初恋の女性の美しい花嫁姿を、純一郎は見つめた。
幸せそうな表情と華やかな衣装が相まって、彼女は今までに見てきたどの彼女よりも美しい。
そして、そんな彼女の隣にいるのは――親友の正樹だった。彼も花嫁の歩美同様、幸せそうな笑みを満面にたたえている。
結婚式に招かれた人々は、皆一様に笑顔をうかべて祝福をした。空間には、あたたかな感情が満ち溢れている。
――先日、純一郎は正樹から結婚式の招待状を手渡しで贈られた。
お前が一番目の招待客だ、と彼がどこか恥ずかしそうな微笑を、それでも幸せそうにうかべていたのを思い出す。
そう、純一郎と正樹は中学生の頃からの付き合いで、言うなれば親友であった。
中学校の時分から一緒なのは、歩美も同じである。三人はその頃から大人になった今に至るまで、交流を続けてきていた。
歩美は、純一郎の初恋の女性だ。中学生の頃から、恋心をいだき続けてきた。
きっかけは、些細なことだ。純一郎は読書が好きで、よく図書室に通っていた。
そこで、自分と本の好みが合う女子生徒を見つけた。それが歩美だった。
その段階では言葉を交わすような関係ではなかった。ただ、自分が過去に借りた本を彼女が読んでいる場面に時折遭遇したのである。
それが、歩美に興味と好感をいだいた契機だった。
恋人になりたいと願ったわけではなかった。歩美は優しく、美しく、本当に魅力的な女性であったから、自分なんかとはとても釣り合わないとわかっていた。
だから、笑顔を遠くから見つめることが許されれば、それでよかった。それ以上は望まなかった。
しかし、その淡い願望はいくらもせぬうちに打ち砕かれることとなる。
正樹と歩美が、交際を始めたのだった。
そのときの感情を、純一郎は今でも忘れることが出来ない。
純一郎は、正樹に歩美への恋心を告げていたわけではなかった。にもかかわらず、身勝手だとわかりながらも、裏切られた――という思いが、胸の内で膨れ上がったものだった。
ガラスのショーケースに入れて愛でていた宝石を、ケースを破壊して奪われたふうな気分だった。もちろん、これも身勝手な感覚だと承知している。
正樹に歩美への恋心を告げていなかったことが災いして、彼には交際してからの彼女との進展を逐一報告された。
デートにキス、セックスに旅行、婚約――結婚。
自分の意見をはっきりと述べることを得意としていない純一郎は、歩美への気持ちを正樹に伝えることが出来なかった。
一度言いそびれると、告白のタイミングはますます失われる。その結果、純一郎はふたりが結婚に至ってもなお、その思いをくちには出来ないできたのだった。
正直に言うと、学生の頃は気が狂いそうになったときもあった。
正樹に激しい嫉妬をいだきながらも、親友の幸福を願わなくてはと、それが友人としての正しい姿なのだと、己を律しようともしたこともある。
しかし、大人になった今なら、それは言い訳だったのかもしれないとも考えた。
本当は正樹の幸福などどうでもよくて、どんな繋がりであれ、単に自分が歩美と繋がっていたかっただけなのかもしれなかった。
そして、そんなふうに考えてしまう卑怯な己を、友人を利用している己を、認めたくなかったのかもしれない。自分をそこまで薄汚れた人間だと、考えたくなかったのかもしれない。
もっとも、今となってはどうでもいいことではあるが。
正樹と歩美の交際は、順調に続いていた。
実際、純一郎は正樹の親友という立ち位置であったので、正樹を介して歩美との交流も生まれていた。
しかし、その代償として、喧嘩をしたふたりの仲裁や慰めをする羽目にもなった。
ここまで来ると、笑い話にしかならないだろう。自分の初恋のひとと、嫉妬の対象でしかない男を、彼女との交流を守るために仲直りさせなければならないのだ。
勇気も根性もない己を、いよいよ自分で嘲らなければならなくなる。
大学生になる頃には「じつは歩美が好きだった」なんて、とても言えなくなっていた。今更にも程があった。
そんな環境で、純一郎は初恋の女性が自分の親友と愛を育んでいく過程を、間近で見続けることになっていたのである。
もうこの頃にもなると、自分の感覚がどこか麻痺している自覚もあった。が、そんな環境にいれば感覚のひとつやふたつは麻痺するだろう。
むしろ、麻痺させることこそが自身を守る方法で、純一郎はきっと無意識にそれをおこなっていたのだと思う。
歩美のことは、ずっと好きだった。
いっそ興味が失せればなにもかも楽になれるのに、正樹のこともきちんと親友として見れるのに、悲しいくらいに、憎いくらいに、彼女への恋心は強まることこそあれ、弱まる気配は一向に感じられないのだった。
