少し、ご無沙汰していました。
9月になり、まだまだ暑さは残っていますが、陽が沈み、夕方から涼しい風を肌に感じますと、もう秋も近づいているのかなと思うこの頃です。
絵本紹介 No.3 「ビロードのうさぎ」
(原作:マージェリィ・W・ビアンコ 絵、抄訳:酒井駒子)
今回、私は「ビロードのうさぎ」という絵本を紹介します。
是非ご自身で読んでいただきたいので、今回は具体的なあらすじは書かないことにしました。
私は以前、この本を読んだ時、"悲しいお話"という印象で終わってしまったのですが、最近読み直してみて、"悲しい"という感情の奥に、何か心に残る温かみがあることに気付きました。
その理由の1つとして、酒井駒子さんの絵がとても美しいところにあります。
まるで絵画を鑑賞しているような繊細な絵からは、主人公である"ビロードのうさぎ"の心の変化や持ち主である"坊や"がうさぎを大切に想う気持ちが伝わってきます。
また、酒井さんは絵だけではなく訳もされており、大切な場面での言葉の表現においても読み終わった後に優しさを感じました。
ラストに近づくページで、文章が無く、絵のみのページがあるのですが、「言葉が要らない」とは正にこういうことで、読者に想像させることでラストまでの余韻を持たせています。
このお話の一番切ない部分は、ビロードのうさぎが「本物のうさぎになれた時には、自分を大事にしてくれた坊やが側にいない」ところにあると思います。
自分は忘れられてしまったんじゃないかと、ビロードのうさぎは深い悲しみを負いますが、持ち主である坊やがうさぎを失くしてしまったことをずっと悲しんでいたことが物語のラストで分かります。
本文中で「この子はおもちゃじゃないの、本当のうさぎなの」と坊やがビロードのうさぎを抱きしめながら、お手伝いさんに言う場面があります。
"本物とは何か"ということを考えさせられるお話です。
お互いを大切に想っていることが伝わってくる文章と挿絵に、何とも言えない気持ちになりました。
この絵本のお話の原作の初版は1922年です。
子ども、大人に長い間ずっと愛されているお話だそうです。
ビロードのうさぎと坊やの別れは「死」という形ではありませんが、
生きている人間同士も飼っているペットも、大切に接していれば、"心通う本物の関係"になれるのだと私は思いました。