指板を直してもらえるかどうかに運命がかかっている!
「他に欲しい人が見に来るかもしれないし、そのドイツ製バイオリンを買うかどうかは数日中に決めて欲しい」とPalo Alto Violinsのおやじさん、ラリー氏に言われたのは仕方がありません。もう6日間も借りているのですから。
先生に「指板を直せるかどうか、G線の音を改善できるかを聞いてきて下さい。」と言われた2回目の試し弾きの帰り道、私達はPalo Alto Violinsを訪れました。

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「G線の第5ポジションが鳴らない」と言われたことがかなりショックだった様子のラリー氏は意気消沈も甚だしく、暗い顔をして「この価格帯で完璧なバイオリンなんて存在しないんだよ...」みたいなことをブツブツブツブツ。
これはイカンと思った私、とりあえず言ってみました。
「実は2軒のバイオリンショップから3台借りて4つ比べてみたけど、音量もあるし、あなたの所のドイツ製がベストだった」(”G線を除けば”はあえて言わないで)すると...
ラリー氏、えっ?と心底驚いた顔をするではありませんか。自分のバイオリンは全然ダメだと落ち込みのスパイラルに入っていたのかもしれません。
他のショップ? Kamimotoか? Heaneyは? で、比べて俺のが一番良かった? YES!!!」
空を見上げてガッツポーズ。いきなり上機嫌。...何ともわかりやすい人です。

雰囲気が良くなったところで「夫はこのドイツ製が気に入っているし、息子も気に入っているし、私達はこれを買いたいから、指板を直すことはできますか?」と、KamimotoのJon Jian Min Li氏に言われた指板が曲がっていること、先生が弦と指板の距離を計った結果のこと、小さいMaxの手では高さのある弦は押さえにくいことなどを話して、そっとお願いしてみました。ラリー氏、パッとバイオリンを見てハッとした表情をしました。

「直せる、今すぐやれば明日の昼過ぎには終わるよ」

元気な返事をくれました。やったー!!!
(”いや、別に急いでないから来週でもいいんだけど”は言わずに我慢)

「直すことはできるけど、低音はベース・バー(バス・バー、バイオリンの内部に縦に貼ってある木のパーツ)の方が関係あるから、貼り合わせたばかりのこれは低音が出てくるまで1ヶ月から半年かかる。指板で今すぐ音が何パーセント向上するかはわからない。5パーセントかもしれない、10パーセントかもしれない、0かもしれない。でも直してみよう。言ったのはJon Min Liだろう?ありがとうと言っておいてくれ!」

そして本当に一晩で指板を貼り替えてくれました。作業は夜中の2時までかかったそうです。指板は楽器が作られた当時のオリジナルのもので、なかなか剥がれないために苦労したと笑いながら教えてくれました。

★★★  


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ほら、もう曲がっていません。その差僅かに1.5mm。

BEFORE                   AFTER                  
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心配なのはどれだけG線の音が良くなっているか、そして指板を直したことでE線A線D線の音が変わってしまって悪くなっていないかどうかでした。見守られながら弾いてみるMax。
.......
.....
...
よし、高い方の弦の音は悪くなっていない。むしろ透明感が増したくらい。
問題のG線の音は、残念ながらラリー氏が思った程は良くならず彼曰く5%の向上でした。

この音で先生を納得させられるか?

★★★  


しかしラリー氏にはG線向上の秘策、最後のアイデアがありました。私達の協力が必要なことだと元気に提案するラリー氏。

一つは弓を変えること。バイオリンとセットになっていた弓よりも、Kamimotoで2本借りてきた弓の方がグレードが上でした。Kamimotoの弓で弾くと、音の深みがまるで別の楽器のよう!
2本の弓で弾き比べた結果、値段も見た目もそっくり双子の様な弓のうち、若干重さのある方のが良さそうだということになりました。標準より重めでも、バランスが良いので弾いても重さを感じないそうです。何より音が違うのです。ただしお値段も良くて、$225也。

