静岡県

2016年03月16日

静岡の日本一な所 2

雨上がりの空の下 十分な休養を取ったボクの足取りは軽い

こう配の続く旧東海道の菊川 金谷一帯は 茶畑に石畳の
タイムスリップしたような のどかで 昔と変わらないだろうという道が続き
遠くに富士山も見える
649
金谷付近からの富士山は写真じゃわかりにくいがきれい

647
小夜の中山公園付近まで急こう配の道が茶畑を縫うように続く

大井川を渡り 島田 藤枝を歩き 宇津ノ谷峠を超え 目標の静岡駅の
セントラル地区までの40キロは よって苦もなく歩けた

673
宇津ノ谷峠を越える所 分かれ道だが
トンネルは大嫌いなのでつたの細道をチョイス

苦もなく なんていうと 涼しい感じで
気取った印象を与えるかもしれないので
実際40キロって言ったら大変疲れる長さに間違いないのが
正直なところだけど 場合によっては 本当に楽しく
苦もなく歩けてしまう距離にもなる
掛川から 静岡駅までの この時の約40キロは まさに
ボクにとって 苦が吹き飛ばされる道だった

というのも どういうわけだが 疲れてくると
ボクを励ます人達と行き違う
まるで どこかですでに出会ったような人達で
彼らは ボクと同じように 東海道を歩くバカ野郎たちだ

バカ野郎なんて言い方は 大変失礼だけど ボクがバカ野郎だから
彼らもまたバカといって 全く問題ないと思う

もうすれ違う大分手前から プンプン臭う
独特の臭気を発し お互いがお互いの
嗅覚で テレパシックに感応しあい 獲物をとらえる様に
もう目が離せない状態で 距離を徐々に縮め接近遭遇し
自然と笑みがこぼれて頭の中じゃ

おおぉ 兄弟よ
 
なんて 真っ白な半紙の上を 滑らかに走る筆書きの文字が
ダイナミックに 飛び込んで おでこ一杯にベタッと 貼りつく瞬間
は何ともいえないトキメキだ
そんな時の 気持ちの昂ぶりって言ったら
そうとうなハイテンション状態だ

自然と握り合う手
握りつぶしちゃうくらいのグリップの強さ
繋がって強力なエネルギーが供給され 共有され
満タンになる

人は パンのみじゃぁ 生きられない

って言ったのはイエスキリストだけど 全くその通りだよと
つくづく感じる瞬間がここにある

食べ物を食べて満たされる という 理屈の その先にある
エネルギーは 人々の 見えない 気持ちという乗り物に乗って
運ばれて吸収されて 元気になったり 悲しくなったり
優しくなったりするものなのだね
ボクは そういうものに生かされている
と 感謝しながら歩いていく

会社を定年退職して 念願だった東海道を 一人ゆっくり歩くなんて
ご年配の方もいた

歩くだけじゃ物足りないと 一人東海道マラソンをしている人もいた

みんなボクの疲れを吹き飛ばすエネルギーで満ち溢れていた
生きているんだ 彼らも そしてボクも って感じだった

手越原の交差点の所で 旧東海道の208号線を 安倍川橋を渡る予定で歩く
旧東海道の見分け方は簡単だ
一部でも 大分でも松の並木道になっていたら
間違いなくそこは旧東海道ということだ
どうせ歩くなら 旧東海道を歩きたい 昔の人達の想いに近づけるから

ここらあたりで 一発道を尋ねておかないと と タイミングを計って
探していると 丁度犬の散歩をしている
道を訊いても大丈夫そうなおじさんがいたので
丁寧に さくら湯のロケーションを訊いてみた

さくら湯っていうのは ボクが静岡で必ず立ち寄る銭湯の事で 静岡駅周辺じゃもう
二軒しか残っていないうちの一軒がさくら湯でスーパー銭湯が増えていく中で
辛うじて 昔ながらの 昭和のにおいプンプン漂う お気に入りの場所である
さくら湯の 昭和感は昭和生まれのボクにとってオアシスだ
浴槽は2つあって 普通のと 泡ぶろがある
ちょっと 熱いくらいの湯加減
それが絶妙に ボクの疲れた体をほぐしてくれる
間違いなくプロの仕事をしている 確かな銭湯 それがさくら湯だ

