2009年04月26日

『グラン・トリノ』〜タオと魔法のクルマ〜

GRAN TORINO『グラン・トリノ』公式サイト

監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド ビー・バン アーニー・ハー クリストファー・カーリー コリー・ハードリクト ブライアン・ヘーリーほか

 

【あらすじ】(goo映画より)
朝鮮戦争の帰還兵ウォルト・コワルスキーはフォード社を退職し、妻も亡くなりマンネリ化した生活を送っている。彼の妻はウォルトに懺悔することを望んでいたが、頑固な彼は牧師の勧めも断る。そんな時、近所のアジア系移民のギャングがウォルトの隣に住むおとなしい少年タオにウォルトの所有する1972年製グラン・トリノを盗ませようとする。タオに銃を向けるウォルトだが、この出会いがこの二人のこれからの人生を変えていく…。


「映画」という概念自体が、かなり変質しているので、何を指して映画の可能性と呼ぶか、判然としないが、私としては、ひとりの作家の本当の「個性」が焼き込まれているものが、「映画」だと思うし、個人の「無秩序」が許される場所が、映画という場所だと思っている。
――市川準監督『buy a suit スーツを買う』プログラムより


イーストウッド御大の作品で、私が初めて見たのは『スペース・カウボーイ』、
それはリサイタルホールで開催された「朝日ベストテン映画祭」でのことでした。
その時は、「チーム・ダイダロス」のメンバーたちの奮闘や、
ラストの「Fly Me the Moon」がいたく気に入ったのですが、
それからしばらくはイーストウッド御大の作品から遠ざかり、
『ミスティック・リバー』も、気がつけば劇場スルーしていました。
ようやっと『ミリオンダラー・ベイビー』からイーストウッド作品をかかさず見ています。
現時点で一番好きなイーストウッド作品は『スペース・カウボーイ』、
作品として最高傑作だと思うのは『父親たちの星条旗』です。

今年は『チェンジリング』に続き、『グラン・トリノ』がGWに公開されるということを
年の初めに知ったので、劇場公開を待ちわびていました。
そしてGW後半にはいろいろと予定が詰まっているので、
シネマライズの『ウェディング・ベルを鳴らせ!』に続いて、
さっそく『グラン・トリノ』を見た次第です。
本来ならば、ホームグラウンドである品川プリンスシネマで見るはずなのですが、
『グラン・トリノ』は松竹系映画館で公開されるので、
「歌舞伎会カード」でお安く見られる、有楽町の丸の内ピカデリーで鑑賞しました。
初日なので、かなりの混雑を予想していたのですが、いちばんキャパの大きな劇場
を使っていたこともあって、前席のほとんどが空いていました。
年齢層も、割と高めだったと思います。

さて、作品の内容はというと、静かな導入部は『チェンジリング』と同様で、
ウォルトの人となりがそれだけでうかがえます。
ウォルトの「頑固じいさん」ぶりが目一杯披露され、
中盤以降に心境の変化が訪れるという大筋は、
ディケンズの小説『クリスマス・カロル』のストーリーそのものです。
日本映画なら、『パコと魔法の絵本』もそれにあてはまります。
公開前の各種宣伝では、ウォルトとタオの交流がクローズアップされていたのですが、
私は、ウォルトと、タオの姉スーの交流にぐっときてしまいました。
このような「おじいさんと女の子」の出会いは、おなじみ「ボーイ・ミーツ・ガール」
の変形バージョンにもなるでしょう。

その他、随所に散りばめられたユーモアなど、良いところは拾いきれないほどあるものの、
つまるところ、私はこの作品を、イーストウッド御大にとってのパーソナルな話、
言い換えると、イーストウッド御大が自分のためにつくった作品であると解釈しました。
アメリカ映画で朝鮮戦争のエピソードに触れられるのを見たのは、
個人的にこれが初めてだと思います。
ベトナム戦争を経験したというキャラクターなら、『ノーカントリー』や
『ランド・オブ・プレンティ』などがあるのですが。
何度となくある「星条旗の写り込み」も、「アメリカ=俺」式に、
ウォルトのキャラクター、ひいてはイーストウッド御大のキャラクターを
「アメリカ」とオーバーラップさせている印象を受けました。

こう思ったのも、冒頭に挙げた市川準監督の文章の後半が、

だから、映画を愛する人のすべてが、自分の為だけに映画を作ることができるし、その「固有」の映画の創造を阻むものがあってはいけないと、基本的に思う。そして結局、作ることと作らないことが、等価である位に、絶対の自由を謳歌している映画だけが、人をうつことができると思うし、そういう「解放区」にだけ、いま「映画」の可能性があるような気がする。

