2010年04月28日

再び、ベクタ・プロセッサは必要か?

公開日時: 2008/05/05 18:40
著者: 能澤 徹

 4月にマイアミで行われたIPDPS-2008IEEE International Parallel & Distributed Processing Symposium)で、LBNL(ローレンス・バークレイ国立研究所)のS. WilliamsJ. CarterL. Oliker等によって発表された Lattice Boltzmann Simulation Optimization on Leading Multicore Platformsというレポートは大変興味深く注目に値する。

 これまでの「ベクタ機
vsスカラ機」の議論のベースになっていたのは、20042006OlikerCarter等の比較性能評価レポートであった。
 今回のレポートは“スカラ機での
LBMHD”だけに限定されたものではあるが、2004年、2006年のレポートと連結して考えると、大変興味深いものになっているからである。

 今回のレポートの要点は、以前のレポートでスカラ機が不得手とされていた“
LBMHD”というプラズマ磁気流体力学のベンチマークで,
・プログラムをスカラ・マルチコア用に最適化することで、実行性能が著しく改善したということ
・コア数に対するリニアリティが確認でき、単純コアによるマルチコア、メニーコアの将来性が示されたこと
・最適化は、Cellの場合を除いて、自動生成プログラムで行われたこと
等である。

 使用したシステムはどれも
1ボードで、Itanium2Clovertown(Intel Core2-4コア)Opteron-2コア、Sun-Niagara28コア)、PS3 Cell(8SPE)のシステムで、規模的には若干小さいとは思うが、実行効率的にはCellNiagara22006年レポートでのベクタ機SX-8を上回るような好成績を示し、Opteron-2コアも2006年レポートの2倍ほどの成績を示した。

 絶対性能的には
Cellがダントツの性能を示した反面、Intel4コアClovertownFSBが足を引っ張ったのか、今一であった。(IntelCPUに関してはNehalem以後のQPIで解決されるものと思える)


 今回のレポートは既に“
ars technica”や“HPCwire”で取り上げられているのでご覧になった方も多いかと思うが、CellNiagara2といった個別のCPUの性能もさることながら、筆者はこのレポートが日本のスパコン業界に投げかける影響は、かなり大きなものであるように思っているのである。

 つまり、このレポートをベースに考えると、従来から国内で行われてきた「ベクタ機か非ベクタ機か」といった性能差異の議論は、「アーキテクチャによる差異」というより「プログラミングによる差異」に帰着することになるからで、日本のスパコン業界にとっては甚だ重大なレポートであろうかと思うのである。

 マクロ視点では、既に昨年指摘したように、
RISC思想の一つである「1命令1サイクル」の敷衍以降、ベクタ機とスカラ機(スーパースカラを含む)の理論性能算定上の差異はなくなり、構造的な違いとしては、シーモア・クレイが考案したベクタ機の「巨大なレジスタ・ファイル」と、C. コンティとD. ギブソンがS/360-モデル85用に考案した「キャッシュ・メモリ」の違いが挙げられる程度なのである。

 言い換えると、「(大量の高速レジスタ)+通常メモリ」か、「(限定量の高速レジスタ+大量の高速キャッシュ)+通常メモリ」か、の違いということである。
 しかし、マクロ視点からは、()の中は一体と考えられるので、論理的には大きな違いはないということになり、それ程大きな実行性能の差異が生ずるとは考え難いのである。

 勿論この構造的差異がプログラミングに大きな影響を与えているわけではあるが、アーキテクチャに適したプログラミングをすれば、大きな性能の差異は発生しないと考えられるということなのである。

 要するに、スカラ機のプログラム最適化のキーポイントの一つは、「キャッシュを如何に効果的に作動させるのか」という事であり、プログラミングにおいてはこの点に注力を注ぐと、ベクタ機と大差ない性能が実現可能ということなのである。