もう毎回行くのが楽しみでね 靴箱も ロッカーも 体重計も 按摩椅子も
みんな 一つ一つ見るのが楽しみなんだ
で 結局 ボクは 1年に1度やってくる 名物おやじの称号なんかが欲しいのさ
そんで 最終的には

あらいらっしゃい もうそんな時期かねぇ

なんて俳句の季語的な扱いを 受けたいと願っている
そんなことを思いながら 掛川から歩いてきたんだが
いつもは 東京から 静岡に向かう時の道で覚えて来たので
今回のように 伊勢帰りの道となると ちょっと分からなくなっていたので
道を尋ねることにしたのだなにしろ 静岡駅周辺じゃ 希少な銭湯だから
誰に聞いてもすぐにわかるだろうと思って
いたのにそのおじさんは知らないという
随分丁寧に 考えてくれていたけどちょっと分からないなぁと
申し訳なさそうにしておじさんは立ち去って行った
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安倍川橋からの安倍川

まぁいいや なんて 安倍川橋にさしかかり 橋の上を歩く
渡った向こうは 静岡セントラルで さくら湯は セントラルの外れの
地元密着商店街の一角にある またどこかで人に訊こうなんて思っていたら

あれ さっきのおじさんが 橋のたもとに 先回りして立っていて
ボクに話しかけてきた

聞くと おじさん あれから家に帰って 家族にさくら湯の情報を聞き出し
車を まわして 橋の向こうへ先回りして ボクを捕まえて 車に乗せて
さくら湯まで 連れて行くと

こういうのだ
まるでそうすることが当たり前のような
見返りを望まない菩薩の笑みを浮かべている

菩薩だよ 静岡の人々は どこまでも人に優しく温かで
他人に対する不信感というものがないのかとショックすら覚える

そんなこと ボクがいくら隙とはいっても 同じことできないよ
だけど このおじさんの この静岡の優しさに触れた今
これからのボクの人生で もし ボクがおじさんと同じ状況に陥ったら
同じ優しさを 誰かにもしてあげたいと思うんだな

もちろんおじさんの車に乗る事はなかったけど
おじさんの親切は 一生消える事のないボクの宝物だから


つづく


さくら湯つきました
690
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2016年03月10日

優しい人々

5月12日(木) 東京を発って22日目

22:00少し前に S川さんも 黒ジャージの男も N島のおっさんも
みんな自分の車に戻っていった

朝まで1人 グッスリ眠った翌朝の 雨上がりの空に 仄かな期待を持ち
出発を考えていたところで 黒ジャージの男が 小脇に
インスタント焼きそばと 2台のケータイと ファイルを抱えて入ってきた
ファイルの中身は 就活セミナーに関する書類だ
2台のケータイの 内のワンセグ内臓の方でテレビをつけて
ニヤニヤして観ている

年齢不詳 見た目で推測するのは難しい顔だ
もしも若いとしたら 随分疲れている そんな顔だ
どうやら 北海道出身で 静岡で働いていたが最近リストラに会った
という話を昨日S川さんから聞いていた

今日の天気はどうだろうと話しかけたら 昼から100パー
豪雨になると教えてくれた
台風は温帯低気圧になったとつけくわえて 焼きそばをすする謎の男

さて‥‥行くか 行かないか‥‥と考えて また酒井雄哉大阿闍梨
ありがたいお言葉が ボクに届く

師曰く 人生は とどのつまり 死ぬか生きるか やるかやらないかの
2つに1つしかないちゅうことやね だ(師匠は関西人)

行くならとことん行く 行かないなら ねてりゃいい それだけの事
だからボクは 迷わず寝た

日が暮れて ここ掛川道の駅の休憩所に灯りが点く頃 雨の勢いは止み
久しぶりの三日月が うす雲の衣をまとって 朧な光を落とし
S川さんはその月光を受けてやってきた

まだいてくれたのか の笑顔で
室中に響く声は ボクのガラス窓の心を震わす大きさだ

S川さんは大きな体で大きな心を持っている 寂しい心を持っている
冗談と 冷やかしと Y談で一日喋る人だ
近くのスーパーで 半額に落ちたという弁当2つと ビール2缶(1L)を
スーパーの無料の氷で冷やして持ってきた

