2007年08月02日

『ロボコン』〜火事場の理系力〜

Robocon『ロボコン』DVD  

「ロボコン」公式サイト(NHK)

監督:古厩智之
出演:長澤まさみ 小栗旬 伊藤淳史 塚本高史 鈴木一真 須藤理彩ほか

 


【あらすじ】(goo映画より)
里美(長澤まさみ)は、「めんどくさい」が口癖の高等専門学生。居残り確実の里美に、担任が提案した引換条件は、第2ロボット部に入ってコンテストに出場すること。メンバーは、エリート軍団の第1ロボット部からはみだした3人。気弱で統率力のない四谷部長(伊藤淳史)、協調性ゼロの天才設計者、相田(小栗旬)、技術はピカイチでもユーレイ部員の竹内(塚本高史)。嫌々参加したはずの里美だが、試合に負けても気にしない部員たちを見て、根っからの負けず嫌いに火がついた!


昨今の新書ブームの中、『生物と無生物のあいだ』という本の評判が良いようです。
DNA研究初期の歴史に、著者の研究歴を流麗な文章で重ね合わせた構成で、
キーワードは「動的平衡」とのこと。
果たして実際はどういう本なのかと気になって、書店で立ち読みしてみました。

すると、書かれてあることは裏話を含めて、すべて私の知ってることばかり。
ミステリー小説にたとえるならば、真犯人だけでなく、犯行経過も逐一分かっている上で
読み進めるようなもので、とても乗り切れるような内容ではありませんでした。

書かれている内容に別段反論はないのですが、書かれていない内容に
もっと凄いネタがあるにもかかわらずスルーされていたことに何より引っかかりました。
その一つは、バーバラ・マクリントックが発見した「トランスポゾン」の概念です。
よくトウモロコシには粒の色がまちまちなものが存在するのですが、
マクリントックはその原因が動く遺伝子「トランスポゾン」によることを、
1940年に発見しました。
これは『生物と無生物のあいだ』で「unsung hero」とたたえられているエイブリーが、
DNAが遺伝物質であることを証明するはるか以前のことです。
トランスポゾンの存在を証明した1950年という時期も、ワトソンとクリックによる
DNA構造の解明に先立っています。
つまり、バーバラ・マクリントックの発見は、DNAが何たるかも分かっていない当時の
分子生物学の最前線の、さらに30年先を行くものでした。
そういう意味で、数ある分子生物学の発見の中でも、私はトランスポゾンの発見を
何より評価しています。

もう一つの大発見は、「岡崎フラグメント」です。
2本鎖あるDNAが複製されるときの片方の鎖、厳密に言えばその片方の鎖の前駆体を
「岡崎フラグメント」と呼ぶのですが、名前の通り、日本人によって発見されました。
発見した岡崎令治は、利根川進より先にノーベル医学生理学賞を取っていたことは
間違いなかったのに、早逝したのは残念なことです。
ともあれ、人類が地球上に生きているかぎり、DNAの片側に日本人の名前が冠せられて
いることは驚くべきことだと思います。

いやしくも分子生物学を扱う本であるならば、本筋からやや外れたとしても、
この二つのネタばかりは盛り込んでほしかったものです。

本の売れる要因もいろいろあると思うのですが、この本がウケている一番の要因は、
日本人の大多数に通底する「理系コンプレックス」によるものだと、
私は踏んでいます。
「理系コンプレックス」は「英語コンプレックス」と双璧をなすものですから。
高校時代の、文系か理系かの進路選択は、数学が苦手(得意)だから文系(理系)
という風に、ほとんどの人が数学の出来不出来で決断していたはずです。
その、数学ができないという「落ち武者感」が記憶のどこかに残っているのでしょう。
ちなみに、私は一応理系だったのですが、受験生時代、模試では国語の成績が一番良く、
数学がぶっちぎりで悪かったものです。数学は「理系のたしなみ」程度しか
できないので、私も心のどこかで数学の「落ち武者感」があるかもしれません。


映画も新書と同じように、たまに「理系もの」がくると大ウケするという傾向があります。
ストーリー面で理系的な映画といえば、今公開中の『キサラギ』、
そして何はなくとも『サマータイムマシン・ブルース』ですね。
『サマー〜』はちょうど今が見るのに絶好な時期とあって、お盆には再見するつもりです。
題材面だと、この『ロボコン』になるでしょう。大筋は思いっきり文系的な、
『リンダ リンダリンダ』のノリそのままの、さしたるストーリーもなくダラダラと
展開していくのですが、ロボコンバトルが良いアクセントになっていました。

私はNHKで放送されるロボコンが大好きなので、この映像そのままの作りだったこと
に満足できました。ドキュメンタリータッチの、引き気味の映像が効いていました。
土壇場の切り返しも、映画的というよりも、NHKのロボコン的で良かったと思います。
敵の戦術に柔軟に対応したり、トラブルにもアイデアで切り抜けるのがロボコンの
醍醐味だったりします。

キャスト面でも、今見ると豪華なものでした。
伊藤淳史は芸歴が長いにもかかわらず、初々しさというか世慣れない感じを醸し出せる
のは凄いと思います。先日の「27時間テレビ」のロケでも始終オロオロしていたので、
これが素ならば見事というほかありません。

それに、この映画のキャストといえば、長澤まさみなくしては成り立ちません。
おそらくこれが長澤まさみのベストアクトではないでしょうか。
半月前の福岡旅行のとき、ホテルのTVで放送されていた『涙そうそう』をなにげに
最後まで見ていたのですが、超弩級のつまらなさに絶句してしまいました。
「鼻つまみ泣き」、このネタ一発勝負に出た作品としか思えません。
そのリバウンドもあってか、『ロボコン』の長澤まさみは良く見えたのですが、
それもこれも、アジア映画のスタンダードである「えんじ色ジャージ」を
着ていたのも大きなポイントになりました。
アジアの女優でジャージストといえば、ペ・ドゥナがぶっちぎりだと思いきや、
長澤まさみはペ・ドゥナと肩を並べるほど、強力なライバルになりそうです。
さらに『ロボコン』では、ほかのアジア映画には見られないジャージの「重ね着」を
しているのがオリジナリティにあふれていました。
ジャージの上から作業着、もしくはかっぽう着をまとうというのは、ほかの映画に
見られないものです。作業着&かっぽう着の間からチラチラと見えるえんじ色ジャージ
というのも、新鮮な感じがしました。
ロボコンという題材よりも、青春映画というよりも、アジア映画の「えんじ色ジャージ史」
に新たなる地平を開いたというのが、この作品の意義とすら思えてしまいます。



pfwfp at 21:23│Comments(0)clip!日本映画 

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