2010年05月01日

中国の1.2Pflopsのスパコン天河

公開日時: 2009/10/30 21:40
著者: 能澤 徹

 

 2009年10月29日、新華社は国立国防技術大学(NUDT)が1,206Tflops(1.2PetaFlops)の理論性能を有するスーパーコンピュータ、Tianhe(天河)を開発したと報道した。

 詳細は定かではないが、IntelのCPU6,144個とAMDのGPU5,120個 を結合したシステムで、$88.24M(約80億円程度)と報道されている。

 天河の実行性能は、Linpackで、563.1Tflopsと報道されており、理論性能に対する実行性能比は46.7%という事になる。

 この563.1Tflopsは前回報告したKorea気象庁に来年設置予定の600Tflops超のCray機より若干上のLinpack性能である。しかし、天河がGPUで性能をかさ上げしているのに対し、Korea気象庁のCray機は、おそらく、ORLNのJaguarと同様全てCPUのみで性能を維持し、GPUに依存しないものと考えられるので、使用範囲、使い勝手ともに、はるかに勝っているものではないか思える。

 また、価格的にも、天河(80億円)は、実質的(実行性能的)に、KoreaのCrayの600Tflops機(36億円)の2分の1の程度の価格性能比ということになり、価格的にはかなり割高である。Koreaでの価格自体も、実は、米国で報道されている相場よりかなり割高になっているので、中国価格が国際価格的に脅威というわけではない。


 天河の詳細は不明であるが、IntelのCPUはNehalem-EPで、AMDのGPUはFireStream9270Sであろうと推定されている。また、システムの理論性能はFireStreamの性能によるものと推定されており、実行性能比が46.7%といった目を見張るほどの低性能の原因もGPUに依存している事を端的に示しているものと思える。

 広い意味でのGPU方式とはいえ、Cell+OpteronのRoadrunnerは実行比率に於いても75.9%とCPU機に引けを取らない性能を示しており、いわゆる、技術力や知性を感じるが、50%を切るようでは、そもそも、その理論性能の計算方式が誤っているとしか言い様が無いことになる。


 天河の563.1Tflopsは今年6月のTop500で眺めてみると以下の3機に次いで4位であるが、来る11月のリストではTop10には入るであろうけれど、何番かは定かではない。 

 また、筆者に言わせれば、世界のTopNというからには、Roadrunnerにも?をつけているが、HPCCの主要4ベンチマークのデータは提出し、少なくとも4分野全てでかなりな位置を占めることは必須であろう。

2009年6月のTop500から
1.LANL Roadrunner (Cell+Opteron) 1105.0/1456.7  (実行性能/理論性能)
2.ORNL Jaguar (Opteron)       1059.0/1381.4
3.Juelich Jugen (BG/P)         825.5/1002.7

 

 さて、筆者は、技術的には、この天河に対し、何か新規性とか創造性などを感じるかというと、ほとんど何も感じないし、技術的には、脅威といったものは何も感じない。日本に於いて言語問題を解決し、世界に打って出ようという元気の良いヴェンチャーがあれば、もっとはるかに気の利いたシステムをつくることが出来るとおもっているので、脅威などとは思えないし、逆に、へんてこなシステムをよくつくるよ、といった感じである。(まーもっと、日本にも税金で「腐った葡萄」を作っている輩が居るわけではあるが・・・・)


 問題の本質は、中国なりKoreaが技術的脅威といったわけではないのに、日本国内にいると、何故かこれらを脅威と感じるようになってしまうということで、優れて日本自体の局所的内的情況によるのである。

 何故日本が、現在、500Tflops超なり、1Pflops超のスーパーコンピュータを保持できていないのかが問題なのである。

 日本の技術力、財政力を持ってすれば、楽にもてるはずのシステムを、持っていないために生ずる脅威なのである。

 予算規模を考えてみれば、中国の80億円にしろKoreaの36億円にしろ、日本の主だったスパコン導入金額よりはるかに小額である。地球シミュレータ2(SX-9)などは200億円近くであるし、JAXAのFXやT2K(筑波、東大、京大)なども100億円前後である。理研の新システムは36億円といわれている。どうして、こんなに多額の国税を使って、高々200Tflops以下、多くは100Tflops前後の性能しか調達できないのかということである。