中学生の頃から歩美しか見ていなかったからか、彼女以外の女性に惹かれることはなかったし、もっと言うと、恋愛というものがなんなのか、わからなくなっていた。ひとりの女性に長く恋心をいだき続けたばかりに、却って恋というものがわからなくなっていたのである。
中学校の時分から一緒なのは、歩美も同じである。三人はその頃から大人になった今に至るまで、交流を続けてきていた。
歩美は、純一郎の初恋の女性だ。中学生の頃から、恋心をいだき続けてきた。
きっかけは、些細なことだ。純一郎は読書が好きで、よく図書室に通っていた。
そこで、自分と本の好みが合う女子生徒を見つけた。それが歩美だった。
その段階では言葉を交わすような関係ではなかった。ただ、自分が過去に借りた本を彼女が読んでいる場面に時折遭遇したのである。
それが、歩美に興味と好感をいだいた契機だった。
恋人になりたいと願ったわけではなかった。歩美は優しく、美しく、本当に魅力的な女性であったから、自分なんかとはとても釣り合わないとわかっていた。
だから、笑顔を遠くから見つめることが許されれば、それでよかった。それ以上は望まなかった。
しかし、その淡い願望はいくらもせぬうちに打ち砕かれることとなる。
正樹と歩美が、交際を始めたのだった。
そのときの感情を、純一郎は今でも忘れることが出来ない。
純一郎は、正樹に歩美への恋心を告げていたわけではなかった。にもかかわらず、身勝手だとわかりながらも、裏切られた――という思いが、胸の内で膨れ上がったものだった。
ガラスのショーケースに入れて愛でていた宝石を、ケースを破壊して奪われたふうな気分だった。もちろん、これも身勝手な感覚だと承知している。
正樹に歩美への恋心を告げていなかったことが災いして、彼には交際してからの彼女との進展を逐一報告された。
デートにキス、セックスに旅行、婚約――結婚。
自分の意見をはっきりと述べることを得意としていない純一郎は、歩美への気持ちを正樹に伝えることが出来なかった。
一度言いそびれると、告白のタイミングはますます失われる。その結果、純一郎はふたりが結婚に至ってもなお、その思いをくちには出来ないできたのだった。
正直に言うと、学生の頃は気が狂いそうになったときもあった。
正樹に激しい嫉妬をいだきながらも、親友の幸福を願わなくてはと、それが友人としての正しい姿なのだと、己を律しようともしたこともある。
しかし、大人になった今なら、それは言い訳だったのかもしれないとも考えた。
本当は正樹の幸福などどうでもよくて、どんな繋がりであれ、単に自分が歩美と繋がっていたかっただけなのかもしれなかった。
そして、そんなふうに考えてしまう卑怯な己を、友人を利用している己を、認めたくなかったのかもしれない。自分をそこまで薄汚れた人間だと、考えたくなかったのかもしれない。
もっとも、今となってはどうでもいいことではあるが。
正樹と歩美の交際は、順調に続いていた。
実際、純一郎は正樹の親友という立ち位置であったので、正樹を介して歩美との交流も生まれていた。
しかし、その代償として、喧嘩をしたふたりの仲裁や慰めをする羽目にもなった。
ここまで来ると、笑い話にしかならないだろう。自分の初恋のひとと、嫉妬の対象でしかない男を、彼女との交流を守るために仲直りさせなければならないのだ。
勇気も根性もない己を、いよいよ自分で嘲らなければならなくなる。
大学生になる頃には「じつは歩美が好きだった」なんて、とても言えなくなっていた。今更にも程があった。
そんな環境で、純一郎は初恋の女性が自分の親友と愛を育んでいく過程を、間近で見続けることになっていたのである。
もうこの頃にもなると、自分の感覚がどこか麻痺している自覚もあった。が、そんな環境にいれば感覚のひとつやふたつは麻痺するだろう。
むしろ、麻痺させることこそが自身を守る方法で、純一郎はきっと無意識にそれをおこなっていたのだと思う。
歩美のことは、ずっと好きだった。
いっそ興味が失せればなにもかも楽になれるのに、正樹のこともきちんと親友として見れるのに、悲しいくらいに、憎いくらいに、彼女への恋心は強まることこそあれ、弱まる気配は一向に感じられないのだった。
中学生の頃から歩美しか見ていなかったからか、彼女以外の女性に惹かれることはなかったし、もっと言うと、恋愛というものがなんなのか、わからなくなっていた。ひとりの女性に長く恋心をいだき続けたばかりに、却って恋というものがわからなくなっていたのである。









