2017年09月12日

雨の香りと共に目覚める。
エアコンで室温を管理された部屋の中にいると、今がいったい何時で外の景色がどうなっているのかわからないが、なんとなく雨が降っていることはわかる。
朝。
体調はなかなか好調。夜中に汗をかいて2度ほどTシャツを着替えたけど。

僕はキャンディをひとつ口に放り込む。
そういえば入院してからさりげなくキャンディにハマってしまって、フルーツ飴をたいらげてからもチェルシーやら甘露飴やらいろんな種類を買って来ては楽しんでいる。この数日で飴さんともかなり仲良くなった。もうそろそろ「飴ちゃん」と呼んでもいいかもしれない。

外はやっぱり雨が降っていたので、散歩は中止。
小説の続きを読んでいると、朝ごはんが到着。
そうだった。ご飯を食べられるようになったんだった。
メニューは味付けいわしとほうれん草の胡麻和え、みそ汁と牛乳。
五分粥じゃなかったら給食の献立のようだ。
モクモクと食べる。鰯は缶詰みたいな味がするが、よく噛んでいるとなかなかおいしい。

洗面所に行って歯を磨き、顔を洗う。
そういえばと僕は思う。
高校生ぐらいまで、僕はかなりの潔癖性だった。
トイレの取っ手や電車のつり革に触れられなかったり、人が飲んでいるジュースを回し飲みするのがためらわれたりしていた。(今は女の子に触れたりキスするくらいのことはできるけど(笑))
一日に何度も風呂に入り、何度も歯を磨いていた。
多分お酒を飲むようになってから、そういうことがばからしくなって、あまり神経質にならなくなったのだと思う。
しかし入院中の今は当然お酒を飲んでいないから、なんとなくあの頃の潔癖性の自分が戻って来ているような気がする。
何度も歯を磨き、顔を洗う。2日に一度しかお風呂に入れないから、入れない日はなんとなく気持ちが悪い。採血した時にシーツに落ちた血の染みがひどく汚く見える。

鏡に映った自分の顔を見つめる。
1週間経って、僕は少し痩せていた。体重は2kgほど減っていた。
「悪くない」
と思う。痩せたとはいっても不健康そうな印象はない。
顎の肉が削れ、肩が少し細くなった。中年独特のお腹のお肉は少々あるが、入院する前よりも今の方が身体が軽い。
ただし、痩せることによって体力もそれなりに落ちているだろう。
9/17にはブロークンTVのライブがあるから、退院したら少し体力をつけなければと思う。

ベッドの中で小説を読んでいると、頭がぼんやりとして来てうとうとしそうになるから、談話室に行って続きを読む。
談話室にはアメリカンな社長さんがいて、やっぱりテレビを見ていた。
一応会釈はするが、お話はしない。
彼の腕には点滴がつながれているから、多分まだご飯は食べられないのだろう。
どんな病気で入院しているのか聞いてみたかったが、なかなか話しかけるタイミングはやってこない。

お昼ご飯ができたそうなので病室に戻る。
白身魚のムニエルとマカロニと人参のクリーム煮。インゲンの炒め煮、なし。
『野菜チームと果物チームが野球の試合をしました。9回の裏果物チームの攻撃、2アウトでランナーなし。メロン選手がヒットを打って、果物チームがサヨナラ勝ちしました。さてなんででしょう?」
というクイズを思い出す。
なんとなく、うふふと笑ってしまう。

伊坂幸太郎の「砂漠」はまあ、面白かったというところ。
初期の作品はいくつか読んで、なかなか面白いと思ったが、完全にシンクロするところまでは行かないというか、文章にぎこちない部分があったり、力が入り過ぎたりする部分が目についたりしていた(偉そうでごめんなさい)その点「砂漠」はスムーズで自然に読めたが、多作が災いしたかいまいち内容が薄い。人気作家だし読み応えはあったけど、なんというか「大衆作家になっちゃったなぁ」というイメージ。ちょっと石田衣良の作品とかぶって来たなぁというのが正直な感想でした(苦笑)
次はカートヴォネガットの「猫のゆりかご」を読んでみよう。

そういえば、入院していることをあまり人にいわないようにしていたんだけど、何人かの親しい人がお見舞いに来てくれた。こちらは暇をしているから来てくれてとても嬉しいのである。ありがたいことなのである。

夜ごはんは八宝菜と大根のサラダ、小松菜煮浸し、豆腐と葱のすまし汁。
優しい味が身体に染みる。
モクモクとよく噛んで食べる。

顔を洗って歯を磨く。
雨を感じながら夜を過ごす。


2017年09月11日

ふと目が覚めた。
入院してからこの方断片的にしか眠れず、夜中に何度も起きていたが、今日はかなり深く眠ったようだ。
途中で起きることもなく、夢も見なかった。
気分はとてもすがすがしい。熱もなさそうだし、腹の鈍痛も治まっている。
やはり薬を変えたのがよかったようだが、我ながら急激な回復に感心する。