ラリー氏、「うちの弓で弾いちゃだめだ」と自分の弓をさっさと奥に片づけてしまいました。 「Kamimotoに行ってこっちの弓を買ってきなさい。バイオリンの値段からは弓の$70とtaxを引いて、tax込みで$800にしてやろう。$180のディスカウントになるから余ったお金で弓を買いなさい」と、弓代以上の値下げまで申し出てくれました。 指板の代金と作業代が上乗せされるかと覚悟していたのに、逆に値下げなんて...しかも$70の弓を無しにして$180値下げなんて...。



もう一つの秘策は弦の種類を変えてみることでした。
E,A,D,G線の特徴に合わせて違うブランドの弦を張ることで、楽器の癖を補うテクニックです。様々なブランドの弦はそれぞれに特徴があり、同じ楽器でも弦によって音色が大きく変わります。現在の弦はThomastik社のDominant、先生によれば楽器の特徴を素直に増幅する弦だそうです。G線のみ弦のブランドを変えれば、更に5%、上手くすれば10%音が良くなるかもしれません。実際、バイオリンを弾く人でこの方法をとっている人はかなりいるそうです。

Palo Alto Violinsに他社の3/4の弦の在庫が無かったため、「店は空けられないし、最後の調整をしておきたい。弦は友達の店に違うブランド2種類の在庫があるそうだから、悪いけど今行って買ってきてくれないか」という話になりました。
”友達の店”でKamimotoの弓より相性のいい弓が見つかる可能性もあるため、弓も2本探してくることになりました。 ついでにチェロのポスターをプレゼントすることとチェロの弦を買うおつかいまで言付かって、私達は空チェック(金額未記入の小切手)を預かって買いに出ました。

行き先は何とHeaney Violins。Mr. Heaneyとスタッフのお兄ちゃんは私達の顔を覚えているし、バイオリンを比べているのはバレバレなのでした。
物腰穏やかなHeaney氏はチェロの弦と3/4のG線2種類を、儲け無しの仕入れ値でラリー氏に売ってくれました。良い人です。ついでに弓も2本選んで貸し出してもらいました。

★★★  


すぐにPalo Alto Violinsにとんぼ返りする私達。私達が買ってきた2種類の弦を順番に張って試したところ、Dominantと同じThomastik社のVisionという弦がG線の音をより響かせる結果になりました。ラリー氏によれば弦で5%の向上です。弓はやはりKamimotoの重めの弓が一番という結果になりました。

1日かけた結果、G線は指板で5%+弦で5%=10%の向上、そして弓で音色を全体的に向上となりました。今の段階で私達にできることはここまでです。

★★★  


いよいよ先生による3回目のチェックです。候補をおさらいすると以下の通り。
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1.ドイツ製 1969年 $900(ケース、弓、松脂込み) Palo Alto Violins
2.ルーマニア Dunov製 $913(本体のみ) Kamimoto String Instruments
3.ドイツ製 $1200(本体のみ) Heaney Violins
4. 中国 Chrislin製 $600(本体のみ) Heaney Violins
    ※4番のみ2009年製、他は1900年代後半のもの。

前回のチェックで問題が確認された2.を除く3つについて、バイオリンを交換しながらMaxが高音の入ったフレーズ、低音の入ったフレーズを弾いた他、先生のピアノと合わせたり、先生が色々な奏法やフレーズを丁寧に試したりした様々な試し弾きが行われました。結果は...。

1. 一番音量があり、今の段階では音の深みと艶が4.よりもある。G線の音は気にならないレベルになり、鳴るようになった。1.5mmは大きな違いだった様だ。レストアしたばかりのため、正しい音で弾き続ければもっと鳴るようになるかもしれない。
3. $1200は音に比べて割高感は否めない。甘い響きと音の深みが良いので、こういった音が好きな場合は良い選択だろう。音の好みと予算があればというところ。
4. 素直で良く鳴る。変な癖もない。価格も手頃だ。現在の音は深みが足りないが、正しい音で弾き込めば音が深みを持つようになるかもしれない。どの様に変わるかは未知数で、新しいものを育てたい時には良い選択。

