ペットの病気

2006年06月28日

医食同源 〜仔犬の栄養〜

こんにちは、獣医師のsinです。

病気というよりもその予防に近いことですが、今回は仔犬の時期にどういった食餌を与えることが良いのかを書きたいと思います。


仔犬の栄養は特に注意していないとならないことだらけです。

みなさんは仔犬にどんなものが重要だと思いますか?

多くの人は、まずはカルシウムの量について気になるところだと思います。

カルシウムは骨の成長には欠かせないものですが、与えすぎても足りなくても問題が生じます。

不足するともちろん骨の成長ができなくなりますが、過剰でも骨の成長に問題が生じてしますのです。

では、どのくらいが良いのでしょうか?

とても大雑把に言えば、

成犬の体重の40%までは、一日あたり、現在の体重×400mg

成犬の体重の40〜50%までは、一日あたり、現在の体重×335mg

成犬の体重の50〜70%までは、一日あたり、現在の体重×270mg

成犬の体重の70〜80%までは、一日あたり、現在の体重×240mg

成犬の体重の80%以上では、一日あたり、現在の体重×190mg

が良いとされています。

ただ現在の体重×500mg以上のカルシウムを1日あたり摂取することはあまり好ましくないと思われます。

骨の成長には、カルシウムは多すぎても少なすぎても問題があるのです。

カルシウムとともに、ビタミンAとDが骨の成長には欠かせないのですが、市販のペットフードにはどれも適正な量で配合されていますので、あまり心配することはないでしょう。

