◎前回までのあらすじ
ふんどし(T字帯)も手に入れ準備万端となった俺。6月18日午後、俺はついにシートン法に挑む。
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俺の肛門人生を決するといっても過言ではない勝負の午後がやってくる。
めり込んだパチンコ玉に気づいたのは6月初旬。まだ10日程しかたっていない間に、俺はどれだけの文献を調べ、どれだけのことを考え、どれだけの肛門鏡を直腸にくわえこんだのだろう。
「思えば遠くに来たものだ」
梅雨の湿った空気に向かって、感慨深くつぶやく。

看護婦さんがノックをして、部屋に入ってきた。
とうとう順番が来たらしい。 俺は看護婦さんにゆっくりと会釈をし、廊下へと歩を進める。
すでに俺はポンチョのような手術服に着替えを済まし、T字帯もばっつり決めていた。

手術室の前に着く。
生まれて27年、俺は手術を始めてすることになる。
12歳の時に急性腎炎となり一ヶ月入院し、俺はおそらく当時の小学生の中でトップクラスの泌尿器科知識レベルを誇っていたが、自然治癒に成功し結局手術は経験したことがなかった。その後、俺はまったく健康体で過ごし、手術室とは縁がない生活を送っていた。

部屋に足を踏み入れる。
「なるほど。思ったよりもきれいだな」
白を基調としてまとまった内装。先進的な印象の機械が並んでいる。
その中央に、俺の行きつけ指圧マッサージ店「ありさ整骨院 梅田店」にあるようなマッサージ用ベッドから下半身部分がなくなったような台が置いてある。呼吸できるように顔の部分に穴が空いていて、お尻が突き出るようになるデザイン。
看護婦さんが俺に告げる。
「その踏み台を使ってベッドに上って、顔を下向けにして寝てくださいね。」

27年の齢を重ね、ついに俺は手術台に。
俺にはその手術台への踏み台が、大人への最後の階段に見える。
「わかりました」
看護婦さんに目で合図を送り、俺は踏み台に足を掛ける。
うつぶせになり、上半身を折り曲げベッドに委ねる。
自然、お尻は後方に突き出ることになる。

その時の体勢、言葉では伝えづらい。
言葉は時に無力だ。
下記の写真を参考にしてほしい。
pipo

既に羞恥心ボルテージの針が、振り切れんばかりだった。

肛門診療の基本ポーズともいえる横向きのタツノオトシゴポーズ、梅田で屈辱を味わった上向きの分娩台ポーズ、そして手術でのうつ伏せのピーポ君ポーズ。一つの羞恥ポーズを乗り越えるたびに、また新しいポーズが現れる。

まさに前門の虎、肛門の狼だ。

そんな俺を意に介することもなく、看護婦さんは作業をすすめる。
足を肩幅に広げる。肛門にエアリー感が増す。
ポンチョをめくる。患部が全開だ。
T字帯をはずす。ばっちこいだ。

この時、俺は、心の中で、無条件降伏をした。
もう恥ずかしいことなんてない。どうにでもしてくれ。

そんな俺のポツダム宣言を知ってか知らずか、先生が淡々と手順を伝える。
先生「まずは腰椎麻酔をします。今回は下半身麻酔にしておきます。その後、患部の手術、痔管(トンネル部分)にメスをいれ、ゴムを通しますね」
大体聞いていたとおりの手順。予想通り。驚きはない。
口許に微笑を浮かべて、先生に向かってうなずき、俺は前を見据えた。

そして、俺は気づいた。
先生、看護婦が全員、俺の背後に位置している。
みんなが後ろにいるから、見えない。恐怖感が増す。
手術の準備であろう、乾いた金属音がカチャカチャと、俺の背後から聞こえる。
いつ俺の腰椎に麻酔の針が刺さるんだろう。
その麻酔の針はどんな形をしているんだろう。
そう。俺は、痛いこと・注射が苦手なのだ。
なんだか息苦しくなってきた。

次第に青ざめていく俺に、看護婦も気づいたらしい。
看護婦「大丈夫ですか? 刺すときはちゃんと言いますから大丈夫ですよ。」
俺「はい、大丈夫です。ハァハァ。まったく普通です。ハァハァ。」
看護婦「ゆっくり呼吸してくださいね。大きく吸って、大きく吐いて」

