2009年12月14日
カールじいさんの空飛ぶ家
君との約束を守るため僕は今から旅に出る__この冬、ディズニー/ピクサーが贈る最新作は、風船のついた家で空へ飛び立ったガンコじいさんの物語。
ラブストーリー、アドベンチャー、アクション、ヒューマンドラマ、すべての要素がここに詰まっています。
物語:幼馴染だった愛妻エリーに先立たれ、今や妻との思い出がたっぷりと詰まったオンボロな一軒家にひとりで暮らしている78歳のカール。
周囲も開発が進んでビルが立ち並び、カールの家は立ち退きを迫られている状態だ。
そんな中、工事関係者とトラブルを起こし、老人ホーム行きを免れない状態に。
そこでカールは、家を大量の風船で浮かび上がらせ、エリートの夢であった南米への旅、ベネズエラにある秘境パラダイスフォール(楽園の滝)へと旅立っていく。
ところがこの旅には思わぬ参加者が、小太りな少年ラッセルがたまたま飛び立つ寸前のカールの家を訪れていたために、そのまま同行することになってしまったのだ。
けれどもやがてラッセルの生い立ちを聞いたりするうちに、カールとラッセルには不思議な絆が生まれていく。かくしてようやくベネズエラに到着したカールたちは、人間の言葉を話す犬や幻の怪鳥、そしてカールの憧れであった冒険家チャールズ・マンツと出会うなど、いろいろな出来事に遭遇。
やがて思わぬ事態に巻き込まれていく。(作品資料より)
<感想>「トイ・ストーリー」、「ファインディング・ニモ」などヒット・アニメを生むディズニー/ピクサーの10作目。
「モンスターズ・インク」で不気味であるはずのモンスターたちと幼い少女の交流をハートフルに描いたピート・ドクター監督らしく、今回も可愛げない頑固なおじいさんを主役にしつつ、最高に心温まる作品に仕上げている。
他のスタジオなら確実に「ボツ。次のを考えて」と言われそうな、風船で家ごと持ち上げて南米への冒険旅行に出るという展開を、観客に「あり得ない」と思わせずに堂々とやりきってしまっているのもさすがですね。
また本作は、ピクサーにとっても初の3Dデジタルアニメでもあるし、変に仕掛けで飛び出す映像を見せるのではなく、より自然美などを浮かびあがらせるようなタッチで作り上げているのもお見事。
とてもファンタスティックでありながら、ユーモアのセンスもたっぷりと、涙あふれる展開もびっしりと詰めこまれた老若男女誰もが楽しめる傑作に仕上がっている。
そもそもカールとエリーは子供の頃に出会った。
2人とも冒険が大好きだがカールは無口でシャイ、エリーはやんちゃで陽気でカールとは真逆な性格だ。
そんな2人が次第に成長して、恋に落ち、結婚する様をスケッチのように冒頭で綴っていく。南米行きの旅費を貯めつつ、トラブルでその貯金を失った様や、実はエリーに原因があって2人に子供ができなくなったいきさつなど、2人の人生がしっかり描かれていてかなり泣けること間違いないです。
物語のベースはカールじいさんの亡き妻への愛情なのだが、湿っぽい回想シーンを長々と挟まず、スナップ写真などアイテムでさらりと“思い出”の尊さや切なさを表現したドラマは、まさに大人の味わいですね。
そうしたディテールが実に繊細なため、カールじいさんと妻エリーとの記憶が宿った家具を捨ててまで家を空へと浮上させるシーンでは、家が浮く瞬間からは、何度もウワ〜っと声を上げる驚きが連続する。もう、ここだけで充分に泣けるんですね。
色とりどりの風船にぶら下がった家が、高層ビルの谷間を抜けて飛んで行く光景の美しさ、ここで見られる風船の数はなんと20622個。
目的地の南米にある伝説の滝付近の神秘的な光景に、思わず息をのむ。
それに、なぜか家に乗り込んでいた8歳の少年ラッセルに、最初は辟易していたものの、一緒に旅を続けていくうちに心を通わせていく姿が胸を打ちます。
そして、彼らに次々と襲いかかる危機は、スリルたっぷりでドキドキが止まりませんね。
南米についたカールたちを迎えるのが、カートゥーン(漫画映画)らしいユニークな動物キャラたち。
特に傑作なのは、鼻が大きく、自動犬語翻訳機のおかげで人間としゃべれるようになっている犬のダグ。
テニスボールとリスに目がない彼の言動はキュートですから。
ちなみに、ダグの声は共同監督のボブ・ピータースンが担当しているそうですよ。
また3メートル以上もあるカラフルな怪鳥(ケヴィン)も、軽快な動きとキョトンとした目と表情の面白さで笑わせてくれる。
底流に妻エリーへの尽きせぬ思いが流れつつ、冒険のワクワク感、正義や優しさなどのエピソードに心が熱くなること間違いありません。そして深いテーマに、最高にハッピーな気分にしてくれる満足な作品です。
追記:同時上映の『晴れ、ときどきくもり』
コウノトリの秘密を明らかにした短編映画で、曇りの雲とオチコボレのコウノトリの間のハートウォームなやりとりが面白かったです。