結局、3つの中でどれが良いかは「予算と好みの問題」という結果になりました。

弓に関してはKamimotoの2本とHeaneyの2本の計4本を比べたところ、やはりKamimotoの重めの弓が一番とのことでした。

★★★  


こんなてんやわんやが1週間の間に起きました。
急にお願いしたにも関わらず、先生はいつものレッスン以外に2回も時間をとって、バイオリンを見て下さいました。ありがとうございました。
私達も北に南に走ってあちこち往復し、Maxは一生懸命に耳を澄ましてバイオリンを弾き、家族全員がバイオリンのために動いた1週間と言ってもいいくらいでした。Sarahは全く関係ないのに全部の行程につき合わされた訳で、よく文句も言わずに待っていたものだと思います。

そして我が家にやって来たのはPalo Alto ViolnsのLawrence Haussler氏によるレストア済みの1969年ドイツ製バイオリンです。

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ラリー氏に「先生は何も問題が見つけられなかったから、買います」と電話した時に、彼の脳内変換で「何も向上がみられなかったけど買います」となってしまった誤解もありましたが、最後はみんなで笑ってハッピーエンド。

先生は「最終的にはこれを買ったとしても、あの時すぐに買わないで他のバイオリンと比べてみて良かったですね。比べたことでこれの問題点がわかった訳だし、直してもらえたし」とニコニコ。
確かにその通りだったと思います。ついでに値段も下がったし。


値段については夫と相談し、180ドルディスカウントはあまりにも申し訳ないということで、少し多めに払ってきました。レストア直後は$1050+taxと言っていたのに、お店に取りに行ったら$900+tax、弓を入れないことにしたらtax込み$800と、話しているうちに値段がどんどん下がって行くとは、不思議なお店です。
(ただし強引に値切られるのは好きじゃない様なのでご注意を!)

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(Maxの新旧バイオリン)            


★★★  


ー後日談ー

Kamimotoで借りたものを返却に行き、弓を買って来ました。試しに「Would you please give us a discount?」と聞いてみると、脊髄反射か?というくらい簡単に「10%でどう?」という返事。あっさり$200+taxに値下げしてもらいました。$225の10%は$25じゃないよな、と思いつつそのまま商談成立。ついでに松脂、Hillのダークも購入しました。
通りかかった職人さんらしいおじさんが私達の買いたい弓を調べてくれました。「これは毛が長過ぎるから少し短くした方がいい」と店の陰に持って行って、15分くらいで直してくれました。弓のお尻にあるネジを外してどの様に調整したかを見せてくれ、反対の端に来るまで毛が伸びてしまったらまたお店においで、とアドバイスもくれました。さすが、老舗は良い勉強になります。

今回Heaney Violinsは縁がなかった様で、借りたものは全て返却となりました。「 Sorry.」と思わず言ってしまったら、お店の人は「そんなこと言わなくていいよ。よくあることだから」とニコッ。親切なお店だったのに、申し訳ない...。
そこで、どの道必要になるスペアの弦を買いました。DominantのE,A,DとVisionのGとお願いすると、Dominantのセット価格からG線分を引いてVisionのGの分を加算してくれました。Visionの弦はプラスチックの筒にまとめて入っていて個別のパッケージが無い状態だったため、お店の人が余ったDominantの封筒にわざわざ”VISION 3/4 #G”と手書きで書いて弦を入れてくれました。本当に親切なお店です。
お金を払っているとHeaney氏が来て「違う弦は効果があった?」と話しかけてくれました。Visionの弦が良かった、ありがとうと答えると、Heaney氏はクスッと笑って「ラリーは使わなかった方の弦を返品に来たよ。その分返金したんだ」と教えてくれました。
おやおや、そんなことになっていたとは。(汗)



バイオリンと弓の購入後、初めてのレッスンの時に先生がおっしゃいました。
「そのバイオリン、鳴りますね! この間よりも今日の方がずっと鳴ってます。値段もそうでもないし、これは良い買い物をしましたね」
はい、ラリー氏も私達も苦労しましたから。(笑)
「この次フルサイズを探す時は、もっとずっと大変になりますよ。選択肢が格段に増えますからね。それにこの次はもっと時間をかけて探した方が良いですね」

今回より大変って....次が怖い...。

3/4バイオリン探しは、親子でよても良い勉強になりました。




<関連情報>
・鳴るほど 楽器解体全書
  1.バイオリンの歴史と構造
  2.バイオリンの音の原理
  3.バイオリンの素材と工程
  4.バイオリンの雑学

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・カテゴリー:習い事・音楽