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2021年09月

南アルプスグレートトラバース 塩見・蝙蝠・大井川西俣遡行

 南アルプスの蝙蝠岳は塩見岳から南東方向に見える標高2,865mのピラミダルな山容で、北俣岳から延びる蝙蝠尾根は主稜線から外れているため、余程健脚者でないと先を急いでスルーされる山です。今から49年前の高校時代の夏山合宿で、三伏峠から北岳まで縦走した時に蝙蝠岳までピストンする予定だったのですが、往復4時間を要すため時間がなく、次の幕営地の熊の平に向かったのでした。それ以来、塩見岳には5、6回登っているのですが、蝙蝠岳まで行こうという気は湧きませんでした。
 そんな折、私の住む飯田市座光寺地区もリニア新幹線飯田駅が近くに出来ることもあり、道路拡幅や立ち退きでお店や住宅が取り壊されており、当初2027年開業と言われていたのに工事は遅れております。水問題に揺れる静岡県のリニア工事の拠点となる二軒小屋とはどんな所か見に行きたいという気持ちが高まり、それなら赤石山脈を越えて静岡県に下り、また登って帰って来ようと、今回の計画に至りました。
 コースは、   1日目(8/27)  大鹿村鳥倉林道~三伏峠~塩見岳~蝙蝠尾根分岐
                    (ビバーク) 
           2日目(8/28) 分岐~北俣岳~蝙蝠岳~徳右衛門岳~大井川東俣
                    ~二軒小屋(幕営)
           3日目(8/29)   二軒小屋~大井川西俣~小西俣出合~三伏沢
                    ~三伏峠~鳥倉P
 30年程前に三伏沢から西俣上流部を小西俣まで下り、戻って来た経験があったので、行ける自信はありました。

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塩見岳天狗岩付近の赤色チャートの岩  2021.8.27  13:04

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塩見岳西峰(3,047m) 険しくガラ場が多い 13:24

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赤石山脈の名前の由来の赤色チャートの大岩と奥は間ノ岳 13:39

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下山して来た登山者とすれ違う  西峰への途中  13:55

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塩見岳 左が西峰3,047m  奥が東峰3,052m    14:20

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富士山と蝙蝠岳2,865m  走って行けそうに見える蝙蝠尾根だが 16:29

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左から間ノ岳3,190m  西農鳥岳3,051m 農鳥岳3,026m       17:47

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黄昏の仙丈ヶ岳3,033m左と甲斐駒ケ岳2,967m    18:20

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塩見岳山頂の星空  稜線は風が強くフリースの上にヤッケでも震える 20:12

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富士山上空に現れたオリオン座 2021.8.28  2:21
フルサイズ一眼は持って行けず、SONY RX100Ⅶにて撮影

【二日目】

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朝日に染まる塩見岳 北俣岳から撮影  2021.8.28  5:01

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蝙蝠尾根を行く  5:56

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蝙蝠岳山頂   7:00

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富士山にはトリカブトがよく似合う? 東俣への下り途中 9:12
塩見小屋からの稜線は水場が無く、この下でようやく水を補給できた。

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                    ようやく大井川東俣に下りれた  13:13
 蝙蝠岳から下り始めて6時間はきつい。途中で登って来る一人に出会うのみ。こんな長い急登を登るのは拷問のようなものだ。いかに蝙蝠岳が行きにくい山か。

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下山地点から1km下にある二軒小屋地点 JR作業員の宿舎か? 13:52
この奥に東海フォレストの井川事務所がある。

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 二軒小屋ロッジ 東海フォレストがJRに貸しているため休業中。リニア工事完成後に東海フォレストに返すという事だが、いつになるか?それまで以前のような登山者を運ぶリムジンバスの運行は椹島までとのことだが、二軒小屋までの運行はどうなる?畑薙ダム駐車場から距離にして27km、歩いて来る強者はいないだろう。近くに千枚岳から荒川岳への登山口があるが、山梨県側から転付峠を越えて来そうである。

