自己満足



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PS4のテキストアドベンチャーゲーム。開発はロッキンハート。

ジャンルにVRヴィジュアルアドベンチャーとありながら、VRデバイスに対応していない時点で不穏な予感がしたが、これは想像を超えた。
ストーリーはファティマ第三の予言を軸に色んなSFやら伝奇やらオカルトを詰め込んだ内容で、途中から幻想と現実を行き来できるようなオリジナルの装置も出て来て、5pbのアドベンチャーのようなサブカル色の強い作風だが、それぐらいしか感想が出てこないくらいストーリーが理解できない。
何故か。話や設定が複雑だから?書き手の独善的な考えによる内容だから?突拍子もない展開だから?いや、そんなありふれた理由ではない。それだったらどれだけ良かったことか。このゲーム、テキストそのものが非常に読みにくいんだよ。
日本語がそこまで間違っているわけではないんだけど、文章の繋ぎ方がおかしいというか、表現の強弱に違和感があるというか、言葉の使い方に統一性が無いというか、文脈がズレているというか、区切り方がおかしいというか、台詞が変というか、とにかく何もかもがちょっとずつおかしくて、文章を読んでいて定期的に引っかかる。凄く気持ち悪い。
有り体に言えば悪い意味で癖が強いのだが、作り手はこの癖が味を出してるとか勘違いしちゃってる可能性がある。あえて違和感のある表現を強調している場面も見られるし。
文章にだって個性は宿るけど、他人に読んで貰っているという意識がないものは只の自己満足でしかないわけで、綺麗な文章を書けとは言わないが、最低限その自覚は持って欲しい。
物語の構造や考え方によってストーリーが理解できないのではなく、文章が変だから理解できないというのは久しぶりに見た。文章を読ませるゲームなのに、その文章が理解しにくいのはテキストゲームとして致命的過ぎる。読み物としてのスタート段階にすら立てていない。
しかし一番不思議なのは、何故こんなレベルの文章で世に出せてしまったのか、ということ。書いた本人以外は、誰が見たって直ぐに違和感に気付くはず。まさかデバッグすらしてないわけじゃあるまい。
その答えは、クレジットと公式ページにあった。あれ、シナリオ書いてる人と会社の社長の名前、同じじゃね?はいはい、そういうことね。
このゲームは販売も開発のロッキンハートが兼ねている。つまり、このゲームで一番権限があるのはシナリオを書いている社長。そりゃ周りがオカシイと思っても誰も止められないわな。

基本的にこの社長は自分が書きたいこと以外は書きたくないのか、それとも表現力がないのかは知らないが、地の文が非常に薄くて、まるでテレビドラマの台本のよう。状況説明や人間の心理描写が、ものすごく無機質なんだよな。
冷めた表現のせいで場面は朧げにしか見えてこないし、登場人物も誰一人として人間らしい動きをせず、役割と割り振られたキャラに沿って淡白に動き、話すだけ。
ただでさえ文章が分かりにくいのに、状況やキャラの心情を説明してくれないから、唐突感が凄い。それらが組み合わさって、ストーリーがまるで理解できない結果に。

これだけストーリーの把握がしにくいとバックログは必須になってくるが、なんとこのゲーム、文章を読み返そうとログを開くと、直前の文章ではなくそのチャプターの最初の文章から表示されるという現象が起きる。
おい、バックログでプレイヤーが何を求めているか、分かってるか?大抵の場合「ボタン連打して読みきる前にページ流しちゃったから読み直したい」だろ。
更にこのゲームの場合は、「何を言っているのかよく分からなかったから、もう一度確認しておこう」のパターンもある。ありまくる。
いくら小さな会社とはいえ、バックログすらマトモに作れないのか。それともまさか「全く内容が理解できなかったから、もう一度最初から読み直そう」という、万に一つも無さそうなパターンを先読みしてこんな仕様にしたのか。
ともかく、バックログが全然機能していないので、輪をかけてストーリーの把握を困難にしている。

そして悲しみに包まれたVRパート。定期的にワイヤーフレームで作られた3次元空間に飛ばされ歩き回ることができるのだが、VRパートと銘打っている通り、本来ならこのパートはVRデバイスでヴァーチャル空間のような表現をするはずだったのだろう。
そもそもこのゲームは、ヴァーチャルと現実を行き来するTearと呼ばれる装置が物語の中心にあって、VRありきのストーリーだった感じがある。しかし、バックログすらちゃんと作れない会社に、VR対応出来るはずがなかった。
ヴァーチャルという感覚をプレイヤーにリンクさせ、物語に臨場感を生むはずだったVRパートは、光に向かってただ歩くだけの作業に成り果てており、切なさがこみ上げる。
今も対応しようと頑張ってるらしいけど、厳しいだろうなぁ。

因みにこのゲーム、バットエンドが20個ほどあり、選択肢によってあっさりゲームオーバーになる。
居眠りしている主人公に話しかけてきた人物は?という選択に対し、母親と答えるとそのまま目が覚めずゲームオーバー。
大学の研究所に入った彼女の挨拶の時に、主人公が「僕の推しメンのアイドルだ」と幼馴染を紹介すると、そのまま彼女をアイドルとして育成することになり、最後は謎の女に殺されてゲームオーバー。
極め付けは、彼女に肩揉みをしようとしたらバリツが発動してゲームオーバー。なんだよバリツって。
この素晴らしいエンディングがゲーム開始たった10分で全て見られる。
あまりにも唐突で、しかも開始直後にいきなり来るため呆気に取られるが、個人的にはアリかな。
選択肢によってゲームの脈絡とは全く関係のない話に流れ込んで唐突にゲームオーバーというのは、チュンソフトのサウンドノベルに良くあることで、このゲームも「かまいたちの夜」や「街」のような事がやりたかったのだろう。
このバッドエンドに共通しているのは、意味がなくて、脈絡がなくて、いい加減であること。このどうでもいい感じが気軽さを作っていて、本来嫌な気持ちになるバッドエンドでも微笑ましく感じられる。
序盤でインパクト大のエンディングを見せてくれることで、サクサク進みたい人はそれ以後の選択肢で注意するようになるし、バッドエンディングを見たい人はチャプターが細かく分けられているからスキップで簡単に戻ってこられるし、この辺に関しては配慮が効いていてあまりイライラする事はない。

このゲームをプレイしていて、「ルートレター」を思い出した。あれも地の文が冷めていて、まるで台本のような無機質さだったが、ストーリーは理解できた。文章がちゃんとしていたから。
この開発会社はまだ設立したばかりで、作ったゲームもTearが初めてっぽい。多分、社長は本当にゲームが作りたかったのだろう。
だけど、面白いゲームを作るためには意欲だけでなく、センスと技術が大前提として必要であるという、当たり前すぎる現実を目の当たりにした。
結局、色んな人がアイディアを出して、修正しあって、磨いて、だから面白くなるんだろうな、と思う。時には一人の天才が導くこともあるけど、残念ながら社長はその器ではなかった。一人の凡才が暴走するとどうなるか良くわかる良いサンプル。
今公式HP見たら、社長解任されてるじゃん。現実は厳しいね。