2010年07月10日

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GRAPE-DR
2010/7/10 GRAPE-DRの発表や報道に騙されてはいけない
  

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GRAPE-DRの発表や報道に騙されてはいけない

 2010年7月6日、東大は、東大と国立天文台の共同開発したGRAPE-DRがLittle Green500でTop1になった旨研究成果発表を行った。
(7月10日現在、7月6日の東大の研究成果発表記事はPDF-fileは壊れていますとのメッセージが出て、表示されない様です。)

 GRAPE-DRは既に失敗プロジェクトとして結論が出ており、加えて、時期的にも、高性能GPGPUがいくつも市販されている現在では、存在価値を見出すことが難しいガラパゴス・ボードである。従って、これに時間を費やす事は無駄以外の何者でもないが、東大の発表の仕方、メディアの報道の仕方には、問題が多いと思うので、若干のコメントを記しておきたい。


 今回の発表は3つの意味で、ミス・リーディングな発表である。加えて、このミス・リーディングな発表を、何の継続的情報チェックもせずに、垂れ流し報道する日本のメディアは、その見識を疑わせるにたる低俗なものとしか判断しようが無いと感じている。

 ミス・リーディングな第1の点は、発表文中の[研究成果の意義]で、これは論点を発散させるための煙幕である。自己に都合の悪い、本来の税金プロジェクトとしてのプロジェクト目標がどの様な悲惨な結果になってしまったのかは全く公表せず、自己に都合の良い、本来の目標ではない話題を述べているわけで、本末転倒としかいいようのない、「目くらまし」発表なのである。
 自分達に都合の悪いものであれ、税金で給与を食み、税金でプロジェクトをやらせてもらっている身であることを自覚していれば、本来のプロジェクト目標に対する2008年レベルでの「けじめ」発表は、今回の発表以上に大々的に行われていなければならないものである。
 要するに、今回の発表は、失敗プロジェクトを、あたかも大成功プロジェクトであるかの様に「すり替える」ための印象操作的発表ということなのである。

 第2の点は、Little Green 500というマイナーなリストを、あたかも、公式のメジャーなGreen 500と同じであるかのような印象操作を行っている事である。
 Littleという形容詞がついているように、前者は極めて小規模なシステムも対象にしてあげましょうという、参考データで、Top500から転げ落ちた過去のSmall Systemも、1年半(18ヶ月)前までにTop500に入っていたSystemであれば含めてみましょうという参考リストにすぎない。
 余りにSystem規模の落差が大きくなりすぎると、性能的に公平ないしは有意味な比較とは考え難くなってしまうので、あくまで参考データという事なのである。一般的には、Small Systemの方が断然有利と考えられるからである。

 GRAPE-DRは22Tflopsとか23Tflops程度のシステムであり2010年6月のTop500ではランク落ちとなっている。一方Top1は1759Tflopsであり、Top10でも433Tflopsである。規模の違いは、19~76倍に及んでおり、こうした規模の違うシステムの消費電力を比較することに意味があるとは思えないわけである。
 問題サイズの規模の違いから来る、必要なメモリやPeripheral やInterconnect機器などの、capacityの差の問題や、最近では空冷vs液冷の問題など、物理的に様々な違いがあり、また、測定の仕方も、実測をするのであれば、小システムの方が自由度が高く圧倒的に有利であることは確かであろう。
 まあ、筆者は、Green500は「無いよりは良い」程度の参考データとしか考えていないし、多分、国際常識的にも、その程度の参考データとしか考えていないはずで、ダントツのブッチギリであればともかく、どんぐりの背比べ程度では、目くじらを上げて、「カッペ」丸出しに「世界一」「世界一」などと騒ぐほどのものではないと思っている。 
 本来Green500は、Top500にリストアップされた大型システムの消費電力の増大化に、競争的かつVisibleな歯止めをかけるための仕組みのようなもので、なんといっても関心は、Top10クラスの超大型システムに関するものである。Bottom近辺の演算性能でGreen Top1といわれても、「それで?」といった反応しか出てこない。

 で、この第2の点の本質は、こうした背景説明なしで、「世界一」「世界一」と騒ぐ発表者の「小賢しさ」と、その発表を無批判に受け入れ、「オオム返し」に報道する、メディアの「低能さ」、「低劣さ」なのである。こうした日本のメデイアの「低能さ」「低劣さ」が、国際社会の中で全く役に立たない、内弁慶な「日本国内だけでの世界一=ガラパゴス化」を助長・増幅しているわけで、この手の話は、昨年末の次世代スパコンに関する事業仕分けでの混乱報道と同根の問題で、日本のメディアの根深い問題といえるのである。

 第3の点は、「成果の意義」の中で、あたかも、GRAPE-DRが省電力設計技術を推進実現したかの様に表現しているのであるが、それは全くの作り話で、実際には、公表していた設計目標クロックでの作動を確立できなかったために、偶然思いがけず現在の消費電力になったということで、話が出鱈目である。
 本来、GRAPE-DRのクロックの設計目標は500Mhzであったが、正常作動させることができず、2008年のボード売出しでは380MHz、2009年6月のTop500へのエントリでは、なんと330Mhzでしか作動しなかったわけである。
 今回のクロックがいくらであるか、Top500にランクインしていないので不明であるが、チップの演算性能が100%クロック増加率に比例したとしても、消費電力の増加は概ねクロック増加率の2乗と考えられるので、本来の設計値である500MHzで作動させると、Flops/Wは今の値よりかなり悪くなるわけで、要するに、意図して世界一の省電力設計技術を実現したなどというのは、作り話も甚だしく、たまたま偶然そーなった程度の、「いい加減なもの」でしかないのである。
 つまり、こうした「いい加減な実情」を十分知った上で、状況を知らない一般人には、「省電力設計技術を推進実現した」かのように「成果の意義」として強調するなどというのは、受け取り様によっては、ある種の学術成果「詐欺」のようなものではないかと思わざるを得ないものなのである。

以上、GRAPE-DRのLittle Green 500に関する感想を述べたが、そもそもGRAPE-DRは、アーキテクチャーがチンケで、信頼性やデバッガビリティの作りこみも定かでない「素人のお遊び」であるので、必要ゲート数は商業製品に比べかなり少ないものと考えられ、Flops/Wでは有利であろうことは想像に難くない。
 問題は、このような「お遊び品」と「商業製品」を比べることの有意性であり、「お遊び品」 を持ち上げる事が、実は、とりもなおさず、日本をガラパゴスのがけっぷちに追いやり、貶めているのだということを理解できていない日本のメディアの低劣さである。こうしたメディアの低劣さが、善良な一般人を、訳の判らない感情的科学国粋主義に向かわせるわけで、その罪は極めて重いと思っている。

 なお、海外メディアとしては、HPCwireが伝えているようであるが、実はこの記事はHPCwireのNative記事ではなく、日本の日経BPが記事を書き、英訳したものの転載なので、海外メディアが興味を持って自主的に書いた記事というわけではない。「世界一」などと騒いでいるのは、日本の国内だけであろう。

  
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