刑法(刑事司法)の耐え難い状況

シュペー『刑事裁判官への警告』を読む〔31〕

宮本氏希望を育てる闘い

(その1)


宮本
弘典関東学院大学 法学部教授)

 

現行刑訴法は、日本国憲法の人身の自由規定を具体化し、刑事裁判の自由化と民主化をもたらしたというふうに、基本的には多くの刑訴法学者が肯定的に評価している。しかし、自白調書の制限や、裁判官の自由心証の抑制については、むしろ、戦前の刑訴法より後退を見せている。確かに戦前の刑訴法に比べれば、身柄拘束の要件や期間は明確になった。実態は骨抜きだが明確にはなっている。ただし現行刑訴法の現実は、非常時としての戦時の刑事法制を温存し強化した形で営まれている。さて、そのような非常時の刑事裁判の論理と心理がどのようなものなのか。法的のみならず道徳的にも被告人を「非国民」として排除・殲滅の対象とする。その権威主義的性格は、もはや多言を要しないだろう。

中世の暗黒の裁判から近代の自由主義的な裁判への衣替えは、拷問と結び付いた自白裁判が数多の冤罪誤判を生出したという苦くて重い歴史の体験を契機とする。その衣替えのモットーは、刑事裁判の最大の使命は「無罪の発見」にあるということであった。いわば国家の暴力と一人で対峙し闘わなければならない生身の人間を救う場であってこそ、刑事裁判は正しい刑事裁判になる。少なくともモットーはそうだ。

つづく