犬は人間によって様々に品種改良され、成長の仕方が様々です。

そのため、とてもデリケートな食餌管理をすることが、将来のためになるのではないかと考えています。

次回も同じように、仔犬の食餌について書いていきたいと思っています。



2006年06月21日

医食同源 〜肝臓が悪いときの食餌 その2〜

こんにちは、獣医師のsinです。

前回の肝臓の話では、たんぱく質の「質」、すなわちアミノ酸のバランスが大事であるという話をしました。

今回は、肝臓についてもう少し話を進めたいと思います。


まず、肝臓が悪いときにあまり多く与えないほうがいいものがあります。

そのひとつが銅です。

人の場合、銅は1日に2〜3mg程度摂取するのがよいとされています。

銅はとても重要で、全身に酸素を運ぶ働きのある赤血球には欠かせないものです。

そのため、貧血の患者さんには鉄とともにある程度の銅も摂取したほうがいいと考えられています。

しかし、肝臓が悪いときには、この銅をあまり多く摂取してはいけないようです。

銅は普通、肝臓で貯蔵されていますが、銅を体の外に出せるのは肝臓から胆汁の中に出ていくだけなのです。

肝臓や胆のうなどに異常がある場合には、なかなか銅が体の外に出て行かずに、悪い作用を起こします。

銅がたまりすぎると、活性酸素を作ってしまうといわれています。

そのため、銅をあまり多く摂取すると、肝臓が正常な場合には問題ないのですが、肝臓に異常がある場合に活性酸素の働きのために体に悪い影響を与えるようです。

銅が多く含まれる食べ物は果物や牛のレバーや卵黄などがあります。

こうした材料が含まれる食餌はあまりお勧めできません。

また抗酸化物質の多く含まれる食餌を与えてみるといいでしょう。

一方で、少し多めに摂取したほうがいいものがあります。

それは亜鉛です。

亜鉛は、いろいろな体の働きに重要な物質で、これが少ないと味覚に異常が見られたり、骨の発育が悪くなったりします。

それと同時に、亜鉛は銅の吸収を抑えてくれます。

その意味でも、肝臓が悪いときに亜鉛を多く摂取することがいいとされています。

こうした、体に必要な、微量栄養素の研究が少しずつ進んできています。

近い将来もっと多くの種類の微量栄養素が体のさまざまな働きに重要な役割を果たしているのが分かってくるのかもしれません。

そうした科学の進歩によって、よりよい食事管理ができるようになるのかもしれませんね。


2006年06月14日

医食同源 -肝臓が悪いときの食餌-

こんにちは、獣医師のsinです。

これまでの心臓の話に引き続き、肝臓の話をさせていただきます。

肝臓は、「眠れる臓器」と言われることがあるように、少しくらい悪くなったとしても、検査をしたところで肝臓の異常は分かりません。

そして血液検査をして、異常が出るころには、もうかなり肝臓が悪くなっているということがよくあります。

肝臓は、実はかなりの余力が残っている臓器で、たとえ肝臓の半分が機能していなくても、血液検査では少しの異常が見られるだけで、日常生活には問題ない場合が多いのです。

ところで、肝臓という臓器は体にたまった毒物を解毒する能力があります。

体の中ではさまざまな老廃物が作られ、その解毒をしなければなりませんが、特に有毒なものにたんぱく質を構成するアミノ酸を分解してできるアンモニアがあります。

この有毒な老廃物を解毒しにくいので、従来はたんぱく質を減らした食餌が勧められていました。

実は、現在は少し違った考え方をしているようです。

たんぱく質の量を減らすと、体を作るアミノ酸を食べ物から補給できなくなり、どこからか補給をしなければなりません。

そのターゲットがたんぱく質からなる全身の筋肉。

筋肉を消化して、アミノ酸を作ってしまうのです。

そのためにアンモニアが予想以上に出てきてしまいます。

さらにやせ衰えるという二重苦の状況になりかねないということが分かってきました。

現在は、たんぱく質のとりすぎは良くないが、肝臓で解毒できる限界量のぎりぎりくらいまで与えることがいいと言われています。

しかも、アミノ酸のバランスが良くないと、不足しているアミノ酸を筋肉を分解して調達します。

たんぱく質の量とバランスが大事ということですね。

毎日の食餌で、特に手作りの食餌でこれを実現するのは、とても大変だと思います。

かかりつけの獣医師の先生と相談しながら、たんぱく質の量とバランスを調節するようにしてください。

肝臓が悪くなるにつれて、たんぱく質の量を少しずつ減らすという微妙な調節が長生きのコツになるのではないでしょうか。

口から食べた食べ物が、消化吸収されて最初にたどり着く場所が肝臓です。

医食同源、肝臓ほどこの言葉の似合う臓器はないでしょうね。

参考文献:
J. Nutrition


2006年06月07日

医食同源 -心臓病と食餌 その2-

こんにちは、獣医師のsinです。

さて、前回は心臓が悪くなるにつれて、塩分量を減らしたほうがよい、ただしいきなり減らしすぎはよくない、という話でした。

今回は、逆にこのような栄養素を取ったほうがよい、という話です。

さまざまなものが挙げられますが、重要なものについて書いていきます。


まずは、タウリン。

そうです、「肉体疲労時の・・・」という言葉で覚えている方もいますが、栄養ドリンクによく含まれている栄養素です。

猫を飼っている人はよくご存知かもしれませんが、猫はタウリンをもともとからだの中で作ることはできないので、食餌でとるしかない栄養素です。

心臓が悪い犬や猫の心臓を元気にしてくれる助けがあるようです。

ただし、人とペットでは必要量は異なるために、人の栄養ドリンクや貝などを食べさせるというのは危険です。

タウリンは、医薬品として売られていますので、そちらで与えていただくか、ほとんどの心臓病の処方食には十分な量が含まれていますので、その処方食を与えるのが一番ですね。


さて、他に必要な栄養素にカルニチンがあります。

そう、あのダイエットに有効かもしれない、あのカルニチンです。

この栄養素も重要で、筋肉が動かすために使うエネルギーを作る時に、このカルニチンが重要だといわれています。

こちらもサプリメントや、医薬品として売られています。

実は犬では、このカルニチンが不足していることと心臓の病気に関係があるといわれています。

しかし、このカルニチンの医薬品はほんとに高いです。

また、一般的な心臓病の処方食にも十分な量が含まれています。

そのため、私は処方食をお勧めしています。


ところで、病気は薬で治すものだというある種の思い込みがありますが、私はこの意見には反対です。

私は薬は飲まなくてもよいならなるべく飲まない、という立場に立っています。

薬で足りない部分を食餌で補うことや、薬でなくても効果のある食餌で代用することなど、日々の食餌で気をつけることはとても大事だと思います。

なるべく、薬を使わない医療というものが浸透していってほしいと思います。

参考文献: J Am Anim Hosp Assoc. 2005 Nov-Dec;41(6):355-67



2006年05月31日

医食同源 -心臓病と食餌 その1-

こんにちは、獣医師のsinです。

ペットの高齢化が進むとともに、慢性的な病気が増えてきました。

腎臓の病気、肝臓の病気、がんなど・・・。

ほとんど人間と変わらないものばかりですね。

そんな時代だからこそ、自分たちの食べる食事にはこだわりを持っていると思います。

それと同じように、ペットにも食餌に気をつけなければいけないご時勢となっているのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、このような理由からこれから数回に分けて、食餌にどう気をつけるかということについて書かせていただきます。


