2022年12月13日

あんみつ 後編

むかしイタリアで電車に乗ってた時····

座席が向かい合わせの4人座れるタイプの1席に座ってたら若者が通路の向こうの斜め前の席で女性と話している声が聞こえてそれがインタビュー調で気にかかって首を傾けた時二人の姿は見えないけど座席の下で大人しく休んでる犬だけが見えた

目を閉じてその腕に首を乗せて動かないその犬が妙にボクの気を惹いた

列車が駅に着くと同時にインタビューも終えて男は席を立ち歩いて行くけど犬はまだ眠ったままで

姿も見えなくなってもうドアも閉まるんじゃないかって頃空気を裂くような短い口笛が響くと同時に立ち上がり走り去った

賢い犬と出会った事は何度かある その度ボクにもいつかそんな相棒に巡り会えないものかと思っていたらついにその日がやってきてしまったよ

彼女はボクが知ってる中でも一番の賢さと上品さと強さと礼儀をわきまえた名犬でオオカミ犬のお姫様だった

ボクは彼女をあんみつと呼ぶことにした(オジサンならわかる名前の由来)

なのにあんみつとの旅を想像したら急に怖くなったんだ

ボク達は夕方近く名前の知らない小さな村の中心広場について丁度雨も降り出して村民ホール的な建物の軒下に逃げ込むことができた ボク達はクタクタだった 雨は降ったり止んだり 寒くなったり熱くなったりした日中を歩き通し今はもう日暮れで気温が一気に落ちていて

あんみつはやっぱり建物の敷地の10センチくらいの段差の屋根のない所でスフィンクスみたいだった

でもあんみつを呼ぶと彼女は段差を超えて屋根の下のボクの足元で丸くなった ボクも段差のテラスエリアに設置されている椅子に腰掛けコーヒーを頼んで土砂降りの雨がスレートの屋根にあたって流れ落ちるのを眺め 買い込んだパンをちぎってハムと一緒にあんみつに渡した

多分30㌔は歩いただろう あんみつはもうボクのことを新しい主人と思ってるのかな

だとしたらボクと一緒は大変だぜ 何しろ行先なんか決まってないし毎日決まってご飯が食べれる約束もないし

仲良くなってボクが心を開いて その途端にあんみつが幸せになれる道が見つかってボクのことをもう必要としなくなる時が来るかもしれないなんて考えてる自分もいた ある日突然目の前からいなくなる日が来るかもしれないじゃん そしたらボクは悲しくて元に戻らない痛みを抱えて生きていかなきゃならなくなるじゃん
 
豪雨は2時間続きオレンジの夕焼けが村を染める小雨の中あんみつは1人歩いてどこかへ行ってしまった 多分食べ物を探しに行ったんだろう 満腹ではないはずだ

雨は完全に止んではいない 寒さに耐えかねて村民ホールの中に入って暖を取ることにした 中では老人ばかりで卓を囲んで掛けドミノゲームをしていたりテレビを見てる

しばらくするとあんみつが戻ってきた ガラスドア越しにボクを探しているのが見える ボクはあんみつが居なくなるのを願って動けずにいた

つづく


それも愛
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photon_5d at 00:05|PermalinkComments(0)

2022年02月26日

ジセ

2019年4月15日大変にお世話になりすっかり長くいてしまったがこれも計算と言い聞かせて思い出のルトラを離れる

オランダ人のジセと一緒に ボクら目的地はテッサロニキだった ジセには乗らなきゃならない飛行機が待っていてボクにはただの通り道でおよそ130㌔の距離がある程よい目印程度で方向と日時が同じだから一緒に歩いている

ジセは世界中を自転車旅してるプロのライダーでこの自転車旅をすることで給料をもらっているみたいだ ジセが世界中走り回ればその映像は金払って観たい人たちによって運営されるシステムでヤツにピッタリの仕事だと思う

その瞳は純粋そのもの そいつが世界を自転車旅することで輝きを増すのだ しかし残念緊急帰国となってしまったんだ 10分くらいの間でチェーンを前後2つかけていたのにもかかわらず愛車か盗まれたという テッサロニキで

でも奴はあんまりガッカリしているというのでもなかった まぁ自転車も荷物もみんな会社のブツだから損失感は薄いかもしれない でも本当の所はそれ以上にやつの大きな愛を感じてもいた ボクにはジセが愛とはどこまでも大きく広く全てを包み込んでボク達もその愛に包み込まれていて同じになっているものと言っているのを感じた