と記されていたことに多分に影響されています。
市川準監督は、図らずも自主制作作品『buy a suit スーツを買う』が遺作となったの
ですが、イーストウッド御大も、『グラン・トリノ』が「俳優としての遺作」になると、
いろいろなメディアで語っています。
もしそれが本当なら、『グラン・トリノ』は「俳優としての遺作」にふさわしい作品
だと思います。かのラストは、ネタバレにあたるので具体名は挙げられませんが、
去年の末から春先にかけて全国に順次公開されて話題になった、
私も惜しみなく絶賛をした某香港映画のラストを思い出してしまいました。
その作品はマカロニウエスタンの系譜に連なるものでしたが、
イーストウッド御大自身、マカロニウエスタンの歴史を体現している人なので、
そのようにシンクロしたのかもしれません。
言うまでもなく、クストリッツァの『ウェディング・ベルを鳴らせ!』と並んで、
今年最高峰の作品であるのは間違いないでしょう。
これぞ映画だ!と絶賛したい、「考えるより感じる」タイプの作品であると思います。



トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 『グラン・トリノ』  [ Rabiovsky計画 ]   2009年04月30日 21:55
映画『グラン・トリノ』オフィシャルサイト 監督・製作:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド 、ビー・バン 、アーニー・ハー    クリストファー・カーリー 、コリー・ハードリクト 、ブライアン・ヘーリー 2008年/アメリカ/117分 お...
2. 西部劇としての『グラン・トリノ』  [ Days of Books, Films ]   2009年05月02日 12:16
『グラン・トリノ(原題:Gran Torino)』を見終わって思った。クリント・
3. グラン・トリノ  [ Akira's VOICE ]   2009年05月03日 16:48
道に迷う全ての人に向けた人生講座。  
4. 映画『グラン・トリノ』  [ trivialities ]   2009年05月06日 18:35
【4月25日特記】 映画『グラン・トリノ』を観てきた。4月も下旬にして今年初めての外国映画である。が、別にとりわけこの作品に惹かれてということではない。たまたまペア鑑賞券が当たったのである。 しかし、
5. 『グラン・トリノ』  [ 京の昼寝〜♪ ]   2009年05月13日 12:51
□作品オフィシャルサイト 「グラン・トリノ」 □監督 クリント・イーストウッド □原案 デヴィッド・ジョハンソン □原案・脚本 ニック・シェンク □キャスト クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー、クリストファー・カリー、コリー・ハードリクト...
6. 「グラン・トリノ」すべての人へ…見てください!  [ シネマ親父の“日々是妄言” ]   2009年05月15日 11:18
[クリント・イーストウッド] ブログ村キーワード   クリント・イーストウッド4年ぶりの主演、そして監督作、「グラン・トリノ」(ワーナー・ブラザース)。終焉の時を迎えた男が選択する“人生の幕の降ろし方”に、熱い涙がこぼれます。  妻に先立たれたウォルト(...
7. 『グラン・トリノ』  [ cinema!cinema! ミーハー映画・DVDレビュー ]   2009年05月21日 14:07
クリント・イーストウッド監督・主演の最新作『グラン・トリノ』を観てきました。 評判に違わぬ素敵な作品でした。最後の方は本当に涙、涙。。。 ******************** 『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』の巨匠クリント・イーストウッド監督が、...
8. グラン・トリノ-映画:2010-  [ デコ親父はいつも減量中 ]   2010年09月23日 23:23
監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー 評価:85点 おんとし78歳ながら、監督・主演で頑張る爺さん、クリント・イーストウッド。 街で悪さをする若造たちに凄みを利かせるのはいいの....

この記事へのコメント

1. Posted by rabiovsky   2009年04月30日 21:55
こんばんわ!
いやいやいや、やっと見てしまいましたよ。
素晴らしいの一言に尽きますね。
最近、このような感覚になることが少なかったので嬉しいと共に
イーストウッド御大に圧倒されました。
この映画、ウォルトとタオの交流が主となるのでしょうが
(その部分も嫌いではないですが)私もウォルトと、タオの姉スーの
交流の方がぐっときました。
タオの姉のスーがそれほどカワイイ容姿ではないにもかかわらず
物語が進んでいくにつれ、魅力的に見えてくるんだからなんともスゴイ
ものです。イーストウッド御大ここにあり!という感じでしょうか。
2. Posted by 丞相   2009年05月01日 08:12
>>rabiovskyさん
いつもTBありがとうございます。
『チェンジリング』も素晴らしい作品だと思うのですが、
『グラン・トリノ』はさらに輪をかけて素晴らしいですね。
私も、『愛のむきだし』以外はガツンとやられるような作品が
なかったので、『グラン・トリノ』と、その直前に見た
クストリッツァの『ウェディング・ベルを鳴らせ!』には大満足しました。
イーストウッド御大は、もう「人類最高の映画監督」と断言しても
いいとすら思います。

現在発売されている雑誌では、『ユリイカ』でイーストウッド特集を、
『文學界』ではハスミン&中原昌也&阿部和重の『グラン・トリノ』対談
がありますよ。
『文學界』の対談でも、ウォルトとスーの交流のことが触れられていました。
やはり、どちらかといえば可愛くない部類の容姿のスーを、あれほど
魅力的に見せるのはただごとではないですね。
もし『グラン・トリノ』がイーストウッド御大の出演作の最後になったならば、
それはそれで寂しいのですが、最後の作品としてはこれ以上ない傑作
だと思います。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