2010年04月30日

スパコンTop500 2009-06、国別シェア

公開日時: 2009/06/24 01:07
著者: 能澤 徹




 2009年6月度 33rd版Top500のリストが発表された。

 Top1,2は変動なく、Top3に独ユーリッヒ研のBG/Pが825.5Tflopsでランクされ、非米第1位、欧州第1位にランクされた。第10位にもユーリッヒ研のSun Constellationが新たにランクされ、これはIntelのX5570(Nehalem-EP)を使用しており、注目される。

 日本の最高位は第22位のES2で122Tflopsである。

 国別の順位では、米国が台数ベースでも、Linpackの総計算力ベースででも世界の半分以上を占めており、次いで独、英、仏と続き、台数ベースでは、日本は15システムで、21システムの中国についで、第6位ではあるが、Linpackの総計算力ベースでは、辛うじて中国を押さえ第5位にランクされた。

 

スパコンTop10 2009-06


順 Site        System          Linpack-Tflops

01 LANL 米     PowerXCell+Opteron IBM   1105.0
02 ORNL 米     Cray XT5 QC Cray       1059.0
03 Juelich 独   Blue Gene/P IBM       825.5
04 NASA/Ames 米  Altix ICE 8200EX, Xeon    487.0
05 LLNL 米     Blue Gene/L IBM        478.2
06 Tennessee大 米 Cray XT5 Cray        463.3
07 Argonne Lab 米 Blue Gene/P IBM        458.6
08 Texas大 米    Sun x6420 Sun         433.2
09 LLNL 米     Blue Gene/P IBM        415.7
10 Juelich 独   Xeon X5570 Bull        274.8

  
  
日本のスパコン 2009-06

順 Site       System           Linpack-Tflops

22 ESセンター   ES2 NEC             122.4
28 JAXA      FX1, SPARC64-VII Fujitsu   110.6
40 理研      PRIMERGY X5570 Fujitsu     87.9
41 東工大 Opteron&Xeon+CSX600&nVidia SUN   87.0
42 東大      T2K日立 HitachiI        83.0
47 筑波大    T2K Xtreme-X3 Appro        77.3
65 核融研    SR16000 L2, Power6 Hitachi   56.7
69 東大・ゲノム SunBlade x6250, Sun        54.2
78 京大      T2K HX600, Fujitsu        50.5
93 物性研    Altix ICE 8200EX, SGI       42.7
259 天文台   Cray XT4 QC Cray          22.9
277 天文台   GRAPE-DR, Selfーmade        22.0
393 生命情研  Blue Gene/L IBM           18.7
396 高エネ研  Blue Gene/L IBM           18.7
397 高エネ研  Blue Gene/L IBM           18.7



国別シェア 2009-06


順 国   台数 台数   Linpack Linpack
位        シェア   GFlops シェア
01 米   291 58.20%   13,720,810   60.69%
02 独   29  5.80%   2,113,110    9.35%
03 英   44  8.80%   1,248,013    5.52%
04 仏   23  4.60%   1,004,743    4.44%
05 日本  15  3.00%    873,109    3.86%
06 中国  21  4.20%    788,125    3.49%
07 カナダ 8   1.60%    358,741    1.59%
08 瑞典  10  2.00%    343,447    1.52%
09 露   5   1.00%    261,682    1.16%
10 印   6   1.20%    247,285    1.09%
Total    500       22,607,996  




 日本の問題点は1年前の31st版のときに比べ、台数ベースで4.40%―>3.00%(-1.4%)、Linpack計算力ベースでの4.71%―>3.86%(-0.85%)と減少傾向に歯止めが掛からず、長期低落傾向が改善されていないことである。

 日本のスパコンの総リース料は、文科省の統計によれば年額一声260億円前後とされており、月額換算で21億6千万円程度である。これを今年4月に北陸先端大が導入したCray-XT5(19.6Tflops、月額961万円、4年リース)で換算してみると、およそ、4.4Pflopsの予算規模で、Linpackの実行効率を80%と仮定すると、Linpack計算能力としては3.5Pflopsの税金を投入しているわけである。

 ところが実際に調達したスパコンでの総計算力は0.87Pflopsであったということであり、明らかに調達がおかしいといってよいと思う。勿論、古い調達があり、最近の価格動向が反映されていないということも確かではあるが、平均して考えても、3.5Pflops vs 0.87Pflopsというのは余りにも差があり過ぎ、そうした弁解は有効性を持たないものである。少なくとも英国の1.2Pflopsは軽く凌駕できる予算額であり、ドイツの2.1Pflopsも射程内で、かつ凌駕可能な予算額である。


 要するに、各研究所や各大学の計算センター等のスパコン調達が杜撰としか言いようがないのである。各組織の調達担当者は、もっと賢い調達をすべきであり、その事が、日本の科学技術の足腰を鍛えるものであるという事を十二分に理解・認識する必要があるのである。調達担当者の奮起を期待したいし、科学技術に関心のある多くの人々は、税金による調達をより一層厳しく監視してゆく必要があろうと思うのである。


  
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次世代スパコンからのNECの撤退 (2/2)       <次世代スパコンの行方>&<国家技術戦略への影響>

公開日時: 2009/05/25 09:54
著者: 能澤 徹





<復習:国家基幹技術次世代スパコンの数値目標と文科省の国家技術戦略>

 次世代スパコンの行方を検討する前に、次世代スパコンの目標等に関して復習をしておきたい。

 文科省の次世代スパコンは、総合科学技術会議という日本の科学技術政策を統括する会議で「国家基幹技術」と認定され、閣議決定されたもので、その数値目標は、2010年にLinpack10Pflopsを達成しTop500の第1位とHPCC主要4項目で第1位になることである。
 Top500のタイミングは毎年6月と11月であり、HPCC11月であるので、目標年度が2010年ではあるが、実際には、Linpackの第1位認定時期は20116月度のISC11にならざるを得ず、また、HPCCでの第1位認定時期も201111月のSC11という事になるわけではあるが。


 目標実現の戦略は、「ベクタ・スカラ両輪論」という事で、ベクター型スパコンとスカラー型スパコンを別々に作成し、ハイブリッド結合させる、というもので、実施主体は理研、総額
1,154億円の巨額税金が投入される事になっているのである。


 これらの数値目標と達成年度は具体的で解りやすく、恣意的改変の出来ない明確な目標である。しかし残念な事に、これらの数値目標と
国家基幹技術というものの相互関係は甚だ曖昧で、合理的説明は無く、若干捏造気味の「各種ユーザからの機能要求調査」なるものにより「必要」といっているだけある。

 つまり、「実現できないと、国家戦略の何処にどのような困難が発生するのか」という相互関連が明確ではないのである。 素朴に「実現出来ないと特段な困難が発生する」とは思えないし、代替手段も多数考えられるので、「それ程のことはない」というのが率直な実感であろう。

 されどこの数値目標は閣議決定を経たものであるので、極めて重いもので、変更には、国家戦略内の相互関係の整合性を取り直し、それなりの手順で、それなりの承認プロセスを経ねばならないことは明らかであろう。



<次世代スパコンの行方>

 では、今回のNECの撤退は次世代スパコンの行方にどのような影響を与えるのであろうか?ソフトウエアが影響を受けるのは確かであろう。ここではハードウエア中心に考えてみる。

 
数値目標の具体的達成方法が開示されていないので、率直なところ、良くわからない。閣議決定より少し前の段階では、スカラ1.0Pflops、ベクタ0.5Pflops、専用機20Pflopsとなっていたが、閣議決定される前の総合科学技術会議の頃から、専用機は削除された案になっており、10Pflops達成の方法が不明になっているからである。

 しかし、NECの撤退に関しては、上述の閣議決定前の数値からも明らかなように、SXは、電力消費、設置面積などの関係からスカラ部の半分程度の性能が限界と考えられており、この意味において、今回のNECの撤退は次世代スパコンのLinpackの数値目標には影響を与えないものと考えられる。
 
 ただし
HPCCの主要4項目においては、SPARC64-VIIIの実力が未知であるため、この辺りに於いて一部の項目で影響が出る可能性はあるかも知れない、といった程度であろう。



 そもそも次世代スパコンは、「世界第
1位を確実にする」との気合が入る前は、1Pflops程度を狙っていたもので、受注を目指し富士通は3Pflopsのアドバルーンを打ち上げていたが、その3Pflops案の根拠に該当すると思えるのが、5月の「富士通フォーラム2009」で展示されていたSPARC64-VIIIfxで、8コア45nm,128Gflopsチップである。

 このチップは1ボードに4ソケット実装可能で、1ラック24ボード96ソケットとなっているので、ボード性能は512Gflops、ラック性能は12Tflopsのようである。
 これを
256台、24,576ソケット並べると3.1Pflops程度になるわけで、まあ、これがSPARC64-Ⅷの実行効率や信頼性、経済性などを勘案した、常識的な設計許容サイズではないかと思う。  
 勿論前提として、チップが設計通りに作動し、ボードやラックも熱処理を含めて設計どうりに実現され、インターコネクトもそれなりのものが供給される事が必要ではあるが。


 参考までに
Cray-XT54コアOpteron1ラック192ソケットで液令、インターコネクトはSeaStar2という3D Torusである(一般的に結合ノード数が多くなるとFat-Treeではレイヤが深くなり効率が著しく落ちてしまう)。
 ORNLJaguarの場合は、およそ250ラックで、全理論性能1.6PFflopsであるが、測定時の理論性能は1.38Pflopsで、Linpack1.06Pflopsであるので、実行効率は76.8%程度である。


 従って実行効率を安全サイドにやや低めに
70%と想定すると、SPARC64-Ⅷ3.1Pflop機はLinpack換算で2.17Pflops程度ということになる。


 数値目標の
Linpack10Pflopとなると、効率を70%としても理論性能で14.3Pflops、安全に見積もるならと1520Pflopsほしいところである。15Pflopsとしても1,250ラック120,000ソケット960,000コアである。


 あの地球シミュレータでさえ、
320ラック640ノードであったわけで、1,250ラックというのはSPARC64-Ⅷの常識的設計許容サイズと思える256ラックの5倍という事になり、常識的には限界を超え過ぎていると考えるべきで、インターコネクトのトポロジが複雑になり過ぎ実行効率は極端に低下し、消費電力・発熱なども限界を超え極めて不経済なものになり、トータルシステムの信頼性もかなり低下し、その結果、長時間の全システム連続実行が必要なLinpackの実行に於いては、途中でのエラー発生のため、データすら取れないようなシステムになるのではないかと思わざるを得ず、数値目標を達成できるとは考えずらいのである。


 このことは、筆者が
2年ほど前から指摘している次世代スパコン・プロジェクトに関する旧知の基本的問題で、今回のNECの撤退とは関係無く、本来的に内在している問題なのである。


 文科省・理研は、こうした基本的問題を、機密などとして、うやむやにしたままプロジェクトを進め、問題の先送りをしていると、最終段階に到り、取り返しのつかない破綻が顕在化することになるわけで、今回も、その事だけは強く指摘しておきたい。


 理研は数値目標が実現可能であるとするなら、当然、コア、チップ、ラック、システムと積み上げた達成の筋道を明示すべきであり、数値目標達成に対する疑問に数値で答えるべきであろう。


 と同時に、
SPARC64-Ⅷでの作成という事であると、もろに、Nehalem-EXとかOpteron-6コアとかの市販CPUによるシステムとの、屁理屈抜きの、きびしい国際価格性能競争に突入するということで、コスト的な勝ち目の目算提示も必須であろう。

 


<国家技術戦略への影響>

 国家基幹技術などと厳めしい表現ではあるが、実質的には、NECの撤退が国家技術戦略へ影響を与えるようなことは無いと思う。

 実際、
NEC撤退のニュースの後、他の国家戦略がどこかで支障を来たすといった類のニュースが報道されたことはなかったと思う。本当に支障があれば、何か報道されるはずであり、報道が無いということは、それ程、大きな支障は無い、あるいは、代替案でカバーできるという事であろう。

 ベクタ機による計算などとはいっても、計算は計算に過ぎないわけで、ベクタ機でなければ出来ないなどといった計算は無い。ベクタ機がなくなったとしても、スカラ機で計算すればよいわけで、せいぜい、プログラムを書き換えねばならない程度の話である。

 NECの撤退が国家技術戦略に関わるとするなら、それは実質的なものではなく、戦略内での論理的整合性の問題と、それに関わる責任問題であろう。
 戦略として「ベクタ・スカラ両輪論」などとして、「国家基幹技術」の両輪などと説明してきたのに、一方の車輪が吹き飛んでしまって、片輪で戦略を前進させることが出来るのか、という観念的問答である。

 つまり、もし、この情況で、このままで微調整程度で戦略を前進させられるというのであれば、そもそも、吹き飛んだ車輪は不要であったということであり、反対に、戦略を前進させられないというのであれば、国家技術戦略が破綻してしまうわけで、あまりに容易に破綻してしまうような戦略は、そもそも戦略としておかしいということで、いずれにしても矛盾が生じ、予算を含めて立案責任が問われねばならないと思うのである。


 業者の途中撤退といった事象の発生により、はからずも、
戦略そのもののいい加減さが浮き彫りになってしまったわけで、このいい加減な戦略を推進し、「国家基幹技術」などとして不必要な税金を浪費させた一連の人達の責任は重いといわざるを得ないであろう。



 付け加えると、筆者の目からは、文科省のスパコン戦略には極めて大きな欠陥がある。文科省の視点には、国際価格競争力という視点が全く欠落しているのである。

 文科省は国家技術戦略などと大上段に内向きに構えているが、開かれた国際社会における国家としては、たとえ国家技術戦略とはいえ、国際価格を無視することは出来ないであろう。国家の長期的な技術戦略とは、ある意味、国家の産業政策でもあるわけで、この観点から、日本のスパコンが国際市場の中で、価格競争力を有して独り立ちして生きて行けるのかどうかということは、極めて重大な問題である。にも関わらず、文科省のスパコン戦略には、この視点が全く欠落しているのである。


 これは国際市場へ打って出るまでもなく、文科省の戦略に含まれている「次世代スパコンの下方展開」といったフェーズで、国内に於いて、国際競争力が問われる事になるのである。

 性能に関する数値目標が達成できるかどうかといった論点とは別に、下方展開時に、価格競争力の観点から、海外メーカの輸入品に対抗できるのかという事も、性能とは別の重大な数値目標ではないかと思うのである。

 

 

 


  
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次世代スパコンからのNECの撤退 (1/2)  <ベクタ機SXシリーズの行方>

公開日時: 2009/05/25 00:54
著者: 能澤 徹



 2009年5月14日、理研NECは、NECが文科省の次世代スパコン・プロジェクトの製造段階以降の作業から撤退する旨の発表を行った


 率直なところ、このような形で、破綻の第1歩が始まったのには驚いた。 直前に、2009年3月期のNECの連結決算が約3000億円の赤字で、NECエレは約700億円の赤字といったことは報道で知っていたし、NECエレがルネッサスと合併するという事も聞いていた。
 そういえば、年初頃に、NECが海外でのPC事業から撤退するといった報道も目にしたような気がする。しかしこれらが、「天領」である次世代スパコンに結びつくとは全く思っていなかったので、迂闊にもこうした前兆報道を聞き流しにしてしまっていた訳である。

 また、先日の富士通のSPARC64-VIIIの展示も、考えてみれば、NEC撤退のインパクトを和らげる布石であったようにも思える。もう少し調べてみると、色々な布石はあったのかも知れないし、結構根回しもあったのではないかと思う。まあとにかく、今回のNECの次世代スパコンからの撤退は、NECの事業リストラ策(選択と集中)の一環であったということは確かであろう。