 今回のレポートは、将に、このマクロ認識を裏付けてくれたわけで、「プログラムのスカラ機向け最適化」を考慮すると、「ベクタ機でなければならない」という積極的根拠はなくなったといってよいと思えるのである。

 これに加えて以前から筆者が指摘しているような、
HPCCでの性能比較データ、消費電力差、必要設置面積差、価格差、運営維持管理コスト差、等々を考慮すると、本当に「ベクタ・プロセッサは必要なのか」という事を改めて問い直さざるを得ないし、開発と、完成後の運用維持管理および下方展開に、巨額な税金を必要とする文科省の次世代スパコン・プロジェクトは、基本的にピントがズレた“おかしな計画”なのではないか、と主張せざるを得ないのである。

 勿論、民間会社が独自のマーケティング戦略で自らのリスクとしてベクタ機の開発を行う事には何の異議も無いが、国家が巨額の税金を投入してまで開発を行わねばならないものなのかという点は、甚だ疑問であり、税金の無駄使いといわれてもやむを得ないのではないかと思っている。

 


 
 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。


 

 

 

 

  

Posted by petaflops at 18:36Comments(0)TrackBack(0)

次世代スーパーコンピュータは国家機密 ? (2/2)

公開日時: 2008/03/28 10:40
著者: 能澤 徹

 
 

<
次世代スパコンは国家機密なのか?>

 

 一部の方は先刻ご承知のことと思うが、実は、文科省の次世代スパコン・プロジェクトは昨年(2007年)312日に「秘密」に指定されているのである。
 前述のとおり、次世代スパコンは20063月のCSTPを経て閣議決定され、20076月に文科省の評価委員会が概念設計評価報告書」を公表し、CSTP評価専門調査会での検討を経て、9月の「総合科学技術会議(第69回)(持ち回り開催)」で「総合科学技術会議が実施する国家的に重要な研究開発の評価「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用について(案)」
として付帯条件付きで承認され、本格的開発が開始されたものである。

 この「概念設計評価報告」は、当時から、隔靴掻痒、内容のないものとして識者の間では不満の声が多かったものであり、また、
CSTPの評価専門調査会が発した多数の質問事項に対する回答も国民には公開されることが無かったのである。

 というのは、文科省は、同年3月には既に、次世代スパコン・プロジェクトを「秘密」に指定しておりはなから、開発費1154億円、運営費年80億円で6年総額480億円、下方展開のリース料金年額260億円で買取換算1000億円程度、の合計約2,600億円にも及ぶ税金支出の説明責任を果たす気は無かったからである。
 

 筆者は文科省の文書管理規定がどのようなもので、どのような秘密レベルがあって、次世代スパコンはその中のどのレベルの秘密なのか知らないが、具体的指定は以下のようになっている。
情報科学技術委員会 次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会(第1回)
A次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会における秘密情報の取扱い及び会議の公開・非公開について(案) 
B秘密情報の取り扱いについて(案)
 詳細は、上記リンク先を参照いただくとして、骨子は以下のようなものであろう。

     *===*===*===*
1 科学技術・学術審議会の委員、臨時委員、専門委員の守秘義務
 これに反し秘密を漏らした場合は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金刑が課される(国家公務員法第百九条)。

2
理研により提示される秘密情報
 理研は、次世代スーパーコンピュータのシステム構成案を検討するに当たり、日本電気株式会社・株式会社日立製作所によるグループ及び富士通株式会社に対し、システムの概念設計に関する業務委託を行っている。当該業務委託に関して理研とそれらの委託先企業との間に締結された契約では、当該業務に係る秘密を保持することとしている。
 本作業部会は、理研が概念設計の結果作成するシステム構成案の評価を行う際に、理研から秘密情報を含む技術情報の提示を求める見込みである。理研は、委託先企業との契約に基づき、本作業部会において秘密保持に必要な措置が講じられることを条件として、その求めに応じて必要な情報の提示を行うこととする。