それは起こった全ては学びのために(byジセ)

ジセは今日中にテッサロニキから飛び立たなければならなかったのにボクと一緒にヒッチハイクを体験したいと言って付いてくる

それで一台捕まって10㌔進み満足した奴はそこからはバスに乗り ボクは1人ヒッチハイクをしながら歩き出した また路上生活の始まりだ 動き続ける以上ここがボクの居場所だという気持ちがまた湧いてくる 

厳かった冬の寒さも和らぎ次の国アルバニアへ向かって西へ進みながらあと20日でギリシャを出なきゃならないところにボクはいた

この日車はもう停まってはくれなかった ネアアンフィポリという村の遺跡でライオン像が立つ近くの廃墟で眠った


つづく

愛があればきっと押せる
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photon_5d at 11:56|PermalinkComments(0)

2021年11月07日

マラッカ

マヌスの恋人は二人が出会った建築用石材会社で働いていてるけどマヌスの方は彼女を落としてからその仕事は辞めていた

年の差が20才以上ある若い彼女は笑っているけど社会に疲れていて でも働かないと将来がないから仕方なくやってると言った

実際ボクもマヌスもそこで同じような考えで生きていたんだもの気持ちは本心だとわかる マヌスは彼女の中にかつての自分と同じものをみてほっとけなくなったのかもしれないよ

人間は変だ 本当に嫌でやりたくないならやるべきじゃない事がわかっていながら止めることも変えることもできず誤魔化し行けると思ってる いや多分ある人は生きれるけどマヌスはそこで死ぬほど自分に嘘をついて生きてきて死にかけたから戻りたくない世界で身を削る彼女が心配でならないんだろう

そんな心配する必要ないほど彼女は強くボクやマヌスがあまりに甘ったれのヘナチョコで社会不適合者なだけかもしれないけどいやむしろ正解も間違いもなくただ好みの違いだけだと思う そして彼女はまた住み慣れた彼女の好む世界へ戻っていった

マヌスの小屋にいりびたるようになるとボクは日暮れに温泉に行く手はずを朝に提案して仕事が終わってからやつと車で約7km先のルトラ温泉で疲れを取るのが楽しみになった そして冷えた体が温まってから帰宅しヤツの家のウッドデッキから海を眺めて月を眺めてヤツのブレンドした野草のお茶を飲み彼女が置いていったお土産のチョコレートをかじりプカリ一服の至福を共有する時間の中でヤツをよく知っていくようになった

前にも言ったようにマヌスは心臓の大病を患って死にかけてるから健康と食事には注意して添加物や加工食品あぶらを避け穀物やナッツそして雑草というか食べられる草に詳しく近所を歩いて毎朝の新鮮な野草の食料を集めてくる

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この時期は野生のアスパラが旬というので早速ボクもその見つけ方を教えてもらいその場で食らう

昼間の奴は車で1時30分先のカバラ(街)へ姉貴の見舞いに行って新鮮な野草をガンで落ち込んでる姉貴のもとへ運びもうスグ死んじゃうと怯える彼女をケアしてる 多分マヌスはその関係で仕事を辞めざるを得なくなったと思う

しかし死に近づいたマヌスだからこその溢れる愛情は止められない 何よりまず本人の気の持ちようが大切だからこそマヌスは姉貴の病院に週34回足を運んで励ましていた

地に足がついて落ち着いていて自信もあって他人を傷つけない聖人のようなマヌスだけど時々汚い言葉を口にする人間臭さもあった

マラッカという相手に呼びかける時のギリシャ語を教えてくれたのはマヌスだった

日本語で言うと変態オナニー野郎くらいの意味らしいがギリシャではまぁまぁ人気のある日常単語ということでテオ一家は絶対口にしないけどマヌスは使うくだけた一面があってかえってボクにはちょうど良かった

そんなマヌスがある時水平線の上に聳える島のような山のような固まりを指して聖なる女人禁制のギリシャであってギリシャでなくいかなる法律もそこでは効力がないというアトス自治修道士共和国の話をしてくれた


つづく

旅人ならゾックゾクする秘境
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photon_5d at 16:05|PermalinkComments(0)

