#中小企業、実務(日本)、最高裁判決
#関連ネタ【136】

シートカッター事件の最高裁判決が出ていたので、流れをチェックした。
この事件は特許技術者としては複雑な気持ちを抱いてしまう。

始めは、特許発明自体は素晴らしく、これが保護できないというのはおかしいだろという感想をもった。次に、特許明細書の記載があまりにプア(追記:ここでは、記載量が少ないという意味)でこんな書類で権利行使が認められたら、それもおかしいだろという感想をもった。

近年の特許業界では、特に構造系の発明だと思うが、クレーム及び明細書には「あまり内容を記載しなくてよい」「むしろ記載しない方がいい」といった意見を聞くことがある。確かにクレームに余計な記載をすべきではないが、明細書にも内容を記載しないというのは原理的に特許法の趣旨に反していると思う。本件の明細書は、有名な弁護士により作成されたものであるが、このような最近の風説を反映させたのではないかと勘繰ってしまった。

確かに、本件でも、権利化段階では、特許権を取得できているし、訂正も認められているので、明細書の記載がプアでも問題は生じていない。また、訴訟段階でも、地裁では、明細書の記載がプアなことが却って有利に働いたような印象を受ける不利にはなっていない。一方、高裁では、明細書の記載がプアなことが不利に働いたような印象を受ける。全体としてみれば、明細書の記載がプアなことが、不利に働いたように思う。


◆発明者
この発明をちゃんと保護できなかったというのは、やはり残念だ。
革命的床溶接機『ジョインティー』を開発した板橋匠屋本舗 取材レポート


◆判決文
○東京地裁

・特許権侵害成立
・損害額:79万4000円(59万4000円+弁護士費用20万円)+損害遅延金
 (9-11頁)
(1) ・・・構成要件Eの上記文言は,発明の構成をそれが果たすべき機能によって特定したものであり,いわゆる機能的クレームに当たるから,上記の機能を有するものであればすべてこれを充足するとみるのは必ずしも相当でなく,本件明細書に開示された具体的構成を参酌しながらその意義を解釈するのが相当である。そして,構成要件Dの「可動的に接続された」との構成についても,構成要件Eと整合するように解釈すべきものと解される。

(3) ・・・次に,本体がガイド板に対して回転運動するように「可動的に接続」すること(構成要件D)についてみるに,2枚の板状の部材を回転可能に接続する態様としては,① それぞれの中心部分をシャフト等により軸着する構成のほか,② 一方の周辺部に円弧状の溝等を設け,この溝等に他方を摺動可能に取り付けるといった構成を採用し得る。このうち本件明細書に明示されているのは①の構成のみであるが(上記(2)エ~カ),いずれの構成であっても特許請求の範囲にいう「可動的に接続」に該当し,かつ,本件特許発明に係る課題を解決して上記の効果を奏すると考えられる。したがって,②の構成も構成要件Dの「可動的に接続」に含まれると解すべきものである。

(5) ・・・被告は,① 本件特許発明の技術的範囲は本件明細書に開示された構成(本体とガイド板がシャフトにより接続され,本体がシャフトを軸にしてガイド板に対して回転する構成)に限定して解釈されるべきである,②・・・から,本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張する。
 そこで判断するに,①について,上記(3)に説示したところによれば,本体とガイド板を回転可能に接続するに当たり,シャフトにより軸着するか,円弧状の溝に摺動可能に嵌合するかは,当業者が適宜選択し得る実施の形態にすぎないということができる。
 ⇒イ号製品との対比の際に、明細書がプアなことが有利に働いたような印象をうける不利にはなっていない。


・特許権侵害非成立(控訴人敗訴部分を取り消す。)
・乙13(米国公開特許公報2006/0201000号)と同一であるとして無効
 ⇒先行技術との対比の際に、明細書がプアなことが不利に働いたような印象を受ける。
 (30頁)
イ 構成要件Dについて
(イ) 「ガイド板」の有無について
 したがって,乙13発明では,ブラケット9,ベース10,ルーラーアーム11及びT定規フェンス12とで構成される一体物が,刃17の第1の刃部又は第2の刃部が壁板シート32を切断する際に,「切断方向を案内する」作用を奏していることが認められる。
 (略)
 本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)及び本件明細書には,本件特許発明の「ガイド板」の形状,大きさ,厚さ,材質などを特定のものに限定する記載はないことからすると,「ガイド板」は,一つの部材のものに限られず,複数の部材を組み合わせたものであっても差し支えないものと解される。
 (略)
 したがって,一体物は,「ガイド板」(構成要件D)に相当するものと認められる。
(35頁)
ウ 構成要件Eについて
(ア) 「前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る」の意義
 (略)
・・・一方で,本件明細書には,「本体が前記ガイド板に対して動く」前後における「本体」と「ガイド板」の位置関係,「ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る」態様及び場所を特定の構成のものに限定する記載はない。

 そうすると,「本体」を「ガイド板」に対して傾け,又は回動させることにより,「本体」の中に設けた「第1の刃」又は「第2の刃」が「ガイド板」の底面よりも下の位置に出て対象物を切断することが可能な状態となる構成のものは,「前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る」構成(構成要件E)に当たるものと認められる。

○最高裁
 特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に特許法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことの許否(消極)
    cf 特許法百四条の四


◆裁判の経緯
シートカッタ事件(時系列)


◆留意事項
・この発明に関連する、意匠権は取得されていない。


(追記)

本件、出願後に代理人(弁理士・弁護士)が選任されておりました。
弁理士・弁護士が意図的に明細書の記載を少なくしていたというわけではなさそうです。



【発明の名称】シートカッター
【出願日】
【早期審査対象出願】

【請求項1】
第1の刃と,
第2の刃と,
前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,
前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,
前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が出る
ことを特徴とするカッター。

【0008】
  以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け、シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける。
  本発明は以上のような構造である。
  これを使用する時は、ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ、シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。
後は凹凸に沿わせて滑らせ、ノンスリップシートなどを切断する。
  その他の応用例として、壁紙の施工時、入り隅や枠の凹凸に沿わせ、後は同様にシートカッターを滑らせる事により、壁紙の余分な部分を、地ベラや定規を使用せず切り取る。

※実施形態がこれだけ

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