いや、何か冠の並びが凄いな・・・。
前作『ザ・セル』は映像は凄いんだけど、物語が今ひとつで、やたら長いPVを観ているような印象しかなかったんだけど、まぁでもやっぱ映像は本当に格好よくて、何よりも石岡瑛子の手がけた衣装が涎が出るほど凄くて。
石岡瑛子ってそれまで名前しか知らなかったんだけど、この映画をきっかけに凄く興味をもって写真集を探してみたら、もうページを開くたびにドキドキしちゃうの。この人の手がける衣装って奇抜だし退廃的でグロテスクなところがあるんだけど、それでも(それ故に?)人を惹きつける魔力のような美しさを持っていると思う。
閑話休題。『落下の王国』です。

まず、映像に鳥肌が立つ。刻まれているのは、地球という惑星の持つ幻想的な美しさと、人類が築き上げた壮大な文明の足跡。それらが監督の美意識というフィルターを通して絵画的な趣で映し出される。
そしてベートーヴェンの交響曲第七番が印象的な音楽や、石岡瑛子による衣装が、映画にオペラ的ともいえる優雅で豪華な印象を付与する。

でももし、この映画をストーリーの表面だけをなぞったような見方をしていたなら、圧倒的な映像美だけを印象にとどめるに過ぎなかったかもしれない。この映画のキモは、ストーリーによって語られた何かではなく、映像と音によって語られた何かだと思う。それは上記の映像美の話ではない。この映画は映像と音によって「物語の原始の有様」を描こうとする。
「一人の青年が少女に即興で作り上げた物語を話して聞かせる」という大枠をもったこの映画では、話し手である青年が、聞き手である少女との係わり合いなの中で物語の内容を変化させていく。物語世界を構成する人物やイメージは少女の頭の中で展開されているが故に、少女の周りにいる人物、少女の経験を反映したものなっている。
この映画は、映画はおろか小説すらない時代、物語は話し手の口から生まれ、聞き手の頭の中で育ち、両者の関係性の中で多様に変化していったはずだという考えを、映画という表現方法でしかなし得ないやり方で描いてみせた。
ファンタジー映画としてのスペクタクルは弱い。ヒューマンドラマとしての感動にも欠ける。でも、ただ映像と音による美しく知的な表現がある。

