今回でプロローグ終了で本編入り。
相も変わらず強引な入りなのであった。
後で書き直すかもしれない。

1972年○月×日 筆:竹井久

私たちがここに来て数ヶ月。
ようやく一息つくことが出来そうなので、これまでの動きをまとめる意味で記録しておく事にした。
私たちは麻雀を打とうとして見知らぬどこかに辿り着いた。
・・・こう書くと何かの冗談のようだ。
原因は言うまでもなくあの雀卓。
件の雀卓を調べた所、四方の点棒入れにそれぞれ小さな紙が入っていた。
そこには1つの文字が書かれており、4つを合わせて意味が通る形になっていた。
文字は「天」「下」「一」「統」の4つ。
天下一統、はたまた天下統一か。
これを天江さんが天啓であると言い始め、私自身も「この状況には何か意味があるはず」と考えた。
他の2人も困惑してはいたものの、当面は同意してくれた。

そもそもの疑問として「天下統一とは何か?」という意見に一致したので、私たちは周囲の散策に出た。
どうも都会から遠く離れてしまった所に来たようで、近代的な物は何一つ見当たらない。
近くに住んでいた人にそれとなく話を聞くと、今は元亀3年らしい。
元亀3年がいつだか分からない私は福路さんと共に首を傾げていたが、ゆみ曰く、それは1572年の事らしい。
1572年・・・それを聞いた時には頭がどうにかなりそうだった。
400年以上前にタイムスリップしてきて、やらなければならない事が天下統一。
この時代といえば、織田信長とか豊臣秀吉とかが活躍する時代のはず。
そんな彼らを打ち倒して天下統一なんて出来るはずがない。
普通だったらそうだ。
でも、だからと言って諦める事が出来るのか?
いや、出来はしない。

「皆、ここで逃げたりなんかできないわよ」

私は語った。
私たちが元の時代に戻る為には天下統一へ向かうしかない。
元の時代には私たちを待つ仲間がいる。
こんな所で朽ち果てるわけには行かない。
なら、天下統一を目指そうと。
私の決意は固さを見たか、ゆみが折れ、天江さんもそれに続いた。
福路さんはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げ、「上埜さん、頑張ってください」などと応援の言葉を口にした。
私は「何言ってるの? 当然、福路さんにも手伝ってもらうからね」と返した。
どうも、彼女は自分が役に立たない人間だとか過小評価する傾向にある。
少しずつ矯正していく必要がありそうだ。

さて、それからの私たちは異国の遊戯を広めにきた一団を名乗り、手近の武田軍に召抱えられた。
「日ノ本に麻雀を広める竹井久の団」、略して「HHH団」。
我ながら良いネーミングだと思うのだけれど、他の3人からは苦笑いされたわねー。
ともあれ、武田軍に抱えられるにあたり、色々試した。
私の話術、ゆみの手回しでそれなりに頑張った。
ただ、最も効果があったのは天江さんと連れ立って武田領内の町民の手伝いをしていた福路さん。
彼女のおかげで私たちの評価は鰻上りで色々とやりやすくなった。
それでさえ、自分は何もしていないと言うから謙遜にも程がある。

武田家に召抱えられた私たちは麻雀を広めた。
皆、麻雀が楽しいものだと分かったようで、武田領内ではブームになったようだ。
ただ、私たちの目的は戦国時代に麻雀を広める事ではない。
ここでも色々水面下で動き、高坂昌信という人から軍略・政治の手解きを受けた。
もちろん、これからの戦乱に身を委ねる事を想定しての事だ。
軍略を覚えるのは中々面白い事であり、私としては結構な速度で習得したと思う。
そろそろ自分の領地を持ちたいわね。
皆の所に戻る為に。



「……こんなところかしら」

私は日記を閉じる。
書くべき事はあらかた書いただろう。

「久、ここにいたか」
「あら、ゆみじゃない。どうかしたの?」

ゆみがそんな時に声を掛けてきた。
ベストタイミングと言うべきかしら。
何やら探していたようだけれど。

「実は高坂殿から御館様へ謁見するように指示されてな」
「高坂さんが?」

高坂さんというのは日記にも書いた高坂昌信という人の事。
なんでも武田四天王という家中有数の実力者らしい。
そういえば、天江さんが春日虎綱でなければおかしいと首を傾げていた。
国文学者である親御さんの影響で古典関連は読み漁ったという話なので、その話も嘘ではないだろう。
とすると、この世界はパラレルワールドか何かか。

「久、考え込んでいる場合ではないぞ」
「ん? ああ、ごめんごめん。じゃあ会いに行きましょうか」
「まったく、他の2人は先で待っているんだからな」
「ごめんって言ってるじゃない」

さてさて、笑壺の会となるかしら?

◇ ◇ ◇

大広間には2人の男の姿があった。
武田信玄と高坂昌信。
ここ躑躅ヶ崎館にいる中では最も重要な2人である。

「それで昌信、彼の者たちの状況はどうか」
「はっ、軍略及び内政の根幹たる部分は指導し終えました」
「そうか……」
「しかし、あの者たちを前線に出すとは正気ですか?
 年端も行かぬ娘4人なのですぞ」

昌信としてはどうも信玄があの者たちを特別視している節を感じる。
それが気に食わないというか、不可解でならない。

「何も起こらなければただそれまでよ。娘4人死なせたところでどれほどの犠牲もあるまい」
「しかし、御館様の名声の低下や配下の不信を招きましょう」
「なに、他の大名も余興としか思わん。
配下に関してはこれしきの事で去るのであれば、別に止めはせん。
それとも何か。お前もこの武田家を去るか?」
「いや、滅相もございませぬ!」

昌信は深く頭を下げると共に自らを恥じた。
たかだか娘4人の為に御館様の意向に逆らう道理もない。
それを行うは自らも不服と思っていた証である。

「……なに、心配するな。これはわしの勘よ」
「勘……でございますか」
「彼の者らには何やら不思議な気を感じる。
 きっと我が武田家の為になるであろう」
「……そこまで仰るのであれば、あの者たちの行く末、見守る必要がありますな」
「うむ」

会話に一段落着く。
久らが現れたのはそんな時のことだった。

「竹井久他3名、謁見に参上いたしました」
「久よ、よく参ったな」
「いえ。それで、ご用件は?」

久は信玄の方を見上げて尋ねる。
信玄はその言葉に大きく頷きながら口を開く。

「うむ。実はそなたらに城を預けようと思うてな」
「城……でございますか?」
「いかにも。そなたら4人には飯田城を治めてもらう」
「飯田……」
「飯田城には近衛直春という者がいるのだが、最近病がちで医者から余命幾ばくもないという宣告も受けておる。
 そこで、そなたらが直春に代わってそこを統治するのだ」

飯田城は躑躅ヶ崎館より西、道としては北は深志城に繋がり、南は浜松港に繋がる。
対徳川戦線では比較的重要な位置にある。

「それで、私たちがそこで行うべき事は?」
「切取勝手次第だ。久よ、そなたの思うようにするがいい」
「分かりました。謹んでお受けいたします」

こうして竹井久率いるHHH団は飯田城に向かう。
戦いはまだ始まってすらいない。
彼女ら4人はそれぞれの思惑を抱え、道を歩き始めようとしていた。

To be continued...