2006年12月17日

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦

乙女は歩く、酒薫る春の夜の先斗町を。灼熱の夏の糺ノ森の古本市を。青春闇市たる晩秋の学園祭を。風邪の嵐吹き荒れる京の街を。
彼女と先輩と彼らを取り巻く面々の一年を描いた物語。

古本市で学生天狗の樋口氏が「彼女」に言います。
「今までの人生で読んできた本をすべて順に本棚に並べてみたい。誰かがそう書いたのを読んだことがある。そういう気持ちが君にはあるか」
これって、もしかして恩田陸さんの「三月は深き紅の淵を」にあった言葉?それとも他の書にも同じような言葉が書かれているのかな。「三月は…」の言葉だったら嬉しいな。むふっ。ちょっとほくそ笑んだのも束の間、さらに読み進めると高校時代に副読本として配られた「日本文学史」の中でお見受けしたような作家さんのお名前や本のタイトルが並びます(外国のモノも)。しかし哀しいかな実際には読んだことのないモノばかり。本の神様、ごめんなさい。私が「読みましたわよ」と、むんと胸を張って言えるのは、萩尾望都、大島弓子、川原泉、「マチルダは小さな大天才」「ナルニア国物語」「不思議の国のアリス」「ガラスの仮面」ぐらいでございました。嗚呼、漫画と児童書ばかり。
さらにこのタイトルがそうであるように、古今東西の名言名句名歌をもじったと思しき言葉が随所にちりばめられておりましたが、浅学の私が見落としているものも無数にございますことでしょう。それらを読みとれぬとは残念無念。

「鴨川ホルモー」とこれと、京都が舞台で京大生が主人公のお話(かつ京大出身の作家さん)を続けざまに読んだわけですが、どうしてこうも「変」なのでしょう。現実離れしているのでしょう。妄想に溢れているのでしょう。そして楽しいのでしょう。恋に一生懸命なのでしょう。
嗚呼、京都に行きたい。彼女が歩いた道を辿りたい。

夜は短し歩けよ乙女 ★★★★_
内容(「BOOK」データベースより)
私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。


我が家には大学生活を夢見る高校一年生がおります。「ホルモー」や「歩けよ乙女」を読み、その夢をさらに膨らませているようでございます。うまくいって2年ちょい後に(多少延びるやもしれませぬが)晴れて女子大生になれた暁には、空中浮遊なんぞに無駄に憧れぬよう、地に足の着いた大学生活を送ってほしゅうございます。なむなむ。
娘がしみじみ申しておりました。「京都に行っても、ホルモーや李白電車はないんだよねぇ」




【元ネタ探し】
『夜は短し歩けよ乙女』のタイトルは、『ゴンドラの唄』(♪命短し恋せよ乙女 紅き唇褪せぬ間に /作詞:吉井勇 作曲:中山晋平)に由来しているものと考えられます。
そしてこの本を読んでいると、他にも「何処かで聞いたことがあるような…」と思われる言い回しがいくつも出てきます。
それで、やってみました。元ネタ探し。
全然見当違いのものもあると思われますが、‘私’はこんなのを連想しました…ということで。

●路傍の石ころ p.7 他
『路傍の石』山本有三

●優子を返せ、次郎吉を返せ p.17
「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ…」
 『原爆詩集』峠三吉

●酒と泪と男と男 p.40
 『酒と泪と男と女』河島英五

●一杯一杯又一杯 p.62
  両人對酌山花開
  一杯一杯復一杯
  我酔欲眠卿且去   
  明朝有意抱琴来
『山中與幽人對酌』李白

●書を捨てて街に出ることも能わず、(中略)ウワサの恋の火遊びは山の彼方の空遠く p.78
「書を捨て街に出よう」寺山修二
「山のあなたの空遠く幸い住むと人のいふ」カール・ブッセ

●今までの人生で読んできた本をすべて順に本棚にならべてみたい p.92
「生まれて初めて開いた絵本から順番に、自分が今まで読んできた本を全部見られたらなあ」 『三月は深き紅の淵を』恩田陸

