January 10, 2006

「鈴木ウメ子の店」(あけおめ日記その2)

fb137984.jpg さて、「あけおめ日記」の続きです。

 クリスマスも終わり、年も大晦日に向けて一挙に押し詰まろうという12月26日月曜日の夜。
 「鈴木ウメ子」の店に行ってきました。
 そこへはいつか行きたいとは思い続けながら、結局それまで重い腰が上がったことはありませんでした。
 それがなぜ、それもこんな年末になってから出かけて行ったかのといいますと、この店が12月31日をもって閉店するということを教えられたからです。


 「横山リエ」

 映画デビューは1969年。大島渚監督の「新宿泥棒日記」(画像)。
 いきなり横尾忠則とともに主演をつとめています。そしてこれが彼女の代表作のひとつです。
 その映画の中で、彼女は「鈴木ウメ子」と名乗りました。
 彼女のキャリアの中でもう一つ強く輝いているのは、若松孝二監督の「天使の恍惚」(1972年)です。そこでは「金曜日」と呼ばれる女革命戦士でした。
 ジョージ秋山原作の「銭ゲバ」(1970年)では、唐十郎扮する主人公蒲郡風太郎の最初の妻。金満家の娘でしたが顔に紫の痣があり、主人公に利用されたのち捨てられます。
 その他「やさしいにっぽん人」(1971年主演は緑魔子)「旅の重さ」(1972年高橋洋子と秋吉久美子のデビュー作)「女囚701号 さそり」(1972年主演は梶芽衣子)
 こんなふうに並べていくと、映画界における彼女のおおよそのポジションがつかめるのではないでしょうか。
 けれど、私の感じる女優としての彼女の存在は、それとはだいぶズレています。

 自分が始めて彼女を観たのは、中学生の頃「月火水木金金金」というTV番組でした。(この番組とそれに続く伝説的な番組「お荷物小荷物」については、以前「吉田日出子」の記事の中で書かせてもらいましたので、よろしければそちらをお読みください)
 それはマンションの一室を舞台にした、親の遺産相続をめぐる三姉妹のドラマでした。そこではそれまでのドラマにはない、エゴイスティックでエキセントリックなセリフが飛び交い、視聴者はなによりもまず「吉田日出子」という女優の存在に驚かされました。そして「横山リエ」は吉田日出子の妹役でした。
 その時の彼女に対する自分の印象はというと、ちょっと不思議なものでした。なにしろ彼女は演技の最中に、ときどき気持ちがその場から離れてるのでは、と思わせる奇妙な瞬間があったのです。

 あまり知られていないようですが、彼女は初期の「ゲバゲバ90分」にも出演していました。
 それは自分に貼られた「過激派女優」というようなレッテルに対する反発あるいはとまどいだったようです。
 コントを演じる彼女、吉田日出子やうつみみどり達と水着姿で「♪言いたいこといってらHEY HEY!」と歌い踊る彼女。美人だしスタイルも良い。
 けれどそこでも、彼女の回りには何か周囲となじまない空気が流れていたのでした。

 元々女優志望ではなく、電電公社を辞めてこれからどうしよかと思っていたとき、たまたま隣の席で食事をしていたいたプロデューサーに声を掛けられたという彼女。
 あまり脱ぐようなことはしたくなかったが「仕事」としてやっていたという彼女
 新宿の過激派の争乱時代、とばっちりから警察の捜査を受け、「ひどい迷惑」と一言で切って捨てた彼女。
 「銭ゲバ」で美女の役と痣のある女の役、好きな方を選べと言われて「自分でも何故かわからないんだけど痣の方を選んじゃった」という彼女。

 脈絡があるようでもあり、ないようでもある。でも結局こだわりがない彼女。
 いつでも足が片一方、床から少し浮いているように見える彼女。
 ぼうっとしているようだけれど、実は意外に「真剣」である彼女。
 不完全さが魅力になってしまう彼女。

 新宿三丁目にあったお店は「GOD」という名前でした。
 自分が入ると店内には彼女ひとり。
 相変わらずきれいでスタイルが良い。
 始めて行ったのに「携帯を買おうと思うんだけど、迷っちゃてさ、ねえどれが良いか決めてくれない?」といきなり肩を抱かれ、数冊のパンフレットを渡されました。
 店が混み始めても最後までファンの相手をしてくれました。
 どんな質問も気軽に答えてくれました。
 けれど、「えっ、そんなことあったかなあ」ということも多いのでした。
 どんなものにでもサインをしてくれました。
 携帯電話には「こんなところにあたしの名前書いちゃっていいのお」と笑いながら、結局書いていました。
 ツーショットの写真も撮らせてくれました。
 「こんどまたお店をやるときは電話するよ」と携帯の番号を控えてくれました。

