2005年05月24日

『オリーブの林をぬけて』〜<ジグザグ三部作>完結!?〜

Olivenohayashi『オリーブの林をぬけて』
 
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホセイン・レザイ モハマッド・アリ・シャバーズ タヘレ・ラダニアン
 
 
 
 
【あらすじ】(goo映画より)
テヘランから350キロほど北の村で映画監督は娘役を選ぶためたくさんの娘たちに話しかけている。
その中の美しい娘がタヘレと名乗り、役を彼女に決定する。
助監督のシヴァはタヘレ(タヘレ・ラダニアン)を迎えに彼女の家に行くと、
注文した田舎服ではなく、しゃれた服を着ていたので叱る。
撮影現場では青年役が女の子と緊張して話せないため仕方なく、
代わりに撮影キャンプにいる雑用係のホセイン(ホセイン・レザイ)を抜てきする。
しかし撮影を再開するとこんどはタヘレの様子がおかしくて……
 
きのうは部屋にたまったVHSを整理しようと中身を早送りしていたら、
以前に録画したキアロスタミのインタビューが出てきました。
NHKで放送された、『桜桃の味』でパルムドールを取ったすぐ後の時期、
まだ『風が吹くまま』が編集段階にある時期のインタビューです。
見ていたら、やはりキアロスタミは黒澤明そっくり!
キアロスタミが日本を訪れたとき、黒澤明と並んで撮った写真も映ったのですが、
親子以上に似ています。何なんでしょう、この「顔面相似形」は!
 
それはそれとして、以下、<ジグザグ三部作>の最後、『オリーブ林をぬけて』の
感想となります。思いっきりネタバレしているので未見の方はご注意を。


冒頭は『そして人生はつづく』を撮影した「監督役」の自己紹介から始まります。
もちろんこの人はキアロスタミ本人ではなく、後に『桜桃の味』で最後の説得に
あたる役者さんです。前作を「虚構化」する意味合いに満ち満ちた冒頭です。
引き続いて『そして人生はつづく』撮影の裏側が語られてゆくのですが、
この作品は「映画を撮る映画」、すなわちフランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』
のごとく、「バックステージもの」になっているわけですね。
をいをい、ちょっとやりすぎだろとは思いつつも、
この「あざとさ」があってのキアロスタミです!

さて、この作品でメインとなるのは、前作に出演した、地震の翌日に結婚式を挙げた夫婦。
しかし実際は、この二人は結婚などしていないのです。
逆に、男は彼女に何度もプロポーズしているにもかかわらず、
どうにもこうにも彼女がうなずいてくれません。
つまり、前作の設定は純然たる作りごとだったのです。

彼女は高等教育を受けたので読み書きができる。
一方、男は小さいころから大工見習いとして働いてばかりで読み書きはからっきしダメ。
だからこそ男は彼女と結婚したいのだが、それゆえに彼女は男と結婚したくない……

世の中ちぐはぐでうまくいかないものですねえ。
その後の展開としては、

くよくよした男は、監督に身の上話をやたらとする。監督はその話に耳を傾けるのみ。
男と彼女は『そして人生はつづく』のかのシーンで共演するのであるが……

作品後半は、メタフィクションにつぐメタフィクションで、
<ジグザグ三部作>の最後にふさわしい展開になっていますね。
成長したアハマドプール少年も出ていて、ちょっとうれしくなりました。

ここまで見ていると、ふと「外挿」という言葉が頭をよぎりました。

もとは統計学の用語で、ある複数の要因から、それらの外にある別の要因を類推する
方法論だそうです。
たとえば、サル・ハエ・マウスのデータから、ヒトの挙動を予測するというのが
「外挿」にあたります。
ハードSFの世界では、「外挿」とは物語にSF特有の設定を導入することだとか。

そうそう「外挿」だ!『オリーブの林をぬけて』の骨格となっているのは。
前作に登場した二人の男女を取り上げ、別の物語をつむぎ出す。これですよ!
二つの撮影シーンをかみ合わせるあたり、キアロスタミの巧さを感じずにはいられません。

そして、話はかの撮影シーンの裏側からクライマックスへと進んでゆきます。

彼女はセリフの上でも男に「さん」付けしないために、何度も何度も撮り直される。
最後は男が監督に助言して、「さん」付けなしでいくことになった。
撮影の合間、男女は二人きりになり、男はしつこいくらいプロポーズする。
が、彼女は一言も発しない。撮影が終わって、彼女は一人で帰る。男は彼女を追いかける。

ゆるゆるとオリーブ林のなかを歩く彼女に、男は最後のプロポーズを試みる。
彼女はまだ口をきかない。
オリーブ林を抜けると、おなじみジグザグの坂道にさしかかる。
男は彼女を追いかけ、頂上の木の横で立ち止まる。

すると、彼女は遠い先にいる。大急ぎで男は追いかける。
カメラを動かさないものすごく引いたショット。徐々に距離をつめていく二人。
二人の姿が重なり合った瞬間、音楽が転調し、明るい結末を予感させる。

キアロスタミの真髄ここにあり!という作品でしたね。
ドキュメンタリー風の撮影スタイルに、さりげなくフィクションをすべりこませる。
それのみならず、フィクションの中にフィクションをすべりこませる。
物語の中に新たな物語を生み出す。
という、キアロスタミの「あざとさ」は天下一品だなあと感じ入りました。

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この記事へのコメント

1. Posted by ころり   2005年05月24日 12:04
「顔面相似形」がつぼに。腹いてー。そんなに似てるの?キアロスタミちゃんと写真見たことないからなぁ。ネットで見てみよう。
2. Posted by 丞相   2005年05月24日 23:26
もうチェックしたのかな?ほんとに、そのまんまです。
作風はぜんぜん違うのにねえ。

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