 そしてその結果、Koreaの600Tflop機、中国の1.2Pflops(実質0.5Pflops機)の性能を脅威と感じてしまうのである。これは、明らかに技術力の問題ではなく、調達技術の問題である。

 というより、特段、中国やKoreaが調達技術に優れているという事はなさそうで、国際標準価格で導入しているだけであろう。日本だけが勝手に非関税障壁を作りだして、国際価格からかけ離れた高値で導入しているというだけである。

 従って、脅威の原因は、日本国内に於いて、日本が自ら自分自身に撒き散らしているだけの問題で、その意味で、自作自演の狂言なのである。


 筆者は、2年ほど以前から。このことに対し警鐘を鳴らし続けている。このままでは今後益々この脅威は強くなり、ハードウエアの性能の問題だけではなく、もっとも本質的な、スパコン利用技術に於いて、国際レベルから大きな遅れを来たすのではないかと、強く、危惧する次第であり、その原因が日本のスパコン戦略にあるということは、改めて、認識しなおす必要があるであろう。


 日本のスパコン戦略はボロボロである。

 

  

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Korea気象庁 2010年にCrayの600Tflops機を導入

公開日時: 2009/10/02 09:33
著者: 能澤 徹

 Korea気象庁、2010年にCray600Tflop機を導入
2009年9月8日、Cray社は、Korea気象庁から600Tflops超のスパコンを$40M(約36億円程度)で受注したと発表した。設置完了は2010年後半とされている。Cray社は米オークリッジ研にCray XT5 の1Pflops機を設置しており、技術的には600TflopsはXT5で楽々可能であるが、多分、AMDの6coreか、Intelの8coreを使った開発中の新システムを設置するものと考えられている。

 このニュースのポイントは、極東地域で、600Tflops機の出現という事と、複数年総額$40M、つまりTflops単価約600万円というCray社の国際市場向けの価格性能比である。


 今年の5月に北陸先端大学院大のCRAYXT5の話題を述べた、そのXT5のTflops単価は2,000万円前後と推定されるので、Korea気象庁のケースは、その3分の1以下ということである。勿論1年半から2年程度の時間的ずれがあり、テクノロジーが多分1世代進むし、またシステム・サイズもおよそ30倍なので、Tflops単価が2分の1程度というのであればさほど驚きは無いが、「3分の1以下」となると、若干驚きである。Koreaでの価格は、日本における価格より、米国での価格に近くなっているのではないかと思えるのである。

 このKoreaでのCrayのTflops単価は、前回の投稿の中で述べた、米国でのTflops単価(Intel Nehalemで500万円くらい、AMD Istanbulで350万円くらい)に符合するもので、米国内だけでなく、極東地区でも概ねこの単価が該当し、したがって、日本を除く世界各国でのTflops単価の相場はこのくらい、という事である。日本だけが異常に高くなっているということで、日本のしくみにかなり問題のあることは明らかであろう。



 となると問題なのが、日本国内での導入価格や国産メーカの同等品の価格である。

理研 Nehalem版 スパコン(RICC-97.9TF)設置 (36億円?)
国内最速200TFLOPS、原研のLinuxクラスターNehalem,200TFを富士通が受注 

 最近国内で設置されたり発注されたスパコンでは、理研のRICC(108Tflops)や原研の新スパコンなどがあり、どちらもメインに富士通のPrimergyというIntelのNehalem 4coreを使用したもので、JAXAに導入されたFX-1(SPARC64-VII)とは全く異なるシステムである。

 理研のRICCの発注総額は36億円といわれており、大まかなTflops単価は3,300万円である。原研の発注総額は詳らかではないが、RICCから考えて概ね60億円程度ではないかと考えられる。この単価はJAXAのFX-1やT2Kなどの5,000~6,000万円ほどではないが、北陸先端大学院大のCray XT5の2,000万円よりかなり割高である。(勿論、前述のとおり、この先端大学院大のCrayのケースも米国ないしはKoreaでのCrayの単価からは飛び抜けて高い。)