椅子にドカリと座ると
まだいるなら弁当買ってきてやりゃぁよかったなぁ
ゴメンなー 俺だけ食べるけど もう晩飯済んだのかぁ

って優しく気遣ってくれる人 それがS川さんだ
S川さんのおかげて ここはとても居心地のいい場所になっている
掛川道の駅で 繰り広げられる非日常な人間模様
色んな人がいろんな生き方をしている場所にボクは今いる

S川さんはビールを2缶飲み終えると 居酒屋に行こうとボクを誘い出してきた
これが最後の夜で せっかく知り合ったのだから
晩御飯をごちそうするといってきかないのだ

そこはS川さんの行きつけの 韓国居酒屋で
ビビンバ カルビ定食から 焼き魚定食 チヂミ キムチチャーハン
どれもうまいぞと 何でも好きなもの食わせてやると ビールを飲んだ
S川さんは 上機嫌で 強引だ

この休憩所から車で10分走ったとこだと 立ち上がるS川さん
に ボクは 断る理由を 色々並べた

お腹空いていないだの ビールを飲んで運転しちゃまずいだの
今日はS田が来るかもしれないだの
広げっぱなしの荷物があるだの‥‥と

そんなの関係なぁぁい車はお前が運転しろ 免許は持ってるな
荷物は絶対に盗まれない

気が付くと ボクはS川さんのパジェロを運転している

大丈夫ですか?
とボクがいうと 助手席で何が?と答えるS川さん

いや こんな風に 誘われて のこのこついてきちゃうボクというか
ハンドル握っちゃってるボクというか
こういう展開って そう人生にあるものじゃないから‥‥

たしかにそうないな と S川さんは豪快に笑いながら
オレの唄を聞くかと テープを流し始めた
五木ひろしの歌が流れたが その曲に合わせて 実際にS川さんが助手席で
歌うのを聴いた時 それは歌声そっくりで歌唱力あるS川さんの
自作テープだったと理解できた
 
やがて着いた居酒屋は 二言で言うと 清潔で清楚な店だ
経営者のママさんは 純粋で可愛らしいという第一印象
実際敬虔なクリスチャンで 厚い信仰心を持っている
シスターのように病める人を救う女性というところだろうか

3年日本で 店をやっているそうだが 日本語はあまり上手じゃない
細かい気持ちを伝えられないもどかしさがあると ママは嘆いているが
却ってその方がいいのだとボクは 思った
ママは言葉を使わず その分行動や動作 仕草で優しさとか
気遣いを表してくれるからだ

魚定食とウーロン茶を頂きながら 最初の話題はボクの事だ
S川さんはボクを紹介する時決まって 神と会話した男だ という
まるで見世物のような気持ちになる

やっぱりいうべきじゃなかったと思いながら
結局そういうヘンテコなところが S川さんの気を引いたのだろう
そんなボクを 隣で飲んでる どこかの会社の社長が

あなたは誰からも好かれる優しい顔をしている と ほめそやす
居酒屋でもやれば 繁盛間違いなしといい

ママに至っては とても優しい人は 沢山悩んで苦しんだ人だから
あなたは きっと沢山色んな経験をして答えを見つけた人だと

聞いていて 真っ直ぐ前を見れなくなるくらいの 褒められようだ
BlogPaint
沢山苦しんだボクと 心優しいママ

S川さんはもう この店に就職しろと言い出し始め
ママは 本気なのか 嬉しそうに オッケーサインをだし
その後で 真剣な顔で
この店には いとこの店長がいるのだが あまり真剣に店の事に取り組もうとしないし
客がいても不愛想なのだといいだす
実際 S川さんも その不愛想ぶりによく怒るそうだ

ママは真剣に ビジネスを拡張し 店舗を増やしていきたいと考えていて
S川さんも ボクがその気なら協力を惜しまないと 背中を押す
S川さんの協力というのは宣伝で 客引きで 自分が一番の常連に
なるという事だそうだ
BlogPaint
S川さんとボク