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               二軒小屋から200m程上にある田代ダム   14:15
 ここは東京電力が1928年から運用開始しており、この水は毎秒4.99tが山梨県の田代発電所に送られ、富士川に流されている。水問題を主張する静岡県にとっては、あまり知られたくないダムだ。

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 西俣に入り林道を歩く 振り返って見ればよくこんな所に道を開けたものだと思う。リニア工事の資材運搬車が通る道となる。落石防止のネットが破れ、落石がガードレールを破っている箇所もあった。  15:37


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二軒小屋発電所 二軒小屋ゲートから約2km上流  15:55

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                    左側の唐松林は残土の仮置場予定地  16:05
本坑の残土は西俣斜坑付近から二軒小屋より下流にある扇沢残土置場まで運搬用トンネルを開け、運ばれる。

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西俣に架かる橋 大雨が降れば簡単に流されそうだ  16:15

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今年の盆の大雨で崩れたと思える 大量の土砂で埋まったようだ  16:57


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南アルプストンネル坑口現場 西俣ヤード予定地宿舎も建設される
  16:58
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                 斜坑坑口の手前にある輸送用トンネル坑口   16:58
後で分かったが、林道が崩落の危険があるため、ここからトンネルを二軒小屋よりもまだ下にある千石非常口まで開け、燕沢残土置場に運ぶという途方もない計画に驚きだ。

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斜坑と運搬用トンネルの2本を掘る予定地  17:03


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二軒小屋ゲートから約4kmの地点、ここで林道は終点 17:25
そろそろ広い処を見つけ幕営に入ろう。二軒小屋からだいぶ距離を稼げた。

【三日目】

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左岸にダム工事に使われた廃道がありこれを進む 2021.8.29  5:22

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新蛇抜沢を渡渉 崩落と浮石に悩ませられる  5:42

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小西俣出合いのダム建設に使われたと思われるヤンマー発動機  6:06

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小西俣出合にあるダム 下流の二軒小屋発電所の取水口 6:14
この発電所は1995年に発電開始で、西俣の中間地点

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            左が本流、右が小西俣 ダム堰堤より上流は禁漁区域  6:28
 密漁者の宴の跡か?リニアは小西俣上流の地下を通る予定。30年程前に三伏峠から来た時は、まだ堰堤は造られてなかった。

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三伏沢を目指してまだ約6km  6:34

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 上流に向かって左岸に歩いた跡を探すが、浮石だらけでつかまる木も無く、落ちたら最後の覚悟でトラバスして通過する。30年前に友達と小西俣まで下り、ここを引き返しているのだが、当時より崩壊が酷く予想外であった。なんとか昼頃には三伏峠に着きたい。  8:32

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             高巻きは危険と判断し河原を行くが、距離を稼げない  10:13
 緑色岩?や赤色チャートが上流に向かって右岸には見受けられたが、左岸は異質の砂岩のようだ。

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緑色チャートと赤色チャートが混在している岩 10:25

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             縞模様の岩 石灰岩とチャートで積み重なっている 11:02
 飯田市上村中郷にある天然記念物の「流宮岩」のようである。海底にサンゴ、有孔虫が堆積し石灰岩となり、さらに放散虫、珪藻、海綿等が堆積しチャートが形成されリズミカルに堆積し、プレートによって押されてきたとされる。

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 右奥の尾根は塩見岳から南に延びる北俣尾根で、大崩壊し堆積土石が数メートルにもなっている。11:53

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もう少し上流の北俣尾根の正面 土石の堆積が4~5mはありそう 12:27

 
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東海パルプ時代に木を吊り上げたと思われる架線 14:34

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 無事に三伏沢小屋跡までたどり着く 奥は塩見への途中の本谷山 16:25
 以前は水も流れ、テント場だったのに今は当時の面影も消えつつある。高校3年の夏山合宿はここにテントを張って、荒川方面に縦走したのだった。2年の時は塩見から北岳へと縦走し、甲府へ下りたのだった。三伏峠には職場の仲間やかみさん、息子、山仲間、単独を含めざっと数えて20回くらい来ている。私の登山の原点はここにあると言っても過言ではない。