6時を迎えて今日が始まる。
看護師さんがやってきて採血の時間。
腕に針を刺し、血液を採取する。むろん僕はその場面を見ることができない(怖いのです)
ベッドに寝かされて左腕に点滴の、右腕に採血の針がそれぞれ刺さっているところを想像すると(というか実際そうなっているんだけど目を閉じています)初代仮面ライダーの改造シーンを彷彿とさせる。とはいえ、僕も初代ライダーはリアルタイムの世代ではないので、なんとなくそんな感じがするだけなのだが。
しょうもないことを考えているうちに採血終了。
後ほど担当医が結果を知らせに来てくれるとのこと。

そういえば僕には担当医が3人ついているようだ。
一人は主治医で若い女の先生。
あとはもう一人若い女の先生と若い男の先生。
主治医でない二人は必ずペアでやってくる。主には女の先生が僕と話をするが、後ろに男の先生が控えている。
主治医の先生は薬を強いものに変えてくれたのだが、わりとラジカルな考えの持ち主らしく、早く退院できることに越したことはないと思っているようだ。逆に二人の担当医は慎重派で、とにかく様子を見ることを主眼に置いている模様。
採血の結果がまもなく出るが、どの先生が来るかによってもその後の対応が変わってきそうだ。

そしてやってきたのは主治医の先生だった。
「採血の結果だけど、かなりいいです。やったね。」
先生ははしゃいだようにいうから、なんとなく僕は照れる。
「よかった。おかげでほとんどお腹の痛みもなくなったし、体温も平熱に戻ったみたいです。」
僕が言うと先生は目を見開いて喜んでくれる。(目を大きく見開くのが彼女の癖のようだ)
「じゃあお昼からごはんを食べてみましょうか。そうなると点滴も外せるね。」

僕は一応喜んだ。退院してうなぎやステーキや天ぷらを食べに行くのなら本気で喜んだと思うけど(ましてや主治医の先生と一緒に行くならより楽しそうだけど(笑))あくまでも病院の食事である。たいして期待できるようなものではないだろう。しかも現在は24時間体制で点滴をうけているから、たいしてお腹が減っているわけでもない。
それでもやっぱり、一応でもなんでも、僕は喜ぶべきなのだ。なにしろ退院に向けて前進しているのだから。

朝の散歩を終え談話室に行ってみると、誰もいなかった。まだ早い時間だからみんなベッドの中にいるのだろう。僕がiPhoneでSNSなどを見ていると、おもむろにアメリカンなTシャツの社長さんが入ってきた。
「すいません、テレビを見てもいいですか。」
と彼は僕に言う。
「もちろんです。」
と僕はいう。
社長さんは僕に礼を言ってからテレビのスイッチを入れ、ワイドショーか何かを見ていた。

お風呂に入って汗を流す(風呂は月、水、金に入れます)
湯船に浸かってのんびりとした気分。
僕の左腕にはまだ駐車針が刺さったままである。点滴は終了したが、抗生剤の投与はまだ必要なのだ。
風呂に入るときには看護師さんが針とチューブをビニールでシールドしてくれる。なのでお湯につけても大丈夫。
なんとも気持ちがいいのである。

そして久しぶりのお昼ご飯。
五分がゆ、鶏肉の焼き物、キャベツとトマトのサラダ、里芋の煮物、茄子の煮びたし、リンゴ。
離乳食のように柔らかいものばかりが出てくると予想していたが、五分がゆ以外は案外噛みごたえのあるものばかりで特に鶏肉はかなりしっかりとしており、噛めば噛むほど味わいがあってなかなかおいしかった。
ただし、五分がゆというのはあまりおいしいとは言えないものですね。ご飯だと思うとやるせないほどに満足感が薄い。なのでこれはスープだと考えて食べることにする。里芋の煮物のおつゆをスプーンですくっておかゆと一緒に食べる。おかゆをそのまま食べるよりはましかもしれない。
なんだかんだいいながら、ばっちり完食。おかずは薄味で上品だし、種類も豊富でなかなかよろしい。

食べ終わったら図書室に行って本を物色する(図書室は月〜木曜日のお昼に利用できます)
借りる数に限りはないので今回もたくさん借りてみた。
家にいる時もiPhoneを見ていることが多くなって読書をする量は確実に減っていたのだが、ここに来て本を読むのがとても楽しい。
ベッドの中にいながらいろんな経験ができるのがいい。iPhoneでいろいろ見ているのとは違う興奮がある。
まずは伊坂幸太郎の「砂漠」から読んでみよう。

本当は一週間くらいで退院できるだろうと考えていたが、そうなると明日がその日にあたる。
やっとご飯が食べれるようになったぐらいだから、明日退院するのは無理そうだ。
そろそろおうちが恋しくなってきた。
ハナは元気にしているだろうか。

夜になったら夜ご飯が運ばれて来た。
ここまでの数日ご飯を食べていなかったので、時間の感覚がないというか、ひたすら本を読んで夜が来たら消灯しなければならないので(そんなに簡単に眠れない)iPhoneでまぶたが重くなるまでいろいろ見ていたりするばかりだったが、こうして食事がやってくると、時間にメリハリが生まれる。