全くなんという気に入られようだよ 本気かどうか知らないけど
S川さんが 親切な人だという事は本当だ
口が悪く横柄で 怒鳴り散らしはするが 人間という生き物の
弱さとか 醜さとか いやらしさを知っているから憎み切れず
面倒を見てしまう
それは 誰より自分自身がろくでなしだと思っているからに違いない
S川さんは ボクの中にろくでなしを見ていたのだろうか‥‥

独身で 自由気ままで 仕事もしないで 神と話をするために
何日も歩いているバカ野郎だから当然だ
S田にしたって ボロクソに罵りはするものの
本気じゃないのはどこかで感じる

本気なら S田など とっくにやられてる
だから本当に苦しんで優しくなっているのは
ボクなんかじゃなく S川さんの方だ
中途半端じゃ いつまでも自分の事しか考えないものだ

22:30 S川さんは支払いを済ませ ボクの運転で何事もなく帰ってきた
荷物も無事 何も変わっていない休憩所で ボクとS川さんは少し話をした

お前 どこにも行くとこがなかったらあの店で働けよ
ママはお前なら働いてもいいっていったんだ
何も心配することなんてない
ちゃんと仕事をして落ち着くのも悪くないだろ
だがな もしも働くんだったら
ちゃんとオレに話を通さなくっちゃならない
それが礼儀ってやつだ わかるな? 勝手にお前と ママで決めるなよ

分かります ボクはそんな礼儀知らずな人間じゃありませんよS川さん

うむ

でもね ボクは働きませんよ ボクにはやりたいことがあるんです

なんだ

本を書きたい 沢山の人が読んでくれる本です

そうだったな お前 最初からそう言っていたよな でもな もしもだ

ハイ ありがとうございます

よし じゃぁ ねるか これでお別れだが またどこかで会う事があればいいな

そうですね

そういってボクとS川さんはお互いの番号を登録した

これで会えるな オレが東京にいく事があったら その時は会えるよな

もちろん会えますよ

S田の番号は消してもいいが オレのは消すんじゃないぞ

ボクは笑った

じゃぁ気を付けてな おやすみ

S川さんの大きな背中がドアの向こうに消えていく
そしてボクは翌朝5時 静かに出発した



つづく


すいません免許持たずに運転してました
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さびしい人々

637













静岡の茶畑

長野県つま恋でのイベントを S田が興行した時の事
S田は宝石貴金属を扱う ある女性を どこからか探してきた
沢山の客で賑わう会場で 出店すれば間違いなく売れる
大物歌手もすでに手配済みで チラシ ポスターには
お宅の店の宣伝もする
などと 上手く話を持ちかけて およそ40万のイベント費を
女性から引き出した

ところが実際に始まると 大物歌手などどこにもおらず
客は 5人ほど そこで歌ったのはS田とS川だけだった

これには女性も話が違うと さすがに怒った
返金を要求するも S田のらりくらりとかわし 一向に返す気配がない
女性は警察に行ったそうだが 実際にイベントが行われた以上
詐欺としてS田を逮捕することはできないそうだ
悔しかっただろう その女性は何度もS田のいるこの休憩所に足を運んで
よく言い争いを起こしていたそうだ
もう休憩所とは言えない修羅場と化したことも
包丁を握って 待ち伏せしている場面も
S川さんは 目撃したという

そのS川もまた 同級生が経営していた つま恋の宿泊施設を
S田に紹介したものの 彼が滞在した2週間分の宿泊代も踏み倒されたの事
S田は 心の弱い人間をかぎ分ける特殊な嗅覚のようなものを持っている
とS川さんは語る

そして法の隙間をかいくぐって 上手い話しにつられてしまう
人間を地におとしめる

そんなゴキブリ以下の クズ野郎と罵る
S川さん 歌がとても上手い
歌を唄うのが大好きなようだ きっとS田と同じ 歌手になることを
どこかで憧れていたんだと思う
そして彼もまたS田の誘いに乗ってしまったのだろうか・・・

大勢の人前で自分の唄を披露すると
緊張してうまく歌えないと語る S川さん
人一倍体が大きく(推定身長180体重100)迫力もある見かけに
対して とても繊細で 実際は心根の優しい人だ
653













