2010年11月28日

Green500騒動

 2010年11月24日、NikkeiBP社のTech-Onに ”スパコンの「省エネ性能」ランキングはIBM社が1位,集計データの不具合で日本勢には「幻の2位」も” という記事が載っていた。この記事は11月26日の日経新聞にも転載されていた。

 記事の主旨は「2010年11月度のGreen500の番付には誤りがあり、GRAPE-DRが第2位になるべきであるのに、未だに修正がなされていない」といったようなものである。


 確かに、事務処理上の手違いがあるのなら、早急に修正をすることが望ましいことはいうまでもない。

 ただし、記事の内容は、GRAPE-DR側だけの主張を根拠にしている様なので、Green500側の説明を待つ必要もあろうかと思う。
 Green500はTop500とは別のグループなので、現在のところでは、Top500が修正されたからといってGreen500が自動的に修正されねばならないというものではない。


 Green500もTop500も基本的には「同好の有志」によるボランタリ・ベースのリスト作成であり、参加者の良識と協力を前提にしているので、不具合をあげつらうより、締切り直前に訂正を連発するなどして、彼らがミスを起こしやすい状況を作らないように協力することが肝心であろう。
 

 Green500に関しては以前から指摘しているように、常識的に考えて、Interconnectが小さくて済む小システムの方が大システムより有利であるし、また、チップに関しても、高い可用性/信頼性や広範な機能を要求される汎用チップより、機能を絞った限定用途チップの方が電力演算効率上は有利である。
 また、計測においても電力量を調整する試みがしやすい小システムの方が有利であることも言うまでもない。
 そして、それらを捨象した単細胞的な順位付けは、場合によっては、誤ったメッセージを発信することにもなりかねないわけで、このあたりは、大いに検討すべき課題であろう。
  
 Green500は、まだ始まって3年ほどの歴史の浅い順位付けリストであり、検討課題の多いリストであることを認識したうえで、無いよりはましな参考程度のものとして、読者に誤解を与えないよう留意して報道すべきでものと思う。

 

<Green500が「予算規模より技術で比較」というのは可笑しな話>

 
 日経BPの当該記事のセクション見出しには「予算規模より技術で比較」という部分があり、「システムの規模,つまりは予算の規模が物をいうTOP500と異なり,Green500は技術の高さがよりストレートに反映されやすいランキングだといえる。」と解説しているが、これは可笑しな解説である。

 
 今回のTop500、Green500で明らかになったことは、「総演算性能が予算にはリンクしていない」という事である。第1位のTianhe-1Aや第3位のNabulaeは円換算で70-80億円程度と推定されており、第4位のTsubame2.0も4年のリース総額が32億円程度ということで、スパコンの調達価格がこれまでの常識では考えられないほど安価になったわけで、これはGPGPUの価格性能比によるところが大で、まさに、Top500にこそ価格を含めた技術の差がストレートに反映されることを示している。
   
 というより、総合的技術力の表出である今日のスパコンの技術的評価には、演算性能や消費電力だけでなく、設置面積(容積)、可用性、信頼性、保守性、価格など多方面にわたる評価が必要で、本来は、こうした各項目に対しての明示的な評価がなされる必要があるのである。しかし実際上は、歴史のある演算性能のTop500と、地球温暖化防止・省エネなどの世界的流れに載った電力効率のGreen500がメディアの注目を受けているのではあるが、決して電力効率に「技術の高さがよりストレートに反映される」わけでないことは言うまでもない。

  
 電力効率だけを追及するのなら、たとえば、Programabilityの機能レベルや、演算性能に直接関係しない可用性/信頼性、接続性などの機能レベルを落とし、その分を演算回路に廻せば、Green500向けの見かけ上の電力演算効率は上がることになる。

 しかし、反面、Production Systemとしては、汎用機の機能としての、適用範囲の広さや、Production Run環境下での長期間連続使用の耐久力などは、本質的機能であり、これらの機能低下は弊害の方が大きいわけで、単純により多くの演算能力だけを取るのか、目に見えない縁の下の力持ち機能を取るのかは、技術力の問題ではなく、要求仕様の問題ということになる。

 また、前述のように、電力測定の方法論による可能性も大いにある。

 従って、単純に「Green500は技術の高さがよりストレートに反映されやすい」というわけではないことは自明であろう。

 


<GRAPE-DRは既に終わった話>


 今回の発端はGRAPE-DRの事らしいが、率直なところ、Grape-DRは、Green500で一位になろうと二位になろうと、”So what"、世界のスパコン業界には関係ない、もう終わった話ということである。技術的に国内外のメーカーがGRAPE-DRから取り入れなければならないような省エネ技術は無いだろうということである。

 要するに、ボードの価格や性能やサイズ、PCへの装着形態とパッケージング、ラック性能、拡張可能なシステム・サイズ、設置面積、可用性/信頼性、保守性、等々に加え、ソフトウェア・サポートのレベルやボードの後継プラン、等々の将来性なども含めて、nVIDIAやATIのGPGPUとは余りに差がありすぎ、もう終わっているということなのである。


 端的に言うと、下の写真1と写真2を見れば一目瞭然、写真1全体での性能が写真2の1ラックの性能といい勝負という事で、そもそも考えている品質レベルが全く違うということで、いくら電力効率が良かったとしても、世界の研究者が調達したくなるようなレベルのものではなく、市販のGPGPUで手軽に事足りるうえ、GPGPUには一応Follow-on Planもあり安心と言うことである。

 従って、GRAPE-DRは終わった話としかいいようがなく、まあ、今回のGreen500の件は、敗戦処理の一環の作業ということであろう。


Grape-dr-itechdiary-com









写真1 GRAPE-DR (NikkeiBP 2010-Jul-8) 
http://techon.nikkeibp.co.jp/english/NEWS_EN/20100708/184077/

Tsubame2












        写真2 Tsubame2.0



Posted by petaflops at 22:20│Comments(0)TrackBack(0) Top500 Report | GRAPE-DR

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