メニューはカレイの煮付けを中心とするもの。
昼と同じくモクモクとよく噛んでいただきます。
魚もおいしいねぇ。

モクモク。






2017年09月10日

昨日はドラえもんが終わってから22時過ぎに眠ったが、1時頃汗だくになって一度起きてしまい、Tシャツを着替えて再度目を閉じて4時半に目が覚めた。
僕は細切れに眠っているようだ。しかし具合はよくなっているようだ。
体温を計ると、熱は下がっていた。
もしかしたら薬が効いて来たのかもしれない。

僕はオレンジ味のキャンディーを口に放り込む。
6時の散歩の時間が来るまではベッドの上で静かにしている。
イヤホンで「真心ブラザーズ」を聴いている。
今まであまり人に言ったことがないが、僕は真心ブラザーズのドラマーが大好きだ。
ドライで小気味よく、快活で饒舌。
テクニカルでありながらも、歌ものにもずばりと合わせてくる。

これまでの自分のドラミングにもかなり影響を及ぼしていると思う。

しかし、今まで真心のドラマーが一体誰なのか調べたことはなかった。
多分、真心のお二人が気に入った何人かが叩いていているのだろうなと勝手に思っていた。
そしたらひょんなことからひとりの人が叩いていることを知った。
先日そのご本人にお会いしたのである。
須貝直人さん。
そういうわけで改めて真心ブラザーズを聴き直すが、やはりドラムが最高に気持ちいい。
実際に叩いている人を知ってから聴くと、キュートにも感じる。
とてもいいなぁ。

6時になって散歩する。
今日も世界はまことに美しく、とても清々しい。
ん?そういえばお腹がそんなに痛くないような気がする。
前傾姿勢にならなくても歩けるし、お腹にズンズン響く感じもない。
これは多分薬が効いているのだ。
間違いない。

主治医の先生が病室を訪れる。
僕は状況が好転していることを告げる。
それを先生は嬉しそうに聞いてくれる。
「よかった。このままさらに様子を見ましょう。明日採血してデータを取ってみるね。」
「わかりました。注射はあまり得意じゃないけれど。」
子供じゃないんだからと先生は笑いながら退室した。

それが午前中のはなし。

談話室に行ってみると新しく入って来たと思われるおじさんがテレビを見ていた。
おじさんといえば僕もおじさんなのだが、入院しているのはおじいさんばかりなので、僕は自分が若いのではないかと錯覚し始めた頃であった(苦笑)
おじさんは小柄で痩せていて、髪の毛は短く真っ白だった。多分僕より少し年上くらいだろうか。他の患者さんは病院から支給されたブルーの寝間着を着ているが、彼はアメリカンなTシャツを着て派手なジャージをはいていた。ちなみに僕もTシャツにジャージという格好だったからお互いに目線を交わすことになる。
おじさんはテレビを見ながら電話をかけていた。
「ええ、スケジュールはそのまま続行していただいてかまいません。僕は行けませんが、ええ入院しているのでね、しかしうちのものが同行しますから問題はないはずです。はい。料金的な部分は先日打ち合わせたとおりで結構です。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。」
彼は別のところに電話をかけると同じようなセリフを繰り返し、次に電話をかけると、
「話はついてるからきちんとやってくれよ。俺がいないと物事が進まないんじゃ意味がないからな。」とテレビを見ながらいい、電話を切った。
多分何かの会社の社長さんなのだ彼は。
なんとなく水をあけられたような気分になった。
僕がどこかに電話するにしても、せいぜいリハーサルの日取りを代えてもらうくらいである。
誰かに指示を飛ばしたりするような用事はない。

看護師さんが点滴のパックを取り替えるためにやってきた。
「ここでやっちゃいますよ。あら?チューブの中の血が固まって来たのかしら、液の動きが少し遅いわね。立井さん、針を入れ替えるからこっちに来てください。」

僕の腕には注射針が刺さりっぱなしになっており、そこから短いチューブが出ている。
点滴するときや抗生剤を投与する時は、そのチューブに接続するのである。
しかし血が逆流したりするのでがチューブの内部が少し汚れて来たようだ。
右手に刺さった注射針を抜き、左側に新たに刺す。
針が刺さる時、ちくりと痛みが走る。
その瞬間ドキッと心臓が萎縮する。
やっぱり僕は注射があまり得意ではない。

閑話休題。
僕は手首や指に装飾品をつけるのが好きだ。
若い頃はブレスレットやミサンガや指輪などをじゃらじゃらとたくさんつけていた。
しかし、ドラムを叩く時にそれらは非常に邪魔になる。
場合によってはブレスレットや指輪の隙間にスティックが引っ掛かってプレイに支障をきたすこともある。
だから演奏する時にははずすわけだが、元々僕は几帳面な性格でないため、はずした装飾品をやたらとなくすのだ。
今までに一体いくつの指輪とブレスレットとネックレスを失ったか見当もつかない。
そういうわけで、僕はここ十年くらい、装飾品をつけることを自粛している。