こんな時期だった・・・

訊くとS田との付き合いは長いようだ
S川さんが S田をゴキブリ野郎と見下した決定打が つま恋詐欺事件
だが それ以前は 金の無心をされて時々1000円 500円渡していたという
大物プロデューサーだと 思い込まされていたのか
可哀そうな さびしい男と思ってのことなのか分からないが
そうやって面倒を見ていた やさしいS川さんも
つま恋で 紹介した友達の経営する宿にまで迷惑をかけた
という事には さすがに 許せなかったのだろう

よって S田は ゴキブリ以下の ゲス野郎呼ばわりされることになった

そうやって 細かいお金から大金まで踏み倒し続けるS田の居場所は
この休憩所と 掛川の図書館しかないという
昔持っていた車も免許もなくなった
原因は 車検切れの車を 更新切れの免許で飲酒運転したことによる
取り消し処分だそうだ

それ以来 足は自転車のみというS田は 雨の日はこの休憩所にはやってこないのだそうだ
S田のホームグラウンドである掛川市街地から ここまで自転車で40~50分の距離があるからだ
S田ほどの老体には 堪えるからだと S川さんは話してくれた

休館日や 閉館後はどこに行っているの と ボクが訊くと
さぁな あいつのことだ 上手い事いって 泊めてくれる女の2人や3人はいるだろうな
とS川さんは呟くようにいったその後で

なぁ 神様がいるなら どうしてそういう人間を懲らしめてくれないんだ?
えぇ?

いつしかS川さんはボクの名前を ちゃん 呼ばわりで
まるで とんちか なぞかけの時みたく 皮肉っぽい表情を浮かべて
問いかける

神を信じないS川さんが 神をの話をするなんてなんだか矛盾だ
信じていないのに S田を罰する神を願うなんておかしい

口では 信じないというS川さんだけど 本当は誰より信じているんだろう
ただ S川さんの信じる神は いつだってS川さんに
何もしてくれなかったんだろう
正義を助け悪を懲らしめる神様が S川さんの信じて求めてる神で
S川さんの人生に その神は一度もやってきてはくれなかった

働きもせず人からとった金で 騙し続けて楽して生きているS田と
S川さんは 思っているかもしれないけど

ボクから言わせれば そんなに苦しい地獄はない
ジメジメした石陰で 虫のように 怯えて生きているじゃないか
自分よりも弱くて優しい人間を騙して 真っ直ぐと 眩しい光を浴びて
歩けるわけがないじゃないか と思う

もしかしたら 本当は悪人なのではないのかも知れない
ひょっとしたら 功徳を施す機会を 普段功徳を施さない人に与えている
存在かもしれない
考えすぎかもしれないけど
人は 人をどこまで許すことができるのか
そういう 機会を与えている のかも知れない

どんなに悪い人だって どこかで誰かの役に立っているはずだ
親しい人や 家族や 愛する人のために 何かをしているはずだから

もちろんこんな話はS川さんの前ではしなかった
ただ S田さん こんな雨の日どうしてるんだろうな
っていったら

会いたいなら電話してやるぞ っていうから 慌てて断った
面倒臭い状況に陥りそうで 平和主義なボクには堪えるよ

雨は 一向に止む様子がない
この休憩所は 暖房も効いて 薄く曇っている窓ガラスの水滴を
ボクは 占拠したこの長椅子から眺めていた
普段は ここが S田の 指定席だそうだ

人間なんて皆 金持っている時はちやほやと ほめそやし 機嫌を取って
媚売って したてに出ては何とか取り次いで おこぼれを預かろうとするがな
金のない人間や 金のなくなった人間には目もくれない
利用価値のない事が分かった途端 態度が180度変わるんだ
信用できる奴なんて この世界には一人もいやしない

かつてのS田が語ったこの言葉を ボクは思い出していた
何故か印象的で忘れなかったのは S田がボクに 何度も
繰り返すように話していたからだと思う
そしてそれは S田の本音だろう 憎しみのこもった本音だ
多分おっさんは 吸い尽くしては 手のひらを返して去っていった人間達
への復讐の念で 旨い話しに群がる奴らを 相手に 仕返しをしているのだろう
騙される方が悪いと思いながら
騙す方も 騙される方も同類だと思っているのだ