 理研や原研のPrimergyによるスパコンは、Korea気象庁のCrayのケースと比較すると、4~5倍程度になっているので、Koreaの設置が1年後という事や今日の円高($=\90)を考慮しても、率直に言って、今日の国際価格相場からするとかなり割高であり、国際競争力のある製品とは思えない。

 付言すると、富士通のHPCのメニューは、AMD-OpteronのT2K(HX600)、Intel-XeonのPrimergy、SPARC64-VIIのFX-1などがあり、FX-1の後継がSPARC64-VIIIによる文科省の次世代スパコンという事になろうかと思う。大規模ユーザとしては、T2K(HX600)は京大、FX-1はJAXA、新Primergyは理研と原研などで、名大にはT2K(HX600)+FX1+SPARC-Enterpriseといったどれも小振りな複合システムが設置されている。多品種少量国内向けで、海外での設置という話は聞いた事が無い。

 

次世代スパコン 総額1230億円76円増加

 文科省の次世代スパコンは、NECが抜けた後、SPARC64-VIIIだけで10Pflopsを目指すのだそうであるが、何故か76億円もの追加出費が必要だそうで、開発総額1230億円となり、土地建物代を除いても、Tflops単価は 1,000万円/Tflops前後であろう。Korea気象庁のCrayの約2倍である。時期的には2010年後半で同じ頃と考えて良い。

 この文科省の次世代スパコンの根本的問題は、仮に目標性能が達成できたと仮定しても、国際市場で、このSPARC64-VIIIによるスパコンに価格競争力があるのかという点である。普通に考えて2倍もの価格差があるのでは、とても他国では商売にならないであろう。となると、商売は国内での、非関税障壁による過保護政策に頼らざるを得ない事になるのである。という事は、長期的にはNECの二の舞・・・という、いつか来た道になる可能性が高い、という事である。

 つまり、NECの-撤退からも明らかなように、独自技術維持というスローガンの国家戦略を、市場競争力を無視した過保護政策で支えても、長期的には、実世界の荒波は乗り切れず、結局、守るべき独自技術維持という国家戦略を投げ出さざるを得なくなってしまったというヴェクタ機のアイロニーに、全く学んでいないということなのである。


 ハッキリしているのは、国際市場で商売にならないようなコンピュータ技術など、多額の税金を費やして維持しても、何の意味も無い、という事であり、国際市場に打って出られないような過保護で内弁慶なコンピュータ技術など、技術として意味がないといっても過言では無い。

 自主製造技術を維持したいのなら、国際市場で勝ち抜かねばならないし、勝ち抜けないのであれば自主製造はあきらめ、ユーザとして製造者をコントロールするという方向に転換するしかないのである。


 文科省のスパコン戦略の根本的な欠陥は、コスト意識の欠落、国際競争力視点の欠落であり、スパコン戦略とは産業戦略であるという基本認識の欠落なのである。要するに文科省のスパコン戦略は、配下の文化庁の行っている古典芸能の保護伝承での文化保護政策のようなもので、開かれた国際市場に向けた、国際競争力に焦点が置かれた産業政策などでは全くないということなのである。

 その結果、古典芸能保護方式で巨額税金を投入し、市場価格を無視した目が飛び出るような高額で、必死に少量のスパコンを作動させるのであるが、日本以外の世界の諸国では、国際競争力のある廉価で高性能なスパコンを多数導入するので、結局、日本の計算能力は地盤沈下の一途をたどるという事態になってしまっているのである。

  
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2010年04月30日

次世代スパコンからのNECの撤退 (2/2)       <次世代スパコンの行方>&<国家技術戦略への影響>

公開日時: 2009/05/25 09:54
著者: 能澤 徹





<復習:国家基幹技術次世代スパコンの数値目標と文科省の国家技術戦略>

 次世代スパコンの行方を検討する前に、次世代スパコンの目標等に関して復習をしておきたい。

 文科省の次世代スパコンは、総合科学技術会議という日本の科学技術政策を統括する会議で「国家基幹技術」と認定され、閣議決定されたもので、その数値目標は、2010年にLinpack10Pflopsを達成しTop500の第1位とHPCC主要4項目で第1位になることである。
 Top500のタイミングは毎年6月と11月であり、HPCC11月であるので、目標年度が2010年ではあるが、実際には、Linpackの第1位認定時期は20116月度のISC11にならざるを得ず、また、HPCCでの第1位認定時期も201111月のSC11という事になるわけではあるが。


