− 全面的な共謀罪復活の野望を許さないために、今、なにが必要か −
コンピュータ規制法の危険性と今後の闘い方 (2)
(その1)
足立昌勝
3.サイバー社会と市民社会
サイバー社会は、市民社会と全く異なっており、市民社会の法律をそのまま適用することはできない。すなわち、市民社会には、世界人権宣言があり、国連人権規約もある。また、各国には、憲法も存在する。しかし、サイバー社会には、それに相当するものがない。限定的にしろ、唯一存在するのは、ヨーロッパ・サイバー犯罪条約だけであろう。
市民社会には、国境があり、法律が対象としているものは、有体物である。それに対し、サイバー社会には、国境がなく、そこで扱われているものは、目に見えない無線である。
私の目の前を無数の無線が飛んでいる。私はそれを認識することはできない。それがサイバー社会である。したがって、サイバー社会では、人間がそれを感じ取るために、コンピュータを通した可視化が必要になる。また、サイバー社会には国境が存在しないことにより、すべての無線情報がどの国においても補足可能であり、市民社会のルールである国家概念に基づく取締りを行うことはできない。
その矛盾の表れが、リモート・アクセスの問題である。法律上の文言においては、コンピュータを通したアクセスが、接続している限りにおいて、どこまでも捕捉可能となっている。これは、サイバー社会の特徴をそのまま反映したものである。
サイバー社会を規律するためには、そのあり方に即応した法体系を、市民社会法とは別個のものとして構築しなければならない。それをせずに、市民社会の法律を前提に考える限り、多くの矛盾を抱えることになってしまう。
今回の法律では、コンピュータを用いた犯罪に様々な捜査手法を導入しようとしているが、それは、市民社会からのものであって、サイバー社会に対応したものではない。
まず必要なことは、サイバー社会の在り方を定めるサイバー社会基本法を制定することであり、それに基づきサイバー社会の個別的案件への対応を考えるべきである。
4.コンピュータ規制法の概要
1) かつての共謀罪法案の内、共謀罪の部分を除外し、残りのものの法案化を進めた。
2) 内容的には、6つの法律改正からなっている。
・刑法の一部改正
<サイバー関係>
a) コンピュータ・ヴィールス作成、供用罪の新設−その処罰根拠はどこにあるのか。市民法と比較した場合、処罰範囲の大幅な拡大ではないか。
b) わいせつ物頒布罪の処罰範囲の拡大
c) 電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪処罰−他の業務妨害罪には未遂処罰規定は存在しない。この犯罪にのみ未遂処罰を認める根拠はどこにあるのか。
<強制執行妨害罪関係>
d) 封印等破棄罪・強制執行妨害罪・競売等妨害罪の処罰範囲の拡大
e) 職業的な強制執行妨害者の重罰化
f) 法定刑の引き上げ
刑事訴訟法の一部改正
組織的犯罪処罰法の一部改正−記録命令つき差押え
保全要請を検察官が没収保全請求として行えるようにする
第三者所有物没収手続応急措置法の一部改正−第三者所有の電磁的記録の没収
国際捜査共助法の一部改正−刑訴法改正に伴うもの
不正アクセス禁止法の一部改正−国外犯規定の整備
つづく
「無罪!」第77号より
《承前》