つづく


誰かS田を捕まえて
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2016年03月07日

S田という男


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良い子はマネしない様に

以後 伊勢神宮参詣が続く限り 決して外せない重要な宿泊施設となった
道の駅掛川を 第一回伊勢参詣より 小泉屋の主によって導かれたボクは
3年連続 三度目の訪問を果たしたことになる

第三回目にS川氏と知り合う以前からS田という男を一応知っているボク

順番を付けると 野人 清水さん そして S田と続き
S川 その後にも 優しい静岡県民に救われていく

個性あふれる人ばかりが ここ静岡県ではボクを待ち構えているようだ

特にS田は一筋縄じゃ 縛れない有名な インチキバカ野郎らしい

というのはボクじゃなくて S川さんの言葉

確かに 怪しい人だった

初めて会った時S田は 図書館から借りてきているらしい
江戸時代の民俗について書かれた本を熱心に読んでいたんだ

言葉を交わし始めたら 音楽プロデューサー(主に演歌)を自称し
自らも歌手であるような話をし
過去の贅沢な暮らしぶりを 語り
来ていた服は 全部 アルマーニだった ような自慢話をし
挙句にその服は 全部 人にあげちゃったみたいな
話をしたかと思うと 取られちゃった ような 表現に
微妙に スライドして 最後は 色んな強欲な人間に対しての
嫌気や恨みを ボクに毒吐いていたっけ・・・

それから 東海道53次のうんちくを語りだし 全ての宿場の特色を
演歌ソングにのせて 一山当てるような一大プロジェクトを進行していて
そのために この道の駅で もう3か月も暮らしながら 地域に密着し
町内会にも積極的に参加しながら
その地の 古い言い伝えなんか収集してるなんていったかと思うと

もう3か月も 事任神社の境内を毎朝掃き掃除しているなんて
話してたっけ・・・

その理由をS田はボクに 突然刀が抜けなくなった と語った

え?何を話しているんだこの人?

なんて ハテナマークをぶら下げてよくよく聞くと

今度は 抜刀士 だと言い出す

要するに 居合の道を極めているところという
居合っていうのは 真剣を振り回して精神と刀を統一させる鍛錬だ

普段刀振り回してるんすか? と訊くと そうだと答える
ますます 怪しいおっさんだ

人は見かけによらないというが
S田の格好は トラサルディーのジーパンにアポロキャップという
ような

いわゆる 一昔前の 元ヤクザで今は肉体労働者なんて人達が
好んで着る コテコテの ワシや龍やトラなんかの 強い動物の
刺繍が 洋服から帽子から これでもかっ
ってくらいに主張している格好だ
(分からない人は 競馬場や競輪場やボートレース場 あるいは
日雇い建設労働者が集まる地域に行ってみてくれ)

そんな恰好で刀振り回したら事件だぞ
なんて怪しんでいたんだっけ

それから2年後の 第3回目の伊勢神宮からの帰り道に立ち寄った
この時に S川と出合ったことで 話は思いもよらぬ方向へ グインッと曲がっていく
もんだから 全く 出会いっていうのは人生におけるプレゼントだ
良くも悪くも 出会いは学ぶことが沢山ある

この道の駅で ボクとS川が出合い S田の話になった 事の始まりは
休憩室中の壁についていた 貼り紙が結び付けてくれた

貼り紙は ちょっと 他では見られないような 具体的な内容の注意だった

それによると

ある2人の常習者が 一般利用者から 再三にわたって苦情を受けている
2人は寝具を持ち込み この休憩所を完全私物化し 入ってきた利用客に
逆切れして まるで自分の家に入ってきた不審人物のような扱いで追い払う
どころか 相当な迷惑をかけている

と いう内容だ

そしてその 相当に 相当する迷惑とは金銭トラブルだとS川さんはボクに教えてくれた

おいおい・・・
誰だよその2人ってのは

1人はN島さんで そこにいるスーパーからかっぱらってきたことを
容易に想像させる 買い物かごを脇に置いて弁当を食っているおっさんだ

でもN島は一応自家用車を持っており 注意されて以来 この場所で寝ることはないそう
なので 休憩利用のみという事で解決している
問題はもう1人のほう もう分かっていると思う
S田だ