 目標実現の戦略は、「ベクタ・スカラ両輪論」という事で、ベクター型スパコンとスカラー型スパコンを別々に作成し、ハイブリッド結合させる、というもので、実施主体は理研、総額
1,154億円の巨額税金が投入される事になっているのである。


 これらの数値目標と達成年度は具体的で解りやすく、恣意的改変の出来ない明確な目標である。しかし残念な事に、これらの数値目標と
国家基幹技術というものの相互関係は甚だ曖昧で、合理的説明は無く、若干捏造気味の「各種ユーザからの機能要求調査」なるものにより「必要」といっているだけある。

 つまり、「実現できないと、国家戦略の何処にどのような困難が発生するのか」という相互関連が明確ではないのである。 素朴に「実現出来ないと特段な困難が発生する」とは思えないし、代替手段も多数考えられるので、「それ程のことはない」というのが率直な実感であろう。

 されどこの数値目標は閣議決定を経たものであるので、極めて重いもので、変更には、国家戦略内の相互関係の整合性を取り直し、それなりの手順で、それなりの承認プロセスを経ねばならないことは明らかであろう。



<次世代スパコンの行方>

 では、今回のNECの撤退は次世代スパコンの行方にどのような影響を与えるのであろうか?ソフトウエアが影響を受けるのは確かであろう。ここではハードウエア中心に考えてみる。

 
数値目標の具体的達成方法が開示されていないので、率直なところ、良くわからない。閣議決定より少し前の段階では、スカラ1.0Pflops、ベクタ0.5Pflops、専用機20Pflopsとなっていたが、閣議決定される前の総合科学技術会議の頃から、専用機は削除された案になっており、10Pflops達成の方法が不明になっているからである。

 しかし、NECの撤退に関しては、上述の閣議決定前の数値からも明らかなように、SXは、電力消費、設置面積などの関係からスカラ部の半分程度の性能が限界と考えられており、この意味において、今回のNECの撤退は次世代スパコンのLinpackの数値目標には影響を与えないものと考えられる。
 
 ただし
HPCCの主要4項目においては、SPARC64-VIIIの実力が未知であるため、この辺りに於いて一部の項目で影響が出る可能性はあるかも知れない、といった程度であろう。



 そもそも次世代スパコンは、「世界第
1位を確実にする」との気合が入る前は、1Pflops程度を狙っていたもので、受注を目指し富士通は3Pflopsのアドバルーンを打ち上げていたが、その3Pflops案の根拠に該当すると思えるのが、5月の「富士通フォーラム2009」で展示されていたSPARC64-VIIIfxで、8コア45nm,128Gflopsチップである。

 このチップは1ボードに4ソケット実装可能で、1ラック24ボード96ソケットとなっているので、ボード性能は512Gflops、ラック性能は12Tflopsのようである。
 これを
256台、24,576ソケット並べると3.1Pflops程度になるわけで、まあ、これがSPARC64-Ⅷの実行効率や信頼性、経済性などを勘案した、常識的な設計許容サイズではないかと思う。  
 勿論前提として、チップが設計通りに作動し、ボードやラックも熱処理を含めて設計どうりに実現され、インターコネクトもそれなりのものが供給される事が必要ではあるが。


 参考までに
Cray-XT54コアOpteron1ラック192ソケットで液令、インターコネクトはSeaStar2という3D Torusである(一般的に結合ノード数が多くなるとFat-Treeではレイヤが深くなり効率が著しく落ちてしまう)。
 ORNLJaguarの場合は、およそ250ラックで、全理論性能1.6PFflopsであるが、測定時の理論性能は1.38Pflopsで、Linpack1.06Pflopsであるので、実行効率は76.8%程度である。