今、左の腕には注射針と短いチューブが接続されている。そしてそれは点滴のパックへと繋がっている。
じっと見ているとなんだかかっこよいような気もしてくる。
例えば攻殻機動隊のように身体の一部がサイボーグ化しているようにも見えるし、エヴァンゲリオンのアンブリカンケーブルのようでもある。またはエルガイムの有線キャノンだとか、仮面ライダースーパーワンのファイブハンドだとか。

まったくねぇ。考えることが子供なのだ。
まあでも点滴しているだけなのに、これだけ楽しめるのだから我ながら楽天的なんだなぁとも思う。

夕方小田急線が燃えたというニュースを見た。
電車が通過するポイントにある格闘ジムから出火し、そこから電車の屋根に火が燃え移ったのだそうだ。
今の僕は電車に乗らないが、結構一大事だよなと他人事のように思う。

しかしそろそろ普通の生活に戻りたいなぁとも思う。なにしろもう退屈なんだ。

エルガイムか。僕はガンダムも好きだったが、エルガイムもザブングルもダンバインも大好きだった(全部ロボットアニメです)
主題歌のレコードも全部持っていた。
大体B面(終わりの歌)がいいんだよな。
退院したらサンライズのファンクラブに入ろうかなと真剣に考えてしまった。

それが午後のはなし。

夜は音楽を聴いて、またドラえもんの映画を見た。

まったく、子供じゃないんだからねぇ(苦笑)

2017年09月09日

朝6時、全館放送が流れる。
「おはようございます。本日は9月9日土曜日です。今日もよろしくお願いします。」
放送と共に部屋に灯りがつく。今日という日が始まる合図だ。
僕は相変わらず寝られないでいるから、本を読みながら放送を聞いている。
そしておもむろにベッドから抜け出す。

一日の始まりの合図の後、職員出入り口のロックが解除される。
僕は点滴のスタンドをゴロゴロと転がしながら外へと出る。
病院の前にはわりと広い駐車場があり、その向こう側にはちょっとした庭園風の広場がある。
何があるわけでもないが、そこを軽く散歩するのがいつの間にか日課のようになった。
朝の風はひんやりとして心地よい。
病院内は常に空調が効いていて心地よさをキープしているが、人工的なエアコンの空気は時に胸が詰まるように感じることがある。ましてや周りは病人ばかりである(僕もだけれど)時にはひとりでふらりと外をぶらつきたくなるのである。

そういえば昨日から6人の大部屋に移動になった。料金的に追加を払うことはなくなったが、はやりスペースは狭く、すぐ横には別の患者さんがいるので、なかなか心休まらない。まあ、仮の宿だから文句はないのだが。ああ、早く退院したい。

陽の光を浴びながら光合成しているような気持ちになる。
腹は痛いが気分はよろしい。
さてと病室へ戻るか。

ベッドに戻ると看護師さんたちが僕を待ちかまえていた。
「もう、どこに行ってたの?抗生剤を入れますからね。あとで先生も来ますからもう少しここにいてくださいね。」
と苦笑しながら言う。

ところで、病院内では「iPhone」を使うことができる。
かつては電波や電磁波の影響などを考慮して携帯電話の使用制限がかかっていたそうだが、最近の研究でさほど影響がないことがわかったらしく、わりとどこでも使えるのである。
ただしWi-Fiは通じていない。ケータイが使えるからといってそれほど気が利いているというわけでもないらしい。
週末は図書室が閉まっている。借りて来た本はあらかた読んでしまった。でも「iPhone」があれば暇を持て余すことはない。
まったく便利な世の中なのだ。

退院したらまず何を食べようかなとか、お洒落なヘリンボーンジャケットが欲しいなぁとか、上野では深海魚にまつわる特別展をやっているのかと、見るともなくネットサーフィンなどしていると、主治医の先生が登場。

「どう?」
と彼女は心配そうにいう。
「うーん、状況はあまり変わってないかも。」
と僕は寝転がったままでいう。
「そうか…」
と先生は指を口元に当てて何かを思案している。

前回入院した時はお腹がとても激しく痛くて喋るのも辛いほどであったが、今回は2度目でもあるせいか痛みも緩慢なのである。だから自転車で病院まで来れたのだけど、悪い意味で僕の身体は痛みに「慣れて」しまっているのかもしれない。だから薬を投与してもあまり効かず、なかなか治らないのかもしれない。なにしろお腹が痛いことは痛いのだが、それをあまり苦痛にも思わなくなって来た。しかし、痛いということは炎症が改善されていないということだ。つまりこのままでは飯も食えないし退院もできない。

「わかりました。」
と先生はきっぱりとした口調でいった。
「次の分から少し強い抗生剤に切り替えます。それで状況を見てみましょう。ただし、気持ち悪くなったり、身体に異変があるようならすぐにいってください。いい?」

僕は先生の目を見て頷いた。
先生も少し目を見開いた後、静かに頷いた。

イヤホンをして音楽を聴く。
ジェファーソンエアプレイン、モンキーズ、ビーチボーイズ。60年代の生々しくも夢みがちな音楽。
僕が表現したいのは一体なんなんだろう?
神様はいったいどこにいるのだろうか。

