marmaladeの読書日記

読み終わった本の備忘録

2017年03月

「死の棘」 島尾敏雄 新潮文庫

 従順だった妻が、夫の不貞行為を知った日を境に豹変する。
 発作が起こればこれまでの女性関係をひとつひとつ告白させる妻を前に、
 言われるままに従い詫び続ける夫。
 終わりのない狂乱、妻は、夫は、子どもたちはどこへ辿り着くのか。
 
 頁を繰るのをためらうほど、息苦しい内容でした。
 まったくの作り話ではなく、事実に基づいた私小説なだけに、より一層
 暗さ・重苦しさが身にこたえました。
 怒りと嫉妬に狂った妻、いつ狂うかわからず四六時中安まれない夫。
 自分でも気持ちのよりようのない妻。
 何度も過去の過ちをほじくり返される夫。
 どちらが同情されるべきでしょうか?夫?妻?
 いえいえ、二人の幼い子どもたちです。
 両親がやりあっている間はまったく放っておかれ、愛情を注がれず、
 息子にいたっては父親から八つ当たりの体罰をも受けます。
 子どもたちの生活の荒みようはすさまじく、まったく罪がないだけに悲しみも
 ひとしおです。
 最後まで妻の発作はおさまることなく、精神病院に入院するところで
 この本は終わりを迎えます。
 さて、この後どうなるのでしょう。
 その後、妻の生地近くの奄美大島に移り住み、快癒に近い生活を送られた
 そうです。
 600頁近く読んでへとへとのところ、山本健吉さんの解説でこのことを知り、
 ようやく深く息をつくことができました。

 鹿児島近代文学館で、島尾敏雄さんに関する展示もありました。
 映像で晩年のミホ(妻)を拝見しましたが、とっても穏やかな表情で
 ゆっくりしたしゃべり方。
 この本からは想像もつかないお方でした。
 そういう方を狂わせた敏雄に罪があったってことですね。

「あひる」 今村夏子 書肆侃々房

 “わたし”の家であひるの「のりたま」を飼い始める。
 父の元同僚から譲り受けたものだ。
 その日から子どもたちがのりたまを見に遊びにくるようになった。
 “わたし”の父も母も喜んで子どもたちを迎え入れるが、ひと月もしないうちに
 のりたまは元気をなくしていく。
 ある日突然姿を消したのりたま。聞けば父が病院に連れて行ったらしい。
 そしてある日また突然のりたまは戻ってくる。
 どう見ても以前ののりたまではない。
 しかし、父も母もそのことに全く触れない。触れられることを避けているよう。
 “わたし”もあえて疑問を口にすることはしない。
 のりたまが戻ってきたことで、また子どもたちも戻ってきた。
 そして、またのりたまは元気をなくし、同じように姿を消す。
 再びのりたまは戻ってきて、これまた以前ののりたまと異なるが、
 誰もなにも言わないし、その頃には子どもたちはもはやのりたま目当てでなく、
 “わたし”の家にあがりこみ、父と母が与えるおやつなどが目的となっていた。
 誰からも見向きもされないのりたま(3代目)は死ぬが、もう新しいのりたまが
 やってくることはない。

 淡々と語られていますが、常に薄気味悪さが漂う作品です。
 この「あひる」は芥川賞候補作品として話題にのぼりました。
 書肆侃々房は福岡の出版社だから、話題になったのは福岡だけ??

「わたしの小さな古本屋」 田中美穂 ちくま文庫

 著者は、倉敷の美観地区で古書店「蟲文庫」を営んでいます。
 この本では、古書店を開いたきっかけや、仕事のこと、ほんのこと、
 店を訪れるお客さんのこと、本や人が運んできた縁のこと、趣味の苔の
 ことなど、日常のことについて書かれています。
 倉敷の美観地区は一度しか訪れたことはありませんが、情緒あふれる
 素敵なところでした。
 そんなところで、私の心をくすぐる古書店があるとは!
 知っていれば足を運んだのに、残念です。
 鹿児島への旅のお供として連れていき、往復のバスの中で読んでしまいました。
 帰り、出発して間もないころ、ふと本から顔を上げて外を見ると古本屋が!
 ブックオフみたいなチェーン店ではなく、個人経営の店。
 中にはたくさんの本が、所狭しと並べられていました。
 あー!!と思いましたが、バスは無情(?)にも速度を上げてその場を通過。
 もし、また鹿児島に行く機会があったら是非行ってみたいです。
 たぶん忘れていますでしょうけど。

「天国の一歩前」 土橋章宏 幻冬舎

 東京で女優を目指している未来の元に、ある日突然福岡から
 祖母が訪ねてくる。
 なかば追い出すような形で祖母を見送った後、外で異常な音が。
 未来があわてて見に行くと、倒れた祖母の姿があった。
 脳梗塞だったがかろうじて命を取り留めた祖母。しかし左半身に麻痺が残った。
 以前から祖母と仲が悪い未来の両親は、祖母の元に駆け付けることもせず、
 全てのことが未来の両肩にのしかかってきた。
 もう治療することはないから早く退院するよう病院からは言われ、
 全く知識がないなか、未来は祖母の受け入れ先を探すべく奮闘する。
 
 読んでいて気分が重くなる話でした。でも、特養の順番待ちのこと、
 富裕層しか入れないような高額な老人ホーム、施設の職員の待遇など、
 どれも現実問題として起こっていることで、決してこの本の内容が誇張されて
 いるわけではないと思います。
 祖母を特養に入れるために未来がとった行動、未来の気持ちを汲んで
 祖母がとった行動・・涙があふれました。
 これからますます介護問題は深刻化していく可能性は大です。
 医療・介護問題で、高齢者がまさに「天国の一歩前」で地獄のような
 辛い目に遭う人がいなくなるような、受ける側にも施す側にも最適な対策が
 なにかないものでしょうかねぇ。
 

「お茶をどうぞ 対談向田邦子と16人」 向田邦子 河出書房新社

 向田邦子さんがTVや雑誌で対談されたものを一冊にまとめられています。
 対談された16人は、黒柳徹子さん、森繁久彌さん、小林亞聖さん、
 阿久悠さん、池田理代子さん、山本夏彦さん、ジェームズ三木さん、
 和田勉さん、久世光彦さん、橋田壽賀子さん、山田太一さん、倉本聰さん、
 原由美子さん、大河内昭爾さん、青木雨彦さん、常盤新平さんと
 そうそうたるメンバー。
 この顔ぶれが一冊の本に。なんという贅沢!
 仕事のこと、プライベートのこと、幼いころのこと、家族のことなど話題は多岐に
 わたりますが、お話から彼らの考えなどが伝わってきてとても面白かったです。
 そして、各業界で名を馳せた方ばかりだけあって、ユーモアもあるし、
 きちんと自分の軸というものもお持ちで、さすが言うことが違うなぁと
 感心しました。
 どの対談も素晴らしかったのですが、やはり食い意地の張った私が一番
 気に入ったのは、大河内昭爾さんとの対談で、鹿児島に住んでいたときの
 思い出の味・料理がずらーっと登場します。
 さつま揚げ、かるかん饅頭、きびなご・・
 鹿児島に行きたくなりました。
 で、行くことにしました♪

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