久しぶりに書きました。
くっつく前の二人で、レインさん攻めてますw

短いのですが、良かったら。
【リコリスと恋心】


隠し事ひとつできない。
ーーここでの、私は。

幸いこの部屋には、簡単な調理ならば可能なミニキッチンが備わっていて。
他の部屋には当たり前のようにある監視カメラだってない。
ここは、不安定な信用関係のもと成り立つ、唯一の良心。
隠れ場のように。簡単に逃げ込める、鳥籠。

キングの愛するクイーンである九楼撫子は、裏切ることを知らない。
【CLOCK ZERO】という鳥籠の中であれば、ある程度の自由は許される。
ため息を深々とひとつ。何もわかっていない。
キングーー鷹斗が、あの深い瞳に映しているのはいったい誰なのだろう。
わからない。いや、わかっているけれど。
わかりたくないというのが、本心に他ならない。
たぶん、生涯を通しても鷹斗を心から知りたいと思うことはないし、
そんな機会はおそらく訪れない。
ーー私は、いつかここから出ていくわ。
羽根を切られたわけではない。切られたふりをし続けているだけ。
ケージの鍵が閉まっていないのなら。
いつだって、どこかへ飛んでいける。

ーーだって、鷹斗が本当に欲しかったのは、私じゃないのだから。

***

「今年は、作らなくてもいいんじゃないかしら」
限りある貴重な材料を調達してもらってまで、作ることに何の意味があるのだろう。
首を傾げながら、ーーそれでも。
ミニキッチンに並ぶのは、チョコレート、ナッツ類、湯煎用の鍋、計量スプーン
など。
簡単なカップケーキくらいなら作れる薄力粉、砂糖の類も揃っている。
「はぁ……」
この日、二度目のため息を吐き出して。
いつの間にか、背後から誰かがやってきて、文句を言う前に目を覆い隠される。
甘い匂い。白衣のポケットかどこかに、お菓子を隠し持っているに違いない。
ほんの少し、薬品混じりの芳香が鼻先をそっと掠めていく。
が、不思議と私はその匂いが嫌いではなかった。
「だーれだ」
「……あなた、バカでしょう?」
いつも少しだけ間延びしてはいても基本敬語な彼には、珍しい問いかけで。
まあ、テンプレ通りの行為ではあるのだけど。
砕けた口調が、新鮮にも思えて。
一瞬動揺したのは、ここだけの秘密、だ。
「うわ、酷いですよー! 少しくらいノッてくれたって……」
「私、この時期は入らないでって言ってあったと思うのだけど。レイン」
「え、そんな張り紙なんてなかったですよ」
「……口頭で、言ってあったの」
確かに、去年は張り紙していたことがあった。
今更蒸し返すなんて、と恨めしく思いながら、覆われた手をやんわりと外す。
それからゆっくりと振り返り、改めて正面の人物と対峙する。
とっくに青年と呼べる年齢なのに少し童顔で、これで今年26歳になるというのだから、
にわかには信じられない。
同世代か、それよりも少しだけ幼い。中性的な容姿をしている。
綺麗な外国製の人形のようで、ドキドキする。
ビビッドピンクの瞳は、覗き込むと吸い込まれてしまいそうなほどに美しく、
そして、ほんの少し畏怖を覚える。
「え、そうでしたっけー?」
「……まあ、誰も入って来ないわよ。……あなた以外はね」
「あははー、それもそうですよねー。あ、材料は足りてますかね?」
本題はそれでした、と。明らかに付け加えたような言葉が添えられて。
先ほどより、距離が縮まったようにも思えて、心臓がどくんと高鳴って。
心臓は勝手に過敏な反応を見せるのだから、堪らない。
きっと、私はどうかしている。与えられた環境に嫌気が差している筈なのに。
心のどこかで、期待している。愚かで、滑稽で。
どうしようもなく、揺さぶられる。ーー目の前の、存在に。
「だ、大丈夫よ。それより、そろそろ出ていって欲しいのだけど……」
息苦しい。目が離せないのに。つい背けてしまいたくなる。
愉悦を含んだ笑み。いったい何がおかしいのだろう。
無性に腹立たしい。
自分だけが、いつも振り回される。レインのことが、私は。ーー


ミトメテハイケナイ。
ヤメタホウガ、ミノタメ。

ワカッテル。
ーーワカッテイル、ノニ。


惚けている間に、レインの指先には調理用チョコの欠片があって。
つまみ食いなんて、行儀が悪いわ。
やっとの思いで言葉を吐き出す。
綺麗な、華奢なようでそれでいて、男の人の指。
つまみ上げて、口元に運ぶその仕草が、やけに艶めいていて。
……どうしよう。心臓おかしくなりそう。
声音も常より低くて、おどけた感じも微塵もなくて。
ひたすら鼓膜を震わせる。垂れ流す。疼く、胸の内。
「レイン」
「……撫子くんのチョコ、楽しみにしていますねー」
甘い、甘い。その暴力的な甘さが、舌先にのる。
逃げられない。逃げるなんて、選択肢はそもそもない。
「待ちきれなくて、つい……ね?」
「レイ、ん……ふ、」
そういって、口移しで与えられる。何度も、何度も。
やがて、チョコの甘さが口の中から消えても。
レインは、私を翻弄し続けた。
角度を変えて、息もできないほど、近くで。
一心に囁かれる、毒のような睦言。
うっかり信じてしまいそうな、ほど。
心地の良い、誘惑。溺れきる。
このまま意識を委ねてしまいそうになる。

ーーああ。キスが、甘いだけなんて嘘だわ。


(だって、こんなにも甘くて苦い)


end.



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レイ撫でした。ホワイトデー話も、たぶん書きますw

2014.02.14 うれしのなつめ