AbemaTVというアプリがある。
独自の番組をやっているインディーズテレビ局みたいな感じのアプリなのだが、夜「ドラえもん」の映画を放映していたのでなつかしく思い見てみた。
ドラえもんの声が大原のぶ代さんで、おじさん世代の僕にとっては非常にしっくりくる安心の声なのであった。もちろん今の声優さんも嫌いじゃないけどね。
映画の内容もとても面白かったです。

少しずつまぶたが重くなって来た。
なんだかうまく眠れるかもしれない。
薬を強くしたせいかな。


2017年09月08日

一日に1度か2度、主治医の先生が僕の様子を見に来てくれる。
「具合はどうですか。」
「特に変わらずです。」
栄養分である点滴と平行して抗生剤も投与しているが、お腹の痛みは去らず、熱も下がらない。
触診にてお腹を触ってもらうと下腹部の当たりが固く「凝って」いる。押さえるとやはり痛い。
先生はまいったなぁという顔をして力なく笑う。そして、

「まあ様子を見ながらやりましょう。あ、そういえば絶食といってもお茶とか飴ちゃんは口にしてもいいよ。」

という。
前回は点滴を受けている間何も飲み食いできなかったから、そういわれると少し嬉しい。
しかし、女の子ってなんで飴に「ちゃん」をつけるのだろうか。僕は普段ほとんど飴を食べることがないので、呼ぶとするならば「飴さん」ぐらいだ。そんなに仲良くない。

点滴をぶら下げているスタンドをゴロゴロと転がしながら、病院に併設されているローソンに行ってみる。ローソンはコンビニなので(あたりまえだ)普通に街にあるような商品を売っている。お弁当もジュースもからあげクンもある。それはとても魅力的なのだが、今の僕にとっては残念ながら無用なのである。
それに不思議なことに(別に不思議でもなんでもないのだが)点滴をしていることでお腹は特に空いていない。すでに数日間何も食べていないのにである。いつもならパブロフの犬的に買ってしまう、あのからあげクンを見てもよだれは出ないのである。

飴さんのコーナーを見てみた。なるほど、いろんな飴があるなぁ。
実際飴を食べたいというわけでもないのだ。しかし普段飴を食べるということがほぼないので(せいぜいのど飴くらいだ)物珍しいのである。
とりあえず、フルーツミックスキャンディーを買ってみた。宝石のような色とりどりの飴さん。

本のコーナー流し見してみると「家飲みがウマくなる本」という雑誌が出ており、中身をパラリと見てから瞬買いした。おいしそうな料理がたくさん掲載されており、なかでも貝の料理がたくさん載っていたからとても気になったのである。

満足して病室へと戻る。
戻る前に図書室に寄ってさらに本を借りた。

「イギリスはおいしい」林望:リンボウ先生のイギリス道中記。タイトルとは裏腹にイギリスの料理のまずさを滔々と説明する文章が面白い。この本が書かれたのは90年代だが、今もイギリスの料理はまずいのだろうか(イギリスで旨いのはインド料理と中華料理だけだと聞いたことがあるけど(笑))

「猫と針」恩田陸:一度ちゃんと読みたいと思っていた作家。薄かったのでこの本を選んだが、どうやら舞台の脚本を本にしたものらしく、ほぼセリフのみで構成されていた。ミステリー仕立てのストーリーはなかなか興味深かったが、ちょっとわかりにくかった。普通の小説ではないからしょうがないのか。今度は普通の小説を読んでみようと思う。

「釣りキチ三平」矢口高雄:小学生の頃アニメを見てたので懐かしくて借りてみた。圧倒的な美しい画力と緻密なストーリー。大人が読んでもかなり面白いし、大自然の絵が白黒でもすごく美しい。マンガも絵画のひとつなのだなぁと改めて感慨に浸ってしまった。ところで三平って秋田っ子なのね。

「深夜食堂」安倍夜郎:一回読んだことあるけど再読。言えばなんでも作ってくれるという食堂で繰り広げられるヒューマンドラマ。これもとても面白い。そういえば猫のハナちゃんをもらうことになった居酒屋「津久井」も言えばなんでも作ってくれるお店だった。西新宿の裏通り。20代の頃は足繁く通ったものだが、今はもうない。

フルーツミックスキャンディーのグレープ味を舐めてみた。
淡く甘く、葡萄の香り。おいしい。
なんとなく、中学生の頃食べたサクマドロップを思い出した。
大人になった今ならあの白いハッカ味の飴もおいしいと思うのだろうか。
当時はコーヒー味だかチョコレート味が好きだったような気がしたが、そんなの入ってなかったんだっけ?