 因みに同年3月期の決算では、日立は約7900億円の赤字、富士通は約1100億円の赤字となっているようで、2008年秋のリーマン・ショック以降、巨額赤字には麻痺状態で、各社個別の現実的意味を汲取れなくなってしまっていたように思うのである。

 

<NEC撤退の影響の範囲>

 まず始めに注意をしておきたいのは、このNECの撤退は経営上の判断であって、報道発表を見る限り、技術的に破綻したといったようなものではないので、直接的には以前から行われて来ている「ベクタ・スカラ論争」に技術的回答を与えたものではないということである。
 ただし、ヴィデオ・レコーダでのVHS vs Beta 争議からもわかるとおり、商業ベースの技術では、商業的に成り立ってこそ始めて技術ということになるので、技術といえども最終的には経営上の問題を避けては通れないということも事実ではある。

 さて、今回のNECの撤退は、何処に、どのような影響を及ぼすのだろうか?
 話が発散しないように、いくつかのレイヤに分けて考えて見たい。概ね3つのレイヤが有るのではないかと思う。身近なほうから言うと、
第1はSXシリーズの行方に関するもの。
第2は最も直接的なもので次世代スパコン・プロジェクトの行方に関するもの。
第3は次世代スパコンが国家基幹技術に指定されていることによる国家技術戦略への影響である。

 この3つの中でとりわけ厄介なのは3の国家技術戦略に関するもので有るが、とりあえず、1と2の局所的なものから順番に検討してみたい。

 

<ベクタ機SXシリーズの行方>

 今回の撤退の背景として、今にして思うと、NECエレのルネサスとの合併は大きなモメンタムではなかったかと思う。正確な情報は持ち合わせていないが、SXのチップはNECエレが作っていたと思うので、同社の分離、ルネサスとの合併で、NEC本体に属するHPC事業部から外部の他社への開発製造委託では無理が利かなくなってしまうであろうことを考えると、なんとなく撤退の背景を理解はできるのであるが、それより、経営側とすれば、半導体事業の中核であったNECエレをすら里子に出し、身軽にならざるを得ないのであるから、経営姿勢として、天領・聖域などありえないという事ではなかったかと思うのである。

 今回のハードランディングをやや歴史的視点で表現すると、「メインフレーム型ビジネスモデルの終焉」ということであろうかと思う。少量生産・高付加価値・高価格のビジネスモデルの終焉という事である。大量生産・高付加価値・低価格製品の追撃を受け、差別化できなくなり、崩壊するというパターンである。
 これは、米国では80年代後半から90年代前半にかけてメインフレームで顕著に起こったもので、IBMですら左前に追い込まれ、Crayも倒産してしまった訳である。

 SXは技術計算向けスパコンという特殊分野であったことと、「日本国株式会社」的風土とから、最後のメインフレーム型ビジネスモデルとして日本で生き延びて来たわけであるが、リーマン金融ショックという振るいにかけられ、やむなく脱落という事になってしまったのであろう。

 ある意味、これは時間・歴史といった「淘汰機構」による淘汰の結果であり、時期的な早い遅いといった多少の違いはあっても、いわゆる「時間の問題」であり、必然であろうことは間違いないと思っている。
 


 さて、NECの発表では、国プロの製造フェーズ以降は撤退はするが、今後とも理研と協力はしてゆくという事と、HPC(スパコン)事業は継続し、次世代HPCを創造してゆく、とのことである。

 明確なメッセージは、現在販売中のSXやスカラ型スパコンは継続して販売や保守サービスなどを行う、という常識的なものであるが、若干気になるのは同社のHPCの将来に関して「時代に適した次世代HPCを創造して」と述べている部分の解釈であろう。

 このNECの発表文全般に流れている雰囲気は、NECが考える今後のスパコンの方向は、ベクタ・スカラのHybrid、ということのように感じられるのである。つまり、ベクタ型の発展をベクタ単体ではなくHybrid型の方向に見ているように読めるのである。

 そして、経営基盤の悪化とは言え、国プロのベクタ部開発から中途撤退したのであるから、常識的には、単独でベクタ機の開発を再開することは、財政的にも、国・国民との関係からも、ビジネスの見通しからも、極めて難しいであろうと思うのである。つまりSXシリーズは現行製品のSX-9で終焉/停止と考えるのが妥当なのではないかと思うのである。


 一方、IntelやAMDのCPUのロードマップでは2010年以降にはMMX/SSEなどを拡張強化したAVX(Advanced Vector Extension)がコア内に装着されるようである。
 これは深読みかも知れないが、CrayがDARPAから受注したCascadeを支える意味があるのではないかと思っている。Cascadeは「Adaptive Computing」と呼ばれている Vector/ScalarのHybrid Systemで、アプリケーション・プログラムの特性に応じて、Scalar演算器やVector演算器、あるいはReconfiguarable な専用演算器に振り分けて、最適処理を行うというものである。Crayの現在のHybrid機XT5h(XT5+X2+Reconfiguarable)との違いは、ラックレベルでのHybrid vs ノード(チップ内orチップorボード)レべルでのHybridという事である。
 チップの場合、疑問は、誰がこのようなチップを作るのだろうか、という事であったが、どうも、IntelやAMDのAVXがこれなのではないかと思うようになっている。
 CrayはDARPAとの開発契約ではAMDのOpteronを使用するということになっていたが、確か昨年、IntelのCPUでも良いと許可を得たとされており、DARPAのAdaptive Computingでは、これらのAVXを有するHybrid型のCPUが使用されるのではないかと思うようになっているのである。

 となると、NECのHybrid戦略においては、SXの後継は従来のSX単体方式ではなく、IntelやAMDのHybrid CPUが採用されても不思議では無いわけで、CPU開発の巨額経費が節減でき、従来からのSXユーザにも顔が立ち、撤退の発表文とも整合性が取れるのではないか、などと想像をふくらませている。


 要するに、単体SXシリーズは終焉、後継次世代hybrid HPCは、SX改+x86系、又は、x86系単体、で実現という戦略ではないかという深読みであるが、正確にはNECからの発表を待たねばならないであろう。 

 ただし、このx86系単体での深読みではCrayもHPもApproも、名前の残ったSGIも、同じということになるので、差別化を何でするのかといった問題があることも注意しておかねばならないのは言うまでもない。


(2/2 に続く)

  
Posted by petaflops at 11:23Comments(0)TrackBack(0) スパコン 03 | スパコン仕分け

2010年04月29日

GRAPE-DRはスパコンではないらしい! (3/3)            <コメント欄>

公開日時: 2009/04/24 10:40
著者: 能澤 徹





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このエントリーへのコメント
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20
こんにちは。状況の読めない頓珍漢な興行師です。
(このような評価は、興行師にとって光栄なものだと、友人の興行師が言ってました。ありがとうございます。頓珍漢。素晴らしい言葉です!)

さて、スパムの件ですが、能澤さんのご推察の通り、2件、私の書き込みです。URLを本文中に挿入すると書き込めないのですね。お手数をおかけしました。

>要するに、現在は、作動して目的の性能を発揮できるか
>どうかだけが焦眉の急の問題であって、議論などする暇が
>あったら、動かす事に集中しなさい、といっているんです。

なるほど、能澤さんのGRAPE関係者への、叱咤激励の言葉だったのですね。大きな父のような厳しさ。愛を感じて思わずほろりとしてしまいました。

>従って、頓珍漢な興行師さんのご希望に沿うことは出来ません
>と明確に断っているんです。
>理解できているんでしょうかねえ? 

たびたび頓珍漢というお褒めの言葉、ありがとうございます。
つまり、牧野さん、あるいはGRAPE関係者がネット上で反論しても、それについてはなんら能澤さんの議論に影響しない、ということですね?やっと理解しました。読解力が無くて申しわけありません。

>そうそう、それから、「IBM側の人間である」などという、
>無責任で、いい加減なデマを書き込んでもらっては迷惑ですな。
>何を根拠にしているのか解りませんが、現在雇用関係も何も無い
>当方にとっては100%迷惑です。

なるほど。能澤さんは今「現在」、IBMとなんら関係ない、ということですね。了解しました。能澤さんのGRAPEに対する取材方法と同様に、私も能澤さんについてインターネットで調べさせていただき、てっきりIBMの社員の方かと思っておりました(その根拠としたURLを提示したいところですが、スパムとなってしまうので遠慮します)。失礼しました。インターネットだけの情報だと、不適切な場合があるということ、身をもって知りました。大変失礼しました。

なにはともあれ、今後も能澤さんの興味深い記事、期待しております。近いうちにGRAPEの報告もあがることでしょう。納税者にとって意味深い議論が展開されることを期待しております。

追記。
けれどもIBMのOBというのは確かなのでしょうか?5550は私にとって、思い出の多いマシンです。

testertestertestest on 2009/05/02

19
To コメント#17

 情況の読めない頓珍漢な興行師さんですな。

 この件に関する本質は、GRAPE-DRが、「目的の性能を発揮できるかどうか」なわけで、既にプロジェクト期間の5年が過ぎ去ってしまった現在の段階は、実証の段階です。あるいは、実証が完了していなければならない段階で、議論の段階などではないといっているんです。
 要するに、現在は、作動して目的の性能を発揮できるかどうかだけが焦眉の急の問題であって、議論などする暇があったら、動かす事に集中しなさい、といっているんです。
 
 従って、頓珍漢な興行師さんのご希望に沿うことは出来ませんと明確に断っているんです。
 理解できているんでしょうかねえ? 
 これ以上のシツコイ勧誘は、真正SPAMに指定せざるを得ませんよ!

 追加:
そうそう、それから、「IBM側の人間である」などという、無責任で、いい加減なデマを書き込んでもらっては迷惑ですな。何を根拠にしているのか解りませんが、現在雇用関係も何も無い当方にとっては100%迷惑です。また、関係が無いので良くはわかりませんが、IBMさんにとっても、多分、現在の当方が「IBM側の人間」などといわれたら迷惑千万だろうと思いますよ。

能澤 徹 on 2009/05/01

18
SPAMによるコメント欄の一時閉鎖に関する報告

ブログコメント欄一時閉鎖の理由:
 4/30日夕方、本ブログのシステムにより、30日に書き込まれた3件のコメントがSPAMと判定され、排除されでいる事に気がつきました。書き込みIDは<Sktnet>です。
 改めて、コメント一覧を確認したところ、さらに5件のコメントがSPAMとして、システム側で排除されていました。書き込みIDは<testertestertestest>
 どちらもシステムサイドの自動判定です。
 以前、semantics_groupというIDから、IPアドレスを次々に変えながら、訳の解らない、所かまわぬ、数百通の嫌がらせSPAMコメント攻撃を受けた経験から、早期予防措置として、コメント欄の一時閉鎖を実施いたしました。

ログの解析:
 Sktnetは2箇所のIPアドレスから書き込みを行っており、一方のIPアドレスがシステム側のBlackListに載っているのではないかと考えています。潜在的に要注意と思えます。
 Testertestertestestは1箇所のIPアドレスからの書き込みで、29日の5件の書き込みは排除されていましたが、その後の3件は通過しているようです。 今考えると、どうやらコメント内容にURL等が挿入されていてSPAMと判定されたのではないかと思えます。 システム側の正確な判定条件を知りませんので、依然、要注意ではありますが、通過分に関しては掲載しようと思います。

という事で、とりあえず、コメント欄を再開して見ようと思いますが、情況によっては、再閉鎖もありうることをご了承下さい。

能澤 徹 on 2009/05/01

17
>今、testertestertestestさんのコメントをザーッ
>と読みました。思わず、噴出してしまいました。
>あなたは芸能プロダクションの興行師さんか何か
>ですか???

喜んでいただいてなによりです。興行師、いいたとえですね。なにごとも面白く真実に向かわなければ楽しくありません。

>筆者は、事実を拾い出し、列挙して、それらに関する
>意見を述べているだけです。基本は事実の収集です。
>この事実確認の方法に、何らかの問題があるのなら、
>ご指摘下さい。大いに検討させていただきます。

方法になんら問題ありません。ゆえにいつも興味深く読ませていただいております。その能澤さんの収集された事実に対し、そのプロジェクトの当事者である牧野さんが反論されている、その反論が正しくないのであれば、能澤さんは再反論すべきではないかと思うのです。そして、反論をもとに議論を重ねなければいつまで経っても平行線となり、非難の応酬という、非生産的な行為に時を重ねることになるでしょう。能澤さんの主張が「ただ悪意を持っているようにしか、私には見えない」理由の多くの部分が、当事者の反論に対する反論を軸に議論を構築されない点にあります。逃げてるように、「見えます」よ?

>インターネットには様々な情報が氾濫しています。
>ほとんどが、根拠薄弱な、無責任で意味の無い、
>個人的な感想や思い付きでしょう。

全くです。しかしそれは個人の日記であろうが、大新聞といわれるメディアも同様です。ゆえに利用者はリテラシーを持たなければならないわけです。牧野さんの意見が当事者の証言として貴重であると同時に、当事者の証言であるがゆえに、バイアスがかかっている可能性がある。能澤さんの情報も、IBMの5550(←大変お世話になりました。ここであの製品に対する感謝と、開発に携わった能澤さんに敬意を表します。ただ、これはインターネット上で調べた情報なので、真偽は分かりませんが)の開発に携わってたと思われる、IBM側の人間である能澤さんの情報に対しても、バイアスがかかっている可能性を疑わざるおえないのです。こういう疑い深いスタンスは、どんな情報に対しても持つべきものでしょう。

>とりわけ日本のサイトはひどいものといわれて
>いるようですね
ご存知ないなら幸いですが、海外はもっと酷いようです。その「日本の状況がひどい」とおっしゃっていた方は、おそらく海外の状況をご存知ないのでしょう。是非「まあ、老婆心からですが、インターネットの時代ですから、情報くらいは、広く世界に求めたほうがよろしいんではないでしょうか?」とお伝えください。

>本稿は、これらを総合し、時系列性を考慮しながら、
>発表内容の相互関係をチェックし、矛盾点を洗い出し、
>結局、7との矛盾から、どうやら、情報操作がなされて
>いたのではないかと帰納的に判断しているわけです。

つまり能澤さんは、このプロジェクトに対し、結果発表がない、という一点のみで批判されているのでしょうか?牧野さんはこの点について、2009年4月の日記でこのように発言されています。

>ま、3月時点で数字だしてないのはこっちの
>プロジェクトマネジメントの 問題ではあります。
>来月中にはなんとか。

税金の無駄遣い、狼少年、などと扇情的な、東京スポーツの見出しのような言葉で罵るのは、今の段階では不適切に思います(あくまでも今の段階です)。

>あなたの発想は、失礼ながら、どうも本末転倒で、
>物事の本質が見えていない無責任な興行師さんの
>ようにしか見えませんよ。

全く失礼ではありません。シェークスピアの時代より、物事の真実を暴こうと、物語をすすめる役割は、常にピエロに与えられるものですから。

是非とも納税者にとって価値ある議論を望み、期待しております。

testertestertestest on 2009/04/30

16
To コメント#15
 今、testertestertestestさんのコメントをザーッと読みました。思わず、噴出してしまいました。あなたは芸能プロダクションの興行師さんか何かですか???

 筆者は、事実を拾い出し、列挙して、それらに関する意見を述べているだけです。基本は事実の収集です。この事実確認の方法に、何らかの問題があるのなら、ご指摘下さい。大いに検討させていただきます。

 インターネットには様々な情報が氾濫しています。ほとんどが、根拠薄弱な、無責任で意味の無い、個人的な感想や思い付きでしょう。とりわけ日本のサイトはひどいものといわれているようですね。まあ、狼少年もどきを見ても公式には、なんの役にも立ちません。また、匿名の無責任で破廉恥な嫌がらせのようなコメントも困ったものです。

 筆者が、事実として取り上げている情報は、基本的に、責任の明確なフォーマルなサイトの公式発表、あるいは、それに準ずると判断できるメディア記事などです。

 GRAPE-DRに関して言えば、
1.東大 記者発表 2004年5月26日 世界最高速のコンピュータ開発プロジェクトがスタート
2.東大 研究成果発表 2006年11月3日 記者会見「世界最高速のスーパーコンピュータ用プロセッサ チップ開発に成功 - ペタフロップス実現へ大きな一歩 - 」
3.SC07 Nov 13 GRAPE-DR
4.文科省 2006年12月 平成18年度科学技術振興調整費の評価結果等について
5.K&F Computing Reserach 社 Home Page
6.文科省 政府調達情報検索
7.プロジェクト期間が終了してしまっている4月24日現在で、新たな公式発表は認められなかった事。
などの情報を基にしたものであり、情報の出所を明らかにする意味で、参照URLにリンクしてあるはずです。
 本稿は、これらを総合し、時系列性を考慮しながら、発表内容の相互関係をチェックし、矛盾点を洗い出し、結局、7との矛盾から、どうやら、情報操作がなされていたのではないかと帰納的に判断しているわけです。
 従って、プロジェクト期間が終了してしまって既に1ヶ月も経過しているのに、公式に何の成果発表あるいは情況報告も無いことが問題なのであって、現在、プロジェクトサイドが最優先で行うべきことは、公式な成果発表ないしは情況報告を行うことで、「言い訳や逃げ口上」の議論などをしている暇は無いはずですし、しても全く意味は無いですけどねー。

 あなたの発想は、失礼ながら、どうも本末転倒で、物事の本質が見えていない無責任な興行師さんのようにしか見えませんよ。

能澤 徹 on 2009/04/30

15
こんにちは。いつも興味深く読ませていただいております。
今回の記事に対して、牧野さんは2009年04月の日記において反応されています。

以前にも、能澤さんの『Grape-DRの性能』という記事に対し、2007年12月20日の日記にて反論されていました。(能澤さんはご覧になってませんか?)

