#実務(日本)、高裁判決、パテントトロール?

諸事情で判例の復習。補正と均等論の関係を検討しているので、前から気になっていたWeb-POS事件をチェックしてみた。

◆判決文
(原告)Ada ZERO株式会社
(被告)株式会社カクヤス
(43頁)
 そして,第2手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。
 そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」で行われる構成に限定して特許査定を受けたものということができる。
 上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。
 したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。

平成26年(ワ)第27277号 損害賠償請求事件 平成27年10月14日判決言渡


◆とりあえずの概要
『Web-POS事件は、補正が最終的に採用されなかった場合にも意識的除外が肯定(均等第5要件が否定)された事件。』

 原告の特許クレームでは、「数量に基づく計算」をサーバ装置で実行するか、クライアント装置で実行するかが不明であった。補正の経緯をみると、第1手続補正ではサーバ装置で実行する構成に限定していた。その後、新規事項追加違反で補正却下され、第2手続補正でサーバ装置及びクライアント装置の何れで実行するかを規定しない構成に限定し、特許査定を受けていた。
 このような状況で、第2手続補正により、サーバ装置で実行する構成に代えて、あえてクライアント装置で実行する構成に限定して特許査定を受けたものとみなされ、サーバ装置で実行する構成は、「特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価」された。これにより、均等の第5要件の成立が認められなかった。

※均等の要件
 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,
 ①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),
 ②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),
 ③上記のように置き換えることに,当該発明の属
する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),
 ④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,
 ⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は,
同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許請求の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


◆コメント
 上のように書いてしまうと、単に、第1手続補正で限定したサーバ装置が新規事項追加に該当し、第2手続補正でこれを削除したために、サーバ装置が権利範囲から除外されたのかと思ってしまう。
 しかし、段落【0137】に、クライアント装置で実行されてもサーバ装置で実行されてもよい旨が記載されている。したがって、単にサーバ装置の記載を削除したからといって、これを除外するような行動をとったと判断されるのは不可解だ。
 結局、本件では、特許クレームからはサーバ装置で処理を実行する構成を読み取ることができないということなのかと思う。また、段落【0137】の記載があったとしても、サポート要件を満たすような実質的な発明の開示がなかったということなのかと思う。均等論の話は本質的な議論ではないように思う。


◆関連特許
さて、本特許の親子関係を調べると、以下のような関係があることがわかった。

Web-Pos事件

特許番号 出願人 特許権者
4491068 株式会社オールビジョン アメリカ合衆国 ジーピーシー アジア パシフィック アソシエイツ インク.
4579336 Ada ZERO株式会社 アメリカ合衆国 ジーピーシー アジア パシフィック アソシエイツ インク.
5097246 Ada ZERO株式会社 Ada ZERO株式会社
5097253 Ada ZERO株式会社 Ada ZERO株式会社
5448265 Ada ZERO株式会社 Ada ZERO株式会社
5448281 Ada ZERO株式会社 Ada ZERO株式会社


◆関連訴訟
そして、他にも3件の訴訟をしていて、合計4件も訴訟している。

○対象特許=第4579336号
(原告)株式会社ジーピーシーコリア
(被告)株式会社千趣会(wiki)
平成23年(ワ)第21126号 損害賠償請求事件 平成25年10月17日判決言渡 

○対象特許=特許第4579336号 
(原告)株式会社ジーピーシーコリア
(被告)楽天株式会社(wiki)
平成24年(ワ)第8053号 損害賠償請求事件 平成25年10月31日判決言渡

○対象特許=特許第5097246号
(原告)Ada ZERO株式会社
(被告)アスクル株式会社(wiki)
平成26年(ワ)第34145号 損害賠償請求事件 平成28年1月14日判決言渡 


◆パテントトロール?
上記原告ジーピーシーコリアは、ジーピーシーアジアパシフィックインクの専用実施権者のようだ。このジーピーシー アジア パシフィック アソシエイツ インクが気になるところだが、おそらく、General Patent Corporation(wiki)のことだろう。Ada ZEROという会社もよくわからない会社だったが、背後にパテントトロール(?)の存在があるのかと思う。


特許5097246

【発明の名称】Web-POS方式
【出願日】平成22年7月11日(2010.7.11)
【分割の表示】 特願2010-43641(P2010-43641)の分割
【原出願日】平成10年1月9日(1998.1.9)
【特許権者】Ada  ZERO株式会社

【請求項1】
A:汎用のコンピュータとインターネットを用い,HTTPに基づくHTMLリソースの通信が行われるWebサーバ・クライアント・システムにおいて,
B:商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-POSネットワーク・システムの制御方法であって,
C:上記Webサーバ・システムが,取扱商品に関する基礎情報を管理する商品(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マスタDBの管理,HTTPメッセージに基づくプログラムの実行及び,HTMLリソースの生成及び供給を行うサーバ装置からなる,Web-POSサーバ・システムであり,
D:上記Webクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを備えた,Web-POSクライアント装置であって,
E:上記Web-POSクライアント装置から,Webブラウザを介し,上記Web-POSサーバ・システムにアクセスすることにより,該Web-POSサーバ・システムから該Web-POSクライアント装置に対し,該Web-POSクライアント装置における商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付けるHTMLリソースが供給されると共に,該Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品の売上情報が,該Web-POSサーバ・システムによって管理されるWeb-POSネットワーク・システムにおいて,
F1:上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,
F2:1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,すなわち,上記Web-POSサーバ・システムから上記Web-POSクライアント装置に該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給され,該供給されたカテゴリーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラウザにおいて処理されることで,該Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に該カテゴリーリストが表示され,ユーザが,該入力手段により,該表示されたカテゴリーリストからカテゴリーを変更または入力(選択)するごとに,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTMLリソースを要求するHTTPメッセージが上記Web-POSサーバ・システムに送信され,該要求のHTTPメッセージに基づき,該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが生成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され,該送信された商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブラウザにおいて処理さ
れることで,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望するカテゴリーの商品(PLU)リストが表示される,カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,
F3:2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記カテゴリーに対応する上記商品(PLU)リストにおいて,ユーザが,該入力手段により,商品を特定するための商品識別情報を入力(選択)するごとに,該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報が上記Web-POSサーバ・システムに問い合わされて取得され,該取得された商品基礎情報に基づく商品の情報が該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所望する商品の情報が表示される,商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,
F4:3)商品注文内容の表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の情報について,ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる,ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,を含み,
G:更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(PLU)マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記商品識別情報に対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関する商品ごとの基礎情報が,該商品識別情報に対応するフィールドを含むレコードによって管理されることで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づく商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される,Web-POSネットワーク・システムによるPOS管理(商品の販売時点における情報の管理)が実現され,
H:更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記Web-POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程を含むことで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注文操作が,Webブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報として上記Web-POSサーバ・システムにおいて取得され,該取得された商品ごとの注文情報に基づく売上管理が実現されることを特徴とする
I:Web-POSネットワーク・システムの制御方法。

#クレームが長すぎる。


【0137】
  また、明細フォームの計算は必ずしもWeb-POSクライアント装置側のみで行われる必要はなく、Web-POSサーバ装置側で行われ、その結果がWeb-POSクライアント装置に通知されるように構成されてもよい。

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