背後から麻酔をされる恐怖に押し負けそうな自分を隠すべく、俺は自分流のラマーズ法を試みる。
俺は大丈夫だ。痛くない。ハッハッ、スゥースゥー。
注射なんてすぐだ。ハッハッ、スゥースゥー。
分娩台も乗ったし。ハッハッ、スゥースゥー。
ラマーズ法もやってるし。ハッハッ、スゥースゥー。
もう出産できんじゃねーか。ハッハッ、スゥースゥー。

そんなハッハッ、スゥスゥーを繰り返すこと数分、ついに先生が俺の脊髄のあたりを指でたたき始めた。
いよいよだ。どうやら骨と骨の間を確かめているらしい。
「大丈夫、大丈夫だ。」
俺は自分に話しかける。21歳のとき、遅まきながら大学デビューを果たすため、TBCのアゴヒゲ脱毛の痛さすら乗り越えた俺じゃないか。

背後の忙しない動きが止まる。
先生「では、すぐに終わりますからね」
先生が短く告げると、ついに麻酔の針があてがわれた。
針が皮膚をくぐり抜け、腰椎の間隙を縫い、俺の体を侵食する。
食いしばった歯の間から、声にならない嗚咽がもれる。
俺は勇ましく、そして高らかに心の中で吠えた。
「あぁぁぁぁー、いたいよーーーーー。おかあさーん」

<数分後>
不思議だ。
麻酔を悠々と乗り切った俺は、下半身麻酔の感覚をゆっくりと味わっていた。
足の先からひんやりとしてくる。
だんだんひんやりとした感覚があがっていき、ふくらはぎ、太もも、腰が冷たい水で満たされたような感じだ。
もはや先生が触っても何も感じられない。
「では始めますね」
先生の声を合図に、数人が同時に動き始める気配がする。金属の重なる音がする。しかし、俺は時折からだが揺れ動くだけで、何も感じない。本当に手術しているのか?
先生「電気メス」
? なにか切っているのか? 本当に何も感じない。
グイッ、グイッと何かを引っ張っている感覚が走る。シートン法の説明のときにあったゴムでも縛っているのだろうか。

看護婦は「すぐ終わりますからね」と言っていたが、本当に20分も経たずに手術は完了した。
先生が俺に告げる。
「手術終わりました。問題なく完了しました。」
先生と目を合わせ、相好を崩す。
先生「切り取った患部、見てみますか?」
好奇心こそ、マーケッターの魂。俺はYESと即答する。

銀色のパレットに置かれた、切り取られた俺の肉体の一部が目の前に運ばれる。思ったよりも大きくいかれた印象だったが、ついに完治への第一歩を実感に涙腺が潤む。
手術室にいた全員と感動を共にする。
俗に言う、「アナルが取れた、アナルが取れた」状態だ。
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手術は無事終了、俺は手術室を出る。
病室までは車椅子で移動だ。
痛みもまったくない。
簡単に終わってしまった手術だった。
「5日間も入院するなんて大げさだったな。」
俺はいささか拍子抜けすらしながら、病室のベッドに横たわった。

<数時間>
その夜、夢から目を覚ますと、俺は、ベッドの上で肛門が烈火の如くなっていることを発見する。。。

(次週に続く)
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今週のQ&A
今週も訪問ありがとうございます。
週末は、シンガポールで送別会があったり、友人が日本から来ていたりで、また多くの出会いがありました。以前は紹介いただく際に、
●外資系のマーケッター
●アジアを飛び回っている
●プレミアム市場を担当している
などと言われていたのが、もはや
●ジロガーの人
●外資系の痔の人
●好きな歌は「Gee」らしいよ
と言われており、すでに原型をなしていません。まさにブロガー冥利に尽きます。
どちらが私を的確に言い表しているかは、一目瞭然ですね。

今週の質問は「痔は血がでることでわかるんですか?」です。
結論から言うと、裂肛(きれ痔)は血がでますが、痔核(いぼ痔)と痔ろう(あな痔)は出血しません。
●きれ痔は、文字通り肛門が切れているので、排泄時に鮮血が残ります。
●いぼ痔は、静脈がうっ血するのですが、患部が膨らみ痛いだけで、血は出ません。
●あな痔は、直腸からつながる別ルートができ、そこが腫瘍になるので、血は出ません。
私のように腫瘍を切除したりすると、その手術の影響である一定の期間出血が続きます。

「私は血が出てないから大丈夫」といわれる方いますが、後者の二つは血がでないでもかかっているケースあるので気をつけてください。
そして、完治の難しさから既に痔のキングである上に、腫瘍ができるまで症状もわかりづらいというステルス機能も併せ持つあな痔には、畏敬の念すら覚えてしまいますね。

では、今週もいい一週間を。