能澤さんの、ビルゲイツ引退についての記事、その中でのコメントで用いたロジックを援用するならば、以上のやり取りから、能澤さんがただGrapeに対して悪意を持っているようにしか「見えません」。また、おごちゃんさんの『おごちゃんの雑文』内の、2007年11月19日の記事、『ベクトル型スーパーコンピュータを批判する人々』の内容以上の感想を持ちえません。IBMのスパコン買えよ、といいたいようにしか「見えません」。

個人のブログならともかく、CNETというメディアが提供している情報である以上、税金の無駄遣いであるとの意見を、Grapeに対してもてない納税者の一人として、能澤さんの記事がどう「見えている」のかを、発信しなければフェアな議論が出来ないのではと思い、不躾ながら、書き込ませていただきました。現在のところ、一方的に「失敗であり、税金の無駄である」と、断定するのはフェアではないかと。(あくまでも今のところです)

できることならば、牧野さんの2009年4月の日記の内容(あるいはそれ以前の反論)に対する反論を基に、議論を再構築していただけると、一読者として非常に建設的であるように思います。よろしくお願いします。

なお、URLの表記があるとブログ内書き込めなかったので、引用記事は日付とタイトルのみです。これだけの情報でも、「まあ、老婆心からですが、インターネットの時代ですから、情報くらいは、広く世界に求めたほうがよろしいんではないでしょうか?」とおっしゃる能澤さんならたやすく情報にアクセスできると思います。

これからも興味深い記事を期待しております。

testertestertestest on 2009/04/29

14
書き込みテスト。

testertestertestest on 2009/04/29

13
To コメント#9
z80v9958さんのご主張にはほぼ同感です。

 敢えて付け加えさせていただくと、プロジェクトの失敗には、技術面での失敗と、マネジメント面での失敗があります。技術面での失敗は結構ある話ではないかと思いますが、そうした技術面での失敗を、なんとかカバーするのがマネジメントであって、マネジメント面でまで失敗となると重症だろうと思いますね。
 プロジェクト期間が終了しても、何の発表も行えないといった状態は、マネジメントが極めて可笑しいということです。民間では、人件費もプロジェクト予算に含めるのが普通ですので、プロジェクト予算が締まってしまうと、人件費も出なくなり、プロジェクトメンバを路頭に迷わす事になりますので、プロジェクトの終結方法や時期にかんしてはナーバスになりますが、こうした観点から、人件費が別会計の公務員のプロジェクトでは、意識が甘くなっているのではないかと思います。
 また、民間では、プロジェクトの失敗に関しては極めて敏感です。単に売上減、利益減といっただけでは済まず、損害賠償を請求される場合もあるわけですから、リスク・マネジメントには神経を使い、リスク兆候の把握や、迅速なマネジメント・アクションは必須です。こうした面からも、「失敗はしょうがない」といってお咎め無しで終わってしまう公務員は、プロジェクトマネジメントに対する意識が極めて低いのではないかと思っています。

 こうした意味からも、税金を原資として実施されるプロジェクトに対しては、外部から厳しく監視する必要があろうかと思っていますし、巨大な次世代スパコン・プロジェクトの行く末がどうなるのかは、気になるところです。

能澤 徹 on 2009/04/29

12
To コメント#8
 『私の所属している組織では「Aがダメ」という発言は無価値で「Aは~という理由でダメだからBという代案を提案する」という発言でないと誰も聞いてくれないのですが。』
とのことですが、以下に2004年5月26日の東大のGRAPE-DRプロジェクトに関する記者発表から、『2.提案の概要』のなかの当コメントに関連すると思える部分を引用してみます。

 『GRID技術は,ネットワークにより分散したコンピュータ資源,ストレージ資源を,場所を意識せずに使うことを目標として,1990年代の後半から盛んに研究開発が行われ,我が国へも導入されつつある.しかしながら,ミドルウェアを中心としたGRID技術は,期待は大きいものの実際の研究の現場ではGRID自身が研究テーマでない限り,殆ど使われていないのが現状である.一方,高い計算能力を低コストで得るための手法としてのクラスタ計算機は,現実的に設置可能なサーバ台数の限界から汎用MPUを用いるだけでは100TFLOPSを越す性能の達成は困難であり,次世代の科学技術研究のための情報基盤として性能面での限界を持つ.
  GRAPE-DRプロジェクトは,上記問題点を克服し,科学技術研究の現場で,高速インターネット,コンピュータシステムと大容量ストレージの持つ能力を世界最高の性能レベルで活用する情報システム基盤を構築することを目的とする.』
(筆者注) 「世界最高の性能レベル」とは後の部分で「PFLOPSレベルの超高速計算能力」となっています。

 yus-konnoさんの表現に当てはめるとGRAPE-DRは「A(Grid)は駄目」「B(汎用MPUのみによるクラスターシステム)は100Tflops達成は困難」従って、「上記問題点を克服し,・・・・世界最高の性能レベルで活用する情報システム基盤は、C(GRAPE-DR)である」という論理で税金15億円の予算を獲得したわけです。
 ところが、実際の世の中では、この提案の目標達成の手段としては完璧に否定されたB((汎用MPUのみによるクラスタシステム)で100Tflopsを軽く越すシステムが、安価に、多数出現しているわけです。つまり、提案・採択の論理が、多数の反例で、逆に否定されたわけです。
 こうした場合、yus-konnoさんの属する組織ではどうするのですか? 民間のお金持ちの組織なら別ですが、予算が少ない常識的な組織では、当該達成目標は、B方式で、税金による開発費0円でマーケットにより実現されるのだから、C方式は不要で無駄と考えるのが普通ではないでしょうか。それでもプロジェクトを継続したいというのであれば、別の論理が必要でしょうね。
 従って、まずは、構造的、あるいは論理的に「税金15億円の浪費」という事になるわけです。

 「GRAPEプロジェクトが今まで大きな失敗が無かったのがたたかれる原因ですかねえ」とのことですが、本稿の何処を読むとそうなるんでしょうかねー。理解しかねますね。
 本文を読めば、解ることですが、いくつもの例を挙げて、「情報の操作が行われ、『今まで大きな失敗が無かった』かのように報告されていたのではないか」という事を指摘し、問題だと思っているのです。
 2006年11月のチップ完成の発表では、「予定の速度で動作中」で、いくつもソフトウエアが作動しているということでした。この時、筆者がメデイアの記事を通して「変だなー」と思ったのは、提示されていたチップ内の構成図とプロジェクトの開始時の「データフロー演算器」「パイプライン化ネットワーク」といったアーキテクチャの落差が激しく、理解に苦しんだことと、チップ内演算器数が突然1000から512に半減し、単精度性能が512Gflops,であるのに倍精度が384Gflopsと可笑しな値になっていたため、どういう演算器なんだろうと理解に苦しんだこと、および、ホストPCとこの演算器チップは直接つながるのではなく、演算器制御のための別のFPGAチップを介して接続されらしいのですが、構成図の中では、このFPGAのチップは非常に小さく扱われ、まるで演算器チップとPCだけで作動するようなブロック図になっていて、1チップ512演算器は世界最高密度といったような宣伝が行われていたため、これは意図的な情報操作ではないかと思ったことなどです。
 そして翌2007年11月のSC07の発表Paperを見ると、500Mhzで作動中で、倍精度性能は256Gflopsとなっており、前年の報道発表の384Gflopsは何であったのか理解に苦しんだわけで、そしてさらにそのPaperの中のアプリケーション作動性能のデータも、実測値は1つだけで、他のデータは予測値というのであるから、イカモンPaperであろうと思わざるを得ませんでした。(拙稿「GRAPE-DRの性能」参照)
 そして昨2008年7月のボード発売で、今度は作動クロックが500MHzではなく380MHzというのですから、そもそも「予定の速度で動作中」とか、500Mhz でのアプリケーション実測データというのは情報操作であったのではないかと思わざるを得なくなったわけです。

 まあ、要するに、「情報の操作が行われ、『今まで大きな失敗が無かった』かのように報告されていたのではないか」という事で、逆に、大問題なのではないかと考えているわけです。

 というわけで、「大衆に迎合した文章」とか「理学系と工学系の研究の違い」などといった、意味の無い形而上学的コンニャク問答ではありませんよ。

能澤 徹 on 2009/04/29

11
何か私の意図がちゃんと伝わらなかったようです。

コメントには、「100TFLOPSを越す性能の達成は困難であり,
次世代の科学技術研究のための情報基盤として性能面での限界
を持つ.」という部分のみを取り上げて、「テクノロジーに
対する予測は「全く出鱈目」」と主張されていますが、これだと、
GRAPE-DR プロジェクトが、MPUだけを使用したクラスタ計算機では 100TFLOPS を越す性能の達成は技術的に困難だと主張している
ように見えてしまいます。これはちょっと言い過ぎで、無理が
あるというのが私の意見です。

もし、プレスリーリースをそのまま信じるなら、GRAPE-DR は
2-4TFLOPS/500万 ということですから、コメントでご紹介
していただいた中国ものと同程度になりますし、少なくとも、
それ以外に紹介されているシステムと比べればかなり価格性能比
はよいと思います。

それから、チップ云々の件は、既に本文に書いてあるとのこと
ですが、これは私が質問させていただいた箇所の1つ前の段落
を指しているのでしょうか?であれば、これは回答になって
いまえん。どうして、「処理速度や信頼性の向上には図り知れ
ない」と言い切れるのでしょうか?

最後に「まあ、老婆心からですが、インターネットの時代です
から、情報くらいは、広く世界に求めたほうがよろしいんでは
ないでしょうか?」ですが、これはあなたも、牧野氏の
「スーパーコンピューティングの将来」くらいは読んでご自分
の主張をなさってはどうでしょう?と言いたいと思います。

それに、私には、あなたの GRAPE-DR の記事は極端で悪意
があるようにしか読めず、全く建設的なものだとは思えま
せん。こいうのは、CNET のブログではなく個人のページ
でやるべきでしょう。

sktnet on 2009/04/29

10
To コメント#7
 『「高い計算能力を低コストで得るための手法」という部分を無視して、「狼少年」だと断罪するのはかなり無理がある』
というご指摘は、日本語の読解にかなり問題があるのではないでしょうか。
 原文は追加コメントに提示してありますように、
『一方,高い計算能力を低コストで得るための手法としてのクラスタ計算機は,現実的に設置可能なサーバ台数の限界から汎用MPUを用いるだけでは100TFLOPSを越す性能の達成は困難であり,次世代の科学技術研究のための情報基盤として性能面での限界を持つ.』
となっており、
【高い計算能力を低コストで得るための手法】で区切るのではなく、【高い計算能力を低コストで得るための手法としてのクラスタ計算機は】という事で、【汎用MPUを用いるだけ】の【クラスタ計算機】の事を述べています。つまり、「OpteronだとかXeonあるいはPower、SPARCなどといったMPUだけを使用したクラスタ計算機」という事です。Jaguarも、Pleiadesも、Rangerも、あるいはインドのタタのシステムなど、2008年11月のTop500のリストを見れば、上位20位にランクされたシステムのほとんどは市販の汎用MPUだけのシステムで、ほとんどが100Tflopsを軽く越しています。
 したがって『100TFLOPSを越す性能の達成は困難であり,次世代の科学技術研究のための情報基盤として性能面での限界を持つ.』という、GRAPE-DRサイドの断定は、明らかに、誤りであるということになります。
 という事で、sktnetさんの『かなり無理がある』という主張そのものが、“かなり無理がある”のではないでしょうか。

 参考までに、システムの価格に関しては、1~3年前のデータですが、当ブログ内の拙稿「T2K(筑波、東大、京大)とJAXAのスパコン」(2008/02/23)や「Top500: 日本のスパコン能力」(2007/11/14)、「スパコンの内外価格差、性能格差 」(2007/10/09)などに記述してありますので参照下さい。
 大まかに言うと、1~2年前の米国での汎用MPUによるクラスタ・システムの価格は1Tflops 当り1千万円を切る価格です。今日の為替レートでは、さらに10%~15%くらい安くなる計算になります。筑波のT2Kのように、これらを日本に輸入すると2倍から2.5倍程割高になり、東大や京大の国産メーカーによるT2Kは5~-6倍くらい割高になっていたと記憶しています。
 今日では、Tflops単価はさらに下がっており、先日読んだ記事には、中国の曙光(だったと記憶していますが)は2Pflops超のシステムを邦貨換算で20億円程度で作るとか書いてありました。若干眉唾で眺めていますが、作動すればTflop当り100万円という事です。
 まあ、老婆心からですが、インターネットの時代ですから、情報くらいは、広く世界に求めたほうがよろしいんではないでしょうか?
 それから、2チップ云々の件は、既に本文に書いてあったかと思いますので、本文を参照下さい。

能澤 徹 on 2009/04/29

9
研究開発に100%はないですから、時には失敗も仕方ないと思っているのですが、結果が発表されないのは良くないですね。失敗なら失敗でいいので、今回のプロジェクトで得られた知見を公表して欲しいものです。

z80v9958 on 2009/04/29

8
「税金15億円の浪費」大衆に迎合した文章とも取れますし、
理学系と工学系の研究の違いを認識していないようにも取れます。
GRAPEプロジェクトが今まで大きな失敗が無かったのがたたかれる原因ですかねえ。私の所属している組織では「Aがダメ」という発言は無価値で「Aは~という理由でダメだからBという代案を提案する」という発言でないと誰も聞いてくれないのですが。

yus-konno on 2009/04/29

7
少し気になったので、コメントさせていただきます。

まず、#1 への追加のコメントは、「高い計算能力を低コストで
得るための手法」という部分を無視して、「狼少年」だと断罪
するのはかなり無理があると思います。(例えば、ORNL の Jaguar と GRAPE-DR とでは予算規模が全然違うわけですし。)
もちろん、現在の GRAPE-DR Model1800 はマザーボードくらいの
大きさの代物なので、これではお金があっても大きなシステムを
うまく組めるとは思えませんが。

