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「パスタにコオロギの粉末を練りこんで何が嬉しいんですか?」

先日後輩に言われた。もっともな疑問だと思う。僕は美味しいからとしか返せなかった。(心の中ではうるせえバカと思っていた)

タイ・バンコク郊外にある昆虫食レストラン”Insects in the backyard”に先月に行ったのが事の始まり。食用昆虫界隈では名が知られており、従来の貧しい人の食べ物・田舎の珍味といったイメージとは真逆で高級路線の店だ。現在1食50バーツ以内で収めて生活をしている僕は一人で1000バーツ(約3500円)使った。

昆虫料理のフルコースもあるが、友人がもう既に食べているのと自分がそこまで昆虫に首ったけではないので単品で注文した。それぞれ250から300バーツ程度だったと思う。

  • カイコ蛹のジェノベーゼ(Fresh house made cricket pasta with black basil pesto and chorizo)
  • 虫とサワークリームのナチョス(Nachos with silkworm cherry tomato salsa and sour cream)
  • 牛タンとマスタードソース(Ox tongue with jalapeno and herbed mustard)

割合いにまともな料理を食わせてくれる、くらいの評判だったが実のところどれも一級品の味だった。特にカイコ蛹のジェノベーゼが圧倒的にうまい。昆虫料理ではなく、今まで食べたパスタの中でも過去最高にうまい。それが表題のサナギパスタである。

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このジェノベーゼ、コオロギ粉末を練りこんだいわゆるクリケットパスタで風味が出ており特徴的なのは確か。ただバジルソースが美味いくらいで、むしろチョリソーの塩加減がいくぶん強い普通のパスタだ。もちろん十分に「勝てる」ソースではあるのだけど。

ここでサナギが大活躍する。軽くフライされており、唐辛子や各種スパイスがまぶされているコイツの役割はでかい。

サナギは硬さをいい具合に保ちながら水分、油分、塩味を吸ってさらに味がつく。パスタ全体にありがちなのっぺり感に対してフライの食感は最も求めていたそれである。これはサナギにしかできない芸当だ。対パスタ、対ソース、対チョリソーの3つを念頭に置いたときの最適解と言える。特に麺との相性が抜群に良かった。パスタ単独で食べたらサナギが欲しくなるし、サナギだけつまんでいてもクリケットパスタが欲しくなるだろう。非常に考えられている。

サナギ本体の味はどうだと言われても普通のサナギ。ここでお茶を濁すようにサナギの味を比喩で語るのは逃げだと思う。私ではなくあなたにとって。なぜか。漠然と言葉にできない味の情報があって、そこに「○○っぽい」という情報が加わることによって、より明確なイメージを手中に収められるのに一方で食虫に関して生娘であると「○○っぽさ」を「○○であるが○○に及ばない」と誤認してしまうからだ。よろしゅう。

さて「勝てる」とは何か?
M-1グランプリ2017の審査員を務めた春風亭小朝がかまいたちの漫才を「賞レースでは勝てるネタを用意をする。優勝するにはただ勝てるネタではなくて、勝ち切るネタが必要だ。この漫才はただの勝てるネタだったのではないか」のように評していた。

後にその子細を自身のブログ上で「自分たちの最大の武器が何かを忘れていた」と書いていたのだが、その日イマイチ面白くなかった訳ではない。面白かった。しかし、他でもないかまいたちだからこそ出せる面白さを含んだ漫才が他にもあったのだろうという意味ではないかと思う。その意味でこのパスタは絶対に勝ち切れるパスタだった。

私のようにここまで絶賛している人は少ない。多数派を占めるのはビジュアルがどうしても食う気になれないだとか虫である必然性がないのでは?、なんて書いてるブログや情報サイトだ。実にレベルの低い話だと思う。一方で見た目を美しくするにはどうするべきかという問いはレベルが高い。本来ならInsects in the backyardは後者の文脈で語られるべきだ。

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(食虫植物のオブジェがゴージャスな店内にぶら下がっていた。ハイブランドのコーディネートに差し色でH&Mかどこかの安っぽくどぎつい色がチラ見えしてるのと同じような感覚。面白いけど)

私とて大の虫嫌いなのでやはり凝視したり、ビュッフェ形式で昆虫が迫り来ると頭が痛くなる。だから苦手意識を持つのも理解できる。しかし一食べ物として対峙するときには敬意を持って向き合っている。要するに凡百の情報サイトはマインドセットに問題があって、はじめから美味しく食べようという気概がない。