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 ようやく三伏峠に到着 ここからの塩見岳はいつ来ても感動する。  16:54
 小西俣より1時間下流の幕営場所から12時間を要して西俣を征服、二軒小屋ゲートからだと実に14時間を費やしたことになります。西俣遡上が予想以上に時間が掛かってしまい、三伏峠から鳥倉駐車場まで3時間半はかかるため、自宅に連絡しもう一泊することに。前日の蝙蝠岳を過ぎてからは携帯電話が圏外となり、三伏峠まで来てやっと3本柱が立ちました。携帯は便利ですが、電波が届かないと余計に心配されてしまうのが困ります。
                             【四日目】

 朝すぐに帰るのも勿体ないと思い、ガスってはいましたが烏帽子岳まで空身で行って来ました。山頂で霧が晴れるのを待ったのですが晴れそうになく諦めました。

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サラシナショウマの花が疲れを癒してくれる 鳥倉林道へ下る途中で  2021.8.30   10:40


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                       鳥倉林道夕立神からの南ア稜線  13:00
 リニアは真ん中の小河内岳と右側の大日影山の間の地下1,400mを走る予定

 今回の山行は天候をみて、このチャンスしかないと思い切りました。体力的にも毎日3日続けて12時間以上の行動は厳しいです。それに携帯電話が圏外で、ちょっと捻挫したくらいでも動けなくなったら頼るのは自分だけです。もう年齢を考え行動しないといけない歳にきました。

 私の住んでいる飯田市座光寺はリニア新幹線の飯田駅が建設されるため、既に店の移転や道路拡幅工事が進められております。地元産業界や住民のリニアに対する期待感は強く、飯田信金のリニアレポートのアンケートでは約8割が期待すると回答しております。新型コロナ蔓延で、リモート会議が出来る時代になり、人の移動をしなくても済むようになって来ておりますが、アンケートに答えた77%が、コロナ前とリニアへの期待は変らないと回答しております。アンケート先に企業が多いのも、こうした結果となっていると感じます。
 当初の開業予定は2027年でしたが、今の進捗状況から絶対に無理です。JRは静岡県が許可しないためとしておりますが、どうもそれだけではなく、各地で工事が相当遅れているようです。
 静岡県側は畑薙ダムから工事拠点となる二軒小屋までの林道が近年毎年崩落し、今年7月まで通行止で、現在舗装工事をしているようです。私が歩いた西俣林道は未舗装で、断崖絶壁からいつ落石や崩落があってもおかしくない危険な道です。ホントにダンプが通るんですかね?と思える林道ですが、リニアのために岸壁の防護、吹き付け、舗装をやり、2、3年後には変ってしまっていると思いますが、災害とのイタチゴッコになるのは必至です。
 さて、リニア開業はいつになるのか?それよりホントに出来るのか?現地に行って見て後者の方の気持ちが上まわっております。静岡区間は約10.7kmで、西俣から本坑を掘るための斜坑を2本掘ります。山梨県側の方が低いため、水を抜くために山梨県側から1kmと長野県側からも700m掘ってくるようです。大鹿村での平均掘削速度は月進41mということで、年間約500mで計算すると斜坑、本坑に10~13年、ガイドウェイ、試運転に2年、これに静岡県の許可までの時間を加算すれば早くても15年先です。水害、事故、掘ってみなけりゃ分からないと言われる地質を考えれば工事中断も有り得ると思います。南アルプスは年間に平均4mmほど隆起しているのです。
 私が心配するのは、駅予定地周辺や道路拡幅のために住居を立ち退かなくてはならない人たちが大勢いることです。店も既に移転を始めております。市や県のお役人はリニア開業がいつになると思っているのでしょうか?国鉄中津川線の二の舞にならなければよいが。整備したけどリニアは来なかったとなった場合、誰が責任を取るのか?その頃は関わった人たちは退職しており、優雅な年金生活を送っていることでしょう。










      


papawakaipapawakai  at 21:52コメント(5) この記事をクリップ!