2021年09月27日

輪廻の旅

夢の中の彼女は優しい笑顔でボクを見つめてくれている 

つぶらな2つの大きな目が真っ直ぐボクを捉えている心を開いて恐れを知らず まるで人間が信用できなくなった野良犬のボクを安心させようとする温かい眼差しだ

彼女の瞳の奥には愛があった でも夢の中のボクには分からなかった

目覚めるとボクは大人で彼女だけあの頃のまま

彼女の名前は由紀子ちゃんで確か小学校4年の時にやって来た転校生だった

艶やかで真っ直な肩までの黒髪を横にいつも髪留めで分けていた 強く抱きしめたら砕けてしまうような細身だったけど今は驚くほど力強いエネルギーを持っていたのだとわかる

転校してきて間もなくクラスの中で席替えという行事が起こった時 由紀子ちゃんは全員の中ボクの席の隣に座りたいと先生に申し出た

バレンタインデーは家までチョコを届てくれた 一緒に遊ぼうと誘ってくれたりしたのにボクは戸惑い周りの冷やかしを恐れ 彼女の強さを恐れあいさつも感謝の言葉も勇気も持てないまま逃げていた そして彼女はいつの間にか転校していなくなった····

寝袋の中蘇ってくる逃げてばかりの過去達は深層から時間をかけて表層に現れ モワンと壊れるアブクのようだった 

いつからだろう 愛と真剣に向き合うほどボクは混乱し落ち着きをなくし逃げてきた気がする それで真冬のギリシャまで来ちまったとも言えるかも知れないぜ

由紀子ちゃんはそれを言うために夢に現れたっていうのか 愛する事を恐れず逃げちゃダメってことなのか

ボクが愛に傍観的立ち位置な理由は前世で魂が経験した精神的苦痛が深く関係してるからだ それを知ってるボクはどこかで知らないうちに諦めて なしでもまぁまぁ楽しく生きれる道を作り出し誤魔化して歩いてきたのかも知れないよ 

目覚めてなおぼんやりと夢の中から抜け出せないボクがいた でも目覚めながら彼女のおかげでもう同じ失敗をしないような気がするボクもいた

ありがとう由紀子ちゃん 本当にどうもありがとう ボクは今ギリシャを旅しているんだ そして君があの時ボクに伝えようとしてくれたことの意味を考え始めているよ


つづく

愛をとりもどぉせぇ(byクリキン)
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photon_5d at 09:00|PermalinkComments(0)

2021年04月25日

きずな その8

アイスンなんて名前の響きからしてヒヤリとするアリーの彼女との対談というか対面はつつがなく終わった

帰る時カフェの駐車場に駐車してあったアイスンの自家用車が赤のミニクーパーだったのには気持ちが暖かくさせられたけど

ボクとアリーは彼女を見送ってから帰路に向かう車中でアイスンの話をした そこで衝撃の彼女の過去を聞かされた

アイスンには13歳になる女の子供がいる その子がまだ幼い時父親が事故死し以来アイスンが一人で育てている
両親に預かってもらう助けもあるが最近父親が痴呆で色々大変らしいのだ 身辺がゴタゴタで今結婚は考えられないとアリーはプロポーズを断られているらしいが夫の突然すぎる死のショックで未だ立ち直れてないのは アイスんがさっきまで出していたエネルギーを思い出せばピッタリ当てはまる言葉のようにボクに届いてたから

確かに悲しみから立ち上がるには強くなるしかなかったけど大切なものは心に穴をあけて風の中 かつて最高の幸せの中にいたアイスンの事を想像した

アリーなら彼女を一生幸せにするよ アイスンだって3年付き合えばそのくらいの事はボクよりよく知ってるはずなのに怖いんだ また愛した人が せっかく愛する事が出来た途端に壊されるのが 彼女もまた信仰を捨てたボク達似たもの同士で 恐ろしく冷たく目的を果たすため手段は選ばない計算ロボットだけどその鎧の下のアイスンは普通の女のひとだったんだ

それにしてもアリー自身がなんで断られてるのかわかってないとは

近すぎて見えないものってやつだ

アリーも仕事や家族の事でイッパイだからな いつか助言してやろう

アイスンだってアリーと結婚したいんだって 何度断られても彼女はヤッパリアリーを待ってると


つづく

赤い車は寂しがり屋
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photon_5d at 14:49|PermalinkComments(0)