それから、本文中の「2チップで512演算器となり、GRAPE-DRと同じ演算器密度になるわけで、その上、処理速度や信頼性の向上には図り知れないものがあるのである。」というのはなぜでしょうか?
よく分かりませんでした。追加の解説があればよろしくお願いします。

sktnet on 2009/04/29

6
質問に答えてください。

chibafx on 2009/04/27





  
Posted by petaflops at 18:38Comments(0)TrackBack(0) GRAPE-DR 

北陸先端大のCRAY XT5 (2/2)           <税金の価値>&<為替レートと産業空洞化>

公開日時: 2009/05/12 18:02
著者: 能澤 徹

(<北陸先端大のCRAY XT5> の続き)
 

 

<税金の価値>


 北陸先端大の選択は、現状では、コストパフォーマンス的に見て、評価できる選択であったと思っている。では、似たようなほかの組織ではどうだったのかという事で、国立天文台のケースを考えて見たい。


 前述のとおり、国立天文台は
2TflopsSX-926TflopsXT45年リースで導入していて、月額2千万円のリース料を税金で支払っているわけである。支払い総額から推定リース手数料などを除いて、ノーマライズした推定価格は106,826万円で、北陸先端大のXT519.6Tflops機のノーマライズド価格4144万円の2.66倍である。つまり、同じ月額リース料で、52.2TflopsXT5を導入する事が出来るであろうということである。勿論、SX-9があるとか、時期にズレがある、等々細かい議論はあるが、現在の税金の価値という観点で可視化すると、52.2Tflopsという事になるということである。


 では、前稿で述べた
Grape-DRの開発費15億円は、どのくらいの価値があるのかというと、北陸先端大のXT5の推定価格の3.75倍で、この金額は、73.5TflopsXT5システムが導入できる額ということになる。


 従って、国立天文台のスパコンのリース代と
Grape-DRの開発費を合算した額では、52.2Tflops73.5Tflopsで、125.7TflopsXT5システムが設置可能という事になる。 これは2004年のGRAPE-DRがその提案概要で「汎用MPUによる100Tflops超のシステムは実現困難」として完璧に否定していたレベルを、楽々超える性能である。


 まあ、予算的には文科省の予算ではあるが、中間的な予算の出所が違うので、現実的
意味があるかどうかは不明ではあるが、この125Tflops程度の性能のスパコンは小振りな研究機関においても導入が可能なご時勢なのである。


 海洋研の
SX-9JAXAFX1、東大、京大のT2K,どれも100Tflops前後の機械であるが、予算額的には数倍から1桁違っているような気がするのである。


 ばら撒きの予算の
2009年を過ぎると、緊縮予算になることは目に見えており、購買力に見合った賢い税金の使い方をしないと、世界の科学技術の第1線から益々引き離されてしまうことは目に見えるようで
、調達サイドの賢い調達を強く期待したいと思う。

 

 

 

<為替レートと産業空洞化>


 勿論これらは米国製スパコンを日本国内で調達した場合の税金の価値であるが、米国で調達すれば、概ね半値以下と推定されるので、スパコンに於ける今日の為替レートは
1ドル200円前後ということになる。アマゾンの出現で書籍における慣習的な1ドル360円といったような法外な為替レートが崩れて、日々の実勢レートに収斂したように、天文台のスバル望遠鏡ではないが、米国にスパコン・センターを設置し、端末やVisualization システムのみを国内に設置し、回線を通して運用するシステムを組むと、大部分が実勢レートで調達できるので、遠隔地運用経費を差し引いても、お安く計算能力が手に入ることになるかも知れないのである。


 つまり、国内での調達はやめ、国内にはスパコンを置かないほうが安上がりということになるかも知れないということである。


 国産メーカ価格、輸入価格、米国内価格、(中国の足音・・・)、といったスパコンの内外価格差は、政策により短期的には防御できたとしても、長期的には防御は難しい。産業規模がグローバル化している今日では、国産メーカは世界市場でのシェアを取れる国際仕様に基づき、その戦略の第
1歩として、国内での国際価格での自由競争に勝てなければ、スパコン産業の空洞化は避けられないものと思うのである。少なくとも同一仕様に近い輸入製品の輸入価格を軽くクリアする程度の事は必須であり、国産メーカの奮起を強く期待したい。


  
Posted by petaflops at 18:07Comments(0)TrackBack(0) スパコン 03 

北陸先端大のCRAY XT5 (1/2)

公開日時: 2009/05/12 18:02
著者: 能澤 徹
 200942日、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)はCRAY社のスーパーコンピュータXT5を導入したと発表した。

 このCRAY XT5は、200811月のスパコンTop500で、1.059Pflopsで第2位にランクされたORNL(オークリッジ研)Jaguarと同じシステムで、代替フロンによる液冷を使ったシステムである。

 1.105PflopsTop5001位LANL(ロスアラモス研)RoadrunnerOpteronPowerXcellをまとめてコントロールする方式のシステムで、一般的な意味での汎用スパコンと見なすべきかどうかは大いに議論の余地がある。つまり、Top500Linpack性能だけではなく、HPCCの主要4項目、とりわけ、HPLFFTのデータが欲しいところなのであるが、200811月ではRoadrunnerはデータの登録を行っていなかったので、筆者の判断としては、衆目一致の世界最速スパコンとは言いがたいと思っている。

 Roadrunnerの前の代の第1位であったBlue Gene/Lは、HPCCの主要4項目においても全て第1位を記録しており、これは問題なく当時の世界第1位といってよかったと思う。

 一方、ORNLJaguarXT3XT4XT5Version Upを続けており、2008年11月のHPCCでXT5JaguarHPLとEP-STREAMで第1位、FFTで第3位となっており、汎用スパコンとしてはJaguarないしはBlue Geneの方が第1位と考えたほうが合理的という考え方もある。

 

 北陸先端大のXT53キャビネットのシステムで、理論性能は19.6Tflopsとのことである。入札公示は20087月で、入札及び開札は同年9月に行われている。契約は20093月から20132月までの4年のリースで、月額リース料は¥9,618,000円となっている。契約会社は富士通北陸営業本部で、実質はCRAY Japanが行うものと考えられる。

 これは入札の資格制限によるもので、筑波大のT2Kの場合は、コンピュータそのものは米Appro社の製品であるが、契約会社は輸入元の住商エレで、設置はCray Japanといったスキームであったし、国立天文台のCray XT4システムは、NECが、SX-9と込みで、契約会社になっている。

 


<
価格>

 価格に関しては、XT5は米Cray Inc が製造販売会社であるが、リーガル・エンティティとしては同社とは別のクレイ・ジャパンが輸入し、富士通を通じて北陸先端大に納品し、クレイ・ジャパンが設置を行う、といったスキームであろうと思えるので、それぞれの法人を通過するたびに、その法人の営業経費やプロフィットが加算されるので、米国での直販よりかなり割高になっていると考えられる。

 その結果としての価格が4年契約で月額9618千円という事であり、支払い総額は461554千円ということになる。

 4年リースの手数料などの諸経費を15%と仮定すると、ノーマライズされた日本国内での推定価格は41447千円ということで、理論性能換算で、推定1Tflops当り約2,048万円ということになる。

 ()リース手数料等は、リース会社によって異なり、リースの期間の長さ、金利動向、保険料、固定資産税等々により左右されるため、あくまで仮定である。一般的にはリース期間が長くなると利率は高くなる。
 

 これは20082月の筑波大のT2Kで、米Appro社のX-treamTflops当り推定2,246万円よりさらに200万円程度下がっている事になる。しかし、まあ200万円程度であると、入札の機微の世界に属する範囲とも考えられなくもないが、その丁々発止の世界としてでも、下げざるを得ないという雰囲気は、筑波大のAppro効果ではないかと思っているのである。

 というのは、筑波大などのT2Kの直前で、米国価格が話題になっていない時点で、国立天文台は2TflopsSX-926TflopsCray XT4を、NECが入札・契約会社となって、5年のリースで導入しているのであるが、その月額リース料は2,0475千円である。北陸先端大に比べ、リース期間が1年長いので支払い総額は122850万円となり、リース手数料などを15%と仮定し、それを差し引いた推定価格は約106826万円で、Tflops当り単価は3815万円となる。これは北陸先端大の約2,048万円の約1.9倍なのである。

 この1.9倍の原因には、SX-9がベラボウに高いことや、契約時期的に1年程度のズレがあり機種がXT4からXT5にかわっていること、契約会社がNECと富士通で異なる事、などが上げられるが、これらの諸事情を考慮しても、国立天文台は「高い買い物」をしたことになり、逆に今回、クレイ・ジャパンは、かなり、値を下げたのではないかと思うのである。

 この背景にあると思えるのが、筑波のApproの存在で、クレイ・ジャパンは住商エレの下でApproのスパコンの設置を行っており、米国価格にやや近づいたAppro-住商エレの入札価格を考慮せざるを得なかったのではないかと思っているのである。

 勿論、日本での価格は、米国での価格に、輸入諸経費、輸入元のクレイ・ジャパンの営業経費やプロフィット、さらには入札会社の営業経費やプロフィットなどが加わるので、米国での価格に比べれば、2倍程度で、かなり割高であると思うが、まあ、なんとか理屈が成り立つ上限ではないかとも思う。

 不甲斐ないのが国産メーカで、富士通や日立のT2Kも、あるいは富士通のFX1も、お呼びではなかったわけで、たとえ、北陸先端大の前機種がXT3であったにしろ、「なんとかならなかったのかな」と思うのは、筆者のような一般庶民の率直な感想ではないかと思う。しかし、発注側にとっては、とにかくT2Kでの価格比較でわかるように、国産メーカの価格は、米国メーカの輸入価格の倍以上の価格なので、まともな入札では、お話にならなかったのではないかと思えるのである。

( 2/2 に続く )

  
Posted by petaflops at 18:04Comments(0)TrackBack(0) スパコン 03 

GRAPE-DRはスパコンではないらしい! (2/3)

公開日時: 2009/04/24 10:40
著者: 能澤 徹

(<GRAPE-DRはスパコンではないらしい!> の続き)


 では何故、こうした、時間と共に見え透いてくる、虚偽発表もどきを行わねばならなかったのか? それは科学技術振興調整費の中間評価が2006年度に行われる事になっていたからである。
 つまり、2004年から2006年までの成果・進捗を評価し、その結果により2007年から2008年までの予算を付与するかどうかを決めることになっていたからである。
 この評価を「くぐり抜ける」ため、大々的な報道発表が行われたわけで、「チップは完成し、予定どうりの速度で作動中」という文言が必要であったのではないかと思われるのである。


 そしてこの中間の結果「分散共有型研究データ利用基盤の整備」プロジェクトは、

「2ペタFLOPSの実現を十分に期待させられる、超高性能な計算機資源利用環境が構築されようとしており、継続すべきである。世界最速のシステム開発を目指し、三つのサブテーマそれぞれを真摯に目指しており、成果に期待が持てる。重要な技術であり、この世界最高速システムで、どれだけ役に立つシミュレーションができるか、精力的な情報発信を期待するとともに、早期に実証する義務がある。」

という評価概要で、「A」という高評価を得て、その後の予算が保証されたのである。勿論「世界最高速システム」を「早期に実証する義務」が有るのだが、現状はプロジェクト期間が過ぎても何の音沙汰もなしということのようではあるが・・・・・・

 まあ、現状から判断すると、この中間評価は「ざる」としかいいようが無く、チップの基本設計が当初の「データフロー、パイプライン化ネットワーク」等から「Modified SIMD」等にすり変わっていたり、チップあたりの演算器数が半減(考えようでは4分の1)になってしまっていたにも拘らず、問題視していなかったようであり、また、作動検証データの詳細チェックを怠り、今にして考えると、性能が予定していた500MHzに達していなかったのではないかといった事も見逃していたように思え、結局中間評価そのものにも大きな問題があったのではないかと言わざるを得ないのである。

 つまり、税金を使う側のいい加減さに加え、それを監視すべき評価委員会も、結果的に見れば、「馴れ合い」的な「いい加減な評価」を行っていた可能性があり、科学技術振興調整費という税金を使う仕組みが各所で職業倫理の崩壊を起こしてしまっているのではないかと思わざるを得ないのである。

 こうした構図は文科省の次世代スパコンにおいても同様と考えられ、かなり癌の根は深いような気がしてならないのである。

 

 最後に若干技術的な付言をする。

 そもそも、この
GRAPE-DRは、最初の基本設計において、Linpackが作動可能なような汎用高速技術演算用スーパーコンピュータを目指していたはずであるから、データフロー型などといったAI
などに焦点が置かれていたアーキテクチャを持ち出してきた事自体が、コンピュータの歴史を知らないピンボケぶりを示しているということなのである。
 Daniel Hillisでさえデータフロー型はCM1/CM2で打ち止め、結局、技術計算向けのCM5ではCPUにRISCアーキテクチャのSPARC
を採用していたのであるから、今日の超高速汎用スパコンにデータフロー演算器・アーキテクチャーなどを持ち出してきた事が、そもそものピント外れなのである。

 そして、その後の設計変更によって
Modified SIMDなる、1チップ512の演算器を16Blockに分け、1Block32演算器ごとに1つのshared bufferを使うという方式に変更したようであるが、これらのSIMD演算器を駆動するためには制御系が必要で、演算器チップとは別に、もう一つの制御系チップが必須なのである。
 しかも、その制御系チップはランダムロジックではなく
FPGAというのであるから、これはまともな高速化設計とは思えない代物である。

 コンピュータが単なる演算器とは大きく違う最大の点は、演算器を制御する制御機構の存在である。コンピュータにおいては、制御機構はbuffer 制御を含み、演算器とは不可分のもので、同一チップに収容する事は常識である。
 チップを分けると、タイミング制御やデータ転送、エラーリカバリを含む信頼性、等々が、別チップであるが故に、極めて難しくなるからである。とりわけ、処理スピードを上げ、信頼性を確保するには、必然的に同一チップにならざるを得ないものなのである。

 ところが、
GRAPE-DRでは、何のためか不明であるが、わざわざ一つのチップに512の演算器を詰め込み、制御系は別チップに追いやり、合計2チップ構成にしているのである。これは実に可笑しな設計で、処理スピードや信頼性を無視した設計としか評価できないのである。
 無理に512詰め込まずとも、単に
1チップに256個の演算器と制御系をまとめればよいわけで、わざわざ2
チップ構成などにする合理的理由は無いと思う。
 もしトータルな演算器の数が必要であるなら、そのチップを
2つ持ってくれば良いだけである。2チップで512演算器となり、GRAPE-DRと同じ演算器密度になるわけで、その上、処理速度や信頼性の向上には図り知れないものがあるのである。

 チップの製造やデバッグ、あるいはチップを載せるボードの設計などで、2つの異なるチップを製造したりデバッグしたりする必要が無く、ボード上もチップ別の余計な取り巻き小部品が不要となり、すっきり設計できるのである。部品点数が減り、製造コストも安価になり、維持管理のコストも安価になるのである。 


