弁理士Tajの発明研究ブログ

『発明にこだわる弁理士』を目指したいと考えています。
※掲載内容についての完全性・正確性は保証しておりません。

2016年11月

引き続き、特許庁HPの「日中韓特許庁における審査実務に関する比較研究」をチェック。

事例1-3は化学系で、事例4-6は電気系。事例4-6では日中間で大きな違いは見当たらなかったようだ。確かに、事例5では日中間で判断の相違があるものの、中国の判断が不適切という印象は受けない。ただ、事例4の請求項13は日本でも中国でも明確性が認められるようだ。これについては日中何れの判断に対しても疑問を抱く。(というより、解説に不備があるような気がする。)
 

事例1 キマーゼ阻害剤を有効成分として含有する薬剤 ナシ
事例2 物質の製造法(目的物質がLアミノ酸) ナシ
事例3 スフィンゴシン-1-ホスフェート(SIP)受容体アンタゴニスト生物活性を有するアリール基又はヘテルアリール基を持つインドール-3-カルボン酸アミド、エステル、チオアミド及びチオールエステル化合物 ナシ
事例4 音声システムのための空間ユーザーインターフェース WO 2010/118251 A1 
事例5 アンテナ制御システム WO 96/14670 A1 
事例6 MをNより小さいとしてNビット語をMビット語にトランスコードする方法及び装置(N>M) WO 2005/064799 A1 


以下、気になる点を摘記。

結果の概要及び分析

4. 事例4~6
2014年、JEGPEは、明確性要件とサポート要件に関して、請求項の要件を評価するために、電気技術分野の3件の事例を分析した。
結果は、概ね、三庁の間で評価が同一であることを示している。ただし、明確性要件とサポート要件の両方で、いくつかの相違が見られた。これらの相違については、2014年のJEGPE会合で議論された。

事例4

[請求項13]
 ユーザーインターフェースを生成するための方法であって、
 ユーザーインターフェース要素に関連付けられた入力データを受信し、ユーザーがユーザーインターフェース要素に対応する音声信号を知覚する空間的場所を定義する出力データを生成するように動作する、空間モデル発生器と、
 音声入力を入力として受信し、該音声信号を出力として生成するように動作する、空間音声効果プロセッサであって、該音声信号は、該空間的場所における該ユーザーにより知覚されるような処理済音声入力を表す、空間音声効果プロセッサと、
 該音声信号を選択する、または該ユーザーにより知覚される該音声信号の空間的配設を変更するように動作する、ユーザー入力デバイスと
を備える、方法。

(JPO) 
・請求項 13 は明確性の要件を満たしている。
・請求項 13 の方法の主題は明らかに、請求項の要素(「ユーザーインターフェース要素に関する情報にアクセスする」又は「位置に音声信号を関連付ける」)、明細書の実施形態などを考慮して、コンピュータなどの情報処理装置として理解される。

(SIPO)
・請求項13は明確性の要件を満たしている。方法請求項の主題は必須ではない。


[作成された請求項15]
 コンピュータプログラムであって、
 ユーザーインターフェース要素に関する情報にアクセスすることと、
 該アクセスされた情報に基づいて該ユーザーインターフェース要素の空間モデルを生成することであって、該空間モデルは、ユーザーの知覚音声空間内の位置への該ユーザーインターフェースのマッピングを表すことと、
 音声信号を、該ユーザーの知覚音声空間内の該位置に関連付けることと
を含む、コンピュータプログラム。

(JPO)
・請求項 15 は、明確性の要件を満たしていない。
・プログラム自体には、これらのステップは含まれ(ない)

(SIPO)
・請求項15は、法定主題ではないコンピュータプログラムの保護を求めている。
・請求項の明確性と主題の適格性は、2つの異なる問題である。
・コンピュータプログラム関連の請求項について、ハードウェア主題は必須ではない。



残153(20161128)

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引き続き、中国の補正について情報収集。

特許庁から「日中韓特許庁における審査実務に関する比較研究」が公表されている。
ここに「補正に関する事例比較研究(2015年)」というのがある。37ある事例のうち、「日本と中国で判断が分かれるもの」で「化学系以外のもの」を抽出したところ、事例23,24,26が抽出できた。事例22、23は補正の一般論が論じられているので一読の価値がある。

以下、留意すべき記載を摘記。

要約
・SIPO には最後の拒絶理由通知のシステムがない (P74)
・原出願に明示的に記載された事項のほかに、三庁には原出願に明示的に記載されていない事項の追加を受理する規則がある。・・・三庁の実務は類似しているように思われるが、実際には、柔軟度に関して、明らかに SIPO はJPO と KIPO より厳格である。例えば、事例 2 と事例 26 は明らかに相違点を実証した。 (P75)

