2012年04月10日
浜松の、巻き線作りの匠を訪ねてみました!

浜松に用事があるついでに、ピアノの低音部に使われる巻き線作りでは、業界で
有名な、株式会社 貴富工業(タカトミ)の冨田さんの工場を取材に行ってきま
した
1台のピアノに使われているピアノ線は、芯線と巻き線と呼ばれる2種類があるの
ですが、低音部は、低い音を出す必要があるので、芯線に銅線を巻いた太い巻き
線が使われます
芯線の方は、弦をそのまま張るのでシンプルなのですが、巻き線の巻き方は、手
巻きと云われるものと機械で巻くやり方があり、最近の量産ピアノに使われてい
る巻き線は、ほぼ機械巻きになっているようです

真ん中の女性が彼の奥さんです
右側の人は、弊社がいつもオーバー
ホール等をお願いしている森重さん
で、場所も森重さんの工房に近いので
今回は彼に案内してもらって連れて
行ってもらいました
この低音部に使われている巻き線ですが、いかなるピアノであれ、気持が良い低音
を確保するためには、この巻き線の品質(出来栄え)が重要になります
見た目では、巻き線の良し悪しは判断できないのですが、巻き方が悪いと、ジン線
とかボン線とかという言葉に代表されるように、ジンジンした音や響きが明らかに
悪くなります
またそこまで悪くなくても、興味深いことに、名人の巻いた巻き線は、同じピアノ
でも、明らかに気持ちが良い低音になりますので、音色や響きにこだわっていくと
この巻き線の良し悪しということが重要になってきます
このことは弊社でも、新品でも時々彼の巻き線に交換することがありますが、特に
古いグランドピアノの巻き線の交換では、いつも彼の巻き線を使っていますで、こ
のことは日頃から体感しています

出来上がった巻き線の太さを
チェックしているところです

ある、さまざまな太さの銅線で、
ピアノにより、また同じメーカーでも
年代や古さによっても、使う芯線と銅線の
太さが違ってきますが、そのあたりも
冨田さんの長年のノウハウの蓄積の賜物
と云えます
せっかくですので、冨田さんからいろいろお話をお聞きしたのですが、元々、実家
で昔、ピアノを作っていたそうで、その関係で何と小学校の高学年から、巻き線を
家で巻いていたそうです
明治大学の工学部を卒業してからも、こういった作業が好きなので、67歳になる
現在も巻き線を巻いているそうで、巻き線製作歴も60年近くになるようですので
巻き線に関しては、日本でもっともベテランということになると思います
そんなことで彼の大学ノートを少し見せてもらったのですが、様々なメーカーの
機種別、年代別に、細かいデーターがびっしり書き込まれていました
どんなデーターかといいますと、ピアノの弦というものは、弦の材質もさることな
がら、同じピアノでも張る弦の太さで張力が変わり、張力が変わると音色も響き具
合も変わるという奥の深い話になりましたが、そのあたりも過去の試行錯誤からの
彼の独自の緻密なデーターをお持ちのようでした

これは彼が作ったオリジナルの
ワッカ(弦の先の円い輪)を作る
機械です
今の日本の浜松の大手メーカーさんの話を聞くと、ほとんどが機械で巻く巻き線
になっているそうで、大手メーカーでも似たような作業ができる技術者はいるよ
うですが、今では数は少なく、それも彼のような年配者ばかりで、もう、若い人
では、彼のような手巻きの巻き線を巻ける人は育っていないようです
ですから日本のピアノ作りも、あと10年もすると現在60代半ばの前出の森重さんや
冨田さんのような浜松(日本の)匠が現役から退くと思われるので、どうなること
かと心配しています
大手メーカーの人に巻き線のことを聞くと、ヘタな人が巻く巻き線よりも機械で巻
く巻き線の方が正しく、均一に巻けるそうですが、それでもベテランの人が手で巻
いた巻き線の方が優れているとのことでしたが、これも時代の流れかと思います

チェコのペトロフの工場内での巻き線を
巻いている作業風景です
こちらは若い女性が巻き線を巻いていま
したが、もう日本では、このような手作業
の風景は見ることができなくなってきている
ようです。
ディアパソンピアノの解説ページです。
トラックバックURL
この記事へのコメント
2. Posted by ワクワク ピアノ伝道師 2012年04月12日 15:51
そうですね
巻き線作りも奥は深いようですが、ある意味、単純作業の連続です
ペトロフの工場を見て感じたことですが、職人達が一からピアノを作っていくのは、
埃も出るし汚れも出る作業も多いので大変です
ですから生産現場の実際は、プロモションビデオで紹介されるほど美しいものでは
ないので、それらも含めて、もう諸経費が高いドイツや日本のような、いわゆる
先進国でのピアノ生産は、1台1千万円クラスの高級ピアノ以外は、職人の給与面でも
無理があるような気がしました
巻き線作りも奥は深いようですが、ある意味、単純作業の連続です
ペトロフの工場を見て感じたことですが、職人達が一からピアノを作っていくのは、
埃も出るし汚れも出る作業も多いので大変です
ですから生産現場の実際は、プロモションビデオで紹介されるほど美しいものでは
ないので、それらも含めて、もう諸経費が高いドイツや日本のような、いわゆる
先進国でのピアノ生産は、1台1千万円クラスの高級ピアノ以外は、職人の給与面でも
無理があるような気がしました
1. Posted by Nile 2012年04月12日 14:59

出てくればいいんですが。
ペトロフではネジ一本すら、自社で作っているんですね。良い意味で共産主義時代の名残なんでしょうね。