 28年間も店を切り盛りし、それでもピュアなままに見えました。
 「GOD」という店名は犬(DOG)が好きだからつけたそうです。
 GODがいるのかどうか自分は知りませんが、女神様は、ちゃんといたのです。

 「あけおめ日記」その3に続きます。

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この記事へのコメント
最近はDVDやビデオ等で、大島渚や若松孝二の作品を観て、彼女を発見し、ノックアウト(死語)される若い人が多いようです。
画像は「横尾忠則全集全一巻」の中のページ。右上のサインは当日リエさんに書いてもらったものです。
リエさんは「ほら見て、あたしの若いころ」と言ってお客さんにこの写真を見せてました。
Posted by 飼育係 at January 10, 2006 22:17
当日は「新宿泥棒日記」を撮ったカメラマン仙元誠三氏など映画関係者も多くみえてました。仙元氏は、ある女性ファンの持っていたボブスタイルのリエさんの写真を見て「これは俺が撮ったシャシンじゃねえな。俺はこんなキレイな写真は撮らない」と言ってました。
Posted by 飼育係 at January 10, 2006 22:18
ちなみに最近読んだ中島貞夫のインタビュー集にこんな発言がありました。

 ー このシリーズ(極道の妻たち)は仙元誠三さんに合わないのではと
中島 僕はもう絶対大丈夫だと思ってたから
 ー ただきれい、に撮るのを嫌がる人じゃないでしょうか(中略)いかに志麻さんをき
   れいにとるかというより、そんなところにあんまり時間を取りたくないという人
   じゃないですか。
中島 そうです。(中略)でも志麻さん結構きれいに撮れてるわけだから、やっぱりあれ
   だけの腕持ってりゃね、そうしようと思えばそうなる。だからそれは心配すんな
   と。キャリアのないカメラマンじゃなくて、キャリア持っててその中で自分の色を
   出しているカメラマンだし、頼んまっせと言われれば出来る人だから。
Posted by 飼育係 at January 10, 2006 22:29
犬が好きだからGODにしたというところで、面白い人なんだなともう自分の中で人物像ができてしまいました。
いつも飼育係さんのブログで、知らない劇や芸能のことについて教えてもらってるのですが、その作品を見る前にその人物のことが好きになってしまいます。それはその人の魅力なのか、飼育係さんの文章の魅力なのかなと思いました。
Posted by トーマス at January 11, 2006 00:53
トーマスさん、いつもコメントありがとうございます。
なんかほめていただいたようで、てれくさい。

要は自分の好きなこととか好きなひとのことを書いているので、
そういう対象にはつい空気を吹き込んでしまうというか、書いていて膨らみますよね。

文章の魅力ということなら、トーマスさんの文章にもそれは感じています。
自分のことは自分ではよくわかないのですけれど。
Posted by 飼育係 at January 11, 2006 20:25
横山リエファンは「鈴木ウメ子」派と「金曜日」派とに別れるようです。
自分は断然「鈴木ウメ子」派なんですが。

「新宿泥棒日記」はフィクションとノンフィクションがない交ぜになった作品。
そこでリエさんは自分が見知らぬ少年に刺された実話を語ります。
恨みも恐れも憎しみも哀れみもなく、ただ淡々と。
その少年にも事情があったのだからしょうがないと。
撮影中、なんでこんな話を聞くんだろうと思っていたそうです。

完璧にノックアウトされたのでした。
Posted by 飼育係 at January 12, 2006 20:31
うわぁ銭ゲバに出てたんですか!映画の方は観た事無いんですよ!濃いですね〜
Posted by 黒瓜阿礼 at January 14, 2006 20:35
黒瓜阿礼さんはジョージ秋山の原作を読まれたんでしょうか。
「世の中銭ズラ」といいながら、深夜ひとり涙を流す成金ガウン姿の蒲郡風太郎。
映画の方は今はなかなか観る機会がないみたいですね。
唐十郎が、自分の独自の妄想にズップリとはまりこんだ、過剰な演技を見せてくれます。
まあ、唐の出演作は全部そうなんですけれど(笑)
Posted by 飼育係 at January 15, 2006 10:29
ジョージ秋山大好きなんです!銭ゲバはもちろんアシュラ、デロリンマン、日本列島蝦蟇蛙も読みましたよ〜
Posted by 黒瓜阿礼 at January 17, 2006 18:55
黒瓜阿礼さん、いい趣味ですね。
ジョージ秋山は謎多し

