ーJBJJF理事の早川光由さんがフェイスブックに文章をアップして、ちょっと話題になっている「世界柔術」という呼称ですが、これは中井さんの提案から始まったことだったんですよね。

 公式に宣言したり、通達が来ているわけではないんですが、いつのまにか国際連盟が「ムンジアル」っていう呼称を英語圏で出さなくなってきたんですね。現在は完全に「World Jiu-Jitsu Championship」という表記になっています。
 ただこれもちょっと微妙な感じがあって、僕達はあくまで「ブラジリアン柔術」っていう競技を広めるための連盟だという認識であったので、英語表記にした時に「ブラジリアン」が取れるという事態が起こったわけです。

ーいわば競技名が日本語表記と英語表記、国際表記で違ってしまうわけですからね。

 それについてはちょっと戸惑いはあったんですけど、逆に「ブラジリアン」を取って、「World Jiu-Jitsu」と言い切ってしまうことが、国際連盟のひとつの戦略であるという解釈がありまして、基本的にはそれに歩調を合わせる形で「世界柔術」と呼ぼうということになったわけです。
 今までは「ムンジアル」っていう呼称で親しまれてきたんですが、それを意図的に封印したわけです。日本語的に正式に言うと「ブラジリアン柔術の世界選手権」っていうことになります。その通称として使うのは「ムンジアル」ではなくて「世界柔術」にしようと理事会などで発言したのは3年ほど前だったと記憶しています。
 「ムンジアル」というのは、昔から親しまれている呼び名ですし、実際に柔術をやっている方には通りがいいんですけど、やはりこれから始める人や、たとえば子供や主婦など一般の方に通る名前ではないので、もっとわかりやすい物にしなければならないというのがありました。
 2011年の世界柔術を視察できたことも大きかったんですけど、いろいろシステムを変えていかなければならないという中で、このような考えに至って完全に僕は「ムンジアル」という言葉は使わなくなりました。

ー例えば「ムンジアル」だけでなく「世界ブラジリアン柔術選手権」という言い方も、格闘技を知らない方やブラジリアン柔術の存在を知らない方にはわかりにくかもしません。

 そうですね。「世界柔術」という通称のほうが、世界陸上とか世界水泳とか世界フィギュアという呼び方と同様に人に親しまれやすく、人口に膾炙する可能性が高いだろうという確信が僕の中にはあります。
 オリンピック競技でないものについては、「世界」がトップというイメージは確実にあると思うんですよ。世界陸上とか世界水泳とかも、世界選手権なわけで。ただブラジリアン柔術が特殊なのは、非常にオープンな世界選手権だということですね。
 他競技の世界選手権は国や地域を代表した選手たちが競い合う、いわば地区選抜の選手権なわけです。でも世界柔術は1カテゴリーに1道場から2名という枠があるだけですから、道場対抗の選手権みたいな感じですよね。
 その枠にしたって、人数が多ければAチームBチームを作って出ることはできる訳ですから、実は誰でも出られる世界選手権なわけです。さらには帯別、年齢別のカテゴリーも設定されていて、それぞれの頂点を目指すわけですからね。それは柔術の特長でもありますし、柔術の本質に近いものでもあると思います。
 誰でも出られる世界選手権だと言っても、その頂は本当に高いですし、僕は「寝技世界一決定戦」とも密かに呼んでいるんです。まあそれは通称ではなくて、キャッチコピーみたいなものですが。
 世界柔術は、2006年が最後のブラジル開催だったんですよ。2007年からはアメリカでの開催になりました。国際連盟の方針としては当面アメリカ開催で、それにヨーロッパが続くと言われてます。その後を日本が担えるようにというのが、JBJJFの体制が2006年に刷新されてからの変わらぬ目標です。開催地を決めるのは国際連盟ですから、いつという明言はできないんですが。2011年にアメリカまで視察に言ったのも、アジア・オープンを今年から毎年開催にしたのも、世界柔術の日本開催を睨んでのことです。
 世界のレベルは本当に上がっています。国際連盟のホームページを見ていただくと分かるんですが、ボストン・インターナショナルだとか、ニューヨーク・インターナショナル、ローマ・インターナショナルのように都市の名前を冠した国際大会が本当にたくさん、津津浦々で行われています。
 普及と共に世界的な競技レベルも、どんどん上がっているわけです。アジアの中だけ見ても各国に実力者がいるような状態になってますから、その中で日本人選手が上位に食い込むのは、ますます大変になってくるかもしれません。だからこそ、やりがいがあるとも言えるでしょう。まさに世界柔術=寝技世界一決定戦なわけです。 
 強い人間は結局世界柔術に出てますし、寝技が強いことを証明したいのなら世界柔術を取るしかないし、そうでなければ認められない時代になっているわけです。
 だからこそ「世界柔術」を正式な略称とし、それを広めることが、柔術のより広範囲への興味を引くことに繋がっていくだろうと思っています。

