映画「風立ちぬ」を観たら主人公の二郎青年が設計した飛行機が盛大に空中分解するシーンが複数回あるのは観ての通りです。優秀で真面目で仕事熱心な人が設計したのに何で空中分解するのじゃろ?と思う人も居るかと思うので今日はその辺に関する私のかなりいい加減な雑学を披露しようと思います。
東村山ですこんばんは

あくまでシロウトの雑学なんで、あまり真剣に考えないで参考程度に認識してくださいね。

前にも紹介したジェイムズ・エドワード・ゴードンの「構造の世界」という本を読むと、第一次世界大戦当時の木製骨組み布張りの飛行機はたいそう安全な設計だったとあります。

複葉機時代の航空機はワイヤーを張り巡らせたりしていかにも華奢な印象ですが、飛行中に機体に掛かる力に対しては十分な強度があった。まあエンジンパワーも低かったので機体に掛かる力もたかが知れてたんでしょうな。

それでもフォッカー製の単葉戦闘機が急降下中に振動現象で空中分解した話が上記の本に出てきます。

「風立ちぬ」の主人公が飛行機設計に関わり始めたのは、ちょうど日本でも全金属製飛行機を作り始めた時期でして、木製飛行機の設計や製造のノウハウは当てにならなくなりつつあるしエンジンパワーも向上して機体に掛かる力も段違いに強くなっていた。

当時の飛行機設計は映画で描かれたように、要求される性能を満たす為のエンジンや翼形(官民の研究機関が公表したもの)を選んで、機体に掛かる力を考えながら計算尺やソロバンや手回し計算機で強度計算をして飛行機を形作る部材の強度を割り出して設計していた。

でもって試作機を作ると、翼や胴体に重りを吊るして飛行中に力が掛かった状態にして、変形量が計算内に納まっているかどうかを確認する。
二郎さんの設計した飛行機はテスト飛行したのだから、この段階はクリアしている。つまり予想される飛行中の力に対して十分な強度は有った事になる。

じゃあなんで壊れるのか?上で書いたフォッカー単葉機のように振動するのですな。

流体内に置かれた物(この場合空気中を飛ぶ飛行機)の周囲には「カルマン渦」という現象が必ず起こる。
つまり風下の方向に大きさの異なる渦が交互に発生して振動現象を起こす。

設計した飛行機が飛行中にどんな振動を起こしているのか、というのは当時の強度試験や模型による風洞試験では分からない。実際に飛ばしてみてテストパイロットの体感で確認するしかなかった。

まあこういう振動現象も最近は高性能コンピューターでかなりシュミレートできるそうですが、計算尺の時代には無理だった。
テストパイロットもあんまり無理しないで少しづつ激しい飛行を行えばよさそうなものですが、工場から飛行場まで牛に引かせて2日がかりだから無理したのかなぁ…

まあ、そんなこんなで昔の飛行機はよく空中分解した。
異常振動を抑えるには振動する部分の部材の厚みとかを地道に調整してカルマン渦の振動数と部品の固有振動数が共振しないようにズラすしかなかったハズだ。推測だけど他にやりようもあるまい。

地道な強度計算とテスト飛行と振動対策が上手くいけば完成した飛行機はちゃんと安全に飛べる訳だが、なんとなく運の良し悪しで開発がスムースに行ったり行かなかったりしたようだ。

それに映画にも描かれているように日本には高出力で信頼性のあるエンジンが無かったから外国の戦闘機と戦うにはある程度「冒険的」な設計にしなければならない事情もあった。
アメリカの戦闘機なんぞはエンジン出力のわりに凡庸な飛行性能の戦闘機だったりするが、それだけ余裕のある設計の頑丈な機体だったということだ。

非力なエンジンや低い工作技術など当時の日本航空産業の制約の中で零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦)を纏め上げたところが堀越二郎氏の凄い所である。

時代が下って最近の飛行機は、最近といっても1960年以降か?「最適設計」という技法で作られるようになった。
具体的にどういう事かというと、飛行時の強度だけでなく機体の寿命も設計時に考慮するようになった

たとえば1万回飛行する機体を最適設計すると1万プラス一回飛んだときに機体のどこかが壊れる(理想的には)、
もし1万五千回飛んでも機体のどこも壊れなかったとすると最適設計としては失敗という事になる
すなわち重量か製造コストのどちらかあるいは両方が過大ということで失敗作となる。

これがどういう事かというと第二次大戦時代の飛行機は整備点検がしっかりしていれば現在でも飛ばす事が出来る(欧米の金持ちが趣味で飛ばしてるように)。
しかし最適設計された戦後のジェット戦闘機は、もし金持ちが軍の中古品を手に入れたとしても規定の飛行回数をすでにこなしていたとすれば危なくて飛ばせられないということだ。

まあ、もちろん機体をバラバラにするほど徹底的にメンテナンスして劣化した部品を交換すれば飛ばせられるだろうけど第二次大戦中の機体に比べて途方も無く費用が膨らむだろう。

どうしてこういう最適設計が導入されたかというと、軍用機なんぞは時間が経てば陳腐化して戦力外になるから半永久的に飛べる機体なんて要らないという事ですな。たまに後継機の開発が上手くいかなくて古い機体を大金をかけて整備するハメになるようですが。

私が知ってる飛行機設計の話はこれくらい

そういえば九六式陸上攻撃機という飛行機が出てきましたな、堀越二郎の同僚の本庄が設計した迷彩塗装の爆撃機(雷撃もする)です。映画の中では中国空軍のアメリカ製戦闘機に撃たれて火を噴いて墜落してました。

この九六式陸攻というのは日本軍が始めて実戦投入した全金属製飛行機でした。
古い航空ファンの記事によると全金属製ということで「浅い角度で当たった機銃弾は跳弾になってダメージを受けない」という誤解があったり、接近してきた中国戦闘機に主翼をぶつけようとしたとかイロイロあったようです。全金属製だから凄く頑丈だと思われていたようです、もちろんそんなことは無かったのは映画の通りです。

という訳で飛行機もいろいろと面白い。
ではまた

ふと思い出したけど「構造の世界」のフォッカー単葉戦闘機は振動で空中分解したのではなく、荷重試験を念入りにやり直したら翼が妙な方向にねじれたので構造材の一部を弱くして対処した、と書いてあったのを思い出した。というわけで訂正

本が手元に無いからコレも間違ってるかも