とんでもねぇゴキブリ野郎だ あいつの話100の中に1つの真実もありはしない
全部出まかせの詐欺師野郎だ 口だけは達者だから 自分を繕って良くみせる
事は天才的にうまい そうやって見ず知らずの人間から500円 1000円
掠め取って 野郎は もう8年近くそうやって生活していやがんだ

とS川はボクに話し始めた

演歌歌手目指して 五木ひろしなんかと同時期に オーディションを受けては落ちを
繰り返していたのは間違いないようなんだが
・・・歌はまぁまぁ上手いんだ オレも何度か聴いたからな
でも後の話は全部 嘘っぱちだ 作り話のイベント企画を持ち出しては
歌手を呼んであるとかいっては チラシを作って興行じみた事を持ちかける
だが それは金をだまし取るための奴の手口だ

そうして実際にS田が行った 詐欺事件をS川さんはボクに語り始めた

つづく


このボタンを押しても一切被害はありませんよ
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2016年03月06日

人は誰も

S田との遭遇もやっぱり第一回目の伊勢神宮へ向かう途中で 野人と遭遇した後のことで
やっぱり静岡県でだった

そこは掛川道の駅

この掛川道の駅が ボクのような旅人にとって最高のオアシスだという事を
教えてくれた 清水さんという静岡県民がいる

清水さんは 道の駅の手前4キロほどの 旧東海道沿いに建つ 小泉屋というお茶屋さんの主だ
随分昔からその店はあるそうだ 看板にも元祖子育て飴のお店
って掲げているくらいだから相当昔なんだろう

主の清水さんとボクは 夕暮れ間近の 2人っきりの店内でたわいもない世間話を興じている
昔は東海道って言ったら この小泉屋の目の前の通りだった
ところが バイパスが開通してからというもの パッタリと客足が途絶えて
もう店たたんじまおうかなんて考えたりするんですよぉ
なんて話を冗談みたいに話す清水さんの向かいで
温かい 静岡おでんを食べながら話を聞いているボク

ストーブの上の ヤカンから出る蒸気の向こうに
置かれている 子育て飴 に惹きつけられて 清水さんに訊ねると

子育て飴っていうのは この辺りで本当に起こった怪奇事件が元になって作られた
名物飴だと教えてくれた

聞くも悲しい 語るも悲しい物語を 清水さんから聞いた話をまとめてみる

江戸時代 この小夜の中山(さよのなかやま)辺りに住んでいたお石さんという
女の人が 安産祈願の帰り道 突然の陣痛で 道端にうずくまっていた
その時に通りかかった 山賊にお石さんは切り殺されお金を奪われてしまう
640













お石さんはこの石を抱え込むようにして息絶えたそうだ

お石さんの魂は 死んでもなお この石に乗り移り すすり泣き続けたという

その時 お石さんの 切られたお腹から男の子が生まれた
近くの久延寺の住職が 毎晩すすり泣く声に導かれ
赤ちゃんを発見し おっぱいの代わりにと 水あめで育て それが現在小泉屋さんで
売られている 子育て飴の始まりだ

男の子は音八と名付けられ 立派な成人になり ある時夢の中で 観音様がやってきて
お前は刀研ぎ師になりなさい
と こういわれたんだそうだ

そしてたちまち評判の名人になった

月日がたち ある時一人の男が 刀を持ってきた
いい刀なのに刃こぼれが酷いと 音八がいうと
男は 昔しでかした過ちを 音八に語ったという
その話を聞いて音八は 自分の母親を切り殺した男と 刀だと分かった

今こそ積年の恨みを果たす時 と 音八は 男を その場で叩き切った

という落ちの 話もあるそうだが

清水さんの話はちょっと違う

音八は 全ては観音様の導きによるものだと理解し
後悔を背負って生きてきた男を許し 長年胸にわだかまった思いを
男と語り合い 母の魂を鎮めたという 話で締めてくれた清水さん

は ボクにオアシス掛川道の駅を教えてくれた 心温かい人でした

ボクもこっちの終わり方の方が 素晴らしいと思う

646








 




夜泣き石は 小泉屋さんの脇の
階段を昇ったところに 今は移されて静かに眠っている


つづく

許さなきゃ前に進めない
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