明白な間違いの訂正 
「明白な間違い」の理解が三庁の間で若干異なるように思われる。JPO とKIPO は、間違いを克服するための複数の手段があり、技術常識および請求項に係る発明によって解決すべき課題を考慮したときに最も適切な訂正になるので、このような補正は許されると考える。SIPO は、明細書と技術常識に基づいて明瞭に訂正することができるような、明白な誤記のみを受理することができる。 (P71,72)


事例 日本 中国 補正後
1  
2 × HLB 値 7.5~11 の
3 × ×  
4 × 脂質とグリセリンは100:10~15 の比率であり
5 × 食用油はえさの総重量の0.1%-0.8%
6  
7 × 一般式 X-(CH2)n-Y で表される化合物であって、nは3,4または5
8  
9 × 腸溶性即時放出錠であって、該錠剤は以下の製剤成分と重量比からなる
10  
11  
12  
13 × ×  
14 × ×  
15  
16  
17 × ×  
18 × ×  
19 × ×  
20 × ×  
21 × ×  
22  
23 ×  
24 × 約 110 度
算盤用数字読取り器。 
25  
26 × ネジの回転によりテーブルを直線移動させるネジ送り機構
27 × 含窒素複素環カルボン酸(ニコチン酸を除く)
感光性平版印刷版。 
28  
29  
30  
31  
32  
33 × イミダゾル、ピリジル、ピリミジル、あるいはベンゾ[b]チアニル
34 × アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファンまたはバリンから選択された
35  
36  
37 × 750℃から 620±20℃の温度で前記溶融合金中に Znを添加する溶融工程のステップ


残158(20161123)
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これから、しばらくはグローバル特許出願の勉強をしようと思う。

まずは中国情報の収集。中国は正直わからない部分が多い。「中国特許出願では補正要件が厳しい」ということがいわれるが(※)、自分なりに検討したいので情報を集めることにした。
中国における特許出願の補正(20121228)

とりあえず、「新興国等知財情報データバンク」の情報が使えそうだ。
アジア/審決例・判例/特許・実用新案 →中国*(補正+記載+サポート)』で記事を抽出してみた。

星印(★)をつけた案件に留意。


リリース日 タイトル 備考 関連案件
2015/5/15 中国における化学特許の取得と実験データ    
2015/3/5 中国におけるサポート要件に関する事例と分析 15件の事例  
2014/10/7 中国における単一性要件(審査運用等) 発明の特別な技術的特徴を変更する補正及び発明の単一性の要件に関する調査研究(2012年2月、一般財団法人知的財産研究所)IV.2  
2013/7/30 (中国)請求項に発明の必須構成を記載しているか否か、及び明細書には明瞭で完全な説明があるか否かに関する事例 特許維持

本事件における無効理由は「言いがかり」的ともいえる内容
 ↓
本件の特許権者及び無効審判請求人は、中国を代表する2大エアコンメーカーであり、中国のトップ企業どうしが争った事件であるが、かつて日本でも良く見られた「ライバルメーカー同士の無用な争い」の一例と思われる。
中国特許第200710097263.9号
2013/7/30 (中国)請求項記載の発明は明細書に支持されているか否か、及び明細書は発明を十分に開示しているか否かに関する事例 特許維持

請求人は、どの種類の塩類、配合比率が明細書に支持されていないのか、その具体的理由を説明していな(い)
中国発明専利第92112424.4号
2013/7/9 (中国)請求項記載の発明が明瞭であるか否かに関する事例 特許維持

「少なくとも1つの位相移動ユニットのパーツを移動する」との表現において、「少なくとも1つ」は直近の「ユニット」を修飾すべきであり、これは中国語の文法的習慣に合致する。

中国発明特許第95196544.1号
2013/7/2 (中国)補正後の請求項が当初明細書記載の範囲を超えているか否かに関する事例 特許維持(限定解釈)

本事件において、北京市高級人民法院は「補正は適法である。」と認定しつつ、その一方で、特許権者自身による無効審判段階での限定的説明を取り上げ、関連する権利侵害訴訟において「この説明に反する解釈をしてはならない。」(禁反言)、「自発的に限定解釈すべきである。」と言い渡した興味深い事件である。
中国利第90100464号
2013/6/28 (中国)機能限定で記載された請求項が明細書に支持されているか否かに関する事例 特許査定