3
我が国の国家的な目標と長期戦略を実現するための機密
 次世代スーパーコンピュータは、科学技術創造立国を国是とする我が国の基盤を支えるものとして、国家的な目標を掲げて取り組む「国家基幹技術」の位置づけにおいて開発するものである。このため、国家的な目標の実現に係る具体的な開発戦略や機密とされる技術情報が明らかとなることで我が国の科学技術の発展を損ね、ひいては国益に反することのないよう、情報については、我が国における科学技術の振興の観点から機密として扱う必要がある。
    *===*===*===*

 細かくいうと、企業側秘密には、本プロジェクト受注以前から保持していた固有の秘密と、受注作業過程で発生した秘密があり、前者は企業側に属することは明らかであるが、後者は特許申請を含めて企業側のみが勝手に指定できるのか、あるいは、発注側
(国側)が権利を留保しているのか、等々の論議は必要であろう。
 また、国の政策として技術情報を機密に指定し囲い込んでおいて、どの様にして我が国における公平な科学技術振興を推進することができるのか、という点に関しても大変興味がある。

 しかし、とにかく、次世代スパコン・プロジェクトには、受注側の秘密と、国家的目標や国家戦略上の機密
(国家機密)
があり、漏洩した者は国家公務員法で訴追される、ということなのである。
 公務員法の罰則は怖い話で、この平成のお触れ書以後、文科省やCSTPを含めて公務員の関係者は全員貝になってしまって現在に至っているのである。 

 ただし、受注側非公務員の機密漏洩に関してはどのような刑事罰規定が適用されるのかは不明であり、ザルのような気がしないではない。


<情報公開法>

 行政側の機密指定・情報秘匿に対し国民の権利を守る法律としては情報公開法がある。国民は行政に対し「知る権利」があり、この「知る権利」の観点から、次世代スパコンの機密指定で問題になるのは、特許等の詳細技術情報ではなく、国家機密とされる部分である。
 我が国には機密保持法の類は無い筈で、原則公開である。国家機密になり得るのは、情報公開法に例外事項として非公開の対象が定められているに過ぎない。その例外事項は、個人情報などのほかに、いわゆる外交、国防、公安などに関係した情報である。
 それらは常識的にも「国家機密」であろうと思える範囲のものであるが、これらには含まれない「原則公開の科学技術政策」のなかのスパコンの性能目標、開発費、運用経費、下方展開経費などといったものが国家機密などとは常識的に考えられないのである。

 つまり、情報公開法の観点からは、文科省が「科学技術の振興のため」として「機密指定」を行うことは法的に有効なのかということであり、「機密指定」そのものに多大な疑義があり、法的な議論が必要ということになるのである。

 これらの法的議論は次世代スパコンに関する本質的議論とは思えないが、これがバリアとなって、多額の税金支出に関する本質的議論が行えなくなっていのであるから、ぜひとも行政法の専門の方々の、機密指定承認のプロセスをも含めた、有効・無効のご意見を伺いたいし、文科省の根拠や主張も聞いてみたいと思っている。



<機密の理由?>

 この機密指定に関しては、一部に「次世代スパコンの情報が漏れると、米国に対応策を打たれて、政策数値目標である
20116月にTop500
で第1位奪還が難しくなる」といった話がある。

 これはおかしな議論で、そもそも、科学技術といった分野で、こうした他国との順位競争を政策目標として導入していること自体がおかしいのであって、その目標の妥当性・合理性・インプリケーションなどは公開で議論されるべきであり、また、検証されるべきなのである。

 国家政策は国民のために遂行するのであり、国民への説明責任を忌避し、国民が巨額政策予算執行の是非を判断するための必要情報すら秘匿しなければ、政策目標が達成できないないなどということ自体が、国民のための政策として、奇奇怪怪、本末転倒といわざるを得ないのである。