 従って実行効率を安全サイドにやや低めに
70%と想定すると、SPARC64-Ⅷ3.1Pflop機はLinpack換算で2.17Pflops程度ということになる。


 数値目標の
Linpack10Pflopとなると、効率を70%としても理論性能で14.3Pflops、安全に見積もるならと1520Pflopsほしいところである。15Pflopsとしても1,250ラック120,000ソケット960,000コアである。


 あの地球シミュレータでさえ、
320ラック640ノードであったわけで、1,250ラックというのはSPARC64-Ⅷの常識的設計許容サイズと思える256ラックの5倍という事になり、常識的には限界を超え過ぎていると考えるべきで、インターコネクトのトポロジが複雑になり過ぎ実行効率は極端に低下し、消費電力・発熱なども限界を超え極めて不経済なものになり、トータルシステムの信頼性もかなり低下し、その結果、長時間の全システム連続実行が必要なLinpackの実行に於いては、途中でのエラー発生のため、データすら取れないようなシステムになるのではないかと思わざるを得ず、数値目標を達成できるとは考えずらいのである。


 このことは、筆者が
2年ほど前から指摘している次世代スパコン・プロジェクトに関する旧知の基本的問題で、今回のNECの撤退とは関係無く、本来的に内在している問題なのである。


 文科省・理研は、こうした基本的問題を、機密などとして、うやむやにしたままプロジェクトを進め、問題の先送りをしていると、最終段階に到り、取り返しのつかない破綻が顕在化することになるわけで、今回も、その事だけは強く指摘しておきたい。


 理研は数値目標が実現可能であるとするなら、当然、コア、チップ、ラック、システムと積み上げた達成の筋道を明示すべきであり、数値目標達成に対する疑問に数値で答えるべきであろう。


 と同時に、
SPARC64-Ⅷでの作成という事であると、もろに、Nehalem-EXとかOpteron-6コアとかの市販CPUによるシステムとの、屁理屈抜きの、きびしい国際価格性能競争に突入するということで、コスト的な勝ち目の目算提示も必須であろう。

 


<国家技術戦略への影響>

 国家基幹技術などと厳めしい表現ではあるが、実質的には、NECの撤退が国家技術戦略へ影響を与えるようなことは無いと思う。

 実際、
NEC撤退のニュースの後、他の国家戦略がどこかで支障を来たすといった類のニュースが報道されたことはなかったと思う。本当に支障があれば、何か報道されるはずであり、報道が無いということは、それ程、大きな支障は無い、あるいは、代替案でカバーできるという事であろう。

 ベクタ機による計算などとはいっても、計算は計算に過ぎないわけで、ベクタ機でなければ出来ないなどといった計算は無い。ベクタ機がなくなったとしても、スカラ機で計算すればよいわけで、せいぜい、プログラムを書き換えねばならない程度の話である。

 NECの撤退が国家技術戦略に関わるとするなら、それは実質的なものではなく、戦略内での論理的整合性の問題と、それに関わる責任問題であろう。
 戦略として「ベクタ・スカラ両輪論」などとして、「国家基幹技術」の両輪などと説明してきたのに、一方の車輪が吹き飛んでしまって、片輪で戦略を前進させることが出来るのか、という観念的問答である。

 つまり、もし、この情況で、このままで微調整程度で戦略を前進させられるというのであれば、そもそも、吹き飛んだ車輪は不要であったということであり、反対に、戦略を前進させられないというのであれば、国家技術戦略が破綻してしまうわけで、あまりに容易に破綻してしまうような戦略は、そもそも戦略としておかしいということで、いずれにしても矛盾が生じ、予算を含めて立案責任が問われねばならないと思うのである。


 業者の途中撤退といった事象の発生により、はからずも、
戦略そのもののいい加減さが浮き彫りになってしまったわけで、このいい加減な戦略を推進し、「国家基幹技術」などとして不必要な税金を浪費させた一連の人達の責任は重いといわざるを得ないであろう。