 また性能面からも、各
Blockごとに1つのbuffer32の演算器で共有するために発生するクロック・レベルでの競合待遅延は、readwriteの両方向合算で平均32クロックと考えられるので、理論的には、1DP演算を4クロックとし、1回の連続実行演算命令数を平均8としても、正しいPeak(理論)性能は公称Peak値の50%程度になってしまうのである。つまり、1buffer当りの演算器数を増せば増すほど、Peak性能は低下するということで、この意味においても、演算器と制御系を別チップにし、一方のチップに演算器を512個も詰め込む意味は無いといえるのである。

 要するに、データフロー云々にしろ、
modified SIMDにしろ、チップの設計・構成にしろ、コンピュータを設計する上での基本的考え方に問題があり、稚拙としか言いようが無いということなのである。これは、部分部分での単純な設計ミスなどといった局所的なものではなく、基本的考え方が稚拙ということなので、まあ、どうしようも無いとしか言いようが無いのである。

 背景を考えてみると、以前のGRAPEという機械は単なる固定演算子演算器の固定結合に過ぎず、いわゆる命令制御機構を持った「コンピュータ」ではない。つまり以前のGRAPEの技術は単純な演算回路技術の積み上げだけなのである。他方、GRAPE-DRが意図していたのは可変演算子演算器の可変結合と考えられ、それには演算回路の技術に加え、命令制御機構と結合制御機構が必要であり、以前のGRAPEのような単純な演算器技術の延長だけでは無理で、いわゆるコンピュータの中核技術である、Buffer処理を含む制御機構系の技術が必要であったわけである。


 ところが、これら一連の制御系の技術的蓄積もないまま、以前の
GRAPEの単純な演算回路技術の延長だけで安易に処理できると考えていたらしいことが、そもそもの敗因と考えられるし、当初からのメロメロな基本設計がそれを示していると思うのである。



 結果として税金
15億円が、一握りのお兄さん達のお遊びに費やされたようなもので、典型的な科学技術名目での税金の無駄使いということであろう。



 直、本投稿内容に反論等がおありの方は、コメント欄にその旨を書き込んでいただければ、内容を検討させていただいた上で、必要があれば本投稿の内容修正を行う事はやぶさかではありません。





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追記: 急にスパムが増えたので、コメント欄は当面、閉鎖させて頂きます。
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コメント欄の初期のものが、システムによりPush Downされ、表示されなくなっているようですので、とりあえず、その部分を本文に取り込んで表示しておきます。多分表示サイズオーバーではないかと思っています。
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 コメント#1

 GRAPE-DRプロジェクトに期待している一研究者としてコメントさせていただきます。

制御系の技術の蓄積もなく演算回路の延長で考えているところがそもそもの敗因とおっしゃっているのが気になりました。通常のCPUは制御系ばかりが強化されて本来できるはずだった演算能力がのびないまま頭打ちになっているという反省があって、制御は人手にまかせても演算を強化するGP-GPUのような方向が期待されているのはご存じのことと思います。もちろんこれが正しい方向性なのかどうかも今はわかりません。計算機アーキテクチャが大きく変わるかもしれない時期にあって、GRAPE-DRのように演算側から計算機を作りなおしてみるというアプローチは必要なのだと思います。この場合、制御を人手にまかせるどころかハードウェアに作りこむという面が強いわけですが、こういうやり方が発展する可能性もありえます。

大変お詳しいようで稚拙に見えるのかもしれませんが、私には「木をみて森を見ず」なご意見に思えます。    つくば方面の研究者(計算機工学ではない)

  shoji.hashimoto  2009/04/26

 

コメント#2

Toコメント#1
一生懸命「森(だけ)を見て」、森に思いを馳せても、“森が木から成り立っているのだ”という事が理解できないようでは困ったものですね。
 スパコンの作成などといったものは、自然現象ではなく、人間が恣意的に組み立ててゆくエンジニアリングですので、いきなり「森」があるわけではなく、「木を作って」「木の特性に合わせ、木を適切に配置して」こそ、「実りある森が育つ」わけですから、おかしな木を、ただただ高密度に植えたところで、実りある森には育たないでしょ、解りますか? 個人のお金で、勝手な夢を見るのなら自由ですが、国民の税金でのプロジェクトですから、屁理屈ではなく、結果責任は問われるでしょう。
 「森を見て」(プロジェクト目標)、「15億円+5年分の公務員の人件費x人数」の巨額税金を使った結果がGRAPE-DRの現状ですか・・・・

  能澤 徹  2009/04/26


コメント#3

To コメント#1(追加)
「通常のCPUは制御系ばかりが強化されて本来できるはずだった演算能力がのびないまま頭打ちになっているという反省があって」とありますが、現状に符合してるでしょうかね?

 2004年5月のGRAPE-DRプロジェクト開始の報道発表の「2.提案の概要」の中では、「一方,高い計算能力を低コストで得るための手法としてのクラスタ計算機は,現実的に設置可能なサーバ台数の限界から汎用MPUを用いるだけでは100TFLOPSを越す性能の達成は困難であり,次世代の科学技術研究のための情報基盤として性能面での限界を持つ.」と断定し、GRAPE-DRプロジェクトの正当性を主張しています。

 ところが現状(2008年末)では、RoadrunnerのPowerXcellを除いても、Oak RidgeのJaguar の1,059Tflops Opteron,、NASA AMESのPleiades 487Tflops Xeon, TACCのRanger 433Tflops Opteron、そしてLivermore のBG/L 478Tflops PPC440,や Argone のBG/L 450Tflops PPC450 など、GRAPE-DRグループの100Tflops限界断定予測をクリアしているのは、およそ20システムくらいはあったのではないでしょうか。

 つまり、GARPE-DRグループのテクノロジーに対する予測は「全く出鱈目」であったという事であり、自己存在の正当化のための「狼少年」のようなものであったということです。

 今後とも、半導体加工技術やチップスタッキング技術の進歩に連動し、XeonもOpteronも進化してゆくでしょうから、Chip性能は上がって行くものと予測されます。 hashimotoさんは、多分、この狼少年の宣伝の影響を強く受け、「演算能力がのびないまま頭打ちになっている」と思い込んで「Grape-DRに期待している」ようですが、現状をデータに即して判断した結果なんでしょうかね????

  能澤 徹  2009/04/26


コメント#4

質問:15億円というのはこう言ったLSIの開発費として高いものなのでしょうか。能澤 徹さんが満足するようなものを作るには足りないと思うのです。
  c
hibafx   2009/04/27


コメント#5

To コメント#4
回答:
 2行目を読みますと「足りないと思う」とのことなので、ご自身ではすでに結論をお持ちなようですので、回答は不要かと思います。
 開発費一般に関しましては、プロジェクトの範囲、費用負担の範囲、エンジニアの技量・経験や人数、発注先の技量、等々様々な要素を考慮する必要があり、情況により、大きく異なるものと思えます。 一般的にいって、エンジニアの技量・経験が高いと、少人数で、設計の手戻りが少なく、デバッグも早く、かなり割安に仕上がります。

 まあ付け加えるなら、本稿では15億円が「高い」かどうかを議論しているわけでは有りません。この観点から、本稿に関しては「高い安い」の議論は、論点ずらしとなりますので、なじまないと思います。

逆質問:
 2行目では、ご丁寧にご心配を頂き、若干、有り難迷惑で、当惑気味ではありますが、当方が「何を作る」と、当方が「満足するようなもの」になるんでしょうか? これまでのところ、当方は、特段、何か「作りたいもの」があるなどと表明した記憶はありませんので、何をつくれば、どの様に満足するのか、見当が付きかねます。・・・・・ 出来れば、このあたりも含めまして、「足りないと思う」理由と不足額の詳細などをお知らせいただけますと幸いです。

  能澤 徹  2009/04/27

 

  
Posted by petaflops at 17:04Comments(0)TrackBack(0) GRAPE-DR 

GRAPE-DRはスパコンではないらしい! (1/3)

公開日時: 2009/04/24 10:40
著者: 能澤 徹



 カレンダー・イアの
2008年が終わってそろそろ4ヶ月、日本の2008会計年度が締まってそろそろ1ヵ月が過ぎる。GRAPE-DRに関しては、プロジェクト開始の20045と、チップ完成と称した200611の、東大の報道発表、研究成果発表によれば、2Pflops達成の年は2008年であり、ゆるめに解釈して、会計年度の2008年としても、既に時間切れである。
  
  常識的に考えれば、プロジェクト実施期間が締まって、プロジェクト予算によるこれ以上の活動は出来ない現在、何の発表も無いということは、このプロジェクトはプロジェクト予算の範囲では失敗であったということであろう。
 
 
Linpack1Pflops超とは言わずとも、それなりの成果が出ているのであれば、なんらかの発表はあるであろうから、「それなり」以下ということではないかと思う。

  東大が、自身の公式な報道発表によって行った公約に対し、約束の時期が過ぎても何の公式な報道発表も行わないというのも「如何なものか」といわざるを得ない。
 と同時に、2006年の東大側の発表を華々しく報道した、IT関連の多くのメディアが、「知らん顔」で「だんまり」を決め込んでいるのも、全く、頂けないし、情け無いとしか言いようが無い。

 総額15
億円の税金プロジェクトである。税金15億円支出の根拠を与えたプロジェクトの成果目標に対する達成状況の、独自な「けじめ」Follow Up報道くらいは必要であろう。

 勿論、
GRAPE-DRなどは序の口であり、その先に見えているのは、文科省の次世代スパコンであることは言うまでも無い。

 ところで、誤解を避けるため、始めに断り書きをしておくと、筆者は、以前から繰り返し述べているが、技術的には、この
GRAPE-DRなどには関心は無い。世界的視野でのコンピュータ技術史的には、殆ど意味の無い稚拙なもので、時間と共に消えてゆく類のものと判断しているからである。

 唯一の関心は、国の
科学技術振興調整費という税金が、総額で15億円(3億円x5年)も使われているという点だけである。科学を騙った税金の無駄使いのサンプルとしての関心であり、税金プロジェクトに於ける公務員の職業倫理崩壊の好例ではないかと考えているからである。勿論、文科省の次世代スパコンの1,150億円に比べれば「ゴミ」ではあるが、税金が無駄に浪費される構図として共通するものを感じるからである。

 税金によるプロジェクトでの、プロジェクト内容の恣意的改変、スケジュール期間のなし崩し的延長、それらに関連した杜撰な予算管理、そして、目標不達成に対する責任回避や責任転嫁と無責任な逃げ口上、どれも職業倫理の崩壊を示すものであろう。



 さて、先日、拙稿「
GRAPE-DRの性能(2)」に対するコメントを頂いていたことに気がつき、改めて東大の公式の報道発表や研究成果発表を当ってみたが、それらしきものは見当たらなかった。GRAPE-DR関係で気がついたのは以下の2つである。

 ①
2008925日、大学共同利用機関法人自然科学研究機構(天文台を含む)が株式会社K&F Computing Researchとの間でGRAPE-DR プロセッサボード試作一式” の業務を5,407,500円の随意契約で締結した事。

 ②
2008106日、東大の工学系研究科・工学部から、一般物品(スパコンでもコンピュータでもない!)としてGRAPE-DRシステム一式”の入札公示が行われ、20092月の落札公示により、200812月にティーモステクノロジック株式会社が57,263,900円で落札し、納入期限が2009331日となっている事。


◎東大入札公示

公告日 調達機関調達分野件    名

 

 

 

 


平成
20106

東京大学

一般物品

 

 


GRAPE
-DRシステム 一式 

◎東大落札公示

公示日 調達機関調達分野件    名 

 

 



平成
21212


東京大学

 

 



一般物品

 

 



GRAPE-DRシステム 一式

 

 

 

 

 

 これらの入落札で驚かされるのは、時期的にプロジェクトの完了報告が行われて不思議で無い2008年の9月、10月に、「試作ボードの発注」とか「システムー式購入入札」とかは、一体全体、何なのか、という事である。

 普通に考えれば、よほど開発が遅れているのであろうということであろうし、あるいは、
200611月の発表や翌年のSC07では、「予定の速度で作動中」などとして順調な成果を強調していたことを思えば、プロジェクト末期に予算が余ってしまい、それぞれ540万円と5,726万円といった金額を国庫に返納するより、使ってしまったほうが得だと考えてのことかも知れない。何れにせよ、可笑しなプロジェクトマネジメントである事だけは確かである。


 ところで、(1)で随意契約を結んだ
K&F Computing Researchという会社は、2008年の7月からGRAPE-DRのボードを一般向けに発売している会社である。そもそもこの販売は不思議なもので、税金で開発した、国の所有物である筈のチップやボード、ないしは知的所有権を、どのような承認プロセスを経て、どのような契約で販売が出来るようになったのか、大いに関心(疑問)があるものであるが、それに加えての、一般向けに販売中のボードと同じ名称のボードの試作を受注したのであるから、現在販売中のボードには何か問題があるのではないかと疑いたくなる気がする。
 さらに、もしこの試作ボードをこの会社が販売するようにでもなったら、国が税金で試作・開発費を払って、この会社の製品を作ってやった様な可笑しな関係になる訳である。とにかく、可笑しな関係に見えることは指摘しておきたい。

 一方、(2)の方は傑作で、「
GRAPE-DRシステムは、スパコンでも、コンピュータ・システムでもありません」と自ら認めて、一般物品(つまり、カメラだとか、コピー機だとか、重油だとかと同じもの)として入札公示しているのである。ところが、GRAPE-DRプロジェクトの宣伝文句では「専用機の性能を持つ汎用超並列計算機へ」とかいっていたのであるから、この鉄面皮な二枚舌には驚かざるを得ないのである。

 
4,5年前の国の基準では、スパコンはその性能が1.5Tflops以上のコンピュータとなっていたはずで、この入札公示から判断すれば、GRAPE-DRシステムは、その性能が1.5Tflopsに満たないだけでなく、そもそもコンピュータではないということで、確かに言われてみれば、GRAPE-DRの現状を端的に物語っているのではないかと思え、失笑を禁じ得なかった。

因みに、この通称GRAPE-DRプロジェクトは、予算措置的には、「分散共有型研究データ利用基盤の整備」というテーマに対する科学技術振興調整費からの付与であり、複数の高速コンピュータを高速インターネットで結合するといったテーマのもので、この高速コンピュータとしてGRAPE-DRを開発するという仕掛けで予算を獲得したのであるが、以前から、何故「分散共有型研究データ利用基盤」に、GRAPE-DRのような作動するかどうかもわからないものが必須なのか、あるいは、他の安定作動するスパコンでは何が不都合なのか、といった疑問が投げかけられていたもので、「分散共有型研究データ利用」を頭にかぶった、羊頭狗肉のプロジェクトではないかと噂されていたプロジェクトである。


 この二枚舌、羊頭狗肉といったイメージは、入札、予算獲得、などといった分野だけに留まらず、アーキテクチャーに関しても同様なのである。

 2004年のプロジェクト開始時の報道発表では、GRAPE-DRのアーキテクチャーは「1チップに約1000個のデータ・フロー演算器をパイプライン化ネットワークで結合する」として図入りで説明がなされているが、2006年11月のチップ+ボード完成時の報道発表やSC07での発表Paperでは、「データのブロードキャスト」だとか、Modified SIMDだとか言い出し、当初公言していた「データ・フロー演算器」「パイプライン化ネットワーク」などは雲散霧消してしまっているのである。

 つまり予算獲得時に予算総額算出の根拠としていたアーキテクチャーは「役立たず」で、アーキテクチャーを変更した後でも予算総額が不変などということは、そもそもその総額が出鱈目であったとしか考えられないのである。


 しかも、演算器の数も、2004年には1チップ約1000個と公言していたが、2006年には512個に半減し、しかも、1チップで作動するのかと思いきや、Sequence Controlとか言う別のFPGAのチップが必要で、要するに2チップで512個の演算器が作動するという事になっている。これでは、市販のGPGPUなどの基準で言えば、1チップ256個の演算器ということである。このあたりにも二枚舌の面目躍如たるものがあり、チップの基本設計や機能分散が如何にいい加減であったのかを示している。


 極め付きは作動クロックの問題で、当初より、2Pflopsという理論性能の根拠となったクロックは500MHzであり、2006年11月の報道発表においても、SC07のPaperにおいても、“processor chips each with 512 cores operating at the clock frequency of 500MHz” とか ”single GRAPE-DR chip is in  operation” などと明記しているが、2008年のK&F社が発売したGRAPE-DRのボードは、驚く事に、作動するものは380MHzで、製品としては400MHzにするという事らしいが、これは2006年11月やSC07において、作動中と発表していた500MHzには遠く及ばないものなのである。

 つまり、報道発表やSC07Paperにおいては、作動クロックを120MHz(24%)水増して「作動中」と発表していたのではないかという事であり、合理的に考えて、虚偽報告、虚偽発表だったのではないかと疑わざるを得ないのである。


(2/3 に続く)

  
Posted by petaflops at 16:52Comments(0)TrackBack(0) GRAPE-DR 

GRAPE-DRの性能 (その2)  (2/2)         <GRAPE-DRチップの公表ピーク性能の変遷>

(GRAPE-DRの性能 (その2) の続き)



参考のため、
2004年のプロジェクト開始以来、発表/公表されたピーク性能の変遷を下表にまとめてみた。

GRAPE-DRチップの公表ピーク性能の変遷>


            チップ   チップ内 クロック システム    

            ピーク性能 演算器数      ピーク性能
            (倍精度)           (倍精度)

2004年プロジェクト開始  1Tflops    1024   500MHz   2Pflops 

2006年チップ完成    
384Gflops   512  500MHz   1.5Pflops


2007SC07発表     
256Gflops  512  500MHz   1Pflops ?

