2008年07月28日
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』〜ゆる巴里時光〜
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』公式サイト
(『赤い風船・白い馬』公式サイト内)
監督:侯孝賢
出演:ジュリエット・ビノシュ イポリット・ジラルド シモン・イテアニュ ソン・ファン ルイーズ・マルゴランほか
【あらすじ】(goo映画より)
人形劇作家であり、優れた人形劇師でもあるスザンヌは、7歳になる息子サイモンと暮らしている。シングルマザーの彼女は新作劇の準備に追われる毎日。下の住人とのトラブルや、別れた夫とのやりとりなど、日々の煩わしさから非常にナーバスになっていた。スザンヌはサイモンをベビーシッターに任せることに決め、映画学校の生徒である台湾人のソンを雇う。孤独なサイモンをじっと見つめていたのは、パリの街を漂う赤い風船だった。
シネスイッチ銀座で見た『赤い風船』のラストシーンにいたく感銘を受けたあまり、
その後の回で上映された『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』も
勢いで見ることにしました。この作品は、およそ一年ほど前から日本での公開を
待ちわびていました。オルセー美術館の「企画もの」作品、かつパリを舞台にしている
とあっては、『珈琲時光』のパリ版というイメージを持ちながら作品に臨みました。
『赤い風船』を見てから一時間も経たないうちに見たこともあって、
『ホウ・シャオシェンのレッドバルーン』の冒頭に現れる赤い風船に、
まずやられてしまいました。
続いて、子供が乗った電車の走るショット!とくれば、これは『恋恋風塵』
を思い出さずにはいられません。
『赤い風船』にオマージュを捧げつつも、きっちりと過去作品を織り込む
この冒頭数分だけで、侯孝賢作品好きにとってはグッジョブ!と言いたくなるほどです。
また、侯孝賢は子供の演出にかけては世界でもトップクラスの監督であるので、
あとはジュリエット・ビノシュの演技と、パリの街並みといった点にポイントを置いて、
その後に続く、おなじみのゆるゆるとした展開を味わいました。
映像面では、いつもながらの「光線設計」、すなわち、手前が暗く、奥が明るい
という光の配置が、ことに室内のシーンで見られました。プラスアルファ、
小津作品のように「赤」をポイントに置いたり、ウォン・カーウァイ作品のように
「ガラス越しのショット」を多用しているというのは、新機軸の要素になるかも
しれません。
音楽は『珈琲時光』とは違って、作品の雰囲気とマッチしていたと思います。
通して見ると、『珈琲時光』と同じように、名作にオマージュを捧げつつも、
それ単体として侯孝賢作品にほかならないという仕上がりになっていて、
私は『赤い風船』に負けず劣らず満足してしまいました。
赤い風船のポジションは、オリジナルは少年の「友だち」であるのに対して、
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』は、少年を含めた登場人物たちの「観察者」
であるというの点で、大きく違っていると思います。
侯孝賢の演出は、是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』すら作為的に思えてしまう
ほど自然というのも驚くべきところでした。
とにもかくにも、侯孝賢好きには満足ができること間違いなしで、
そうでない人はドン引き必至の作品になるでしょう。
せっかく東京とパリを舞台にした作品がある以上、そう遠くないうちに、
ニューヨークを舞台にした侯孝賢作品が企画されることを期待しています。