前記特定の実施態様以外に、どのような『AILIMに結合する抗体又はその一部』が『活性化したT細胞の増殖を抑制する・・・』ことができ、かつ本願が示した課題を解決できるかを確定することができない。
 ↓
T細胞によるサイトカインの産生を抑制できる抗AILIMモノクローナル抗体が1つだけでないことは証明されている。
中国特許出願第200610100648.1号
2013/6/27 (中国)請求項に記載の「単位の無い百分率表記」は明瞭か否かに関する事例 拒絶査定

本件は、出願人が主張するとおりSALD-2000Aを用いて得られる分析結果は間違いなく「体積%」であると思われるが、数値限定特許において物理的単位が明記されていないという、あまりに単純で初歩的なミスであり、これによって重要な外国出願案件が拒絶されてしまった事案であると言わざるを得ない。
中国特許出願第03827038.2号
2013/6/21 (中国)総括的に(上位概念で)表現された請求項記載の発明は、明細書開示の範囲内か否かに関する事例 特許無効

本特許明細書の開示内容に基づけば、トレハロース及びショ糖が、抗HER2及び抗IgEモノクロナール抗体凍結乾燥製剤の安定のために用いられることが証明されているだけである。
中国特許第96195830.8号
2013/6/6 (中国)請求項に記載された発明が明細書の開示によって支持されているか否かに関する事例 特許無効

本事件は、中国における数値限定特許の難しさを示す典型的事案と言える。本件特許発明の特徴は、当該発明の目的達成のために、少なくとも下限値を示せば十分であると考えられ、実施例に記載された上限値を限定しなかったという理由だけで無効にされるのは、あまりに厳しすぎると言わざるを得ない。なお日本法では、無効審判段階で実施例記載の上限値を限定する訂正も可能であるが、中国法の場合、請求項に記載の範囲内でしか訂正できない。

中国発明特許第94194552.9号
2013/5/24 (中国)先行技術文献に本願発明が解決しようとする技術的課題が記載されているか否かに関する事例 特許維持

本事件の特許権者及び無効審判請求人はともに日本企業
中国特許第02810565.6号
2013/5/10 (中国)特許明細書に記載の無い後付けの実験結果及び効果を、進歩性判断の基礎とできるか否かに関する事例 特許無効

当初明細書に記載されていない実験結果(効果)を補正や訂正によって追加することは、技術内容からみて自明でない限り「新規事項の追加」として認められないのは当然であるが、後出しの実験結果を根拠として先行技術との差異を主張することもまた、「自明の範囲かどうか」にあるべきである。本事件においては、自明かどうかの議論は一切無く、単に形式的に「当初明細書に記載があったか無かったか」だけを判断しており、形式主義を採用する中国実務の難しさの一端を示す事例と言える。

中国特許第97108942.6号
2013/2/6 (中国)新規性及び単一性の拒絶理由を解消するための物質クレームから用途クレームへの変更が適法な補正として認められた事例 特許査定

本件においては物質クレームから用途クレームへ変更する補正が認められている
中国特許出願第03804435.8号
2012/11/20 (中国)クレーム中の記載の上位概念化について実質的なクレームの技術的範囲に相違はなく新規事項追加に当たらないと高級人民法院で判断されたケース 特許維持

特許公報における「リン酸塩」は当然「リン酸ナトリウム塩」を指しているとして、原審及び特許審判部の認定を覆した。
中国特許第97103209.2号
2012/7/30 (中国)図面のみに開示された特徴を請求項に追加したことが新規事項の追加に該当すると判断され、特許権の一部が無効とされた事例 特許無効

中国の権利形成過程においては、新規事項の運用基準が厳しいため、図面のみに開示された特徴については保護を求めることは難しい。
中国特許第00131800.4号
2012/7/30 (中国)PCT出願の国内段階移行時に発生した誤訳が原因で、特許権が無効となった事例 特許無効

PCTルートの場合登録査定前であればPCT出願の原明細書に基づく補正ができる。しかし、本件のように、クレームを補正によりPCT出願時の記載に合わせたとしても、明細書中に誤訳の記載が残されたまま特許されるとこの明細書中の記載が実質的な補正に当たり、原明細書の記載範囲を超えるとして特許が無効とされることもあり得る。

中国特許第00819415.7号



残159(20161122)



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来年は外部で発表する機会が増えるかもしれない。
ということで、来年4月30日までを目処に勉強した内容をメモしておこうと思う。

残160日(20161121)
 
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