20087月発売ボード仕様
  204.8Gflops  512   400Mhz   0.8Pflops   

2008
7月実測ボード   194Gflops    512  380MHz  
0.76Pflops

 


 Grape-DR2004年に、“2008年に2ペタフロップスの計算速度を実現するとともに、40Gbpsネットワークを高度利用した科学技術研究データ処理システムを構築する。現在実施されている国内,海外の超高速計算システムプロジェクトでは、GRAPE-DRプロジェクトが最も早期にペタフロップスを越す予定である。”とし、“1チップに1024プロセッサ(注:演算器のこと)を集積”し、“ピーク(理論)性能は1チップ1Tflops”(東京大学 [広報・情報公]者発表一覧)として、東大と国立天文台が中心となり、科研費総額15億円の予算で始まったプロジェクトである。

 目標の
2Pflopsが単精度なのか倍精度なのかは明確ではないが、科学技術計算の世界では倍精度浮動小数点演算が常識であり、それらの常識を備えた大学の発表であるから、この目標は倍精度と考えるのが常識であろう。

 そして、
200611チップ完成の大報道発表会では、“1チップ512プロセッサー(演算器)”となっており、演算器数がいつの間にか2004年の半分になっており、クロックは500MHzで、チップのピーク性能は単精度512Gflops、倍精度384Gflopsと発表されていた。


 このチップのピーク性能に基づくと、システムとしてのピーク性能は単精度で
2Pflops、倍精度で1.5Pflopsということになる。チップ内演算器数を半減したためピーク性能は半減してしまい、目標の倍精度2Pflopsは達成不能となり、この時点で極めて巧妙に、当初目標の倍精度2Pflopsが単精度2Pflops、倍精度1Pflopsに摩り替わってしまったように思っている。


 そしてこの後、いつの間にか、
GRAPE-DRの目標ピーク性能は単精度2Pflops、倍精度1Pflopsであるような雰囲気になってしまっているのである。 

 その後、
SC07での発表において、クロック500Mhz、チップのピーク性能は単精度512Gflops、倍精度256Gflopsと記述され、倍精度の性能が384から256に入れ替えられてしまっている。

 そして、
今回のボード販売では、仕様上は400Mhz
、単精度409.6Gflops、倍精度204.8Gflopsとなっているが、前述のとおり、実測用ボードはさらに低下して380MHzを使用しているようである。


 という事で、今回はとりあえず、GRAPE-DRのボードが400MHzで売り出されているという事実をお伝えするに留め
、今年度内に出されるであろう完了報告に注目しつつ、終了としたい。


 

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このエントリーへのコメント

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2

To コメント#1

同感です。まー、エンジニアリングのド素人さんに何を言っても「猫に小判」なのではないでしょうか。勿論、コンピュータ工学、コンピュータ・アーキテクチャーの藤四郎さんでもあるわけですが・・・・

(コメント頂いたことに気がつかず失礼いたしました。)

 

  能澤 on 2009/03/31

 

1

昨日、とあるところで GRAPE-DR をちらみしましたが、これはいかんです。物理的になっていません。ちゃんとしたラックにマウントできるような form factor にするべきです。PCのマザーボードを買ってきて、はだかのまま GRAPE-DRを差しても折れちゃいますよ。まじめな設計(コストをかけるところにはかける)が必要かと。

 

あと、ハードウェアの設計をするなら JTAG などの外部からのプローブ端子も持っておかないと、解析すらできません。これではちゃんと動いたら奇跡です。

 

  kommy on 2009/02/14

 

  
Posted by petaflops at 16:40Comments(0)TrackBack(0) GRAPE-DR 

GRAPE-DRの性能 (その2)  (1/2)

公開日時: 2008/07/18 11:30
著者: 能澤 徹

【 追加:こちらもご参照ください。
  GRAPE-DRはスパコンではないらしい(2009/04/24)
  
Grape-DRの性能2007/12/20  】


 昨年11月のPaper発表から
既に半年が過ぎたので、夏休みに突入する前の忘れないうちに、
GRAPE-DRのその後に関してコメントを加えておきたい。

 
HPC業界も6月のISC08でのTop500の発表で、Roadrunner1PFlopsBlue Gene/LBlue Gene/P0.5PflopsTACC-Sun-Opteron Quad0.3Pflops、オークリッジ研のCray-XT4-Opteron Quad0.2PflopsPflops級のMajorなスパコンの陣取も決まって来たようであるが、反面、世界のHPCの最前線からの日本の脱落は議論の余地が無いほど明白になってしまったように思う。勿論、原因は日本のスパコン戦略の杜撰さにあることは論を待たない。


 
今後の世界的な話題は、CPUで、PowerXcellPPC450Opteron Quadといった先発組の後継CPUに、NehalemXeon Quad/Octa)やPower7が何処まで食い込むことが出来るかといったことや、ダークホースとしてのGPGPUやメニーコアの行方などが噂されるのではあるが、如何せん、”
1Peta越え”が終わってしまうと、拍子が抜けてしまい、もう既に夏休みモードのようなのは、致し方ないのかも知れない。



 さて、本稿のニューズは、
GRAPE-DRのボードが、既に、販売され始めたというお知らせである。これは”K&F Computing Research社”のHPに掲載されているもので、先週偶然見つけたのであるが、GRAPE-DRのボードが2発売されていたのである。

 東大の公式の報道機関向け発表にも、研究成果発表にも含まれておらず、東大からの何らかの正式発表が行われたのかどうか不明であるが、この会社の
HPの7月のUpdate分で表示が行われ、7月17日にこの会社から報道発表があったようである。
 一般的に
税金プロジェクトで完了報告も無く、成果物の権利関係が曖昧なまま、販売が可能なのかどうか疑問ではあるが、とにかく発売され始めたらしい。
 
 
ボードの種類は、GRAPE-DR1セット搭載のものと、4セット搭載の2種類で、それぞれ598,500円1,648,500円で、後者は3Q/2008の発売となっている。”ソフトウェア、データ、資料”は“近日対応予定”となっているが、1ボードの行列積の実測データが掲載されている。
       
 ホスト計算機 : ASUS P5E (X38 チップセット) + Intel Core2Quad Q6600
 動作周波数 : 380MHz (倍精度ピーク性能 194 Gflops)

          実測性能     行列積計算 DGEMM(Gflops)
size(i = j = k)
 1 ボード    2 ボード

2048
     67 34.5%   117 30.2%
4096     93 47.9%   151 38.9%
5120     103 53.1   166 42.8%
6144     ―       177 45.6%
7168     ―       183 47.2%

 200611月のチップ完成発表時のボードとの仕様上の違いはPCとのインターフェースがPCI-XからPCI-E 8wayないしは16wayに変わった点とクロックが500MHzから400MHzに変わった点であろう。
 注目点は、2006年のチップ完成発表時、そして2007年のSC07でのPaperにおいては、GRAPE-DRの基本クロックは500MHzと発表されており、“正常作動を確認”と発表していたにも関わらず、400MHzに大きく後退し、実測用ボードでは380MHzにまで後退している事で、これは、全くの推測では有るが、タイミングがらみのなんらかの問題が発生しているのではないかと考えられ、最悪の場合は、Over-writeによるデータロスなどの厄介な問題の可能性も排除できない。

 販売されるボードの仕様としては、400MHzが採用されており、ピーク性能は
GARPE-DRチップを1セット載せたボードは単精度409.6Gflops、倍精度で204.8Gflopsであり、4セット載せたボードは単精度1634.8Gflops、倍精度819.2Gflopsとなっている。

 比較でいうなら
ピーク性能は、倍精度で、2006年公表の384Gflopsの53%、2007年公表の256Gflopsの80%ということになってしまっているのである。

 このボードで最終システムを組み立てると、プロジェクト開始時点のシステムサイズでは、倍精度のピーク性能で
約0.8Pflopsに過ぎず、当初の性能目標である2Pflopsの達成は全く論外で、1Pflopsですら達成できないことになる。

 注意すべきは、これはピーク性能(理論性能)での話であり、ピーク性能からはかなりの性能低下が想定される実行性能においては、
Roadrunnerのような実行性能で1Pflopsなどは全く論外といわねばならない。

 公表された行列積(
DGEMM)の実行性能103Gflopsは、ピーク性能194Gflops53%程度であり、あまり芳しい性能ではない。このDGEMMは、HPCCEP-DGEMMのデータが示すように、適切に設計されたCPUでは、ほとんどが80%-90%程度の性能を示しているからである。
 
 そして、2ボードでの性能は1ボードでの性能からさらに5%-10%程度低下しており、これはPCのディスパッチング能力と通信遅延によるものと考えられるので、1PCで4セット搭載ボードを制御する場合はさらに大きな性能低下が予測される。
 
 これらはローカリティの高い行列積での性能であるが、広域度の高くなる大規模Linpackにおいては、さらにネットワーク遅延を考えねばならず、これらのデータが欠落している現状ではデータ不足で最終システムの性能予測は難しいが、上限としては1ボードや2ボードの実測データから400Tflopsを超えることは無いといってよい。

 予測の精度を上げるには、複数チップ制御による性能低下と、ネットワーク遅延をどの程度見込むかということで、ガッツなフィーリングでいうなら、それぞれ
15%で合計30%低下と考えると、最終的なシステムはクロック380GHzとして、200-300Tflops程度で、悪くすると100Tflops台もありうるのではないかと思っている。




(GRAPE-DR開発
関係者で異議があったらコメントに書き込んでください。適切なデータがあれば修正はやぶさかでは有りません)


( 2/2 に続く )


 

 

 

 

 

 

 

 

 

( 2/2 に続く)

  
Posted by petaflops at 16:23Comments(0)TrackBack(0) GRAPE-DR 

Bill Gatesの引退に関連して

公開日時: 2008/07/05 10:00 
著者: 能澤 徹


  Bill GatesがMSから完全に引退したという事で、CNETのパネルやブログ等にもこの話題が取り上げられている。ざっと目を通したが、GatesやMSに対する印象は結構世代によって異なるものである事を実感した。

  筆者がMSと付き合っていたのは1980年代初頭から中頃のことで、当時のMSの従業員数は千人に満たない規模であったと記憶している。DOSの某アプリケーション・プログラムでは発表直前になってもバグが収束せず、Fix版のオリジナル・ディスケットをシアトル空港の成田直行便に持ち込んでもらい、その便を成田で待ち構えて、緊急通関をお願いしたような記憶もあり、当時は普通のソフト・ハウスという印象であった。
 ほとんどがSeattleとの付き合いで、国内でのことはあまり詳しくないが、日本支社も、確か、MS Far East Divisionとか言っていたはずで、正確な記憶ではないが、(株)ASCIIと同居しており、人も同じで、時と場合によって名刺を使い分けていたような印象が残っている。


  Gatesに対しては、多くの人々が様々な論評を行っているが、筆者の印象は技術面、ビジネス面ともに「あまり高くは評価しない」といった感じである。
 技術面での印象は、GatesはInnovativeではなかったという印象で、逆に上手であったのはInnovativeな先人の成果を「取り込む事」であったと思っている。
  ビジネス面では、この純技術面での底の浅さが幸いし、技術の袋小路に陥ることなく、マーケティング視点での表面的技術をビジネスに結び付ける事が出来、かつ、法的/ポリティカルにかなり“したたか”であったことである。ただこの、したたかさによるビジネスでの成功は、必ずしも一般消費者を対象としたビジネスとしては、良い印象は残さなかったわけで、この辺りが功罪半ばする部分であろうかと思う。

  本稿では、思い出すまま、筆者の印象を大雑把に述べてみる。


  先刻、筆者は「GatesはInnovativeではない」と述べたが、その理由は以下のMS製品とその元になった他社製品の対照表から明らかであろう。

Altair/MS BASIC   Dartmouth BASIC
MS-DOS         86-DOS by Seattle Computer Products (MSが版権買収)
Windows        PARC Alto, Apple Mac OS
Windows NT/2000/XP OS/2
Excel/Multiplan     Visicalc, Lotus123
MS-Word        Wordperfect,Wordstar,  (元祖:Wang, Displaywriter)
Internet Explorer   Netscape
PowerPoint       Presenter for Mac by Forethought Inc.(MSが買収)
Access          Oracle DB/2、OS2 DB/2 (元祖:IBM DB/2)

 要するにGatesは“マネシタさん”が大変上手であったということである。

  これはMSのルーツであるMS-DOSの由来を見れば明らかであろう。MS-DOSはGates等が独自技術で開発したものではなく、Seattle Computer Products社(SCP)が開発した86-DOSを買収したものであったからである。
 そしてWindowsも、そもそもはXerox社のPARC Altoに始まるGUI(Graphic User Interface)で、Windows1.0の直近ではApple社のLisaやMacintoshのGUIであったわけで、そのGUIをマネシタだけで、何のInnovationも無いものであったのである。
 アプリケーションに関しても表計算の元祖はVisicalcで、その後はLotus123で様々な機能が開発されたわけであり、文書のWYSIWYGも古くはAltoや、Wang、Displaywriterといった専用機に由来するもので、PC上のテキスト表示ベースではあったがWordperfectやWordstar、Displaywriteなどで様々な機能が開発されたものである。     
 最も露骨な“マネして追い落し”はインターネット・ブラウザのNetscapeに対してなされたもので、未だご記憶の方も多数居られると思う。
 その他、PowerPointもパワポ(Presenter)を最初に開発したForethought社を買収したものであり、Accessも、そもそもはE.Coddが考案したMainframe用のRDBをワークステーション用に直したIBMやOracleのDB/2を“マネシタ”ものと考えてよい。

  一方、逆の面白い例は、ADOBE社のDTP関連アプリケーションで、残念ながら“マネスル”天才Bill Gatesをしても“マネ”できなかったわけで、ADOBEレベルに専門化した技術に対しては対応できないという事を示しており、同じような例が検索のGOOGLEやYahooで起きているのである。