●ちっちゃな頃だけ悪ガキでした。 p.93
「♪ちっちゃな頃から悪ガキで」『キザキザハートの子守歌』チェッカーズ

●なんじゃこりゃ! p.116
 『太陽にほえろ!』の名台詞(松田優作)

●御都合主義者かく語りき
『ツァラトゥストラかく語りき』ニーチェ

●我々は如何にして御都合主義者となりしか p.145
 『余は如何にして基督信徒となりし乎』内村鑑三

●可愛きものよ、汝の名は達磨なり p.166
 「弱き者よ、汝の名は女なり」『ハムレット』シェークスピア

●盗んだバイクで走り出したあの日のように、行きつく先も分からぬまま、 p.192
 「♪盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま」『十五の夜』尾崎豊

●ああ、偏屈王! あなたは今、何処に? p.203
 「♪いとしいあなたは今どこに」『あなた』小坂明子

●どっこい、生きている p.217
  映画のタイトル?

●私もかくありたいものです。 p.251
 「梵天丸もかくありたい」『独眼竜政宗』の有名な台詞

●咳をしても一人 p.258
  尾崎放哉の自由律俳句

●古池や、俺が飛び込む水の音 p.284
 「古池や蛙飛び込む水の音」 松尾芭蕉



【出てくる本たち】
「夜は短し歩けよ乙女」にはたくさんの本が出てきます。
漏れがあるかも知れませんが、抜き出してみました。
私はこれらの本をほとんど読んでいなくて情けないです。
織田作之助も円地文子も谷崎潤一郎も読んでない。
漫画や子供向けの本は結構分かったのだけど。

 ○タイトルの本を読んだ
 △タイトルは読んでいないけれど、同作家の作品を読んだことがある。
 ×知らない、読んでいない

×平凡社世界大百科事典
×ジェラルド・ダレル『鳥とけものと親類たち』
×ジェラルド・ダレル『虫とけものと家族たち』
×織田作之助全集
×ロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏』
×丸山真男『日本政治思想史研究』
×ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』
 (「2001年宇宙の旅」のオープニング曲は知っているんだけど…)
×ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』
△オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』
 (『幸福の王子』を読んだ)
△マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』
 (最初の方だけ読んで、あとは映画で)
×谷崎潤一郎『細雪』
×円地文子『なまみこ物語』
△山本周五郎『小説日本婦道記』
 (『樅ノ木は残った』を読んだ)
○萩尾望都(既刊漫画の6割以上読んでいるはず)
○大原弓子(既刊漫画の6割以上読んでいるはず)
○川原泉(既刊漫画の8割以上読んでいるはず)
○ロアルド・ダール『マチルダは小さな大天才』
△ケストナー『エーミールと探偵たち』『飛ぶ教室』
 (『ふたりのロッテ』を読んだ)
○C・S・ルイス『ナルニア国物語』
○ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
○『ラ・タ・タ・タム』(最近購入して読んだ)
△コナン・ドイル『失われた世界』『シャーロック・ホームズ全集』
 (子供向けホームズのシリーズをぼちぼち)
△ジュール・ヴェルヌ『アドリア海の復讐』
 (遠い遠い昔に『十五少年漂流記』を読んだかも)
△デュマ『モンテ・クリフト伯』
 (子供向けの『厳窟王』や『三銃士』を)
×黒岩涙香『厳窟王』
 (おそらくこの人の訳ではなかっただろう)
×山田風太郎『戦中派闇市日記』
△横溝正史『蔵の中・鬼火』
 (『女王蜂』『獄門島』etc)
×渡辺温『アンドロギュノスの裔』
△『芥川龍之介全集』
 (『地獄変』『藪の中』etc)
×『新輯内田百けん全集』
×内田百けん『山高帽子』
△三島由紀夫『作家論』
 (『潮騒』『金閣寺』etc)
○太宰治『お伽草子』
×『汽車汽舩旅行案内』
△『古今和歌集』(部分的にごく少し)
○『ガラスの仮面』