 科学技術の政策目標に他国との直接的順位競争を取り込んで「世界一になるためには情報を秘匿することが必要である」などといわざるを得ない羽目に陥ってしまっていることが馬鹿げているということである。

 本当に科学技術政策として
10Pflopsが必要であるのなら、政策数値目標としては「20116月までにLinpack実行10PflopsHPCC主要4項目の性能目標XXXを実現する」ということだけで十分なのである。
 勿論、その結果として世界一になることは喜ばしい事ではあるが、そのために、情報を秘匿し、国民に対する説明責任を忌避しなければならないというのなら、それは本末転倒だといっているのである。

 世界で
1番でなく2番であったとしても、本当に10Pflopsが日本の科学技術上の要請であるとするなら、科学技術政策上10Pflops達成だけで何の問題も無いことであり、国民に情報を開示し、オープンに、侃侃諤諤、議論したほうが遥かに政策としての意味があるであろう。



<転ばぬ先の杖>

 誤解を避けるため付言すると、筆者はスパコンの開発や設置に反対なわけではなく、むしろ、自分自身は促進派と考えているが、税金の使い方を問題にしている訳で、財政難の折、貴重な税金は本来の税金の価値どうりに有効に使用されるべきと考えているだけである。

 従って、筆者は民間企業の民間における企業活動を問題にしているわけではなく、あくまで、税金での開発や税金での調達での問題を提起しているわけで、税金による発注側、調達側の問題を指摘しているだけである。

 少なくとも、
1000億円、2000億円といった巨額な税金が、どこかの銀行のように、ドブに捨てられるような事態を起さないためには、納税者も厳しく税金の使途を監視することが必要であろうと思っているからである。





 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。
  
Posted by petaflops at 09:51Comments(0)TrackBack(0)

次世代スーパーコンピュータは国家機密 ? (1/2) <次世代スパコンの問題点>

公開日時: 2008/03/28 10:40
著者: 能澤 徹

 本ブログでは昨年7月から文科省の次世代スーパーコンピュータ・プロジェクトの問題点を指摘してきた。そしてこの間に日本のスパコンに関連する2つの大きなニュースがあった。一つは地球シミュレータの停止後継機選定のニュース、他は筑波大、東大、京大によるT2Kというオープン・スパコン仕様に基づく国際調達のニュースである。

 筆者は本ブログ開始時点から次世代スパコン設計に関連し、地球シミュレータの問題点を指摘してきたが、昨年11月の運用停止に関するNHKニュースの威力は絶大で、多くの人々がその問題点を認識されたことと思う。
 同時に
筆者が声を大にして指摘してきたのが内外価格差の問題で、この問題もT2Kの落札公示により、現実の問題として認識されるに到っていると思う。

 
 一方、昨年末から今年初にかけ、次世代スパコンの成否を占う国産の新型機が発表された。NECSX-9富士通のFX1SPARC64-VIIである。どちらもラック単位の性能や消費電力においてT2K仕様のオープン・スパコンに劣っていることが判明した。次世代スパコンの目標を達成するためには、どちらも、現在の8倍程度の性能向上では達成は難しく、16-32倍程度の向上が必要と推定される。
 価格的にも
SX-9は、スパコンのパソコン化の流れの中で、メインフレームのトレンド上にあるのではないかと思うほど高額であり、FX1SX-9ほどではないにしろ、T2K仕様の国際調達に比べ2-3倍であることも判明した。

 
 昨今の米国でのスパコン動向を眺めていると、低価格で量販を志向した「スパコンのパソコン化」が急速に進んでいるように思え、この「スパコンのパソコン化」に対応出来ない企業は完璧にマーケットから振るい落とされてしまうであろうことも見えてきたように思う。

 こうした新事実・状況が積み重なって行く中で、次世代スパコン・プロジェクトの規模は、開発費の
1154億に留まらず、運営費年80億で6年間で480億、全国の主要機関への下方展開1000億、の合計で約2,600億円程度と考えられ、この巨額税金の使途である「次世代スパコンがどうなるのか」ということに関しては、改めて再検討する必要があると思う。



