January 05, 2010

ウルトラミラクルラブストーリー …★★★★★★☆

私的幻想的現実的評価 … ★★★★★★☆

2009年
監督・脚本:横浜聡子
出演:松山ケンイチ、麻生久未子、ノゾエ征爾、ARATA、原田芳雄、渡辺美佐子、藤田弓子 他

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誘われて観に行った本作。
前情報一切ナシ。
主演が誰かも知らず、エンドクレジットで分かった次第。

先入観なしで映画を楽しめる、というのは、現代に於いて最早僥倖かもしれない。


美しいファンタジー、
そして「現実」という名の「毒」との狭間。



いやまじで、
とんとメディアについていけてない小生、
松山ケンイチっつったら、「L」しか出て来ないんですが。
だって椿三十郎観る気しなかったんだもん、
なんていうのは、言い訳にも何にもならない。ええ、わかります。

カンの良い、「憑きモノ型」の役者さんですね。
上手い、っつーか、ナチュラル。
良かったよ。

敬愛する堤真一もそうなんだけど、
こういう、ほんのり男前だったりそうでなかったりもして、
髪型一発でどうとでも雰囲気作れる男優というのは、
それだけで役者に向いてると思う。

さんざ薦められている「デトロイト・メタル・シティ」を観ねばと思った次第。


麻生久未子。
邦画界で引っ張りだこの彼女。
フムなるほど、って感じでしょうか。
ヴィジュアルと存在感の違いが見分けられなくなってる昨今、
いずれにしてもナイス配役。


ツボだったのは、藤田弓子。
カミサマかぁ〜ええ味出し過ぎやわぁ。
原田芳雄は原田芳雄だし、
渡辺美佐子は渡辺美佐子。
カタい。

ARATAの出演の仕方が面白かった。
つか、ARATAでなくてもいいじゃねーか。


 ****


さて。
どうでも良い事はとっとと済ませて、本題。
あ、ネタばれありね。
つかもうDVD化してるし。




「ウルトラミラクルラブストーリー」ですよ。
すげーじゃん。それだけで。
なんだ、aiko並みの言語センス。

タイトル通りの激甘スウィーツな映画。
な訳ねーじゃん、みたいな。

これだけで、ほんのりブラック、ちょっぴりシュール。



 ****



舞台は青森。
青森っつったら、リンゴより、イタコだよね?
あれ、なんか間違ってる?

監督が青森出身だから青森。
なんだろうけど、
イタコだよ、絶対。


生者と死者との距離感が、日本で一番近い土地。


そこに、
「死」、否、「生前」に囚われた女が、東京からやってくる。
そのこと自体が、必然なのだ。


その土地は、物語中終始、農作物の豊穣に彩られる。


そこで唐突に起こり続ける、
不可思議な「生」と、
リアルな「死」。


「生前」に囚われた女だからこそ、
「生と死の狭間」にいる男を、
まるで生態観察でもするかのように記録し続け、
「死」を、徹底的に「本当の死」に昇華する。


ここで、物語は環を成さず、
螺旋状に発散する。


その、大きなうねりの、ダイナミズム。



 ****



日常的に農薬を散布する、ヘリコプター。

その農薬が関与しているとの説もあるADHDと思しき、男。

彼の脳内で鳴り響き続ける、ヘリコプターの音。

画面から溢れ返る豊穣の地が、
彼の生まれ育ち、終の住処となる場所。
彼はそこから出られないし、出ようとも思わない、

否、旧友が東京へ行くのだと息巻くのに、
それを送りがてら自分も上京しそうになるのに、
引き返してきてしまう。

東京から来た女性を伴って。

彼の、徹底的に閉じられた世界では、執拗にヘリの羽音が鳴り響く。


その彼を、束の間の静寂へ追いやるのが、他でもない、農薬。



彼に、
自分の世界を変え、
そこから出ようとさせた、
まったく、
たったひとつの動機が、
「恋」だった。



彼は、農薬が人体に有害であることを、真に理解っていたのか?


しかし彼には、未来も理解も、どうでもいい。
彼の動機は、常に、「今」。

ただ、身体とともに在ること。
ただ、気持とともに在ること。



「今」に、究極的に在ることは、
脳の生死すらも超える。




そして、リアルな死は、首から下に在る。




 ****



「両思いになりたい」
と、繰り返す男。

「一緒にいるじゃない」
と、諭す女。



彼と彼女は、交差したのか。



 ****



死に際して、首を失った、昔の恋人。

「彼が何を考えていたのか」

という問いが、
まっすぐに、

「想いは脳の中にある」
というテーゼとして示される。


その恋人の名は、「要(かなめ)」。
彼こそが、結び目。



 ****



女とともに居て、歓びの絶頂の中で銃殺される男。
彼女が抱くのは、遺骨ではなく、彼の脳。
そして彼女が行うのは、脳を使った、子供との遊び。

あまりにも愉しそうに、
あまりにも無邪気に。




そして女が、身を守るために、
農薬づけの脳みそを熊に喰わせるとき。

そこで、愛は成就したのか?
男にとって?
女にとって?



 ****



青森という土地。


広大なその土地の、とあるひとつの町か村。

畑と田圃。
農協と町医者。
緩くも濃い、人々の繋がり。

イタコに話した私的な事情は
噂としてすんなりと共有される。

そこでも金は有効だし、
見守られ養われるべき子供達もいる。
両親がいなくとも、当たり前のように祖母が面倒を引き受ける。

障がいは障がいとして受け取られはせず、
理解という名の同情も、
誤解という名の理屈も存在しない。

大人になれば、嫁ごもらって身ぃ固めるのが、当たり前。



それらが生み、
それらを生む、
大地。



ここでは、禁忌(タブー)全てが相対化され、
子供に農薬をぶっかけられ。
葬式は宴会に。
脳みそは玩具に。



「剥き出しに生き、ハッピーに死ね」



 ****



情感豊かで、美しくも、画面の外まで喚起させる映像美。
絶妙なる配役。
微かに張り巡らされる伏線。
ふくいくとした遊び心。

そして、起こりえない物語のディティールに潜む、現実という名の毒。



非常に主観的に惜しむならば、
断片断片が、もう少し有機的な繋がりを感じさせてくれるものであってほしい。
その観点においてのみ、「成長」あるいは「行く先」を見ていたい。



そうでなければ……

ただ、そのとき、そのときの、この監督の「今」を見ていたい。
そう、思います。





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