 付け加えると、筆者の目からは、文科省のスパコン戦略には極めて大きな欠陥がある。文科省の視点には、国際価格競争力という視点が全く欠落しているのである。

 文科省は国家技術戦略などと大上段に内向きに構えているが、開かれた国際社会における国家としては、たとえ国家技術戦略とはいえ、国際価格を無視することは出来ないであろう。国家の長期的な技術戦略とは、ある意味、国家の産業政策でもあるわけで、この観点から、日本のスパコンが国際市場の中で、価格競争力を有して独り立ちして生きて行けるのかどうかということは、極めて重大な問題である。にも関わらず、文科省のスパコン戦略には、この視点が全く欠落しているのである。


 これは国際市場へ打って出るまでもなく、文科省の戦略に含まれている「次世代スパコンの下方展開」といったフェーズで、国内に於いて、国際競争力が問われる事になるのである。

 性能に関する数値目標が達成できるかどうかといった論点とは別に、下方展開時に、価格競争力の観点から、海外メーカの輸入品に対抗できるのかという事も、性能とは別の重大な数値目標ではないかと思うのである。

 

 

 


  
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次世代スパコンからのNECの撤退 (1/2)  <ベクタ機SXシリーズの行方>

公開日時: 2009/05/25 00:54
著者: 能澤 徹



 2009年5月14日、理研NECは、NECが文科省の次世代スパコン・プロジェクトの製造段階以降の作業から撤退する旨の発表を行った


 率直なところ、このような形で、破綻の第1歩が始まったのには驚いた。 直前に、2009年3月期のNECの連結決算が約3000億円の赤字で、NECエレは約700億円の赤字といったことは報道で知っていたし、NECエレがルネッサスと合併するという事も聞いていた。
 そういえば、年初頃に、NECが海外でのPC事業から撤退するといった報道も目にしたような気がする。しかしこれらが、「天領」である次世代スパコンに結びつくとは全く思っていなかったので、迂闊にもこうした前兆報道を聞き流しにしてしまっていた訳である。

 また、先日の富士通のSPARC64-VIIIの展示も、考えてみれば、NEC撤退のインパクトを和らげる布石であったようにも思える。もう少し調べてみると、色々な布石はあったのかも知れないし、結構根回しもあったのではないかと思う。まあとにかく、今回のNECの次世代スパコンからの撤退は、NECの事業リストラ策(選択と集中)の一環であったということは確かであろう。

 因みに同年3月期の決算では、日立は約7900億円の赤字、富士通は約1100億円の赤字となっているようで、2008年秋のリーマン・ショック以降、巨額赤字には麻痺状態で、各社個別の現実的意味を汲取れなくなってしまっていたように思うのである。

 

<NEC撤退の影響の範囲>

 まず始めに注意をしておきたいのは、このNECの撤退は経営上の判断であって、報道発表を見る限り、技術的に破綻したといったようなものではないので、直接的には以前から行われて来ている「ベクタ・スカラ論争」に技術的回答を与えたものではないということである。
 ただし、ヴィデオ・レコーダでのVHS vs Beta 争議からもわかるとおり、商業ベースの技術では、商業的に成り立ってこそ始めて技術ということになるので、技術といえども最終的には経営上の問題を避けては通れないということも事実ではある。

 さて、今回のNECの撤退は、何処に、どのような影響を及ぼすのだろうか?
 話が発散しないように、いくつかのレイヤに分けて考えて見たい。概ね3つのレイヤが有るのではないかと思う。身近なほうから言うと、
第1はSXシリーズの行方に関するもの。
第2は最も直接的なもので次世代スパコン・プロジェクトの行方に関するもの。
第3は次世代スパコンが国家基幹技術に指定されていることによる国家技術戦略への影響である。

 この3つの中でとりわけ厄介なのは3の国家技術戦略に関するもので有るが、とりあえず、1と2の局所的なものから順番に検討してみたい。

 

<ベクタ機SXシリーズの行方>

 今回の撤退の背景として、今にして思うと、NECエレのルネサスとの合併は大きなモメンタムではなかったかと思う。正確な情報は持ち合わせていないが、SXのチップはNECエレが作っていたと思うので、同社の分離、ルネサスとの合併で、NEC本体に属するHPC事業部から外部の他社への開発製造委託では無理が利かなくなってしまうであろうことを考えると、なんとなく撤退の背景を理解はできるのであるが、それより、経営側とすれば、半導体事業の中核であったNECエレをすら里子に出し、身軽にならざるを得ないのであるから、経営姿勢として、天領・聖域などありえないという事ではなかったかと思うのである。

