ウルトラミラクルラブストーリー …★★★★★★☆
私的幻想的現実的評価 … ★★★★★★☆
2009年
監督・脚本:横浜聡子
出演:松山ケンイチ、麻生久未子、ノゾエ征爾、ARATA、原田芳雄、渡辺美佐子、藤田弓子 他
公式サイトは
コチラ。
誘われて観に行った本作。
前情報一切ナシ。
主演が誰かも知らず、エンドクレジットで分かった次第。
先入観なしで映画を楽しめる、というのは、現代に於いて最早僥倖かもしれない。
美しいファンタジー、
そして「現実」という名の「毒」との狭間。
いやまじで、
とんとメディアについていけてない小生、
松山ケンイチっつったら、「L」しか出て来ないんですが。
だって椿三十郎観る気しなかったんだもん、
なんていうのは、言い訳にも何にもならない。ええ、わかります。
カンの良い、「憑きモノ型」の役者さんですね。
上手い、っつーか、ナチュラル。
良かったよ。
敬愛する堤真一もそうなんだけど、
こういう、ほんのり男前だったりそうでなかったりもして、
髪型一発でどうとでも雰囲気作れる男優というのは、
それだけで役者に向いてると思う。
さんざ薦められている「デトロイト・メタル・シティ」を観ねばと思った次第。
麻生久未子。
邦画界で引っ張りだこの彼女。
フムなるほど、って感じでしょうか。
ヴィジュアルと存在感の違いが見分けられなくなってる昨今、
いずれにしてもナイス配役。
ツボだったのは、藤田弓子。
カミサマかぁ〜ええ味出し過ぎやわぁ。
原田芳雄は原田芳雄だし、
渡辺美佐子は渡辺美佐子。
カタい。
ARATAの出演の仕方が面白かった。
つか、ARATAでなくてもいいじゃねーか。
****
さて。
どうでも良い事はとっとと済ませて、本題。
あ、ネタばれありね。
つかもうDVD化してるし。
「ウルトラミラクルラブストーリー」ですよ。
すげーじゃん。それだけで。
なんだ、aiko並みの言語センス。
タイトル通りの激甘スウィーツな映画。
な訳ねーじゃん、みたいな。
これだけで、ほんのりブラック、ちょっぴりシュール。
****
舞台は青森。
青森っつったら、リンゴより、イタコだよね?
あれ、なんか間違ってる?
監督が青森出身だから青森。
なんだろうけど、
イタコだよ、絶対。
生者と死者との距離感が、日本で一番近い土地。
そこに、
「死」、否、「生前」に囚われた女が、東京からやってくる。
そのこと自体が、必然なのだ。
その土地は、物語中終始、農作物の豊穣に彩られる。
そこで唐突に起こり続ける、
不可思議な「生」と、
リアルな「死」。
「生前」に囚われた女だからこそ、
「生と死の狭間」にいる男を、
まるで生態観察でもするかのように記録し続け、
「死」を、徹底的に「本当の死」に昇華する。
ここで、物語は環を成さず、
螺旋状に発散する。
その、大きなうねりの、ダイナミズム。
****
日常的に農薬を散布する、ヘリコプター。
その農薬が関与しているとの説もあるADHDと思しき、男。
彼の脳内で鳴り響き続ける、ヘリコプターの音。
画面から溢れ返る豊穣の地が、
彼の生まれ育ち、終の住処となる場所。
彼はそこから出られないし、出ようとも思わない、
否、旧友が東京へ行くのだと息巻くのに、
それを送りがてら自分も上京しそうになるのに、
引き返してきてしまう。
東京から来た女性を伴って。
彼の、徹底的に閉じられた世界では、執拗にヘリの羽音が鳴り響く。
その彼を、束の間の静寂へ追いやるのが、他でもない、農薬。
彼に、
自分の世界を変え、
そこから出ようとさせた、
まったく、
たったひとつの動機が、
「恋」だった。
彼は、農薬が人体に有害であることを、真に理解っていたのか?
しかし彼には、未来も理解も、どうでもいい。
彼の動機は、常に、「今」。
ただ、身体とともに在ること。
ただ、気持とともに在ること。
「今」に、究極的に在ることは、
脳の生死すらも超える。
そして、リアルな死は、首から下に在る。
****
「両思いになりたい」
と、繰り返す男。
「一緒にいるじゃない」
と、諭す女。
彼と彼女は、交差したのか。
****
死に際して、首を失った、昔の恋人。
「彼が何を考えていたのか」
という問いが、
まっすぐに、
「想いは脳の中にある」
というテーゼとして示される。
その恋人の名は、「要(かなめ)」。
彼こそが、結び目。
****
女とともに居て、歓びの絶頂の中で銃殺される男。
彼女が抱くのは、遺骨ではなく、彼の脳。
そして彼女が行うのは、脳を使った、子供との遊び。
あまりにも愉しそうに、
あまりにも無邪気に。
そして女が、身を守るために、
農薬づけの脳みそを熊に喰わせるとき。
そこで、愛は成就したのか?
男にとって?
女にとって?
****
青森という土地。
広大なその土地の、とあるひとつの町か村。
畑と田圃。
農協と町医者。
緩くも濃い、人々の繋がり。
イタコに話した私的な事情は
噂としてすんなりと共有される。
そこでも金は有効だし、
見守られ養われるべき子供達もいる。
両親がいなくとも、当たり前のように祖母が面倒を引き受ける。
障がいは障がいとして受け取られはせず、
理解という名の同情も、
誤解という名の理屈も存在しない。
大人になれば、嫁ごもらって身ぃ固めるのが、当たり前。
それらが生み、
それらを生む、
大地。
ここでは、禁忌(タブー)全てが相対化され、
子供に農薬をぶっかけられ。
葬式は宴会に。
脳みそは玩具に。
「剥き出しに生き、ハッピーに死ね」
****
情感豊かで、美しくも、画面の外まで喚起させる映像美。
絶妙なる配役。
微かに張り巡らされる伏線。
ふくいくとした遊び心。
そして、起こりえない物語のディティールに潜む、現実という名の毒。
非常に主観的に惜しむならば、
断片断片が、もう少し有機的な繋がりを感じさせてくれるものであってほしい。
その観点においてのみ、「成長」あるいは「行く先」を見ていたい。
そうでなければ……
ただ、そのとき、そのときの、この監督の「今」を見ていたい。
そう、思います。
Posted by para_shoot at 13:15│
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