<次世代スパコンの問題点>

 税金納税者から見た文科省の次世代スパコン・プロジェクトの今時点での最大の問題は、

①文科省が情報を非公開とし秘匿していることで、納税者に対する説明責任を忌避している点である。

 この問題は次世代スパコンの本質的問題ではないが、納税者が税金支出の是非を判断するための情報をすら隠蔽秘匿するという姑息な手段をとっているわけで、極めて問題と考えているのである。


 次世代スパコンの概要は2006年3月のCSTP(総合科学技術政策会議)で、ベクタ機0.5Pflops、スカラ機1.0Pflops、専用機20.0Pflopsとし、Linpack実行10Pflopsは専用機で達成するとしていたが、2007年9月のCSTPでは、システム構成が変更され、専用機が削除された案が報告され、当初計画には無かったベクタ機かスカラ機、あるいは「2つを合わせた単体イメージ」、のどれかでLinpack実行10Pflopsを達成しなければならなくなった点である。

 専用機の削除は、専用機やFPUアクセラレータなどではLinpack以外の数値目標のHPCC主要4項目のうち、FFT(高速フーリエ変換)演算やSTREAM(データ移動)、メモリのランダム・アクセスに全く貢献できないことや、HPL(Linpack)に関しても性能目標達成に極めて疑問の多い代物であることなどから、妥当な決定であったことは確かであるが、削除後の案には、ベクター機が何Pflopsを目標とし、スカラ機が何Pflopsを目標とするか、という最重要な数値目標や変更後の消費電力や設置面積などが全く記述されていないという不可解な案となっており、目標達成に多大な疑義を惹起させるものなのである。

 つまり、次世代スパコン・システムの技術的な基本問題は、

② ベクタ機、スカラ機のそれぞれの性能目標の明確化と、その目標の達成可能性

という極めて初歩的な問題であり、最近発表されたSX-9やFX1といった国産機の性能から予測すると目標達成には多大な疑問が残るからである。

 そして2007年の変更後の情報は公開されていないため、2006年3月の公開資料を基に問題点を付け加えるなら、以下のような「システム完成後の取り扱い」の問題が浮かびあがってくるのである。

③    運営経費が毎年80億円と巨額なこと

④    下方展開と称して、全国15の主要機関に2011年以降に縮小版を設置するとしているのであるが、そのTflops単価は2500万円で、既に現在のT2Kスパコンの輸入単価より高くなっており、3-4年後を予測すると全く競争力のない価格想定になっていること

等である。
 要するに、文科省は①で情報を遮断することで、②③④といった問題点を封印したとしか思えないのである。


( 2/2 <次世代スパコンは国家機密か?>に続く)

  
Posted by petaflops at 09:50Comments(0)TrackBack(0)

T2K(筑波、東大、京大)とJAXAのスパコン(2/2) <JAXA>

公開日時:2008/02/23 19:00  (続き) 
著者: 能澤 徹




JAXA、宇宙航空研究開発機構

富士通がJAXAから110億円でスパコン受注、性能は国内最高に相当
JAXA様の新スーパーコンピュータシステムを受注

JAXAが調達するスパコンは、富士通のFX1という機械で、理論性能135.7Tflops、6年リースで110億円となっている。

・CPUはSPARC64-VII 4コア。
・クロック2.5GHz。T2K-Opteronは2.3GHz。
・ソケット性能40Gflops。T2Kは36.8Gflops。
・1ノード1ソケット。T2Kは1ノード4ソケット
・メモリは32GB/ソケット。T2K最低仕様は32GB/4ソケット。
・ボードはT2Kと同じ4ソケット。
・シャーシは5U。T2Kは2UなのでT2Kの2.5倍。
・消費電力はシャーシ当り2.21KW。T2KのHX600は730WなのでT2Kの3倍
・1ラック8シャーシ、理論性能1.28Tflops。T2KはMax21シャーシ、3.09Tflops
・システム全体のDASDの総量は11PB。東大のT2Kの11倍。

