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あらすじ:
「ヴィオレット、今日こそ君には反省して貰う。君のその鼻持ちならない性格が矯正されるまで、僕、第八王子リュカの意思でもって――君との婚約式を延期する!」
公爵家主催の夜会の途中、執事エルネストが仕える主人、意地悪公爵令嬢ヴィオレットは第八王子リュカに婚約延期を言い渡されると、自らを否定された公爵令嬢が倒れてしまった。
数時間後、目を覚ました公爵令嬢は別人のように庶民的な性格に変わっていた!
王子リュカは喜んだ。庶民派令嬢に鞍替えしたヴィオレットは「このままでは悪役令嬢として王子に処刑されるかも! ただのジョシダイセイなのに」などと、訳のわからないことを言って節制に勤めだす。それは一見良いことのように思えたが、執事エルネストは困る。高位令嬢にして公爵家の後継者であるヴィオレットには、公爵家の顔として他を圧する高貴にして高慢な令嬢であった方が良かったのだ。
しかも、公爵令嬢の浪費が止まると、彼女の派手な散財で保っていた自領の経済がいよいよ音を立てて冷え込んで行く! エルネストは元の令嬢を取り戻し、領の平和を守れるか? 大体執事の胃が痛いファンタジー。


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バナー製作:ゆき イラスト:楼
 一章1話:突然ですが、事件です。(4/4)

 しかし、言われてみれば、だ。

 確かに、この騒動の中心人物であるご令嬢は、何故かひどく大人びたドレスを纏っていた。

 小柄で幼い顔立ちの彼女が纏う青色のドレスは、裾を絞った細身のラインで、大輪の白百合の刺繍が首からぶっつり落とされたかのような画となっている。それが妙に不吉というか、決まりが悪いというか。おかしな風に見えてしまう。

 高く結われた髪に挿された百合の形の髪飾りも、先のドレスも――高身長で細身の女性に合わせて作られたような、縦のラインを意識させる大胆な意匠(デザイン)で出来ている。

 そして私は、そのドレスの意匠に見覚えがあり、かつドレスが似合いそうな人を知っていた……私の従姉妹の、子爵夫人。ヴィオレット様の教育係もしていた、美しい女性を。

 もしやこれは、と……疑惑が擡(もた)げたその時に、王子殿下の怒りの声が上がる。

「……君はいつもそうだ! 僕の言葉をまともに取り合う事もない。僕はいつも言っていただろう? 虐(いじ)めは止せと。社交も何も知らない雛達を怯えさせるような真似は止めろと!」

「まあ、そのような事は……」

「ドレスの手配一つ、上手くいなかったからと何故皆で取り囲み尋問するような事する? そんなの可哀想だろう!」

「ですが、嗜みとして……」

「それは分かるが、君のそれはやり過ぎだと言っている!」

 潔癖な紳士の如き第八王子殿下の振る舞いに、少女からは熱い視線が殿下に送られる。分からなくもない。見目よい男子が、それも王子様が、己を庇ってくれたら、それはまあ惚れるというものだろう。

 しかし、何度も言うが今はそんな場ではない。

「その服装もそうだ! いつも金に飽かせて贅沢ばかり。少しは民の為に節制しようと思わないのか!」

 殿下が示されたヴィオレッタ様のドレスは、確かに華美なほどであった。

 薄い布の重なりが細めのドレスを彩るように重なり、全体が薔薇のように華やかに見える。

 赤い髪に飾られた緑の宝石があしらわれた小さなティアラといい、細い首を彩る銀のチョーカーといい、どれも名工が手を尽くしただろうものだと一目で取れるもの。だが、格に見合っていないかと言えば、そうでもない。この場で尤も格の高い公爵令嬢であればこそ、そのドレスは意味を持っていた。

 ヴィオレット様は不思議そうに真っ白な手袋に包まれた細い指先を顎に寄せ、ほっそりとした小首を傾げた。

「まあリュカ様、今日は本当にどうしたのでしょう。そんなにはしゃいでいらして。お酒を過ごしたのかしら? どうかいつものお優しいリュカ様に戻って下さいませ」

 そっと婚約者に差し出した華奢なヴィオレット様の手は払われ、怒りに顔を歪めた王子殿下は彼女へ最後通牒の如く言い渡す。

「違うっ! 僕は正気だ! そんな風に僕を簡単にあしらえると思うなよ……今日は、君の性悪さについて本気で怒っているんだ! 君が変わらない限り……婚約式の日は来ないっ!」

 いよいよ第八王子殿下が本気である事に気づいたヴィオレット様は、見る間に表情をなくしていった。

 美しい顔がまるで人形のように血の気をなくしていき、華奢な身体はかたかたと震え、かすかに漏れる声は、引き攣れている。

「わたくしが間違っていたと……? ならばどう生きれば良かったというのです? この何もない土地で、この高すぎる地位で……! 無様に散れば良かったとでも言うのですか、リュカ様……!」

 まるで悲鳴のような声を上げ、ヴィオレット様は床に崩れ落ちる。

 ……その、途中で。

 危うく床に蹲りそうになったヴィオレット様の華奢な身を抱き上げた私は、さてどうしたものかと頭を巡らせた。

「エルネスト」

 そんな私に声を掛けてくる男性がいた。第八王子殿下だ。

「殿下、本当に困りますよ。姫様はこう見えて意外と激情家ですから、人前で恥を掻かされたとなれば我を失うに決まっているでしょう」

「いや、それは見たとおりだが……まさかここまで取り乱すとは。本当にすまない」

「それは、起きた時に姫様本人に言って下さい。私に言われても困ります」

 とにかくこの場をどうにか鎮めた後、ご歓談を継続して貰って、ヴィオレット様が起きるのを待ってから、あれはパーティの余興だとでも言い繕わねばならない。

 ――この婚約は、相性などではとても止められない。何せ王命であるのだから。
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