ーでも「ムンジアル」という呼び方も、とっても魅力的だとは思うのですが。ポルトガル語の語感には魅惑がありますよね。

 そうですね。サンバ、ボサノヴァ、アサイー。本当にブラジルの言葉とか文化って魅力的ですからね。ただ「ムンジアル」だと、ブラジルに興味がない人にとっては単体では伝わらない、説明が必要な言葉になってしまうんですよ。それに比べて「世界柔術」は、例えブラジリアン柔術を知らなくても、誰でも言葉を聞いただけでなんとなくイメージできるじゃないですか。
 だいたい「JIU-JITSU」という表記自体がポルトガル語風日本語なわけで、それでブラジリアン柔術というのを現すということもあるんでしょう。たとえばCBJJ(ブラジル柔術連盟)の「B」はブラジリアンの「B」じゃないですからね。「Cnfederação Brasileira de Jiu-Jitsu」、つまりブラジルの柔術連盟っていう意味ですからね。ブラジリアン柔術とは本国では言ってないわけです。

ーそこで競技名を「ブラジリアン柔術」にしてしまうと、ブラジルブラジリアン柔術連盟になってしまいますからね(笑)。本来、柔術を発音通り正しくローマ字表記するなら「Jyuu-Jyutsu」とすべきですもんね。日本発信の柔術が世界のいろいろな所、それこそヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどに普及してそれそれで独自の流派が生まれていたからこそ、世界に進出するにあたって他の柔術諸派と区別する意味で「ブラジリアン柔術」と名乗る必要があったということなんでしょうからね。ただルーツである日本の古流柔術も含めたあらゆる柔術の中で、現時点で競技人口、練習している人間の数はブラジリアン柔術がダントツであることは間違いないでしょう。国際連盟が「World Jiu-Jitsu Championship」に呼称を統一したというのは、「自分達がすべての柔術の代表である」「柔術といえばブラジリアン柔術を意味する」というような意思表明なのではないかというよう気がします。

 僕もそう思います。ですから国際連盟は世界戦略を自信満々に進めてますし、当然、日本もそれに歩調を合わせていこうと思っています。ついでに言うとアジア選手権も、本当は「エイジアン・オープン」なんですよ。ただアジアン・オープンというのは日本語の語感としてはないので、アジア・オープンにしているわけです。また「アジアチコ」というもの一部で使われている愛称ではあるんですけど、正式にはアジア・オープンと呼んでます。
 ただ「ブラジリアン柔術」というスポーツを推し進めているというのがJBJJFの大義ですので、「全日本ブラジリアン柔術選手権」のように日本で行う大会には「ブラジリアン柔術」という競技名を採用しています。
 さらについでに言うと、欧州はヨーロピアン・チャンピオンシップですから、それを「ヨーロピアン選手権」と訳すのは誤称で、連盟的にはヨーロッパ選手権が正式表記だと思って頂ければいいと思います。そういう名称などについても、いろいろ気を使って考えています。
 例えば今回、佐々が世界柔術で銅メダルを獲得しました。PARAESTRA NETWORK NEWSだとかパラエストラ東京newsとか、内部的なニュースでは3位入賞という表現も使っていますが、基本的には意図的に「世界柔術銅メダリスト」っていう言い方をしてますね。「3位入賞」と言うのと「銅メダリスト」って呼ぶのでは全然イメージが違うんですよ。

ーやはり言葉自体の力っていうのあるんでしょうね。同じ事のはずなのに、なんだか有り難みがちょっと違う気がします(笑)。きっとスポーツ新聞の見出しだったら、「世界3位」じゃなくて「世界銅」って書くでしょうしね。それが「ムンジアル3位」だったら、確かに伝わらない人には全然伝わらない。

 だからこそ「世界柔術」という呼称を、皆さんに使っていただきたいと思います。すでに結構使っていただけるようになっていますが、まだまだこれからですね。やはり「ムンジアル」っていうのは、確かに魅力的な呼び方ですから。
 ただ現場ではもうムンジアルと呼ばれていないという現実もあるわけです。ただずっと使ってきた愛着のある言葉なので、それが使われなくなるという事に寂しさがあるのも理解できますが。

ーきっとムンジアルという言葉も、練習している人同士の符丁として残っていくのでしょうね。「あの人、世界柔術をムンジアルって呼んでるから、きっとベテランなんだよ」なんていう会話が道場で交わされるようにな時代が来るんじゃないでしょうか。

 そうですね。言葉自体を消し去る必要はないですし、そういう残り方をしていくのはアリだと思います。ただ「ムンジアル」っていう言葉を連盟が使い続けていては、柔術そのものが一部の人の物になっていってしまうと思うので、そうではなくみんなに親しまれ、多くの人に発信していけるものにしなくてはいけないと思っています。

ー世界柔術という言葉のほうが、情報伝達、情報拡散のためには力がありますもんね。個人的にはムンジアルという言葉のほうが素敵だとは思いますが。

 普段ブログとかツイッターとかフェイスブックとかで、柔術のことを書かれている愛好者の方も多いと思うんですよ。ということは、そんな貴方の文章を通じて初めて柔術と出会うという方もいるはずなんです。柔術についてSNSで発信するということは、それが誰かの柔術を始める切っ掛けにもなり得るということです。誰のツイッターにも、誰のブログにもそういう可能性があるんです。
 僕自身もそのことは片時も忘れないですし、皆さんもそう考えていただきたいと思っています。そのためのキーワードとしては、「世界柔術」と呼ぶほうが理解しやすさ、拡散力という点では優秀だということです。柔術の良さをより分かりやすく伝えていただけるといいなと思っています。ぜひ「世界柔術」、使ってみて下さい。

■聞き手&構成:若林太郎

 中井ミニ