「運よく助かった一般人か。……ま、この状況じゃ、生き残るってのが本当に運がいいのかどうか、わかんねーけどな」
どこか皮肉っぽく言う祥子に、弥一はむっと唇を尖らせる。出会ったばかりの相手ではあったが、弥一は相手に反論した。
「……な、なにもわからないままロボットに殺されるより、全然いいと思いますけど」
「そうかもな」
祥子は軽く笑うだけだった。もしや、からかわれたのだろうか。年齢は自分とそれほど変わらないふうに見えるが、実際の年齢など当然わからない。菫はおそらく年上だろうと判断しているが、やはりこちらも実際のところはわからなかった。
弥一は自分が手にしている銃を持ち上げ、祥子に問い掛ける。
「ところで、この銃は……」
「ああ、殺された研究者のひとりからかっぱらってやった。自分の銃一丁だけじゃ、ちと不安だったんでな」
軽い調子で答えた祥子に、弥一はおそるおそる重ねて尋ねた。
「……か、返したほうが?」
「いいって、いいって。使えよ。こんなとこに丸腰でいたら、マジで死ぬぞ」
彼女の返答に、弥一は安堵の息を漏らす。せっかく手に入れた闘う手段ではあるが、返せと言われれば弥一はそれに従うしかないため、これには心の底から安心した。
祥子は弥一に向き直り、にっと笑顔を作る。
「私は祥子。如月祥子だ。……で、そもそもお前ら、なにしにここに来たんだ? 菫も一緒なんだ。研究所がどんな状況か、知らなかったわけじゃねーだろ?」
武器を手に入れにきたんです、と弥一は言って、己が手にしている銃を見下ろした。
「この銃……研究所のひとが使ってる特別な銃なんですよね? 今じゃ街もロボットだらけで……それで、せめて武器くらいは持っておきたいと思って、俺が菫さんにお願いしたんです」
祥子が菫を横目で見ると、菫は黙って頷いた。
腰に片手をやった祥子が、まるで面白いものでも見るふうに双眸を細める。
「……へぇ。一般人のわりに、いい度胸してんじゃねーの。銃の腕も悪くなかったしな」
「ゲ、ゲーセンで遊んでたことが、役に立ったみたいです」
弥一の台詞に、祥子はくっと喉で笑った。
「なんだ、私と同じじゃねーかよ。この研究所にも一応、射撃の練習場があるんだけどよ、楽しくなくて全然燃えねーの。真面目に練習場で訓練するやつなんて、こいつみたいな優等生タイプだけだぜ」
「や、やめてよ……」
祥子に顎で指されてからかわれた菫は、頬を僅かに赤らめて恥ずかしそうにする。彼女の新鮮な――知り合ったばかりの相手にこんなことを思うのも妙な話だが――表情に、弥一は胸を小さく高鳴らせた。白衣と眼鏡が似合う知的な雰囲気とのギャップが、菫を可愛らしく、より魅力的に見せている。
祥子は改めて、弥一と菫に目をやった。
「んじゃ、武器を手に入れたからには、もうお前らはここには用なしなんだな?」
菫は首肯する。祥子は顎に指を添えて、僅かに思案する素振りを見せた。
「ほんとはロボットのネットワークの状況を確認していきてーんだが……さすがにそれは自殺行為だろうしな……」
「危険すぎるわ。あの部屋は建物の中央部よ。途中で見つかったりしたら、きっと逃げられない」
菫の指摘に、祥子は顎に触れていた手で今度は頭を掻く。金髪が彼女の手に掻きまわされて、きらめきながら乱れた。
「だよなぁ……。しゃーない、このまま研究所から脱出するか。ひとりなら無理でも、三人いりゃなんとかなるだろ」
何気ない祥子の発言に、弥一はひそかな喜びを噛み締める。頭数のひとりに数えられたのが、単純なことではあるが嬉しかったのだ。
するとそこで、菫が表情を曇らせて祥子に尋ねる。
「祥子……他の、皆は……?」
両目を細めた祥子が、黙って首を横に振った。
「……わからねぇ。うまく研究所から逃げたやつもいるだろうし、そもそも今日が休みで研究所に顔出してないやつもいるが……。外もこの状態なんだろ?」
彼女は目線を菫と弥一に投じて訊く。弥一と菫がそろって頷くと、祥子は前髪を掻き上げて、目を伏せた。
「……なんとも言えねぇな。助かっていてほしいとは、もちろん思うが」
「そう……」
返す菫の声は、当然なのだろうが、ひどく暗かった。
彼女の声が部屋の影に飲み込まれたとき、出し抜けに廊下から足音が聞こえてきたため、三人は反射的に身を強張らせて息をつめる。
複数の足音は廊下の向こうからやってくると、そのまま三人がいる部屋を通り過ぎた。どうやら、気付かれずには済んだようだった。が、ここに長居すればするほどに、見つかる危険性は高まっていくだろう。
祥子は声をひそめて、弥一と菫に目配せをした。
「……この好機をのがす手はねぇ。さっさと逃げちまうぞ」
「そうね」
「今は日中だ。エネルギー残量なんて考えずに、がんがん撃て」
「はい」
祥子の言葉に弥一は強く頷き、三人はそろって部屋を駆け出した。
途中、巡回のロボットには見つかったものの、入ってくるときとは異なり、今は特殊銃を持っている人間が三人もいる。この差は大きく、加えて祥子の銃の腕前が菫に負けず劣らず優れていたために、三人は予想以上に早く研究所を脱出することが出来た。
研究所を抜け出し、道を駆けて街に出ると、不意に祥子の足が止まる。彼女は街の惨状に目を見張り、言葉をなくしていた。