まず、犬の心臓病についてです。

高齢の犬は心臓の病気を患うことが多いのです。

その割合は、10%を超えるとも言われています。

私の経験では、10歳を越えたあたりの小型犬には特に心臓病が多い気がします。

さて、心臓病のときに人間の場合ですと塩分制限が推奨されているとのことです。

1日に3g程度に抑えることが良いとされています。

犬の場合も、このような塩分制限は必要だと思いますが、実はちょっとした注意点があります。

簡単にいうと、

「心臓の状態が悪くなるにしたがって、少しずつ塩分の量を減らすこと。」

これがポイントです。

心臓がちょっと悪くなってきたと言うことだけで、塩分がほとんど含まれない食餌に変える人もいますが、これは実は危ないのです。

このような、心臓がちょっとだけ悪いという状態でいきなり塩分をどっさり減らすと、余計に心臓に負担がかかるということが分かってきました。

私が心臓の調子が少し悪くなってきたなと思った場合、塩分を今までより落とすことを勧めるようにしています。

今まで食べているドッグフードなどの成分表示を見ながら、塩分の少ない処方食を混ぜたりして調節してもらうようにしています。

ただ、これは結構大変。

しかも、毎日のことですから・・・。

ペットの病気には、フードの栄養を考慮することが重要だとお分かりいただけたのではないでしょうか?

来週も続きます。


2006年05月24日

獣医師が見るペットオーナー その2

こんにちは、獣医師のsinです。

前回に引き続き、獣医師はペットオーナーさんをどう見ているかを書いていこうと思います。

前回では歯がきれいなこと挙げましたが、それ以外にも信頼できるペットオーナーさんのポイントを挙げていこうと思います。

まず、
「普段のペットの状態、くせをよく知っている」
ことですね。

これは、新しい異常を発見するときにはきわめて大事なことです。

獣医師もペットの異常を見つける努力はしますが、観察力だけはペットオーナーさんには全く持って負けます。

診察室で
「この子最近、歩き方が変なんですけど・・・」
と言われて初めて関節の病気が分かることもありますし、
「この子昨日から、少し呼吸が速いんですけど・・・」
と言われて、レンドゲン写真を撮ったら、胸に水がたまっていた場合もありました。

このように、とても観察力の鋭いペットオーナーさんの場合だと、私はたとえばペットが入院していた場合でも、少し調子が良くなったくらいで家に帰ってもらうようにしています。

