話が多数書かれていた。

なお、ヒトラー生存ではないが、戦後、ナチスの残党がヒトラーの遺伝子から体外受精で赤ん坊を生んで、”第二のヒトラー”を作ろうとするという、ストーリー(もちろん、フィクションである)を描いた映画で「ブラジルから来た少年」という作品がある。

映画「ブラジルから来た少年」予告編(英語)

 

結局、ヒトラーの死亡が確認されたのは、戦後約50年後のことであった。自殺したヒトラーの遺体は、彼の部下たちによって焼却された。その焼却遺体をソ連軍が、母国に持ち帰ったのである。しかしソ連はその事実を長年、隠していた。この事実が明るみになったのは、ソ連崩壊後のことである。現在もヒトラーの頭骸骨の一部と言われているものなどが、ロシア国内で厳重に保管されている。

 

自殺したヒトラーが、タイムスリップして、現在のドイツで生き返るという奇想天外なストーリーを描いたのが、去年(2016年)公開された、映画「帰ってきたヒトラー」である。

映画『帰ってきたヒトラー』予告編


映画レビュー「帰ってきたヒトラー」あなたは最後まで笑っていられるか

この映画の前半部分は、自分が未来にタイムスリップしたということが呑み込めないヒトラーと、現代のドイツ人との”ちぐはぐ”なやりとりが笑いを誘う、コメディーとなっている。しかし、「ヒトラーそっくりのモノマネ芸人」として一躍有名になり、テレビ・メディアで引っ張りだことなったヒトラーは、ドイツ人大衆が失業問題や、移民問題に不満を持っていることを見抜く。そしてこの状況は、自分が権力を握った1930年代とそっくりであることに気づいたヒトラーは、次第に政治活動を開始し、着実にドイツ国内に支持を広げていくという、後半では笑えないどころか、ある種の”怖さ”さえ感じてしまう構成になっている。

映画の終盤でヒトラーは言う「私は君たちの一部だ」。これは人間には、「日ごろ抱えている問題や不平・不満などを、誰か強力な指導者に解決して欲しい」といった願望や、「自分たちの生活が苦しいのは、国内で働く外国人たちだ」などどいった感情が常にあり、その願望や感情を体現してくれる人物、すなわち”独裁者”を常に求める傾向がある、ということを暗示しているように思われる。その意味では、ヒトラーは私たちの中に存在し、彼が”帰ってくる”日が来るかもしれないというのは、まったくの絵空事ではないかもしれない。

尚、ヒトラーについてもっと知りたいという方には、水木しげる氏「劇画ヒトラー」をお勧めしたい。
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