 今回のハードランディングをやや歴史的視点で表現すると、「メインフレーム型ビジネスモデルの終焉」ということであろうかと思う。少量生産・高付加価値・高価格のビジネスモデルの終焉という事である。大量生産・高付加価値・低価格製品の追撃を受け、差別化できなくなり、崩壊するというパターンである。
 これは、米国では80年代後半から90年代前半にかけてメインフレームで顕著に起こったもので、IBMですら左前に追い込まれ、Crayも倒産してしまった訳である。

 SXは技術計算向けスパコンという特殊分野であったことと、「日本国株式会社」的風土とから、最後のメインフレーム型ビジネスモデルとして日本で生き延びて来たわけであるが、リーマン金融ショックという振るいにかけられ、やむなく脱落という事になってしまったのであろう。

 ある意味、これは時間・歴史といった「淘汰機構」による淘汰の結果であり、時期的な早い遅いといった多少の違いはあっても、いわゆる「時間の問題」であり、必然であろうことは間違いないと思っている。
 


 さて、NECの発表では、国プロの製造フェーズ以降は撤退はするが、今後とも理研と協力はしてゆくという事と、HPC(スパコン)事業は継続し、次世代HPCを創造してゆく、とのことである。

 明確なメッセージは、現在販売中のSXやスカラ型スパコンは継続して販売や保守サービスなどを行う、という常識的なものであるが、若干気になるのは同社のHPCの将来に関して「時代に適した次世代HPCを創造して」と述べている部分の解釈であろう。

 このNECの発表文全般に流れている雰囲気は、NECが考える今後のスパコンの方向は、ベクタ・スカラのHybrid、ということのように感じられるのである。つまり、ベクタ型の発展をベクタ単体ではなくHybrid型の方向に見ているように読めるのである。

 そして、経営基盤の悪化とは言え、国プロのベクタ部開発から中途撤退したのであるから、常識的には、単独でベクタ機の開発を再開することは、財政的にも、国・国民との関係からも、ビジネスの見通しからも、極めて難しいであろうと思うのである。つまりSXシリーズは現行製品のSX-9で終焉/停止と考えるのが妥当なのではないかと思うのである。


 一方、IntelやAMDのCPUのロードマップでは2010年以降にはMMX/SSEなどを拡張強化したAVX(Advanced Vector Extension)がコア内に装着されるようである。
 これは深読みかも知れないが、CrayがDARPAから受注したCascadeを支える意味があるのではないかと思っている。Cascadeは「Adaptive Computing」と呼ばれている Vector/ScalarのHybrid Systemで、アプリケーション・プログラムの特性に応じて、Scalar演算器やVector演算器、あるいはReconfiguarable な専用演算器に振り分けて、最適処理を行うというものである。Crayの現在のHybrid機XT5h(XT5+X2+Reconfiguarable)との違いは、ラックレベルでのHybrid vs ノード(チップ内orチップorボード)レべルでのHybridという事である。
 チップの場合、疑問は、誰がこのようなチップを作るのだろうか、という事であったが、どうも、IntelやAMDのAVXがこれなのではないかと思うようになっている。
 CrayはDARPAとの開発契約ではAMDのOpteronを使用するということになっていたが、確か昨年、IntelのCPUでも良いと許可を得たとされており、DARPAのAdaptive Computingでは、これらのAVXを有するHybrid型のCPUが使用されるのではないかと思うようになっているのである。

 となると、NECのHybrid戦略においては、SXの後継は従来のSX単体方式ではなく、IntelやAMDのHybrid CPUが採用されても不思議では無いわけで、CPU開発の巨額経費が節減でき、従来からのSXユーザにも顔が立ち、撤退の発表文とも整合性が取れるのではないか、などと想像をふくらませている。


 要するに、単体SXシリーズは終焉、後継次世代hybrid HPCは、SX改+x86系、又は、x86系単体、で実現という戦略ではないかという深読みであるが、正確にはNECからの発表を待たねばならないであろう。 