  筆者がGatesの技術力を皮相だと感じたのはWindowsの開発過程からの印象が強く、Windowsの紆余曲折を見れば明らかであろう。
  Windows開発開始当時、DOSの次のOSに対する考え方には2つの流れがあり、一つは、AppleのMacに対抗するためDOSのプレゼンテーション・サービスをGUI(Windows)にするだけでよいという考え方であり、もう一方は、PCでの増大するデータ処理、通信処理、などの要求を考慮し、本格的な”Multi-Task OS”へ移行すべきとの考え方であった。
  GatesはGUIだけを優先したWindowsを主張し、MSはその方向に進んだのであるが、結局、OS/2をベースにした本格的Multi-TaskのNTを、旧DECのエンジニアをリクルーティングして、開発せざるを得なくなり(1993年出荷)、さらにはそのNTで旧Windowsを総入れ替えせざるを得なくなってしまったのである(Windows2000、XP)。  このあたりの選択は、明らかに、技術力不足と目に見える表面的なインターフェースだけの重視で、真に必要とされていた本格的仕組みの重要さをどの程度理解していたのか疑問なのである。
 たとえばDOSでのバックグラウンド・プリントは、おぼろげな記憶ではあるが、プリントのプログラムにタイマーを入れ、プリントのプログラムがフォアグラウン・プログラムにタイムスパンを与えるといった珍奇な方式でのバックグラウンド・プリントであったと記憶しているが、この程度のパッチワークを、バックグラウンド・プリントと呼んでいたのである。
 こうしたIO処理関係の問題は、プリンタだけでなく、ファイル、KBD、通信、等々いたるところで発生するわけで、そうした根本問題をいい加減にして、GUIしか眼中に無いような選択は、筆者はまともには評価できないということである。

 こうしたことから、筆者は、Bill Gatesがテクノロジー全般に対し、長期的視野に立ったVisionをもっていたというようには思えないし、技術的には、その場その場の行き当たりばったりの対応をしていたようにしか思えないのである。
 Windows1.01が発表されたのは1985年のことで、記憶が定かでなくなっているが、Steve Ballmerが来日して大々的に発表会がなされ、ロビーのようなところでBallmerと雑談した記憶がある。しかし、会場も雑談の内容も全く思い出せない。というのは当時、筆者は既に「Windowsはここ4-5年は使い物にならない」との判断を下しており、ほとんど興味が無かったからなのである。
 Windowsをアダプテーションしてみると、当時の高速CPU80286を使っても、その遅さは目を覆うばかりで、とても日本では使い物にならないと判断したからである。とりわけ漢字表示のため米国に比べ解像度の高くなっている日本のディスプレイでは、画素数が多い事に加え、フォント処理やかな漢字変換のオーバーヘッドが加わり、しかも、バグが多く不安定で、とても実用に耐え得るものとは思えなかったからである。
 結局、Windowsが使われるようになったのは、米国では92年の3.1くらいからで、一般的にはインターネットと重なって、1995年のWindows 95くらいからではなかったかと思う。CPUも最低でも486ないしはPentium程度は必要ではなかったと記憶している。
 そして、近い将来NT系で入れ替えねばならない事がわかっていながら、Windows98、MEとDOS系のWindowsを発売し、そしてそれらのハシゴを外すような形でNT系のWindows2000をぶつけてくる商売は、ある意味、一般消費者をバカにした商行為といわざるを得ないものであったと思う。不必要なバージョンアップや移行にかかった労力や諸経費は、結局、一般消費者が負担したのであり、とてもGatesを評価する気にはなれないからである。

  こうした経緯は、明らかにWindowsの出発点がおかしかったという事であり、そもそもがパフォーマンス的にテクノロジ・ミスマッチであったわけで、加えて、アプリケーション・プログラムもGUIで無ければならないようなものは無かったわけで、ユーザの要求というより、Bill Gatesが一人相撲を取っていた印象が強く、最初の7-8年(1.0発表前の開発期間を含む)は空騒ぎをしていただけといえるのである。
  普通の会社であれば、5年も持たず倒産である。Gatesが持ちこたえられたのはMS-DOSの印税であり、PCメーカの販売力にのって営業費も、開発費も不要で、PCが1台売れるたびに自動的に入ってくる数ドルの印税であった。
  従って、純ビジネス判断としては、DOSの収入で持ちこたえていたかも知れないが、あの時期に、あのテクノロジ環境で、Windows開発を始めた事が正しかったのかどうかは、はなはだ疑問であり(というより直裁に言えばwindows1.0から3.0まではテクノロジ・ミスマッチで無駄であったと判断している)、筆者はGatesのビジネス判断を疑わざるを得ないのである。
 しかし、敢えてBill Gatesのために弁解するなら、多分、Gatesを支えていたのは、ビジネス判断というより、自分の言い出した事に対する執念のようなものとしか思えず、もしGatesを評価するとするなら、その「執念」を堅持したことに対してであり、「意地っ張り」の度合いに対しての評価であろう。 その執念とは、個々の技術云々ということではなく、彼自身が一人のPCユーザーとして、WindowsというGUIに、個々のアプリケーションを組み込んで使うという事は、統一感のある使いやすい事であり、それはユーザー一般にとっても同じであろう、というVisionであったような気がするのである。

  かくして、筆者の観察によれば、Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。

  まあ、人それぞれ、様々な印象、イメージをお持ちであろうと思うが、とりあえず、筆者は、この程度のイメージを持っているということを事をお伝えしたい。



 【追加】蛇足ではあるが、Dartmouth CollegeのBASICはMainframeのTimesharing技術のさきがけとしてなされたもので、歴史的意味は、このTimesharing技術に存するわけで、 単純なBASIC言語だけの意味ではない。 元のCharacter BaseのBASICのInterpreter自体はそれ程難しいものではなく、Syntaxを理解していればAssemblerででも容易に作成可能なレベルのものである。





 *************このエントリーへのコメント*************

5  コメントが不適切でした。本エントリを読んだときに勝手な拡大解釈&理解不足があったみたいです。どうもすみませんでした。 もう一度エントリを読み直してみました。個人的にはGates氏もGates氏の知人も知らないのでGates氏の技術力が本当に皮相だったのかどうかはわかりませんが、筆者のGates氏に対するイメージは理解できました。
hokky (cafe noir) on 2008/07/08


4 To コメント#3
 ・ “アドビのアプリはフラッシュ?なんだろうか・・・”
筆者が頭に描いていたAdobe社のアプリケーションとは、Photoshop、Illustrator、In-Design、Acrobat(PDF Maker) 等々のDTP関連アプリケーションのことです。このPrint for Money の高品質分野は、世界中のインフラがAdobeで出来ているようですので、他のメーカーの参入は極めて難しいような気がしています。  確かに、GoogleやYahooと並べてしまうと、AdobeのInternet関連製品へ連想が向いてしまって、誤解を招きやすいものと思いますので、“Adobe社のDTP関連アプリケーション”と“DTP関連”を付け加える事にし、本文に追加させていただきます。
能澤 徹 on 2008/07/07


3 楽しく拝見させて頂きました。
>一方、逆の面白い例は、ADOBE社のアプリケーションで、残念ながら“マネスル”天才Bill Gatesをしても“マネ”できなかったわけで、ADOBEレベルに専門化した技術に対しては対応できないという事を示しており、同じような例が検索のGOOGLEやYahooで起きているのである。
 アドビのアプリはフラッシュ?なんだろうか・・・技術は分からないので、専門化した技術に対しては対応できないのはそうなんだろうな、とも思うのですが、Netscape叩きには充分な時間があったように思うのですが・・・ FlashやらGoogleはインターネット上で急に広まったので、叩きたいけどあきらめた。(いや、まだ諦めてないかもしれない・・・執念だぁ)
ぎょ on 2008/07/07


2 To コメント#1
(A)“お金と執念と運だけですか?”
hokkyさんが,何を目的に、どの様にまとめたいのか知りませんが、本文中には以下のように書いてありますので、「お金と執念と運だけですか?」かどうかはご自分で判断ください。 "Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。"
(B)“世の中の多くの大企業がこの説明で片付いてしまいそうですね(笑)。”  
そもそも筆者は、筆者が有しているGatesのイメージの話をしただけですので、“世の中の多くの大企業”の“説明”をしようとしたわけではありません。また、“何のために”“どうして”“世の中の多くの大企業”の説明をしなければならないのかも全く理解できません。 何のためか良くわかりませんが、“お金と執念と運だけ”で貴殿が説明できるのであるなら、ご自由にご説明されると良いと思います。ただし、筆者とは無関係です。
(C)“結局ビジネス的に負けたものが何を言っても負け犬の遠吼えになってしまいますよね。”
筆者は“Gatesがinnovativeであったか”どうかを、例を挙げて示しただけで、ビジネスの話をしたいわけではないですよ。 ファクトはファクトとして伝えるべきで、それ以上でも、以下でもないでしょう。それをどの様に解釈するかは、解釈する人の意識が出てくるということでしょう。 Gatesにしても、ビジネスで勝ったからといって、自分が最初に考案した、などと言うことは無いと思いますけどね。
能澤 徹 on 2008/07/07


1  > Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。 お金と執念と運だけですか?そういう意味では、CISCOやGoogleも似たようなもんですかね。Appleもそうですね。世の中の多くの大企業がこの説明で片付いてしまいそうですね(笑)。 良いか、悪いかは別として、今は、最初に作ったのは他の人だ~といくら騒いだところで結局ビジネス的に負けたものが何を言っても負け犬の遠吼えになってしまいますよね。 hokky (cafe noir) on 2008/07/06  
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世界のスパコンTop500 2008-06 (国別)

公開日時: 2008/06/18 23:28
著者: 能澤 徹


【Top10/日本のスパコンから続く】


 日本はTop500には全体で22台がランクインしたが、国別設置台数も実行性能順位も、前回の第4位からフランスに抜かれて第5位に転落してしまった。

 米国はともかく、第2位の独、第3位の英に比べ、総性能は約半分程度である。このことは、今後の科学技術競争力を考える上で、間違いなく、ボディブローのようにじわじわと効いてくるように思えてならない。

 ただしこれは、日本が科学技術に予算を割いていないという事ではなく、国際価格を無視した、ホウガイに高い買い物をしているからに過ぎないことは、明白である。
 科学技術行政や調達に携わる人達の責任と自覚を喚起したい。




2008年6月度 国別順位

総実行能力順

  国名     台数  台数      実行性能   実行性能
               シェア    (TF)      シェア
01 米      257  51.40%   6999.8   59.90%
02 独      46   9.20%   963.5    8.25%
03 英      53   10.60%   822.3   7.04%
04 仏      34   6.80%   711.7    6.09%
05 日      22   4.40%   550.9    4.71%
         
06 Sweden   9   1.80%    268.3   2.30%
07 印      6    1.20%    189.9   1.62%
08 露      9    1.80%    164.6   1.41%
09 中      12   2.40%    140.3   1.20%
10 西      7    1.40%    133.2   1.14%
11 Netherlands 5    1.00%    109.6   0.94%
12 Italy     5    1.00%    83.4    0.71%
13 Switzerland 6    1.20%    80.9    0.69%
14 New Zealand 6    1.20%    75.9    0.65%
15 Norway    2    0.40%    68.7    0.59%
16 Poland    3    0.60%    62.0    0.53%
17 Korea,South 2    0.40%    46.4    0.40%
18 Taiwan    3    0.60%    45.7    0.39%
19 Slovenia   1    0.20%    35.1    0.30%
20 Finland    1     0.20%    26.8    0.23%
21 Canada    2    0.40%    22.9     0.20%
22 Belgium   2     0.40%    21.1    0.18%
23 Malaysia   2     0.40%   21.0     0.18%
24 Ireland   1     0.20%    11.7    0.10%
25 Egypt    1     0.20%     9.9    0.09%
26 Cyprus    1     0.20%    9.2    0.08%
27 Australia  1     0.20%    9.2    0.08%
28 Brazil    1     0.20%    1.6    0.01%

Totals     500     100%    11685.4  100.00%


  
Posted by petaflops at 15:36Comments(0)TrackBack(0) Top500 Report 

世界のスパコンTop500 2008-06 (Top10/日本のスパコン)

公開日時: 2008/06/18 14:10
著者: 能澤 徹

【表を3つ入れると書式が崩れてしまうため、やむなく3分割にしましたが、冗長でしたので、1-2をまとめました。】

 

2008年6月のスパコンTOP500(第31版)が発表された。  

 第1位は、新規で、米エネ省NNSA(国家核安全保障局)傘下のロスアラモス国立研究所(LANL)のRoadrunnerで1026Tflops。Opteron+PowerXCell8iのシステム。
 第2位は、前回1位の、米エネルギー省NNSA傘下のローレンス・リバモア研究所(LLNL)のBlue Gene/Lで、487.2Tflops。
 第3位は、新規で、米エネルギー省SC(科学局)傘下のアルゴンヌ研究所(ANL)のBlue Gene/Pで450.3Tflops.
 第4位は、新規で、米テキサス大オースティン校にあるTACCのRangerで326Tflops。 Opteron quadのシステムでSUNの製品。
 第5位は、前回7位であったが今回増強された米エネ省OS傘下のオークリッジ研のJaguar (Crya XT4)で、205Tflops。
 第6位は、前回2位の、独ユーリヒ研のBlue Gene/Pで180Tflops。
 第7位は、前回3位の、米ニューメキシコ州政府のスーパーコンピューティング・センターのSGI ICE8200 Xeonで、133.2Tflops.
 第8位は、前回4位の、インド TATAのHP・BL460c Xeonで、132.8Tflops。
 第9位は、新規で、フランスの情報科学開発研究所のBlue Gene/Pで、112.5Tflops。
 第10位は、新規で、フランスのエネルギー会社トータル(Total)の106.8Tflops。SGI ICE8400でXeon Quad core.