 実行性能に関しては、FX1、T2Kのどちらもベンチマークデータが公表されていないので、不明。SPARC64-VIIがどの程度の性能を示すのかは興味深い。
現行機のPrimepower(SPARC64-V)はLinpackの実効性能が50%以下という機械。

 一方T2KではXtreamの米エネ省3研究所版がTop500の100位以内に29位、38位、61位にランクされており、Linpackの実行効率は82%を達成している。
 パッケージ的にはどちらも1シャーシ4ソケットであるが、FX1(SPARC64-VII)は5UのシャーシでT2Kの2Uの2.5倍の厚みである。消費電力もFX1はT2Kの約3倍で、その結果、ラック性能はクロックが若干高いにも関わらずT2Kの40%程度に留まっている。

 従って、現状では、FX1は消費電力、設置面積などの点でT2Kにかなり劣っているということになる。


 価格的にはJAXAのFX1は135Tflopsの6年リースで110億円である。同程度の性能の東大のT2Kは、140Tflopsで、5年9ヶ月のリースで90億円であるが、FX1は実装メモリ量が多く、またストーレッジもかなり大きいので、実質的価格は同等程度ではないかと思える。



<次世代スパコンとの関係>

 このFX1というスパコンは文科省の次世代スパコンの実態を知る手掛かりとして興味深い機械である。というのは、次世代スパコンはベクタ方式のSX後継機とスカラ方式のSPACR64後継機の混在と考えられており、次世代スパコンへの中間ステップが観察できるからである。

 SX系は昨年10月発表のSX-9で概略は見えた。1ラック1.6Tflops、512ラックで0.8Pflopsであるので、今後かなり無理して頑張って性能を8倍程度増強したとしても、512ラックで6.4Pflopsに過ぎず、10PFlopsを達成するには1,000ラック必要である。そもそも512ラックですら現在の地球シミュレータの1.6倍で、正気の沙汰とは思えない数であり、ましてや1,000ラックなどは論外である。

 一方、SPARC64系もやっと今回のFX1でその片鱗が見えたが、ラック性能は1.28TflopsとSX-9より低いので、結局、SX-9と同じストーリになってしまい、10Pflopsは無理というのが現在の判定であろう。FX1の場合、ラックサイズはSX-9より小さそうなので、その分、設置面積的にはSXより少しは楽かも知れないが、所詮は五十歩百歩で、10Pflops達成は困難であろう。

 というより、SPARC64系はOpteronやXeonの後継機を圧倒する性能を示すことが出来るのかということの方が重要である。やっと45nmを実現しても、Intelは32nmに移行している可能性もあり、「大差ない」ないしは「劣る」というのでは、わざわざ税金をかけてまで開発せずともT2KのようにOpteronやXeonの後継機を使えばよいわけで、何故、高額の税金をかけてSPARC64の後継機を開発しなければならないのかといった根本的疑問が解決されないのである。

 食料セキュリティになぞらえて、技術セキュリティの観点からスパコンのCPUの純国産化を唱える人達がいるが、それをいうのなら、スパコンのことなどより、パソコンや業務用サーバーのCPUがIntelやAMDで占拠されている状況をこそ大問題としなければならないはずである。パソコンや業務用サーバーのCPUが手に入るなら、T2Kのように、それでスパコンを作ればよいわけで、パソコンや業務用サーバのCPUを無視して技術セキュリティの議論を持ち出すなどは、本末転倒なのである。


 次世代スパコン・プロジェクトは本当に必要なのか?