虫であることを珍品・ゲテモノの類として過度に気にしており、いわばディテールであるところの昆虫が全体にすり替わってしまっている。清水アリカが『革命のためのサウンドトラック』で似たような事象についてエッシャーの騙し絵のようだと言っているが、もう何がディテールで何が全体なのか誰にもわからなくなっているのは間違いない。少なくとも彼らにとっては。

清水アリカ全集
清水 アリカ
河出書房新社
2011-08-25



過激なことを言えば、そうしたマインドセットで味に言及しているのは童貞となんら変わらない。女性器は、グロテスクだし、ミミズが千匹くらい蠢いてそう、とクンニをしない人間と何が違うのか。めちゃくちゃ臭くてなぁ、僕ぅ何回ホモになろ思たか分かりませんわ(*1)、ってなる人見たことないし、いけるよ。本来的にマイノリティであるはずの「童貞」が昆虫食に関してはマジョリティになっているだけであって、非・「童貞」からすると何もかもがトロくて、本質的な鋭さも、議論の発展性がないとさえ感じる。経験がなく知識だけが蓄積された「童貞」は結果としてモノの見方がスタティックにならざるを得ない。完成度の高いこの一品で変えよう・変わろうともなっていない。扉開いたら本当に変わっちゃうんですよ?

【閲覧注意】とタイトルに冠して、こんなものがおいしいわけがない......おいしー!!なんて書いているのはまだマシな方で、それでも勝俣州和以外の人間がそんなリアクションをしてまかり通ると思っているのが引く(ネットメディアのつまらない様式美だ)。文化にも無礼で、リアクションがインフレしている。手垢がつきすぎて黄金色になったシルバーカラーのニンテンドーDSは紹興酒で炊き込むと美味い、くらいのえぐいライフハックが現れるまでは封印していてほしい。

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このナチョスは料理全体を占める虫の量が他の食材を上回っている例。うまそうに食べていたからか、サービスで小鉢にたっぷり盛られたコオロギのフリッターをいただいたが、流石にくどくなった。数ヶ月前、和歌山で延々とキリギリスを食べようと意気込んだものの6匹目くらいで腹が膨れたのを思い出した。

話は変わって、これは芸術なのだろうか。というのもInsects in the backyardが入っているチャンチュイ(Chang Chui)というタイの先端カルチャーが集まったエリアのコンセプトがset new ideas throughout art, designs, shop and entertainmentだからだ。そう見る人がいてもおかしくないだろう。

しかしそうした御託は言語化を怠って、「アート」を盾に既存の枠組みから離れ、いわば安全圏から料理として評価を得ながらも権威の援護射撃を受けている感も否めない。ダサすぎる。そんなことをしなくても料理として、それも「勝ち切る」料理として評価されるシロモノだと思う。

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先日、タイ・コンケン大学キャンパス内にあるオーガニックショップでサナギの缶詰を買った。1缶40バーツで味付けはチーズ、トムヤム、BBQ、海苔、塩、ラーブ(タイ東北部の特産料理)の6種類。オーガニックゆえに40バーツは決して安くない。

美味かった。料理と合わせてもいいし、ビールか、個人的には冷えた日本酒でつまんでみたい。日本に持ち帰りたい。ただこれは単なる「勝てる」料理でしかないとも感じた。もはや今となっては高タンパクでエコフレンドリーで、その上美味いってだけでは十分な起爆力を持たない。素材だから仕方ないというのもあるが。(もちろんこうした高いレベルの商品が身近に手に入るようになったのは祝祭的な瞬間だと思う)

さて、Insects in the backyardの話に戻る。ホームページで昆虫は古来より食されており、高タンパクで未来が云々、我々はそのアイデアを愛していると前置きした上でこう書いている。

We take pride in producng food that is beautiful, easy to eat, and above all delicious

であり

While we know that the Insects in the backyard may not be everyone's cup of tea, we are look to push the frontiers and be forward looking in how we think about food and our relationship

と。

確かに万人のための料理ではないかもしれないが、矜持がある。beautifulでeasy to eatでdeliciousな料理を食べ終わったとき、僕たちの世界は今よりも見晴らしが良くなっているはず。

だからこそ言わせて欲しい。

Insects in the backyardのサナギパスタは圧倒的に勝ち切っていると。


Insects in the backyard
http://insectsinthebackyard.com/index.html

*1 村上龍『愛と幻想のファシズム』に出てきた関西のアパレル企業の社長かなんかが涙ながらに語ったセリフです。うろ覚えですが。僕自身にホモフォビアもなければ、ホモという単語自体に侮蔑要素があるとは思ってませんので。一応。