ずっと研究所から逃げ出せないでいたので、彼女がロボットに破壊された街を見るのはこれが初めてのはずだ。一夜明けて街がこのような変貌を遂げていれば、きっと誰だってこんな反応になってしまうのだろう。
弥一は、初めて破壊された街を見たときのことを思い出す。それは今朝の出来事のはずなのに、もう何日も前の出来事のように感じられた。
弥一は自分が手にしている銃を持ち上げ、祥子に問い掛ける。
「ところで、この銃は……」
「ああ、殺された研究者のひとりからかっぱらってやった。自分の銃一丁だけじゃ、ちと不安だったんでな」
軽い調子で答えた祥子に、弥一はおそるおそる重ねて尋ねた。
「……か、返したほうが?」
「いいって、いいって。使えよ。こんなとこに丸腰でいたら、マジで死ぬぞ」
彼女の返答に、弥一は安堵の息を漏らす。せっかく手に入れた闘う手段ではあるが、返せと言われれば弥一はそれに従うしかないため、これには心の底から安心した。
祥子は弥一に向き直り、にっと笑顔を作る。
「私は祥子。如月祥子だ。……で、そもそもお前ら、なにしにここに来たんだ? 菫も一緒なんだ。研究所がどんな状況か、知らなかったわけじゃねーだろ?」
武器を手に入れにきたんです、と弥一は言って、己が手にしている銃を見下ろした。
「この銃……研究所のひとが使ってる特別な銃なんですよね? 今じゃ街もロボットだらけで……それで、せめて武器くらいは持っておきたいと思って、俺が菫さんにお願いしたんです」
祥子が菫を横目で見ると、菫は黙って頷いた。
腰に片手をやった祥子が、まるで面白いものでも見るふうに双眸を細める。
「……へぇ。一般人のわりに、いい度胸してんじゃねーの。銃の腕も悪くなかったしな」
「ゲ、ゲーセンで遊んでたことが、役に立ったみたいです」
弥一の台詞に、祥子はくっと喉で笑った。
「なんだ、私と同じじゃねーかよ。この研究所にも一応、射撃の練習場があるんだけどよ、楽しくなくて全然燃えねーの。真面目に練習場で訓練するやつなんて、こいつみたいな優等生タイプだけだぜ」
「や、やめてよ……」
祥子に顎で指されてからかわれた菫は、頬を僅かに赤らめて恥ずかしそうにする。彼女の新鮮な――知り合ったばかりの相手にこんなことを思うのも妙な話だが――表情に、弥一は胸を小さく高鳴らせた。白衣と眼鏡が似合う知的な雰囲気とのギャップが、菫を可愛らしく、より魅力的に見せている。
祥子は改めて、弥一と菫に目をやった。
「んじゃ、武器を手に入れたからには、もうお前らはここには用なしなんだな?」
菫は首肯する。祥子は顎に指を添えて、僅かに思案する素振りを見せた。
「ほんとはロボットのネットワークの状況を確認していきてーんだが……さすがにそれは自殺行為だろうしな……」
「危険すぎるわ。あの部屋は建物の中央部よ。途中で見つかったりしたら、きっと逃げられない」
菫の指摘に、祥子は顎に触れていた手で今度は頭を掻く。金髪が彼女の手に掻きまわされて、きらめきながら乱れた。
「だよなぁ……。しゃーない、このまま研究所から脱出するか。ひとりなら無理でも、三人いりゃなんとかなるだろ」
何気ない祥子の発言に、弥一はひそかな喜びを噛み締める。頭数のひとりに数えられたのが、単純なことではあるが嬉しかったのだ。
するとそこで、菫が表情を曇らせて祥子に尋ねる。
「祥子……他の、皆は……?」
両目を細めた祥子が、黙って首を横に振った。
「……わからねぇ。うまく研究所から逃げたやつもいるだろうし、そもそも今日が休みで研究所に顔出してないやつもいるが……。外もこの状態なんだろ?」
彼女は目線を菫と弥一に投じて訊く。弥一と菫がそろって頷くと、祥子は前髪を掻き上げて、目を伏せた。
「……なんとも言えねぇな。助かっていてほしいとは、もちろん思うが」
「そう……」
返す菫の声は、当然なのだろうが、ひどく暗かった。
彼女の声が部屋の影に飲み込まれたとき、出し抜けに廊下から足音が聞こえてきたため、三人は反射的に身を強張らせて息をつめる。
複数の足音は廊下の向こうからやってくると、そのまま三人がいる部屋を通り過ぎた。どうやら、気付かれずには済んだようだった。が、ここに長居すればするほどに、見つかる危険性は高まっていくだろう。
祥子は声をひそめて、弥一と菫に目配せをした。
「……この好機をのがす手はねぇ。さっさと逃げちまうぞ」
「そうね」
「今は日中だ。エネルギー残量なんて考えずに、がんがん撃て」
「はい」
祥子の言葉に弥一は強く頷き、三人はそろって部屋を駆け出した。
途中、巡回のロボットには見つかったものの、入ってくるときとは異なり、今は特殊銃を持っている人間が三人もいる。この差は大きく、加えて祥子の銃の腕前が菫に負けず劣らず優れていたために、三人は予想以上に早く研究所を脱出することが出来た。
研究所を抜け出し、道を駆けて街に出ると、不意に祥子の足が止まる。彼女は街の惨状に目を見張り、言葉をなくしていた。
ずっと研究所から逃げ出せないでいたので、彼女がロボットに破壊された街を見るのはこれが初めてのはずだ。一夜明けて街がこのような変貌を遂げていれば、きっと誰だってこんな反応になってしまうのだろう。
弥一は、初めて破壊された街を見たときのことを思い出す。それは今朝の出来事のはずなのに、もう何日も前の出来事のように感じられた。









