ローレンス・ワット=エヴァンズ「ぼくがハリーズ・バーガーショップをやめたいきさつ」(1987) Why I Left Harry's All-Night Hamburgers 
ハヤカワ文庫SF『80年代SF傑作選 下』収録
1988年度ヒューゴー賞ショートストーリー部門受賞作






さて、きみはどうしてベナレスなんかへ来たんだい?


 ハリーのバーガーレストランは、ウェストヴァージニアのド田舎の国道沿いにある誰がどう見ても何の変哲もない終夜営業のトラックドライバー相手の店。近所に住む主人公もそう思っていた。…そこに勤め始めるまでは。
 昼間は外見通りの普通のバーガー屋だが、夜中になると得体のしれない連中が店に姿を見せる。宇宙服やてかてか光る妙な制服姿だとか、肌が青かったり緑だったり、おっぱいが3つついていたり…。そう、ここはパラレルワールドの間を行き来する次元の旅人達が集う店だったのだ!

 最初は異形の旅人達の接客にびびっていた主人公も次第に慣れ、フレンドリーなお客からさまざまな異世界の驚異について聞くうちに、旅への憧れの気持ちが頭をもたげ出す。こんなウェストヴァージニアのなにもない山の中で年を取るのはゴメンだ、世界を、しかもいくつもの世界を見たい…主人公はある夜マシンに1人分の空きがあるという旅人に同行をせがむのだが…。


 
***********************************************************************

 最初読んだときは思わず執筆年代を再確認してしまったほどの、実に素朴な風情の「トワイライトゾーン」とか「世にも奇妙な物語」のような怪異譚、と油断していると土俵際できれいなうっちゃりが決まる作品。いや別にすごいトリックがあるとか、大どんでん返しが待っている、というようなものではなく、「ちょっといい話」というところに落ち着くのであるが、ほんの少し視点を横にずらすと、世界が全く違うものに見えてくるこの感覚は、ただしく「センス・オブ・ワンダー」の一種なんだと再確認させてくれる。アメリカのSFファンにもそこらへんが大いに受けたようで見事にファン投票で選ばれるヒューゴー賞に輝いた。
 検索したら似たようなことを言っている人がいたのだが、これ現代日本の異世界召喚ものラノベに換骨奪胎してみたら、すごく共感できる話に仕上がるんじゃないだろうか。

 ワット=エヴァンズは40冊以上の長編を出しているベテラン作家だが、ジャンルの歴史上ではほぼこの短編1作で記憶されているといっても過言ではない。唯一邦訳のある長編『ナイトサイド・シティ』は読んだけどストーリーはぜんぜん記憶に残ってない。最後まで読み通したしそれなりに面白かったはずだとは思うんだけど、うーん。

 なおこの作品にはレストランのオーナーであるハリーを主人公にした続編というかスピンオフ作品「ミネソタ・ナンバーの空飛ぶ円盤」(SFマガジン1994年9月号)がある。これもとってもほのぼのとしたいい話なので、掲載誌を図書館等で読める人はぜひ読んでみてほしい。