 日本のスパコンは、

東大のT2K(日立)が16位、
筑波のT2K(APPRO)が20位、
東工大のTSUBAME(SUM)が24位、
京大のT2K(富士通)が34位、
地球シミュレータは、前回の30位からさらに後退して、第49位

であった。

 




2008年6月度 第31版 Supercomputer TOP500 からTOP10

順位 Site     Computer            Rmax(TF) Rpeak(TF)  Power(KW)
           
1 ロスアラモス研  Roadrunner          1026   1375.78   2346
          IBM QS22/LS21, PowerXCell 8i/Opteron Infiniband
2 リバモア研    BlueGene/L          478.2   596.38   2330
          IBM
3 アルゴンヌ研   Blue Gene/P          450.3  557.06    1260
          IBM
4 テキサス大    Ranger             326    503.81   2000
          Sun x6420
5 オークリッジ研 Jaguar             205    260.2    1581
          Cray XT4 QuadCore 2.1 GHz
6 ユーリッヒ研 JUGENE             180    222.82    504
          IBM Blue Gene/P
7 ニューメキシコ州政府 Encanto          133.2   172.03    862
(NMCAC) SGI Altix ICE 8200, Xeon quad core 3.0 GHz

8 インド・TATA SONS EKA             132.8   172.61    1602
           HP BL460c, Xeon 53xx 3GHz,
9 仏・情報科学研  Blue Gene/P          112.5   139.26    315
           IBM
10仏・トータル Altix ICE 8200EX         106.1   122.88    442
(エネルギ会社)  SGI Xeon quad core 3.0 GHz

    

 
    
2008年6月度 スパコンTop500 から 日本のスパコン

順位       System                       Rmax  Rpeak

16 東大     T2KーHitachi                    82.98 113.05

20 筑波大    Appro Xtreme-X3 Opteron QC 2.3 GHz,       76.46  92

24 東工大    Sun Fire x4600/x6250,               67.7  109.73
          Opteron 2.4/2.6+ClearSpeed2.8 GHz,
34 京大     HX600ーFujitsu                   50.51  61.24
          Opteron QC, 2.3 GHz,    
49 地球シミュレータ Earth-Simulator                35.86  40.96

76 国立天文台  Cray XT4 QuadCore 2.2 GHz            22.74  28.58

101 生命情報セ  Blue Gene/L                    18.67  22.94

104 高エネ研   Blue Gene/L                    18.67  22.94

105 高エネ研   Blue Gene/L                    18.67  22.94

155 東大     SR11000-J2                     15.81  18.84

172 九大     PRIMERGY RX200S3,                 15.09  18.43
   Fujits Xeon Dual Core 3.0, Infiniband
174 通信会社   HP BL460c,Xeon                   14.98  26.78
              
177 自動車製造会社 HP BL460c,Xeon                  14.94  26.59

184 海洋研    Altix 4700、Itanium2 1.6 GHz           14.59  16.38

235 金融研究会社 HP BL460c,                      13.64  23.9
          Xeon 52xx 3 GHz , GigEthernet
299 原研     SGI Altix 3700 Bx2, 1.6 GHz,            11.81  13.11

335 九大     Fujitsu Primequest, Itanium2            10.85  13.11

357 筑波大    PACS-CS, Fujitsu/Hitachi             10.35  14.34
           Xeon 2.8 GHz, 3D Hyper-Crossbar
412 高エネ研   Blue Gene/L                     9.43  11.47

480 理研     Fujitsu PFU RG1000                 9.05  12.29
           Core2Duo 1.5GHz       
482 気象庁    Hitachi-SR11000-K1/80               9.04  10.75

483 気象庁    Hitachi-SR11000-K1/80               9.04  10.75



(国別)へ続く
  
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2010年04月28日

T2K(筑波、東大、京大)のLinpack実行性能

公開日時: 2008/06/05 09:00
著者: 能澤 徹

【追加】6月18日発表のTop500第31版の中で筑波大のT2KはPeak性能92Tflopsで、実行性能が76.46Tflopsとなっており、実行性能比は83.1%となりますので、本文中の表をUpdate致しました。
 Linpackはピーク性能に近い性能を出しやすいベンチマークで、高性能汎用スパコンの必要条件の一つです(十分条件ではない)
。したがって、その実行性能比の芳しくないシステムは、当然、他のアプリケーションでも良い結果は期待できないわけで、システム設計の不具合を見つけるには最適のベンチマークです。
 

 
 
 
62日の報道では、東大のT2K(日立HA8000、理論性能140TflopsLinpackベンチマークで82.98Tflopsを達成し、京大のT2K(富士通HX600、理論性能61Tflops50.5Tflopsを達成したという事である。筑波大のT2KAPPRO Xtream)の実行性能の報道は、今のところ、見当たらない。

   Peak  リース メーカ  使用 Linpack  実行性能比
   TF
  総額     Peak性能 実行性能  
筑波 
95  25.2億 APPRO     92  76.46     83.1%
東大 140  87.4億 日立HA800  113 82.98  73.4%
京大 
61  39.0億 富士通HX600 61  50.5  82.5%
  (
70.2:移行用機を含めた京大の合計性能

  公式発表によるものではないが、東大のT2Kの実行性能は、理論性能140Tflopsのフル・ノード・システムでのものではなく、113Tflops768ノード、12288コア)のサブシステムでの結果と考えられる。

 報道されたデータだけをもとに単純に計算すると、東大のT2Kの理論性能は140Tflops、京大が61Tflopsであるので実行性能比は東大が59.2%、京大が82.5%となり、東大はほとんど落第で追試が必要なレベル、京大は合格、といった事になってしまう。

 「ヘンだなー」と思いつつも、瞬間、脳裏をかすめたのは、京大の前機種で、名大や
JAXAの現機種でもあるPrimepower HPC2500Linpack実行性能比49.6%のことで、59.2%はこれよりは若干マシではあるが、誉められた数値ではない。49.6%59.2%2度もヘンな結果を全世界にばら撒く事になると、日本の技術力が世界から疑われてしまうのではないかと、余計な心配をしてしまった。


 どうやら、実態は、
512ノードのサブシステムと256ノードのサブシステムを結合した768ノードのサブシステムで行われた結果のようで、理論性能は113Tflopsなので、実行性能比は73.4%となる。

 この73.4%という数字は、驚きの59.2%程ではないが、京大の82.5%からは10%程度の性能劣化で、理論性能的には14Tflopsが、税金としては8.7億円が、意味も無く消えてしまうという事になる。


 現時点では筑波のT2Kのデータは公表されていないので、筑波のT2Kとの比較は出来ないのであるが、とりあえず米エネルギー省のTri-LabのAPPROのデータを参考にすると、筑波も80% 前後は達成できるのではないかと思う。
 すると筑波のT2Kの実行性能は76Tflops程度と予想され、サブシステムでの結果とはいえ東大の82.98Tflopsとあまり差がない事になってしまう。リース総額は東大が筑波の3.5倍であるから、今後公表されるであろう筑波の実行データ如何によっては、京大のケースも含めて、内外価格差の論議が起こる可能性は否定はできない。


 技術的に何が原因なのか詳細は不明であるが、システムを大きく括ってみれば、システムボード、インターコネクト、システムソフトなどのブロックに分けられるので、問題の切り分けが第一歩であろう。

 外部から見た東大のT2Kと京大、筑波のT2Kで、目に付く相違はインターコネクトである。東大がMyrinetであるのに対し、京大、筑波はInfinibandである。インターコネクトに関連するものとしては、MPI周りのシステムソフトが関係している可能性も考えられる。この辺りが一つのポイントであろう。
 まずは、システムボード単体での実行性能を確認し、問題がシステムボードにあるのかインターコネクトなのかを切り分け、早急に改善策を打つべきであろう。

 予定調和的に考えてみれば、東大も京大も筑波もCPUは同じで、基本設計も同じであるから、インプリメンテーションの差異部分の修正で80%超は可能と思う。
 
 担当者は、同じ仕様で発注していながら、10%もの性能格差が発生し、10%の税金が何の意味もなく消えてしまっているという事実を重く受け止め、メーカ任せにせず、改善の努力を行うべきであろう。
 
 また、ベンチマークで使用したシステムがフル・ノードのシステムでない点は、今回は設置前後でビジーであったためとも思えるが、やはり、折角の140Tflops機であるので、本質的ではないが、Linpackもフル構成のシステムで、実行性能比も80%を超える状況に改善し、実行性能で100Tflopsを超える結果を期待したい。
 
 この東大のT2Kは、昨年11月の第30回のTop500の番付では10位相当となるが、今月にドイツで行われるISCでの第31回の番付では20位内といったところではないかと思う。今回はRoadrunner、ANLのBlue Gene/P、TACCのRangerといった500Tflops超の大型機のエントリーと、100Tflopsクラスのステルス・プラン、従来機の増強、などが予想されるので、まあ20位内程度というのが妥当な線ではないかと思っている。     
  

  
 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。 


 

  
Posted by petaflops at 23:49Comments(0)TrackBack(0) スパコン 03 

地球シミュレータ後継機

公開日時: 2008/05/15 19:15
著者:能澤 徹


Note:5月16日に海洋研機構からの落札公示(189億9200万円)がありましたので、関連数値を訂正いたしました
 


 

 

 2008512日に海洋研究開発機構から道発表があり、地球シミュレータの後継機が決まったということのようである。昨年来話題に上っていた後継機選定は、一応、NECSX-9/Eでケリが付いた事になる。

 海洋研究開発機構は地球シミュレータの後継機選定のため、200835日に入札公示、同14日に仕様説明会、425日に入札、そして512日に開札を行い、その結果、NEC理論性能131TflopsSX-9/E落札した。要求仕様の詳細は明らかではないが、キーになるポイントは「現在海洋研究開発機構が保持している、いくつかのアプリケーション・プログラムが平均で2倍以上の速さで作動する事」という事であった。

 この
要求仕様を満たすためには、地球シミュレータ(SX-6)上で稼動中の、対象となる独自プログラム(複数)の提供を受け、そのプログラム・ロジックを解析の上、ポーティング及びチューニングを行わねばならないのであるから、実際上この要求仕様は、スカラ機にとっては大変きついバリアであったものと思え、結局、応札したのは現行機と同じNEC1社であったと報じられている。
 要するに一般競争入札の形はとっているが、実質は「出来レース」といわれてもやむを得ないようなもので、アーキテクチャはベクタ、性能は現行アプリケーションの実行性能2倍で決まりなので、入札に関する注目点は価格だけという事になる。

 落札価格に関しては、
報道では1857600万円とされていたが、5月16日の落札公示では189億9200万円となっている。昨年11月に報道されていた初期費用の5億円がどうなったのかは不明である。

 SX-9は昨年、東北大や阪大、さらには
ドイツのGerman Weather Service (DWD)にも導入が決まったとのことであり、これらとの価格の相互関係は注目される点である。

     

<地球シミュレータ後継機 SX-9/E の概要>
  稼動開始予定 200931
  理論性能    131.07Tflops  80筐体
  メモリ    20TB
  リース期間  6
  支払総額    189億9200万円
  リース月額  2億6378万円、年額31億6533万円
 推定:
  推定価格   151億9360万円(リース加算額20%仮定)
  推定Tflops単価 11592万円
  Linpack予測  111TflopsLinpack実行効率85%仮定)
 

     

<世界規模での位置付け>
 この後継機は1年後の20093月稼動開始予定であるが、現時点でのTop500にLinpack推定を当てはめると、4位のインドのTATAに次ぐ5位くらいでる。20096月のTop500での順位を予測するため、正確ではないが、筆者が記憶している世界のスパコン設置予定の報道を列挙してみる。

 
2008年設置予定
  TACC Ranger   500Tflops Sun Opteron-quad (設置済)
  ANL BG/P    500Tflops IBM PPC450
  ORNL Jaguar+  250Tflops Cray Opteron-quad
  SNL Red Storm+ 250Tflops Cray Opteron-quad
  NERSC Franklin  250Tflops Cray Opteron-quad
  Hector UK     250Tflops Cray Opteron-quad
  T2K U Tokyo   140Tflops Hitachi Opteron-quad
   NASA Ames Lab  245Tflops SGI Altix ICE Xeon-quad
 2009年設置予定
  LANL Roadrunner 1.4Pflops  IBM Opteron+Cell 
  
 (スケジュールが早まっているようで近々1Peta超の可能性あり)
  U Tennessee NSF  Pflops  Cray Opteron- Quad
  NASA Ames Lab  1Pflops  SGI Intel Nehalem?
  JAXA      135.7Tflops Fujitsu SPARC64-VII

 

 現実的にはこれらのほかに、ステルス・プランが結構出てくるので、残念ながら、地球シミュレータ後継機が20096月にTop10にランクインする事はほとんど絶望的で、Top20でさえ難しいように思えるのである。

     
<東北大、阪大、DWDとの関係(SX-9 vs SX-9/E)>
 

SX-9は2007年10月に発表され, 東北大の落札公示から推定される
Tflops単価は2億円弱であった。阪大の落札は200610月のSX-8Rの発表と同じ頃で、SX-8Rとその後継機の合算という変な契約で落札されている。こうした契約が可能なのかどうか訝(イブカ)っているが、契約形態もさることながら、合算した上でのTflops単価は約3億円弱と推定されるのである。
 ドイツのDWDの落札も昨年SX-9の発表と同じ頃で、HPCwireで報道されたもので、さらにSC07会場でNECの担当者からHPCwireの記者へ再説明が行われ、その際の説明内容の報道からは、Tflops単価が円換算で1億円前後ではないかと推定されている契約である。
               

 ドイツでの推定価格は、昨年発表されたCray-X2の価格と同レベルのもので、今回のSX-9/Eの推定価格はこうした海外での価格に符合する価格ではないかと思える。 

 
SX-9/ESX-9の何処が違うのか詳細説明は無い。常識的に考え付く理由は、発表後半年経過しての契約なので、部品コストなどの低下によるリダクション版ということであろう。しかし、同じ国内で、わずか半年の経過で半値というのは如何なものかと思わざるを得ない。パソコンのCPUやメモリ等のような競争の激しい超量産品であればともかくとして、出荷量の少ないベクタ機では辻褄が合わないであろう。
 
 この結果、海洋研究開発機構への納入単価と、
東北大、阪大等への納入単価には、1億:2億:3億という、大きな落差が発生しており、国立機構間での購買のあり方として、また税金の使い方として、かなり、問題がある様に思えるので、両校等は何らかの是正措置を求める必要があるのではないかと思うのである。

     

<日経BPNHK報道との関係>
 今回の選定結果に対する報道は、昨年11月の日経BPのスクープ記事やNHKニュースなどでの大々的報道に比べ、どれも地味で短いものである。選定結果が常識的、保守的で話題性に乏しいという事であろうか。
 したがって「11月の報道は何だったのか?」という事になるのであるが、筆者は必ずしもその様には考えていないのである。というより逆で、かなり意味があったのではないかと考えているのである。

 今回の選定の背景には、行政改革の一環としての独立行政法人の整理統合、予算縮減が有り、地球シミュレータに関する予算の大枠は、これまでの地球シミュレータの運用経費のみ、との評価報告が上がっていたからである。要するに、これまでの運営経費でマネジできる範囲で新規リース料や運営経費を賄いなさい、というシーリングである。これはハッキリ、国策としての地球シミュレータの役割は終わったという通告であり、次期国策スパコンは理研へ移してしまっていたからである。

 一方、後継機に対する技術的性能要求は「実行性能で2倍」というささやかなものであったが、これも、昨年3月でのSX-8Rでの実行試験結果からは、理論性能で地球シミュレータの5倍の200Tflops程度必要という事になっていたのである。ところがコスト的に提供できるシステム・サイズは80Tflops-100Tflops程度の規模という事で、業者との間でもめていたのである。

     

 今回SX-8RからSX-9又はSX-9/Eに代わって実行性能試験がどの様行われたのかは定かではないが、結果的に、理論性能131Tflopsで実行性能2倍をクリアし、リース料金的には年額309600万円となり、保守運営経費がリース料金に含まれているのかどうかは不明であるが、年50億円と報道されていた現在の地球シミュレータの運営経費の中には納まっているのである。

 昨年話題になっていた消費電力
6MW電気代年間約5億円は、消費電力が現行機の約70%程度になると報道にあるので、消費電力4.2MW年間3.5億円くらいということになる。昨年1筐体当りの消費電力は30KW程度と報道されていたので、80筐体で2.4MW程度とすると、残りの1.8Mはインターコネクト、DASD、空調などということであろうか。

     

 そして価格面でのTflops単価が
東北大の約
2億円から約半年で今回の約1億円に下がったということは、11月の報道が多少なりとも貢献したのではないかと思っている。一般国民にとって年間運営経費50億円という報道は驚きの一言で、Tflops単価2億円に対しても常識的妥当性をも疑わせる事となり、世の中の空気として海洋研側の「スカラ機も選択枝」というメッセージを強く支援したものと思えるからである。業者もこうした世の中の空気を読んで、一気に半値近くまで値下げて応札したということは、それなりに世間様に配慮したということのようには思っている。

 

 

 

 地球シミュレータ後継機は国策から外れ、もう世界の桧舞台に上がる事の無い機械であろう。大局的には、海外からの視線に対して元国策スパコンとの連続性を保ちながら、静かにフェーズアウトしてゆく事が妥当と思えるので、年間の支出額に見合う成果を期待しつつ、現時点ではこれ以上の論評は差し控えたい。

     


 
  なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。  

     

  
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