それは、入院中はストレスがかかりやすく、院内感染で変な病原体をもらってしまうこともあるからです。

このようなペットオーナーさんはちょっと調子が悪くなってもいいタイミングでまた病院に連れてきてくれますので安心です。

逆に、あんまりペットの観察をしないペットオーナーさんの場合、完全に病気が改善してからでないと自宅に連れて帰ってもらうのが心配になります。

よく観察すること、これはとても大事なことで、そんなペットオーナーさんに感心させられることが何度もありました。

ただし、観察も程々に。

あんまり観察してばかりだと、返ってストレスになることもありますので。

その辺のバランスをきちんとつかんでいるペットオーナーさんはこちらもとても信頼して一緒に治療ができます。


2006年05月17日

獣医師が見るペットオーナー

こんにちは、獣医師のsinです。

病気になったときに、もっとも重要なことはペットオーナーさんの方が献身的に看病できるかどうかだと思います。

前回の話とも関係しますが、甘やかさず、心配しすぎず、かといって全く無関心でもいけない、ある程度の距離を保って看病するということが大切だと思っています。

私がペットオーナーさんに対してよく犬の面倒を見ているなぁ、、、と思う一番の判断は、

「歯がきれい」

というところです。

歯の掃除は意外と大変で、きれいに保っていれば、よく手入れをしているなぁ、と感心します。

他にも、耳がきれいだとか、毛艶がいい(もちろん年齢相応に)場合だと、とてもよく面倒を見ているなと感じます。

このようなペットオーナーさんは、お薬の飲ませる回数や時間を伝えると、とても正確に治療を行ってくれることが多いものです。

また、治療の結果もとてもよく観察してくれるので、治療の方向性もとても明確に見えてきます。

そして、そういうペットオーナーさんの方が動物の病気の治りもいい印象を持っています。

動物の病気の主治医はペットオーナーさんだとよく言われますが、本当にその通りだと思います。

私たちが歯医者に行くときに、歯をきちんと磨いてから行くとか、そういうのと同じなのかなぁ、と思います。



2006年05月10日

第10回 ストレスと病気

こんにちは、獣医師のsinです。

今回から数回、自分自身の体験をもとに、書かせていただきます。

まずは、ストレスと病気の関係。

やっぱり、動物にとってもストレスって大切なんだなぁ・・・、と思う出来事がありました。


その動物(犬)のペットオーナーさんはとても心配性の方で、ちょっとしたことでも電話で問い合わせをする方でした。

そのペットオーナーさんの方の犬は重い血液の病気にかかっていて、たびたび貧血になっていました。

根本的な治療方法がなく、貧血の改善に輸血をするのが精一杯でした。

その犬が、突然、1日に何度も吐くようになり、すぐに来院していただいたんですが、胃薬を飲んだらすぐ治りました。

それからしばらくは、電話で問い合わせが続く日々を過ごしていました。

そうしたら、また一週間ぐらい経って吐くことが多くなったようです。

そのときも胃薬ですぐに完治。。。

ストレスかなぁ・・・、と思いそのペットオーナーさんの方に私はこう言いました。

「心配していただくのはいいことですが、この子は自分が病気なんて思っていないから、あなたが心配している姿を見て、あなたを心配してしまうのです。この子のいるところでは普通の健康な犬として接してください。」

それから、吐くことはなくなりました。

その犬はもう亡くなってしまいましたが、私にはかなり印象深い出来事でした。

猫に対してはあまり感じたことはありませんが、犬は飼い主の心をある程度察して、飼い主を思いやるような気がします。

犬が病気になっても甘やかさず、心配しすぎず、普段どおりに接することが大事なのかなぁ・・・、と考えてしまう出来事でした。


2006年05月03日

第9回 ペット保険について

こんにちは、獣医師のsinです。
2006年3月に、日本で初めてのペット保険の販売が開始されるというニュースが流れました。
今まではいくつかの企業が共済という形で医療費を補助することがされていましたが、保険としては初めてだということです。

動物病院とペットオーナーさんとのトラブルや不満で多いのが、医療費の問題です。
一般に、人の医療と違い、ペットには保険適応がないため、人よりも医療費が高く思われがちです。
また、有効な治療法があっても、医療費の面から治療を断念されるペットオーナーさんの方にも何度か出会いました。
急な病気や交通事故などで医療費が必要な場合があり、ペットオーナーさんの方々の苦労を感じる場面も多くありました。
このような現状を少しでも変えようという動きには共感がもてる反面、初めての試みでもあるため不安要素も多いのが実情です。
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これまでに、多くのペット共済が経営難に陥ってしまう現状も目の当たりにしてきました。
保険加入者数の確保の問題や、保険支払いの基準、ペットに埋め込むマイクロチップの普及の問題、動物病院間での医療費の差の是正など課題は山積みであります。
まだまだ駆け出しのうちは、様々なトラブルがあるでしょう。
もしかしたら、今後多くの保険会社がペット保険に参入するかもしれません。
逆に、ペット保険そのものが認知されなくて日本からなくなるかもしれません。
しかし、ペットも人並みの手厚い医療を求める声が多くなってきており、少しずつペット保険が社会的に認知されることを心から願っております。

2006年04月26日

第8回 耐性菌と戦う自然パワー

こんにちは、獣医師のsinです。

前回に続いて耐性菌の話題です。

なぜこれほど耐性菌が問題になっているのか・・・。

それには2つの理由があります。

1つは、新しい抗生物質の開発が間に合っておらず、今までの抗生物質で勝負しなければならないこと。

もう1つは、現在までにおびただしい抗生物質が生まれ、医者や獣医師が何を使ったらいいのか分からず、やみくもに使うことです。

つまり、やみくもにいろいろな抗生物質を中途半端に使用しながら、徐々に耐性菌が生まれてきて、今ある抗生物質に対して耐性ができたとしても、新しい薬の登場は望みにくい状況に立たされています。

そこでにわかに注目されてきているのが、自然界に存在するものの利用です。

最注目株は「緑茶」です。

緑茶に含まれる成分が、なんとMRSAのメチシリン(ペニシリン)耐性になる仕組みを防ぐらしいのです。

どの成分が、どんな理由で耐性になる仕組みに立ち向かっているのかはまだまだ研究段階ですが驚きですね。

もっとも、緑茶をただ飲むだけでは、体の中に緑茶の成分はほとんど吸収されません。

緑茶の成分を解明しつつ、体に安全な薬を開発し、注射や飲み薬として販売しなければなりませんね。

ほかにも、バラやうるしの成分なども注目株となっています。

自然のパワーは本当にすばらしいです。

人も動物たちも自然界からどんどん離れていってしまっています。

耐性菌は、そんな自然界から離れていく私たちに、自然のすばらしさをもう一度教えてくれているのかもしれません。