2008年06月04日
ツボ３５〜ドラッカー教授の関心��
１９７２年ダイヤモンド社からの全集発刊にあたりドラッカー教授は、序文を掲載し、約30年に渡る著述生活を振り返り、底流を流れるもの三つを提示している。そのうちの一つが以下のものである。
�Ｆ韻元ぜ舛力�続性の産物である
わたしは、しばしば「学者(スカラー)」として聴衆に紹介された。それよりも、わたし自身としては「文筆家（ライター）」と呼びたい。これは、けんそんだけからなのではない。もっとも、自分のほうから学者でございというのは、大いに口はばったいと思うが、学者と文筆家とでは、なによりもまず、基本的な気質、書かれた言葉への考え方が、大いに異なっている。学者には、書かれた言葉は、研究の所見をより広い聴衆に伝えるための手段にすぎない。言葉そのものは学者にとってなんの意味もなく、いわば彼が世界にあてて書く手紙の封筒の役割をするにすぎない。学者には、封筒の中身である研究所見のほうが重要なのである。これに反して「文筆家」には、言葉が主人なのである。
また、学者にとって「知識（ナリッジ）」とは、本に書かれている内容である。だが、これはわたしにとって、わたしの本に書かれているものも含めて、「情報（インフォメーション）」にすぎない。わたしにとって知識とは、行為が伴ってこそはじめて生じるものである。（中略）だからこそ、わたしは長年にわたって、著作の中心をコンサルタントであることにおいてきた。つまり、行為の人といっしょになって彼らの活動を研究し、彼らの活動をいささかなりともいっそう生産的なものにし、またいっそう効果的なものにしようと努める人間として書いてきた。わたしの本はみな―少なくとも一九四六年の『会社という概念』以後の本はみな―人を動かして行為させようとしている。もちろん情報も与えようとしているが、なによりもまず、人を動機づけようとしている。
ドラッカー全集 第一巻『産業社会編 経済人から産業人へ』（1972）序文より
◆Ｄ１のコメント
たいへん面白い記述である。『ドラッカー２０世紀を生きて-私の履歴書』日本経済新聞社に次の記述がある。「私は、大学教授とかコンサルタントとか呼ばれ、時に『マネジメント（経営）の発明者』とも言われる」とある。もっとも的を射てないのは、経済学者や未来学者と呼ばれることだ。かつて痛烈に批判さえしている。９５歳の誕生日を迎えたドラッカー教授の見方はこうだ。「基本は文筆家だと思っている」。６０歳を少し超えたあたりで発刊された全集の序文でもやはり文筆家だ。やはり、生涯文筆家。
一方で自ら造語を創ってまで「社会生態学者」を名乗る。このくだりは『すでに起こった未来』（1993）に詳しい。以下はその引用である。
「何をしているかと聞かれれば、私は「書いている」と答える。体の動きとしては、そういうことになる。二〇歳以降、私にとって書くことは、教えることやコンサルティングすることなど、あらゆる仕事の基礎となってきた。これまで私は、二冊の小説と一冊の半自伝的な物語を含む、二五冊の本を執筆した。しかし、私は文筆家ではない。事実、そのように受け取られたことは一度もない」。
なんと自ら文筆家ではないと明言してしまっているではないか。これに続く言葉はこうだ。
「ところが、つづいて、何について書いているかと聞かれれば、急に歯切れが悪くなる。経済については随分書いた。しかし、決して経済学者ではない。歴史についても随分書いた。しかし、歴史家ではない。政府や政治についても書いた。しかし、政治学者として世に出たものの、とうの昔にそうではなくなっている。しかも私は、今日的な意味での社会学者でもない。だが、自分がなんであろうとしてきたかは十分承知している。はるか昔から承知している。私は「社会生態学者」だと思っている」。
