こんにちは。しゅんです。
前回の最後の予告どおり、今回は万年筆の「縦の撓り」「横の開き」についてがテーマです。
「軟調」「flex」などと称される万年筆のニブは、筆圧に対する「撓り」「開き」の双方が強い場合が多いですが、どちらかに極端な場合もあります。
その撓りと開きが、如何にしてもたらされるかをお話していきます。


万年筆のニブを、ペンポイント側から見てみましょう。ペンポイントを中心に、左右にニブの板金が広がっている様子が見えると思います。
この形状が、まさに万年筆の「撓り」と「開き」を左右します。


図1に、正面から見たニブの模式図を示します。多くのニブは、平坦ではなく端に広がると共に徐々に下方向に曲がっていると思われます。
このような曲面を「R」と称します。英語の"round"から取られた製図などの用語ですが、ペンドクターの方々なども使われる単語の為、此処でも用いることとします。


fig.1



図1のように、筆圧はニブのRの方向に分散します。これにより筆圧が切り割りを開くのです。
例として、パイロットの5号ニブ(カスタム74など)や、セーラーの14k中型ニブ(プロフィットスタンダードなど)が挙げられます。
お馴染みの1万円台のペンですね。
特に5号ニブは切り割りを詰めている設計のため、ゼロ筆圧で書いた時と力を加えた時の差が分かりやすいと考えられます。


図2に、もう少し理論的な話を示します。Rが如何にして切り割りを開くか、縦方向の撓りにはどう影響するかというお話です。


fig.2


ある場所ごとの「撓り」と「開き」の働く様子は、高校物理でも習うベクトルと直交座標系より考えることができます。
もし、ニブの角度が30°の領域があるなら、筆圧がその領域に与える力の半分は「開き」として働くことがわかります。
逆に、「撓り」になる力は「開き」の分減ってしまうのです。これは逆に、「Rによって、ニブの厚さが増えた」とも捉えられます。

90年代に、パイロットは標準品のニブ形状をRのかかったものに変えたと言われます。
これはボールペンになれた人々の、高くなった筆圧に対応するためとされています。

「撓り」と「開き」は、実のところ相反しているということですね。
ただ、多くのニブは少なからずRがかかっているので、結局は軟らかいニブなら切り割りも開きやすいもの、というわけです。


逆に、正面から見て平坦な形状をしているニブは、筆圧の殆どが垂直方向の力に変換されます。図3にその模式図を示します。


fig.3


このようなニブは、筆圧に応じて切り割りがほとんど開きません。その分、同じ厚さなら縦の撓りは増える結果となります。
代表例がプラチナの3776です。これは細軟などを除き厚い為に撓りにくいものですが、それでも筆圧に対する字幅変動が少ない様子が見て取れます。
筆圧によらず安定した字を書きたい方に合っている、というわけです。
この形状でよく撓る物の代表は、3776細軟やモンブラン2桁(ウィングニブ)です。これらがもたらす独特な書き心地も根強い人気がありますね。


「撓り」や「開き」の好みはそれぞれです。
「よく撓るが、切り割りが開かない方がいい」「字幅の強弱の付いた字が書きたい」…こういう好みと、ペン先形状を比べても面白いかもしれません。


さて、今までニブのRが切り割りを開くと説明してきましたが…。これには限界があります。理由は単純、切り割りから首軸側は広がりようがないからです。
図4に模式図を示します。


fig.4


図4に示すように、より一層の「開き」を得たいなら、それを固定してしまう切り割り終端か、その後ろ辺りを削り落とせば良いと考えられます。
そうすれば、ニブはよりそのRに従って自由に広がれます。
…この形状に見覚えがある方も多いことでしょう。図5が実例です。


fig.5


パイロットのフォルカンは、正にこの理論通りに横を削った形状にしているといえます。中屋の軟調加工などでも見られる形状です。
また、この形状は実質厚さも減るので、削らない場合より縦方向の撓りにも影響しています。
万年筆ではありませんが、つけペンの一種であるGペンも同様の形状ですね。


この他、ハート穴の形状や、ニブの上に軸がせり出す構造(フーデッドニブ)も「撓り」や「開き」に影響します。
また、1つのニブ中に平坦な領域とRのかかった領域を用意して、両者の特性をうまく混ぜ込んだニブもあります。
それらは機会があれば紹介いたします。



さて、ここまで、ニブの硬軟と撓り・開きについてお話してきました。
硬軟はニブの形状が材料より大きな影響を持つ、とは第1回のお話でしたが…。そうは言っても材料物性も重要なパラメータです。

そこで、次回は各種ニブ材料の紹介と考察を述べようと思います。

それでは。