 ただし、このx86系単体での深読みではCrayもHPもApproも、名前の残ったSGIも、同じということになるので、差別化を何でするのかといった問題があることも注意しておかねばならないのは言うまでもない。


(2/2 に続く)

  
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2010年04月29日

北陸先端大のCRAY XT5 (2/2)           <税金の価値>&<為替レートと産業空洞化>

公開日時: 2009/05/12 18:02
著者: 能澤 徹

(<北陸先端大のCRAY XT5> の続き)
 

 

<税金の価値>


 北陸先端大の選択は、現状では、コストパフォーマンス的に見て、評価できる選択であったと思っている。では、似たようなほかの組織ではどうだったのかという事で、国立天文台のケースを考えて見たい。


 前述のとおり、国立天文台は
2TflopsSX-926TflopsXT45年リースで導入していて、月額2千万円のリース料を税金で支払っているわけである。支払い総額から推定リース手数料などを除いて、ノーマライズした推定価格は106,826万円で、北陸先端大のXT519.6Tflops機のノーマライズド価格4144万円の2.66倍である。つまり、同じ月額リース料で、52.2TflopsXT5を導入する事が出来るであろうということである。勿論、SX-9があるとか、時期にズレがある、等々細かい議論はあるが、現在の税金の価値という観点で可視化すると、52.2Tflopsという事になるということである。


 では、前稿で述べた
Grape-DRの開発費15億円は、どのくらいの価値があるのかというと、北陸先端大のXT5の推定価格の3.75倍で、この金額は、73.5TflopsXT5システムが導入できる額ということになる。


 従って、国立天文台のスパコンのリース代と
Grape-DRの開発費を合算した額では、52.2Tflops73.5Tflopsで、125.7TflopsXT5システムが設置可能という事になる。 これは2004年のGRAPE-DRがその提案概要で「汎用MPUによる100Tflops超のシステムは実現困難」として完璧に否定していたレベルを、楽々超える性能である。


 まあ、予算的には文科省の予算ではあるが、中間的な予算の出所が違うので、現実的
意味があるかどうかは不明ではあるが、この125Tflops程度の性能のスパコンは小振りな研究機関においても導入が可能なご時勢なのである。


 海洋研の
SX-9JAXAFX1、東大、京大のT2K,どれも100Tflops前後の機械であるが、予算額的には数倍から1桁違っているような気がするのである。


 ばら撒きの予算の
2009年を過ぎると、緊縮予算になることは目に見えており、購買力に見合った賢い税金の使い方をしないと、世界の科学技術の第1線から益々引き離されてしまうことは目に見えるようで
、調達サイドの賢い調達を強く期待したいと思う。

 

 

 

<為替レートと産業空洞化>


 勿論これらは米国製スパコンを日本国内で調達した場合の税金の価値であるが、米国で調達すれば、概ね半値以下と推定されるので、スパコンに於ける今日の為替レートは
1ドル200円前後ということになる。アマゾンの出現で書籍における慣習的な1ドル360円といったような法外な為替レートが崩れて、日々の実勢レートに収斂したように、天文台のスバル望遠鏡ではないが、米国にスパコン・センターを設置し、端末やVisualization システムのみを国内に設置し、回線を通して運用するシステムを組むと、大部分が実勢レートで調達できるので、遠隔地運用経費を差し引いても、お安く計算能力が手に入ることになるかも知れないのである。


 つまり、国内での調達はやめ、国内にはスパコンを置かないほうが安上がりということになるかも知れないということである。


 国産メーカ価格、輸入価格、米国内価格、(中国の足音・・・)、といったスパコンの内外価格差は、政策により短期的には防御できたとしても、長期的には防御は難しい。産業規模がグローバル化している今日では、国産メーカは世界市場でのシェアを取れる国際仕様に基づき、その戦略の第
1歩として、国内での国際価格での自由競争に勝てなければ、スパコン産業の空洞化は避けられないものと思うのである。少なくとも同一仕様に近い輸入製品の輸入価格を軽くクリアする程度の事は必須であり、国産メーカの奮起を強く期待したい。


  
Posted by petaflops at 18:07Comments(0)TrackBack(0)