「ムーン」「戦えナム」から「はぐれ雲」「ピンクのカーテン」まで
「デロリンマン」が鍵か?
宗教と近づいたり離れたりしていますね。
Posted by 飼育係 at January 18, 2006 22:56
横山リエさんのお店は、その後も引き続きやってますよ(^_^)/。
実は30年以上前に横山リエさんの店「GOD」に通っていたので、何年か前、もし今でもやっていらっしゃったら顔を出してみようと思い、ネットで検索をしていましたら貴殿のブログに行き当たりました。貴殿のブログの記事を見て「2006年末で終わった」んだと思いこんでいました(^_^;)。
最近、それでもなんとか探したいと思って検索していたら、最近お店に行ったという人の記事に出くわしました。まだまだ健在なことを知り、早速、電話をかけて行ってみました。まだしっかりと、あのアンニュイな「横山リエ」が健在でした。
だから、できれば、このブログ、訂正してあげてください。
私なんかみたいなオールドファンが、せっかく見つけたと思ったら、もうやってません、みたいな検索結果になってしまいますのでm(_ _)m。
どうか、どうか、貴殿のこのブログ訂正してください。よろしくお願いしますm(_ _)m。
Posted by birorin at September 18, 2010 03:18
birorin さま

こんなほったらかしのブログにコメントを頂きありがとうございました。
「GOD」が少し場所を移して再開したという話は聞いておりました。
また、一緒に店を切り盛りしていた妹さんが亡くなったということも耳にしました。
そうですか。あの「横山リエ」は健在なのですね。

ちなみに彼女の公式サイトは以下の通り。
http://www.yokoyamarie.org/
一時はブログが掲載されていましたが、今は中断しているようです。
映画の中の彼女、実際に会った彼女、そして文章の中の彼女。
その三つには、当たり前かもしれませんが、それぞれの落差がありました。
いや、俺は映画の中の彼女で十分だという方はもちろんそれで結構。
しかし「落差」には豊かなドラマがあります。
チャンスがある方はそれを味わってみるのも一考かと思います。

私も久しぶりに会いたくなってきました。
Posted by 飼育係 at September 29, 2010 00:52
どもども(^_^)  レスありがとうございます。
またまた、リエさんの店に行って来ました(^_^;)。

2年ほど前に妹さんとお母さんをほぼ同時期になくされたこともあって、
心にポッカリ穴があいたようなそんな感じが見てとれました。
以前よりもさらにアンニュイな雰囲気でしたね。

でも、還暦を過ぎてもまだまだ「横山リエ」は健在でしたよ(^_^)。

「わが道」や「天使の恍惚」や「旅の重さ」の話で盛り上がりました。

彼女、何でも気さくにというか気楽に話しに乗ってきてくれるので、
こちらも、頭の中が30数年前の学生時代にタイムスリップしてしまい、
あの頃の自分や時代背景がよみがえってきて、懐かしいような哀しいような不思議な気分になってしまいました。

久々に「昔の自分に戻れる場所」を見つけた感じです。

でも、リエさんの話しでは、私のようなオールドファンの来店は少なくて、
昔の作品をDVDなんかで見た「現在の映画青年」が聞きつけてやって来ることのほうが圧倒的に多いそうです。

これからも、ちょこちょこ立ち寄ると思います。
お会いしたときは、よろしく(^_^)

ではでは。





Posted by birorin at October 06, 2010 13:47
初めてコメントさせていただきます。昭和の香りがプンプンするあの頃の出演された映画の話を、これまた昭和オタクの友人と一緒にリエさんの店GODに行って喋りたいなぁと想い新宿まで3年ぶりに行きました。かつてあったのは、たしか雑居ビルの地下?だったと記憶しています。残念ながら見つけることが出来ず、近くでいっぱいやって帰宅。もしかしてもう、なくなってしまったのでしょうか?ご存知であれば教えて欲しいです。
Posted by HI at May 05, 2011 19:50
私も横山リエさんのことが気になって、ここにたどり着きました。
お店のwebもあるし迷う人は減っているでしょうが、可能ならコメントではなく本文中にお店は健在の旨を追記されるといいかと思います。お店のwebもまめに更新されていないので、閉店したのかと思ってしまいました。お節介ですいません。
Posted by kensuke at November 19, 2011 17:58
横山リエさん、日曜日のBSで「ザ・ガードマン」の再放送に出ていらっしゃいました。引き込まれる様な美貌で、ご指摘のように「ゲバゲバ90分」でファンになっていました。当時小5の11歳でした。
ゲバゲバの印象から、コメディアンヌかと思っていましたが、その後、演技は女優として、かなり注目されているご様子を、新聞で見た記憶がございます。
それから長いこと拝見する機会がありませんでしたが、ガードマンを見て、近況を知りたくなり検索しました。

直接お会いになられたのはとても羨ましいです。

横山さんのご健康と、ご活躍を祈ります。
Posted by たらふく at November 29, 2011 13:55