2017年09月07日

病院の中には「けやき図書」という小さな図書室がある。
患者さんはそこで無料で自由に本を借りられるのである。
前回入院した時は退院ぎりぎりまでその存在を知らなかったから、ほとんど利用しなかったが、今回は本を借りまくってやろうと思っていた。
食事もないし病院の外に出る自由もないが、なにしろ時間だけは有り余るほどある。

図書室が開く前に村上春樹の本を読み終えた。
相変わらず面白い。
「騎士団長殺し」については後に詳しく感想を書きたいと思うが、今のところ上巻しか読んでいないので、とにかく面白いとだけいっておこう。
僕はよく人から性格について「少し変わっている」と言われるが、思えば村上春樹の本をたくさん読むから考え方が少しひねくれてしまったのかもしれない。そういうと村上さんに失礼なのかしら(笑)

図書室で本をたくさん借りて来た。
ベッドの枕元にそれらを山積みにして上から順番に手に取り、ぼりぼりと読み漁る。

「街に顔があった頃」吉行淳之介/開高健:浅草、銀座、新宿を巡る街の姿をふたりの作家が語り合う対談形式の本なのだが、これがとてもおもしろかった。お二人の性格上、話は常にエロに行くのだが(ブルーフィルムやキャバレーや風俗など)非常に下品でコミカルで、最終的には哲学的な話に昇華されるという実に読み応えのある対談であった。

「点と線」松本清張:あまりにも有名過ぎるが故にちゃんと読んだことがなかった。現代の推理小説からすると状況設定的に多少強引な部分もあったが、それを凌駕する人間劇、そして昭和のある種牧歌的な雰囲気がとても素敵なのであった。携帯電話やパソコンがない時代の警察って犯人を捜査するのも大変だったんだなぁと思う。

「キングダム」原泰久:言わずと知れた大人気マンガである。とても面白かったが、図書室には2巻までしかなかった。これって40何巻出てるんですよね。退院したら漫画喫茶に行くか。

「美味しんぼ」雁屋哲/花咲アキラ:前回もそうだったが、いざ食べられないとなると旨そうな本や雑誌をやたらと見たくなる。人は「それって拷問じゃないか」というが、なに、僕は食べるというよりは「作る」という観点から見ているからさして苦痛ではないのである。

夜までに一気に読んだ。

あいかわらず、熱は下がらずお腹は痛い。

看護師さんはみんな若い女性で、なんだか可愛らしい感じなのだが、ほぼ全員がマスクをつけているので、どんな顔をしているのか全貌を見ることはできない。とても気になるのである。
まあ仮にめちゃくちゃ可愛い子がいたとして、なんかあるわけでもないんだけれど(苦笑)

そしてまた眠れぬ夜が始まる。
点滴は音もなく僕の体内へと滑り込んでくる。

2017年09月06日

まんじりともしない夜を過ごす。
ベッドの中でじっと目を閉じていると眠りがやってきそうになるが、その瞬間に身体が熱くなり、気づけば汗だくになっている。
僕の腕には点滴の注射針が刺さっている。見上げればぶら下がった透明のパックから僕の腕へとチューブがつながれている。お料理をしなくても栄養補給はできるというわけだ。

盲腸、虫垂炎とはいったい何が原因でなるものなのだろうか。
昔どこかの本で読んだことがあるが、盲腸とは鶏などにおける「砂肝」にあたる器官なのだそうだ。
鳥は餌を食べるときに一緒に砂も食べてしまう。当然砂は固く消化できないから、砂肝がそれをすりつぶしてから体外に排出する。
かつては人にも砂肝があったが、食生活が向上し砂などを口にすることがなくなったからその器官は使われなくなった。それが盲腸だというのである。

つまりはその器官=盲腸に砂のようなものがたまってしまって炎症を起こすのが虫垂炎なのだろうか。
あまり笑えない話である。
僕はお料理を作るのが好きで、わりと自慢げにSNSなどにその写真をアップしたりする。その料理になにか問題があったとするとシャレにならない。
しかも2度目の入院ともなると、あまりおおっぴらに人にいうわけにも行かない。

※ネットで調べてみると盲腸の原因は、ウイルスの侵入、心的ストレス、生活習慣の乱れ、風邪や胃腸炎からの発展が考えられると書いてありました。僕は衛生面など結構気を使いながら料理を作っているから、日々の料理に問題があるわけではないようです。また、盲腸の原因については憶測の域を出ておらず、明確ではないとのこと。

そもそも1度目に発症した時になぜさっさと切除してくれなかったのだろうかと、病院の対応を不満に思う。
それに今泊まっている部屋は4人部屋で、いわゆる大部屋と呼ばれる6人部屋より幾分広くて快適なのだが、その分費用が上乗せされる。僕が望んで4人部屋を選んだわけではなく、たんに6人部屋がいっぱいなのでそちらに入ることになったのだが、病院の都合で上乗せされた費用を僕が支払うというのもなんとなく納得がいかない。

なかなか眠れない状態でもんもんと考えていると嫌なことばかり思いつくものである。
我ながら性格が悪いと思う。
くよくよしてもしょうがないとわかってはいるのだが、お腹は痛いし未来は見えない。

朝が来て、他の患者さんたちはご飯を食べている。
僕は栄養を腕から取っているのでご飯はない。
持って来た村上春樹の小説を読もう。
「騎士団長殺し」
ところでこの小説のタイトルは口に出して言う時、どこにアクセントをつければよいのだろう。
難しい問題だ。



2017年09月05日

紹介状を書いてもらったら、その足で大きな病院へと向かった。
もちろん自転車でだ。
腹膜炎の人が自転車で病院に行くというのもおかしな話だとは思ったが、それくらい動くことはできるのだ。なんだか自分の行動が滑稽で少し笑ってしまう。