pleiades91 at 11:52│Comments(9)TrackBack(12)森見登美彦 

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いや??遊んでますね(笑) この、ちょとレトロな香りの遊び、なかなか心地いいです。 高等遊民、なんて言葉をちょいと思い出しました。
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夜は短し歩けよ乙女 出版社: 角川書店 (2006/11/29) ISBN-10: 4048737449 評価:89点 詭弁論部に入部した大学1回生の女の子、黒髪の乙女に恋をした先輩。 現実と幻想が入り混じったような展開も素敵だし、言葉のひとつひとつも面白い。 一見読みにくそうな仰々しい...

この記事へのコメント

1. Posted by リサ   2006年12月22日 22:50
小葉さん、こんばんは!
素敵でしたね〜。文句なしの面白さでした。
人間離れした人々と摩訶不思議な世界、ぐるぐるしながら読みました。
森見さんはこの作品が初読でしたので、これから他の作品も是非読まなくては!と息巻いています(笑)
大学生活を夢見る娘さん、可愛いです♪
2. Posted by 小葉   2006年12月23日 21:17
>リサさん
私も森見さんはこの作品が初めてでした。
そして「太陽の塔」を読んだところです。他のも読みたいのですが、「四畳半神話大系」も「きつねのはなし」もこっちの図書館にはありません。「きつねのはなし」は地方新聞で紹介されていたから近々入るかも。
「四畳半神話大系」が文庫化にならないかなと、期待しているのですが。
3. Posted by まみみ   2007年02月26日 17:22
5 これを読むと、しみじみ京都に行きたくなります〜。小葉さんのお嬢さんがおっしゃるように、ホルモーも李白電車もないんですけど!それでも!!

これから大学生活を送られる娘さんがうらやましいです。もう一度大学に行けるなら、京都で4年間生活してみたいです^^
4. Posted by 板栗香   2007年02月26日 17:32
小葉さん、こんにちは〜♪
最初がこんな作風だとは思ってなかったので「えっ?!」っと驚いて馴染めなかったのですが、夏からはどっぷりとはまりこみました。(笑)
理系人間でしたので、古本市の本はほとんどわかりませんでした。悲しい・・・(涙)
5. Posted by 小葉   2007年02月26日 22:58
>まみみさん
本当に京都に行きたくなります。
娘が京都の大学に行ってくれたら、私も遊びに行くのですが…。でも「きつねのはなし」と「太陽の塔」を読んで、ちょっと京都が怖くなった娘たちです。
それ以前に、学力とか家計の問題などもあるのですが…。

>板栗香さん
文系人間ですが、古本市の本は子供向け以外は全く読んでいませんでした。
森見さんは農学部とのことだから、理系のはずなのに。完敗です。
6. Posted by june   2007年04月09日 22:32
娘さん、森見さんの本がきっかけで京都で暮らすようになっちゃったりしたらすごいですね。
私もそのうち、仕向けてみようかしら・・。
そして知らないうちに私も住み着いて、
いつか偽電気ブランをしこたま飲んで、詭弁踊りを踊るのです!
なんて、妄想だけはどんどん膨らみます。
7. Posted by 小葉   2007年04月12日 16:36
>juneさん
娘たちの進学先はどこになることやら…。
とりあえず修学旅行で来月京都に行きます。
本の中に出てきた地名にも足を運ぶかもしれません。
いいなぁ。
8. Posted by ERI   2007年07月22日 22:27
お引越しされたのに、こちらにコメントしていいのでしょうか・・。

京都の街のあれこれを思い出しながら読みました。最近私も京都にご無沙汰で・・。
森見さんの小説、なんだか可笑しくも懐かしい感じです。この文学崩れっぽさが、いいですねえ・・。最近とみにお気に入りになりました。
9. Posted by 小葉   2007年07月25日 11:47
>ERIさん
時々は見に来ていますので、コメント、TBともにOKです。

私も森見さん大好きです。
おばかな内容でありながら(だからこそ?)、ちらっと見える知性がキラリと光ります。そこが堪りません。

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