 文科省はこの問いに対し、十分な説明責任を果たさねばならないのであるが、驚くことに、文科省は国民に説明責任を果たすことが出来ない仕組みを作ってしまっているのである。この点に関しては次回以降に検討してみたい。




 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。

 

  
Posted by petaflops at 09:02Comments(0)TrackBack(0)

T2K(筑波、東大、京大)とJAXAのスパコン(1/2) <T2K>

公開日時: 2008/02/23 19:00
著者: 能澤 徹

 昨年末から大型スパコンの調達ニュースが続いている。T2KJAXAである。

 T2K>
T2Kの共通仕様の骨子は、
1ノード16コア以上、メモリ32GB以上(4コア4ソケット)
・ノード内共有メモリ、転送40GB/s以上
・インターコネクト 5-8GB/s以上
 ということで、3大学ともOpteron4コア・4ソケットのボードである。

    Peak File 期間 リース 推定  Tflops   メーカ
   TF  TB 月  総額 買取額  単価
筑波 95   400 60  25.2億 21.4億  2246万 APPRO
東大 140 1000 69  87.4億 69.9億  4989 日立
京大 61   800 46  39.0億 33.9億  4827万 富士通     
  (
70.2

 

 従って、T2Kというオープン・スパコン仕様にそったスパコンのTflops単価は、単純化して言うと、米国が1000万で、輸入すると2000万になり、国産メーカがつくると5000万前後になるということが判明するのである。

 


<内外価格差>

 Top500での日本の存在感は「地に落ちた」と嘆く諸先輩が多い。これには様々な理由が考えられるが、最も直截的で最大の理由を挙げるとするなら、それは、内外の価格差なのである。

 米国が1000万円のところを5000万円とか2億円とか払っていれば、同じ額の税金をかけても、日本は米国の5分の1、10分の1、あるいは20分の1程度の計算能力しか調達できないことは自明であろう。つまり、これが「存在感」をなくす原因なのである。

 少なくとも国際的な科学技術の競争力を維持してゆくには、競争相手と同じ程度の道具は必要である。公共調達に経済原理を働かせ、国際常識に沿ったオープンかつ公平な調達を行えば、同じ予算で、確実に現在の数倍の計算能力が手に入るのである。

 米国での単価とはいわずとも、筑波の調達単価を東大に適用するだけで200Tflopsを越え、ドイツの世界第2位のBGPと同程度のスパコンが手に入るのである。勿論インドの後塵などを拝することもなくなるのである。


 実はこのことは日本のスパコン調達のいたるところで起きることなので、Top500の中で「存在感が増す」などといった単純皮相なランク付けの問題だけではなく、計算力を欲している我が国の科学技術者に、より多くの計算能力と機会を廉価に提供することであり、我が国の科学技術の足腰を鍛えるものなのである。

 したがって、今後のT2Kの課題は、今回のT2K調達が図らずも明らかにしてくれた「内外価格差の問題」であり、(1:2:5)の価格差をどの様にして何処まで解消できるかということが最大かつ焦眉の急の問題と考えられるのである。

 ところで、筆者は、T2Kの本当の目的が何であったのかはよく知らない。端から見ていると、何故、3大学が徒党を組んであの程度の共通仕様で調達をしなければならなかったのか不思議であった。しかし、改めて考えて見ると、国内の各種組織の内に散らばった、狂信的なベクタ教のマインド・コントロール下にある信者とか、偏狭な技術ナショナリスト、あるいは、それらを楯にして闇に隠れた技術利権屋もどき、などからの暗黙の圧力を振り払うには、「赤信号、皆で渡れば怖くない」式のT2Kの仕掛けが必要であったのではないかと思うようになっている。


 東工大のTSUBAMEに始まり、地球シミュレータのリプレース報道やT2K調達などを通し、徐々にマインドコントロールが解け、普通の国際常識が浸透して行くことは、慶賀に堪えない。


(2/2 に続く)

 

 

  
Posted by petaflops at 08:52Comments(0)TrackBack(0)