先生は別れ際にもまた「ごめんね。」といっていた。
謝る必要などないのだ。先生はよくやってくれた。これは誤診ではない。だから謝る必要などないのだ。

受付に紹介状を提出し、外科の待合室で座って自分の番を待つ。
受付の女性は、
「あら、立井さん、お久しぶりです。」
となんだか再会を喜んでくれているかのような表情でいう。
同じように待っている人たちの顔に見覚えはないが、行き交うお医者さんの中には見覚えのある顔がちらりほらりといる。時には僕の顔を見て会釈してくれるお医者さんもいる。
常連みたいな感じで困ってしまうが、なんだか「戻ってきました」というほっこりとした気持ちがないでもない。久しぶりのライブハウスに行ったら僕のことを覚えてくれていた時のように。

大病院ではやたらと待たされるのが定石だが、紹介状が効いていたのか案外早く名前を呼ばれた。
診察室に入ると、若い女性のお医者さんが座っていた。
僕は彼女の顔に見覚えがあった。
前回(去年です)診察を受けたとき、珍しい症状だからと主治医ではないが僕の様子を見に来ていた人だ。
「前回の主治医から受け継いで、今回は私が担当させていただきます。」
と彼女はいった。

ひととおりの診察を受け、院内の各箇所を回る。
採血し、CTスキャンを受け、レントゲンと心電図をとり、再び待合室に戻る。

名前を呼ばれ再び診察室に入ると、先生は軽く息を漏らしながら、
「やはり入院することになります。」
と残念そうにいった。
「自宅で療養するという方法はなさそうですか。」
と僕は一応聞いてみる。
できれば入院など、したくはないのだ。

「CTの結果が来ていますが、前回よりも状況はひどいです。絶食して点滴と抗生物質で腹膜に開いた穴が塞がるまで待たなければならない。自宅で療養するのは難しいですね。」

「今すぐ手術をするという手もありますが、腹膜が腫れて化膿しているので周辺の血管などを巻き込んでいます。即手術となるとそれらの癒着をほどく必要があるので、かなり難しいものになるでしょう。抗生物質で腫れが引くのを待って、それから手術した方が立井さんにとっても安全だと思われます。」

「なるほど…」
と僕はいい、絶句してしまう。
まさか再発するとはね。
再入院という事実がなかなかうまく受け止められない。

先生は気の毒そうな顔で僕を見ている。
うん、逡巡していても仕方がない。物事はなるようにしかならないのだ。

「わかりました。」
と僕は先生の顔を見ていい、診察室を出る。
入院に必要な手続きを済ませ、自転車に乗っていったん帰宅。
着替えなどの準備をし、気のおけない人にハナの世話をお願いする。
前回はきっちり10日間入院した。今回はどのくらいになるだろう。
わからないことにあれこれ悩んでいても仕方がないが、少しクヨクヨしてしまう。

タクシーに乗り病院に戻る。
担当の看護師さんにいざなわれて病室へと移動。
普段病院なんてかかりもしないのに、いざやってくると入院になるなんて我ながら極端なのだ。

そのようにして、僕の入院生活は始まるのであった。

体温計を見て、
「まずいな。」
と僕はいった。
デジタルの表示は「39.4」の数字を示している。
昔の体温計はたしか目盛りが39.4までしかなかった。
それ以上熱が上がったらもう保証はできませんという意味だと聞いたことがある。
さすがに顔が火照るし頭がぼーっとする。
むろん腹は痛い。

多少無理をしてヨーグルトとバナナのお洒落朝食を食べて薬を飲む。
薬は5日分貰っているので、あと2日分残っている。

ベッドに横たわる。さて、どうするか。
考えているうちに時間はどんどん過ぎていく。
何度も熱を計ってみるが下がる徴候はないようだ。

おもむろに病院に電話してみる。
受付の女性が「午前中の診察は終わりました」と僕に告げる。
そうですか、と電話を切りかけた時、院長先生が電話口に出た。
「これから外に診療に出かけなきゃならないんだけど、戻ったらすぐに連絡する。それまで待っていられますか。」
と彼はいう。待つも何もこれまで何日間もずっと我慢して来たのだ。数時間くらいなら余裕で待てる。

お昼を過ぎた頃、先生から電話がかかって来た。
僕は自転車で病院に行く。
昼の時間帯で休診中だったので受付はひっそりと暗く、誰もいなかった。
「こんにちは。」
僕は気後れしながらも声をかけてみる。
すると奥の診察室から先生が出て来て、無言で「こちらに来なさい」という仕草をした。
先生はまだ白衣さえ着ていなかった。
本当に診療から帰ったばかりなのだろう。グレーのコットンパンツから白いシャツがはみ出していた。

早速僕は台に寝かされる。
先生は僕のお腹に器具を当てながら画面を見ている。
「うーん、、、こりゃまずいなぁ。」
とゆっくりいいながら僕の顔を見た。

「腹膜炎が再発しているようだ。前回診察した時にはさほど徴候がなかったけど、今見ると明らかに腫れ上がっている。うーんまいったなぁ。」
ということは単なる胃腸炎ではなかったということか。

