東京島ダブル・ミッション

2010年09月03日

キャタピラー3

キャタピラー、タイトル1960年代の日米安保反対闘争から72年のあさま山荘での銃撃戦へと至るあの時代、若者たちの生き様を描いた『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』から2年。静かな田園風景の中で、1組の夫婦を通して戦争の愚かさと悲しみを描く、若松孝二監督の新境地と言える作品が完成。

シゲ子を演じるのは、『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』の寺島しのぶ。本作で、第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した。夫の黒川久蔵には大西信満、脚本は黒沢久子・出口出。

物語:一銭五厘の赤紙1枚で召集される男たち。シゲ子の夫・久蔵も盛大に見送られ、勇ましく戦場へと出征していった。しかしシゲ子の元に帰ってきた久蔵は、顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿であった。

村中から奇異の眼を向けられながらも、多くの勲章を胸に、“生ける軍神”と祀り上げられる久蔵。四肢を失っても衰えることの無い久蔵の旺盛な食欲と性欲に、シゲ子は戸惑いつつも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くしていく。

四肢を失い、言葉を失ってもなお、自らを讃えた新聞記事や、勲章を誇りにしている久蔵の姿に、やがてシゲ子は空虚なものを感じ始める。
敗戦が色濃くなっていく中、久蔵の脳裏に忘れかけていた戦場での風景が蘇り始め、久蔵の中で何かが崩れ始めていく。そして、久蔵とシゲ子、それぞれに敗戦の日が訪れる……。(作品資料より)

キャタピラー、1<感想>かなり期待して観に行きました。ミニシアターでの上映ということもあってか連日満員御礼で、各回とも予備の椅子が出されチケットは完売状態。

猛暑にもかかわらず鑑賞している人は殆ど年配の方達である。戦争映画といえばそうかもしれませんが、この時代は戦争未亡人になっている方のほうは多いのではないでしょうか。

キャタピラー、4この映画の中でのシゲ子は、夫が戦争の犠牲者となり四肢を失い、言葉を失い芋虫のような状態で生ける屍となって帰って来た。

確かに未亡人にはならないで勲章を3つに“生ける軍神”様として村の誇りとして祀り上げられる夫の姿に、妻としてこれから先の生活をまるで赤ん坊のように世話をしなければならず、きっとシゲ子にしてみれば戦死してくれた方が良かったと思っていたに違いない。

それからのシゲ子の苦労はおのずと分り、四肢を失っても衰えることの無い久蔵の旺盛な食欲と性欲に、妻として逆らうわけにはいかない。そんなシゲ子が次第に心の変化が見えはじめる。

キャタピラー、5芋虫状態の夫、大きな声で罵っても聞こえずシゲ子の顔を睨み返す夫、村人に見せびらかすように久蔵をリヤカーに乗せて村を散歩する。

帰ると直ぐに飯を食わせ、それからいつものように「ご褒美」といって有無を言わずシゲ子の方が夫に跨る。自分の性欲を謳歌するようにそれはシゲ子の唯一の夫に対する抵抗だったのだろう。

戦争に行く前にさんざん夫から甚振られてきたシゲ子、戦争も終わりの頃、久蔵も次第に悪夢を見るようになる。それは戦地で女を暴行してきた夢で、とても残虐な行為でした。それが久蔵の脳裏にフラッシュバックし悩ませる。人間として戦争とはいえ自分がしてきた行いが残虐なことだと悔いているのだろうか。

キャタピラー、3多くの人間は戦争で自分の犯した罪を思い起こして反省するであろうか。戦争だからやむを得ないとあきらめているのではないか。

芋虫の体で帰って来た軍神は、自分の良心の呵責に苛まれ深刻な悩みに追いこまれた状態である。終戦が分ったのであろうか、軍神のとった最後は、ここに人間の良心を見出したような気持ちになった。この映画は、人間は正しく生きていかねばならぬという警告を与えているのでしょう。

中でも度々登場する女の着物を着た篠原勝之が扮した役がらは、村人が「戦争が起こるたびに馬鹿になりおって」と疎まれる人物像には、何だか嫌な気分にはならなかった。
こういう世の中だからこそ、不謹慎かもしれないが馬鹿にでもなって知らぬ存ぜぬとあっけらかんな人間も必要なのであろう。

映画の最後に、久しぶりにキノコ雲を見た。広島と長崎に落された原子爆弾。そして犠牲者の数、今もまだ何処かの国で、同じ過ちを繰り返しているこの世界に憤りを感じるのには十分だろう。

 



papikosachimama at 15:53│ 2010年劇場公開作品、鑑賞 | か行・が行の映画

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