平野啓一郎 著 音楽之友社 166P  2013年12月刊
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5年前に読んだ本の再読です。
ピアノを趣味としつつも、あまりショパンを弾かずにきた私なのですが、
このところ、ちょっと弾くようになったこともあり。

平野啓一郎氏が『音楽の友』という雑誌に『ショパンをもっと知りたい』という名前で2009年~2010年に連載していた原稿を元にまとめたもの、とのこと。
小説『葬送』を執筆していたときの取材メモに基づく内容となっています。
さすが知識人、平野啓一郎!
一つ一つのエピソードは短いながら洗練されていて、読みやすいです。

ショパンの父ミコワイのことが一番印象に残ったかも。
フランスから移住した一介の語学教師から、大学教員にとりたてられ、
先賢の明で寄宿舎を建てて大学に貢献するとともに、フレデリクに理想の環境を与えることにもなった、とのこと。

 音楽家ショパンが形成されてゆく過程は、なにか劇的で、壮絶な逸話の数々に彩られているというよりも、知的で、物事をよく分かっている大人たちが、皆で見守りながら、この素晴らしい才能をどうしたらいいかと、大切に育てていったような観がある。それは、そうした人々を惹きつけた、ミコワイの人間的魅力があればこそだっただろう。(p.53)

 ミコワイは、一貫して理性的で、愛情に満ちた父親であり、ショパンにとっては、父性の手本のような存在だった。ショパンがサンドの連れ子たちに、幾分父親らしい振る舞いをするようになり、それがサンドの反発を招いて、二人の関係を決定的に悪化させてゆくのはこの(ミコワイの死の)丁度後である。そのタイミングが興味深い。
 パリで栄光の最中にある息子の姿を目の当たりに出来なかったことはさぞ無念だったろうが、ショパン自身がこのたった五年後に亡くなってしまうことを知らないまま他界したのは、ミコワイにとっても幸いであったに違いない。(p.58)


あ、それから、
ずっと後年、フレデリクの命を縮めたスコットランド行きの様子も、まざまざと感じ取られました。
旅のセッティングに奔走したスターリング嬢の厚意が仇になるなんて、ほんと、人生ってわかりません。