「前回入院した病院にもう一度紹介状を書くから、これからすぐに行ってください。大丈夫?行けるかい。」
先生は苦虫をかみつぶしたような顔を隠しながら僕にそういう。
おそらく先日の診察で症状を見抜けなかったことを悔いているのだろう。
「また入院することになりますかね?」
と僕は先生に聞いてみる。
「わからない。通院ですませられればいいんだけどね。しかしそれはあちらの病院が判断することだ。僕にできるのはここまでだ。」

紹介状を書いてもらう間、僕は薄暗いロビーに座って待っていた。
「今、あちらの病院に連絡して対応を依頼している。返事が来るまで少し時間があるから、痛いだろうけどもう少しだけ待ってください。」
先生はそういったあと、ひとこと付け足した。

「ごめんね。」
と。

その言葉にはおそらくいろんな意味が込められているのだろう。
僕は、
「大丈夫です。」
とできるだけ毅然とした顔を保っていった。

僕はこの先生のことが嫌いではない。




2017年09月04日

朝早く目覚めて近所のスーパーに行った。
このスーパーは最近できたばかりなのだが、6時から開店しているので便利だ。
うどんとささ身肉、豆腐と温泉たまご、茶碗蒸し、バナナ、ヨーグルト、それから水を買った。
とにかく消化によいものを摂取するのがよいだろう。
律儀に薬を飲んでいるが、腹痛はおさまらず、熱も下がらない。

胃腸炎なのだからとにかく水をたくさん飲んで、悪い菌をすっかり出してしまうのがよい。
あまりたくさん食べずに身体の中を循環させるのがいいように思える。
しかし不思議なことに吐き気もなければ便意もないのである。
本来胃腸炎といえば下痢や吐き気をともなうと、ネットなどにも書かれているが、僕にはそれがない。
ただし、便意や吐き気がない胃腸炎というのもしっかりあるとのこと。
なんにしてもインプットすれば自然にアウトプットするはずだ。

家に帰ったらまずは経口補水液を作ってみる。
体調を崩してからこれまで僕はポカリスエットを水やお湯で薄めて飲んでいた。
そのまま飲むと病んだ身体には強すぎるので、少し薄めた方がよいと聞いたことがある。
しかし、ポカリを薄めると果汁の苦みが強調されてあまりおいしくない。
それであれば自分で果汁の入っていないポカリもどきを作ってしまえばいいと思った。

水2リットルに砂糖を大さじ9(結構な量だ)と塩を小さじ1ほど溶かし入れる。
ペットボトルをよく振って混ざったらできあがり。
グラスに注いで飲んでみると、なんというか鼻の粘膜にくっついてくるような独特の甘みがある。
特別旨くはないが、なんとなく身体にいいような気はする。
なにより「自分で作った」というのがいいのだ。

勢いにまかせてうどんを茹でた。
冷蔵庫にあった山芋をすり鉢ですりおろし、茹でたほうれん草とささ身肉を一緒にトッピングした(うちの冷蔵庫にはいろんなものが入っている)
うどんは小学校の給食のような味がした。麺をこれでもかというほどやわらかく煮たせいだ。
でもなんとなくお腹には優しいような気がしたし、味自体はとてもおいしかった。

食べ終わったら経口補水液で薬を飲む。
熱を計ると38度前後をいったりきたりしているが、腹が痛いからか熱が出ているという自覚があまりない。だからどこかに遊びに行きたくてしょうがない。
でも歩く時はいまだに振動が腹に響くので前傾姿勢になってしまう。
やはり寝転がっている他にやることはないのである。

ハナは僕の枕元で静かにしている。
そういえばハナがお出かけした日以来、気温はぐっと下がりとても涼しくなった。
まだ9月も始まったばかりだというのに、いきなり本格的な秋が来たような気候である。
だからハナも玄関で寝転ぶのをやめて、僕の近くにいるのだ。

昼になったのでバナナをちいさく切って、ヨーグルトに混ぜて食べてみた。
こんなお洒落なものを食べたのなんて、いったいいつ振りだろうか。
まあおしゃれといっても何の飾りもなければ、なんの細工もしていなので、味はバナナとプレーンヨーグルトそのものなのである。でもなんだかお洒落においしい。

経口捕水液で薬を飲む。
ベッドに横になり、とりとめのない夢を見る。

夜は湯豆腐と茶碗蒸しを食べよう。
ああ、僕はじっとしていることができなくて、少し眠ったらすぐに起き上がり料理の仕込みをしたり、楽器を弾いたりしている。
だから治らないのだろうか。

昏々ととりとめのない夢を見る。

静かに転がっていると、お腹の痛みは少しずつ移動しているように思われる。
胃が痛くなったり、その下の腸のあたりが痛くなったり、横腹(腎臓や肝臓があるあたりか)が痛くなったりする。
しかし、腹の力を抜いてその鈍痛に耐えていると、やがて右の下腹に固定される。
そこはおそらく盲腸があるあたりだ。
なんとなく、嫌な予感がする。