ウエルカム5
未知なる経験は幕を開け
矢尾板はお決まりの自己韜晦術で身を守り
焦点の定まらない認知症的な視線
はたまためずらしい動物を見るような好奇な視線に、
パーキンソン病特有の無表情で応え
何とか数年ぶりのエクササイズをこなした
運動量的にどうであったか覚えもない
運動前のバイタルチェックで
何故かすでに血圧は振り切れていた
異次元空間遊泳の困惑と疲労で
ぐったりと押し黙る矢尾板は
いつしか帰りの車の中
若い女性スタッフの運転する送迎車には
割とはっきりした物言いをされるがそれがとても愛らしい女性と
ニコリともせず
終始イヤホーンで携帯ラジオを聞かれている男性のお二人。
女同士の会話はかみ合わず
ただ押し黙ったきりの男二人
とはいえ
春先のぬったりした風のように
車中は妙なハイ状態であった
一番最初に
家に送っていいただいた矢尾板が
鍵をあけるのも億劫に
ぼんやり車を見送っていると
ゆらゆらと
ひらひらと
動くものがある
なんだろうと目をこらすと
スモークガラスの陰で
手をゆっくりと振られるお二人が見えた
ゆらゆらゆらと海藻のように
一瞬理解できず
自分の知らない老人特有の発作でも出たのかと思っていると
ストンと何かが胸に落ちた
ああ、そうなのか
バイバイしてくれているんだ
如才のない矢尾板はすぐさま
ばいばい
女性の方はまだしも
件の男性も怒ったような顔のまま
さらにバイバイ
?
当惑とともに一閃の光が走る。
ああ、受け入れてくれたんだ。
今日から仲間だよー
のバイバイ
今日から仲間なんだよなー
のばいばい
ずんとくる
介護社交界へのデビューであった
ナンナンなん病。
矢尾板拓也
パーキンソン病 ヤールⅢ 要介護2
パーキンソン病との葛藤をまとめたホームページ
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