あの平尾さんは天国でこの試合を見てくれたのだろうか。
私はスポーツ観戦は趣味だし、サッカーも野球も大好きだ。
素晴らしいスポーツだと思う。
そしてラグビーだが、それとは異質な魅力を感じている。
そんな話を還暦の私は、息子が高校強豪チームに所属している母親に話したら、
先生がやればどうですか?などと言われてしまったが、
そうだね、出来ればやってみたかった。でも、健康上の理由で実現は可能ではなかった。
人の身体は借り物である。
生まれつきの健康や体格はどうにもならない。
でも青春の一定の時間を過ごすには、ラグビーは魅力的だ。
魅力はノーサイドを迎えた一瞬に最も顕著だ。
あの「スクールウォーズ」に登場するイソップことフーローが
虚弱で死を覚悟してもラグビー部に入部したかった理由が、そこにある。
オールフォアワン。ワンフォアオール。
控え選手、チームスタッフも含めて、オールジャパンは1つだった。
こんなスポーツは他にはないだろう。
………………
大阪の花園ラグビー場に試合終了の笛が鳴る。
私はスポーツ観戦は趣味だし、サッカーも野球も大好きだ。
素晴らしいスポーツだと思う。
そしてラグビーだが、それとは異質な魅力を感じている。
そんな話を還暦の私は、息子が高校強豪チームに所属している母親に話したら、
先生がやればどうですか?などと言われてしまったが、
そうだね、出来ればやってみたかった。でも、健康上の理由で実現は可能ではなかった。
人の身体は借り物である。
生まれつきの健康や体格はどうにもならない。
でも青春の一定の時間を過ごすには、ラグビーは魅力的だ。
魅力はノーサイドを迎えた一瞬に最も顕著だ。
あの「スクールウォーズ」に登場するイソップことフーローが
虚弱で死を覚悟してもラグビー部に入部したかった理由が、そこにある。
オールフォアワン。ワンフォアオール。
控え選手、チームスタッフも含めて、オールジャパンは1つだった。
こんなスポーツは他にはないだろう。
………………
大阪の花園ラグビー場に試合終了の笛が鳴る。
「KS」くんが、左ウイングとして出場した岡工は、
1回戦で岡山県代表の津山工業を大差で破って勝ち上がり、
大阪代表の淀川工業との2回戦を同点で引き分けた。
あの年、岡谷工業高校は長野県予選を他校を
全く寄せ付けない力で勝ち上がり、
そのままの勢いで全国大会に臨んでいた。
自慢の重量フォワードと俊足の両ウイングを有したチーム力は、
岡工ラグービー部史上、屈指の戦力だった。
KSくんは中学3年生の夏期講習から塾に来た。
初対面で「KSくんだね。じゃあ、Kちゃんと呼ぼうかな」
と言った私の顔を彼は鋭い眼光で睨み返してきた。
あるとき、こんな事件があった。
秋も終わりの寒い日に、彼は真っ赤な顔をして塾にやってきた。
ろれつが回らない。
明らかに酒に酔っている。しかも相当に。
彼は学校では無口らしかったが、その時は雄弁だった。
「悪友のところに集まっていて酒を断れなかった」
「団地内を何周かランニングしてきた」
「ランニングして酒を醒まそうとした」とも。
とにかく彼は良くしゃべった。
そんな状況でも彼は塾に勉強しに来た。
だから今日のことは不問に付そう、私はそう思った。
彼は体格こそ175cm程度であったが、
スポーツ万能の運動神経と鋭い目つきで恐れられていたらしい。
同級生を一睨みで泣かせてしまった話や、
隣町の中学生から呼び出しを受けて一人で乗り込んでいったら、
相手がみんな逃げてしまった話や、
同学年の生徒をバスの停留所の支柱に括り付けて放置した…
そんな話を人づてに聞いていた。
そんな彼だったが、
同級生の女の子が言うには、
「学校ではいつも威張っていて恐いけど、塾では笑顔で気持ち悪い」と。どうやら塾では別人になるらしい。
冬が来て、いよいよ進路を決めなければならない時期になった。
Kくんは岡谷南高校への進学を希望していた。
岡谷南はそれなりに学力が必要な高校だが、
彼には合格圏内の学力はある。
「岡谷南に入って勉強したいのか?」という私に、
「勉強は嫌いだ。岡谷南で野球を続けたい」という。
「だったら岡谷工業はどうかな?」
「岡工で野球ですか?」
「いや、ラグビーだよ。君の運動能力や性格はラグビーに向いている んじゃないかな。
それに、岡工なら花園の全国大会に出られると思うよ」
「じゃあ、もしオレが花園に出たら、先生は応援にきてくれる?」
「ああ、絶対にいく」
「それならオレ、岡工にする。岡工でラグビーをやりたい」
そして私は彼との約束を3年後に果たすことになる。
1回戦の津山工業戦の応援は
大雪で高速道路が閉鎖されて行けなかった。
そして2回戦、
暗いうちに家を出た私は花園ラグビー場にやってきた。
試合開始一時間前のグラウンドに降りて、
ゴールを見上げていた私の横を岡工の選手が通り過ぎていく。
居た。Kくんだ。
「K!」
彼は私の方に鋭い視線を送ってきた。
気迫が全身から溢れていて恐い。
「おう、先生、来てくれたんだ!」
彼はそう言うと柔和な微笑みをみせた。
「K! 勝てよ!」
「おう、絶対に勝つ!!」
彼はそう言うと短距離の選手のように全力で疾走して行った。
試合中に野球やサッカーのような黄色い声援は一切なかった。
低音でドスの効いた「おーかーこー」の応援しか聞こえない。
重量フォワードの激突、モール。俊足のウイングをタックルが襲う。
倒された選手から別の選手へとボールが託される。
実力者同士が全力でぶつかる、すごい試合だった。
見ているだけで背筋が寒くなった。
彼らを走らせているものは度胸ではない。勇気だ!
試合は終わった。
ラグビーには延長がないために、抽選で勝ち上がる学校を決める。
抽選くじの結果、3回戦に進むことができたのは淀川工業で、
岡工は涙をのんだ…。
私は…ひたすら高速道路をぶっとばし、
時々「あー!」「くそー!」と激しい言葉をぶつけながら
帰路についていった。
後日。
高校を卒業した彼は、穂高のワサビ漬けを持参して塾を訪れた。
「先生、就職が決まりましたので報告にきました」
「どこに就職したの?」
「C電力です。オレ、ラグビーやってなかったらC電には入れなかったと思います」
さらに数年後。
彼の結婚式に招待された私が会場で見たものは…。
いやはや、近づきたくない猛者の集団で会場はいっぱい、いっぱい。
みーんな、あの時のラグビー部の連中だ。(笑)




